本記事では、悪意の遺棄の概要と慰謝料の相場について解説します。どのような行為が悪意の遺棄になるのか、そもそも悪意の遺棄とはなにか、慰謝料は請求できるのか、などについて具体的な例をあげながらご紹介します。

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悪意の遺棄とは同居、協力及び扶助の義務に違反する行為

夫婦は「同居、協力及び扶助の義務」を負っています(民法752条)。夫婦は同居し、協力し助け合いながら生活していかなければなりません。悪意の遺棄とは、この義務に反する行為をいい、裁判上で認められている離婚事由のひとつです。

民法第752条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

引用元:民法第752条 – Wikibooks

同居義務とは

同居義務とは、夫婦は生活を共にすべきであるというものです。たとえば、何も言わずに一方的に夫が家出した場合、その行為は同居義務に反すると考えられます。

ただし、単身赴任で別居をしている、配偶者から暴力から逃れるために別居をした、などの正当な理由があれば同居義務違反になりません。

協力及び扶助の義務とは

次に、協力及び扶助の義務とは、夫婦は協力して、共に生活出来るよう支え合わなければならないとしたものです。夫婦の協力範囲は、生活費を得るための経済活動に加え、家事や育児の分担や性交渉、介護など生活全般を含みます。

特に扶助義務は、たとえ別居中でも離婚が成立しない限り失われません。そのため、たとえば妻が離婚を進めるために別居している場合も、夫に離婚成立までの生活費を請求できます(婚姻費用)。

悪意の遺棄は民法上の離婚事由

悪意の遺棄は、民法第770条にて定められた法定離婚事由の1つです。

第770条(裁判上の離婚)
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

引用元:民法第770条 – Wikibooks

悪意の遺棄を行った方は有責配偶者となり、有責配偶者に対しての離婚の請求は原則認められ、慰謝料も請求することが可能です。

悪意の遺棄に該当する行為

悪意の遺棄という言葉は聞き慣れない方も多く、具体的にどういった行為が該当するのか疑問に思う方は多いでしょう。ここからは、悪意の遺棄にあたる代表的な5つの行為について解説します。

生活費を渡さない

まず挙げられるのが、生活費を渡さない行為です。一般的に男性が働く家庭の方が多いでしょうから、基本的に女性(妻)側が抱える問題になります。生活費を渡さないという行為は、令和2年度の司法統計では、女性が離婚を申し立てる理由として2番目に多い理由となっています。

離婚の申立ての動機(女性)
1位:性格が合わない 16,304件
2位:生活費を渡さない 13,235件

参考:第19表 婚姻関係事件数―申立ての動機別 – 裁判所

上述しましたが、夫婦間には扶助義務が存在します。夫婦は同じレベルで生活ができるように努めなければなりません。生活費を渡さなければ夫婦生活は成り立ちませんので、悪意の遺棄としてみなされます。ただし、相手がリストラ中や病気療養中であるなど、正当な理由がある場合は該当しません。

婚姻費用を払わない

婚姻費用を払わない場合も悪意の遺棄にあたる可能性があります。扶助義務は、別居している場合も原則として失われません。そのため、生活を営むために必要な費用を求めて、婚姻費用の分担請求を申し立てることができます。婚姻費用には、以下のような費用が含まれます。

婚姻費用には,衣食住の費用のほか,出産費,医療費,未成熟子の養育費,教育費,相当の交際費などのおよそ夫婦が生活していくために必要な費用が含まれると考えられています。

引用元:婚姻費用の分担請求調停 | 裁判所

なお、婚姻関係が破綻して別居に至った原因が自身の浮気などによる場合は、婚姻費用が請求できない、もしくは大幅に減額される可能性があるので注意してください。

一方的に別居する、家出を繰り返す

相手の同意を得ずに一方的に別居したり、家出を繰り返したりする行為も、悪意の遺棄に該当します。これは、正当な理由もなく別居を強行することは、民法上の「同居義務」に反していると考えられるからです。

例としては「不倫をして浮気相手に本気になり、浮気相手と同居するために家を出ていった」というケースもあるでしょう。こういったケースで離婚に至った場合は、不貞行為も加わり慰謝料は高額となります。なお、別居することに対して正当な理由があれば、同居義務違反には当たりません。

働けるのに仕事をしない

働けるのに仕事をしない行為も悪意の遺棄に含まれます。健康なのに働かない、昼から酒を飲むばかりで何も手伝わないなどの行為は、夫婦の協力・扶助義務に反するためです。

もっとも、就職活動をしているものの就職先が決まらない、病気で働けないなどの理由があれば、悪意の遺棄とはなりません。

育児や家事を放棄する

育児や家事を放棄することも悪意の遺棄に該当します。例えば、専業主婦の妻が家事や育児を一切しないケースでは、夫婦間で協力すべき義務を果たしていないと考えられます。

また、共働き家庭で家事を分担したにもかかわらず、夫が家事を全く手伝おうとしないときも同様です。ただし、悪意の遺棄は直ちに認められるわけではなく、こうした悪質性の高い状態が一定期間続く必要があります。

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悪意の遺棄に該当しないケース

悪意の遺棄に該当しない具体的なケース例としては以下の通りです。

  • 相手からモラハラやDVを受けて別居する場合
  • 親の介護や病気などで実家から帰らない場合
  • 病気のため家事や仕事ができない
  • 破綻しかけた夫婦関係を見つめ直すために別居する場合

悪意の遺棄は原則として、正当な理由、夫婦間で合意がある場合は悪意の遺棄にはなりません。また、悪意をもって夫婦生活を破綻させようという意思がない場合も同様です。

実際には「悪意の遺棄」に該当するのかどうかは判断が難しく、悪意の遺棄を理由に離婚を検討している方は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

悪意の遺棄の慰謝料相場

悪意の遺棄は、民法上の不法行為(権利を侵害し損害を与えること)であり、慰謝料を請求することが可能です。悪意の遺棄の慰謝料相場は、婚姻期間・行為の悪質性などから左右されますが、一般的な相場としては「50万〜300万円程度」です。

悪意の遺棄に加えて、不貞行為・モラハラ・DVなど他の不法行為がある場合は、慰謝料の金額も高くなることが多いでしょう。

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悪意の遺棄の証明に有効な証拠とは

悪意の遺棄が事実であっても、慰謝料請求を認めさせるためには、根拠となる証拠が欠かせません。悪意の遺棄を立証するには、以下のような証拠を集める必要があります。

  • 生活費が渡されていないことがわかる通帳の記録
  • 相手の引っ越しや移動がわかる住民票
  • 新しい住居の賃貸契約書
  • 同居の拒否を記録・録音したもの
  • 悪意の遺棄がわかるLINEやメール
  • 家事や育児の放棄が分かる映像

また、相手の行為の内容や状況、具体的な期間などについて詳しく書き残した日記も有力な証拠の1つになります。悪意の遺棄を証明する証拠がない場合、慰謝料の請求が認められない可能性もあるため、事前にしっかりと準備しておきましょう。

まとめ

今回は、悪意の遺棄について解説しました。一般的に相手が生活費を支払わない、家出を繰り返している場合、悪意の遺棄に該当する可能性があります。相手の行動が「悪意の遺棄」と疑われる場合は、一度離婚問題に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。