うつ病は「現代病」とも呼ばれるほど患者数が増加しており、誰がなってもおかしくない病気です。回復するまでに何年も治療する人もいる中で、もしも配偶者がうつ病になったとき、完治するまで看病できるでしょうか。
はじめは懸命なサポートをしていたものの、それが何年も続くとつらいものとなり、ひいては離婚を考える人もいるかもしれません。「精神疾患を抱えている人を見捨てるなんて…」と思われるかもしれませんが、法律上、重度の精神疾患があり回復の見込みがない配偶者との離婚が認められています。
ここでは、うつ病で離婚できるかどうか、うつ病で離婚するときの親権がどうなるかについて詳しく解説します。
目次
うつ病が原因で離婚する人の割合
うつ病が原因で離婚する人の統計はなく、正確な数はわかっていません。しかし、裁判所が公表している「婚姻関係事件数―申し立ての動機別」によると、離婚の動機を「病気」としている人は最も少なく、病気が原因で離婚する夫婦は少数派であることがわかります。
この「病気」というのはうつ病以外の病気も含まれているので、うつ病に限定して調査すればさらに少数になるかもしれません。
うつ病になる人は年々増加している
うつ病の患者数は、年々増加傾向にあります。厚生労働省の「精神疾患を有する外来患者数の推移」によると平成14年で約69万人だったのが、平成29年で約125万人と顕著に増加しています。
うつ病は治療を続けてすぐに回復することもあれば、何年にもわたって治療を続けても回復しないこともあります。見た目に症状がわかりにくい病気のため、当事者にしかつらさがわからないのもうつ病の特徴です。
自分ないし配偶者がうつ病に罹患してしまったために、愛情や精神的なつながりが感じられなくなり、今後の夫婦関係で悩むこともあります。
うつ病は離婚理由になるのか
配偶者がうつ病になったことを理由に離婚は認められるのでしょうか。民法で認めている離婚理由として次の5つがあります。
- 配偶者に不貞な行為があった(性的関係を伴う浮気など)
- 配偶者が結婚の義務を意図的に怠った(生活費を渡さない、勝手に家を出るなど)
- 配偶者が3年以上の生死不明(家出して行方不明など)
- 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないこと(精神病により家族を守る義務が果たせないなど)
- その他、婚姻を継続しがたい重大な理由があるとき(性格の不一致、DVなど)
配偶者がうつ病で離婚する場合、4の「配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない」ほど病状が進行しているかどうかが問題となります。
「強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと」とは
「強度の精神病」とはどんな病気で、どの程度が強度と判断されるのかといったところでしょう。ここでいう精神病の一例として、統合失調症、アルツハイマー病、認知症、双極性障害、躁うつ病、偏執病などがあります。アルコール中毒や薬物依存はこれに該当しないとされています。
また「回復の見込みがない」とは、医学的な見解を要することから、精神科医が鑑定した診断結果を参考に本当に回復の見込みがないかどうかを判断します。
強度の精神病患者との離婚の成立について
強度の精神病を抱えている配偶者との離婚を認めているのには理由があります。一方の配偶者が精神病にかかり、婚姻の本質ともいえる精神的なつながりが失われ、婚姻関係が破綻しているのに離婚できないもう一方の配偶者を救済するためです。
しかし、裁判例を見ると、強度の精神病の配偶者との離婚を認容しない判決が目立ちます。これは裁判所が離婚後の精神病患者の生活が保障されていることを要求しているためです。
離婚後、精神病の患者が放置されてしまうことはあってはなりません。「実家が面倒を見る」「施設に入居が決まっている」など、離婚後の生活の目途が立っている場合に裁判所も離婚を認容しています。
配偶者が「うつ病」で離婚したい場合
配偶者がうつ病になったことを理由に離婚する際に知っておくべきことをご紹介します。
慰謝料の請求は難しい
離婚における慰謝料は離婚原因をつくった方が支払います。浮気やDVは本人が意図しておこなったものですから慰謝料を請求できるのに対し、うつ病をはじめとした精神疾患は、本人の意思で罹患したものではなく、慰謝料を請求する理由にはなりません。
また、体調を崩して働けない人も多く、金銭的に困窮しているケースもあります。そのため、うつ病の配偶者から慰謝料を受け取るのは極めて困難といえます。
夫がうつ病で働けない場合の養育費
夫がうつ病にかかった後、離婚して妻が親権者になったとして、夫は養育費を支払う義務があります。しかし、うつ病で働けなくなった場合は事情が変わってきます。
夫が働けなくなり、収入が減少したために養育費の支払いも難しくなるので、減額あるいは養育費ゼロの状態も想定しなければなりません。
自分が「うつ病」で離婚したい場合
配偶者ではなく、自分がうつ病にかかっために離婚したいケースもあるかもしれません。自分の病気のせいでこれ以上迷惑をかけたくない、あるいは配偶者の心ない言動が原因でうつ病にかかってしまい、治療のために距離を置きたいなどの理由が考えられます。
夫のせいでうつ病になったら慰謝料請求できる?
自分のうつ病の原因が夫によるDVやモラハラ、浮気などの不法行為によるものであれば、「強度の精神病」以外の離婚理由で離婚、ならびに慰謝料を請求できる可能性があります。
例えば、夫からDVやモラハラの被害を受けた場合は先述した「5.その他婚姻を継続しがたい重大な理由」に該当し、浮気は「1.配偶者の不貞行為があった」に該当するので、こちらも慰謝料の請求ができます。
その結果としてうつ病を患った場合、通常よりも高い慰謝料を請求できる可能性もあります。医師が作成した診断書が有力な証拠になるので保管しておきましょう。
うつ病だと親権の獲得が不利になる?
子どもがいらっしゃる方は離婚の際「うつ病にかかった親は親権を獲得できないのでは?」と不安になるかもしれません。しかし、親がうつ病であることを理由に親権の獲得で不利になることはありません。
確かに、うつ病の患者よりもうつ病ではない人の方が親権では有利になりますが、親権は子の福祉を優先しながら両方の親の事情や養育実績を考慮して親権者を決定します。
親の精神疾患が子どもに与える影響
親がうつ病などの精神疾患にかかっているのを子どもが見て、少なからず精神面で影響がある可能性があります。親が体調を崩しがちでいつも精神的に不安定だと、やはり子どもも不安定になりがちです。
そうなると「自分は親権者にならない方がいいのか」と考えるかもしれません。うつ病の病状が重度のもので養育に支障をきたす場合は、うつ病じゃない方の配偶者が親権者になる可能性があります。うつ病を抱えていてもどうしても親権者になりたい場合、次の2つの方法が考えられます。
- 一度親権を相手に渡して離婚し、病状が回復してから親権者を変更する
- 病状が回復し、養育ができるようになってから離婚する
親権者の変更は裁判所への申し立てが必要になるなど、手続きが煩雑なので離婚を急いでいない場合は後者を選ぶと良いでしょう。
まとめ
配偶者が不治の精神病にかかり、その負担を一生背負わなければないのはもう一方の配偶者にとってはとても酷なことです。うつ病の配偶者を放っておくことはできませんが、それでも長期にわたって続けてきた看病から解放されたいと思われる気持ちもあるはずです。
うつ病で離婚を考えている方は、通常の離婚と事情が変わってきます。ご自身で離婚の交渉を進めていくのが難しい場合は、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください。