窃盗の被害届の取り下げの効果と方法|示談金が払えない場合は?
窃盗で被害届が出されてしまうと、場合によっては逮捕されるおそれがあります。
しかし、被害者と示談を行うなどして、許しが得られれば、被害届を被害届を取り下げてもらうことは可能です。
被害届の取り下げは、加害者への処分は望まないという被害者の意思表示になります。
そのため、逮捕や起訴(刑事裁判)されずに済む可能性があります。
この記事では窃盗の被害届に関して次の点を解説します。
- 窃盗で被害届を出されると逮捕される?
- 被害届を取り下げてもらう方法や示談について
- 被害届を取り下げてもらった場合どうなる?
窃盗行為をしてしまい、被害届を出されて不安な人や、被害届を取り下げてもらったけど、今後どうなるのだろうと不安な方は参考にしてみてください。
目次
窃盗で被害届を出されるとどうなる?
もし窃盗行為を知られて、被害届を出された場合どうなるのでしょうか?
ここでは、窃盗で被害届を出されるとどうなるのか解説します。
警察の捜査が始まる
被害届が提出されると、警察は犯罪被害を認知して、捜査を行う可能性があります。
少額の窃盗なら、捜査されないのではと考える人もいるかもしれません。
確かに被害額が少額で、顔見知りの相手との金銭トラブルであるようなケースだと、警察は刑法に違反していない、あるいは、犯罪の要件を満たしていないと考えて、動かない場合もあります。
しかし、数百円の窃盗でも逮捕される実例もあるため、捜査が行われることは十分考えられます。
窃盗罪で罰せられる
窃盗罪で逮捕され、刑事裁判で裁かれた場合は、窃盗罪の刑事罰が科されます。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
また、未成年であっても、児童相談所への一時保護や、少年院への送致、保護観察で指導を受けるといった処分が下されます。
未成年だから処分されないと甘く考えるのは危険です。
逮捕される恐れがある
被害届がきっかけで、捜査が開始されれば、逮捕されるおそれもあります。
もちろん、疑わしい人物なら誰でも逮捕されるというわけではありません。
裁判所に逮捕状を請求して行う「通常逮捕」の場合は、逮捕要件を満たさなければ逮捕は行えません。
- 被疑者(容疑者)が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるとき
- 被疑者が住所不定で逃亡のおそれがあるとき
- 被疑者が証拠隠滅するおそれがあるとき
住所不定や、証拠隠滅の恐れがあると判断さなければ、逮捕されずに在宅事件になるケースもあります。
在宅事件とは、逮捕などが行われずに、捜査が継続される事件のことです。
身柄拘束を受けずに済みますが、時々警察や検察から呼び出されて取り調べを受けることになります。
処分が必要だと判断されれば、起訴されて、刑事裁判になる場合もあります。
法務省によると、2022年の窃盗罪で逮捕された人の割合は、31.6%でした。
逮捕される割合は少ないですが、住所不定や無職、あるいは、盗んだものを処分して証拠隠滅を図るおそれがあると判断されれば、逮捕される可能性があるでしょう。
窃盗事件の被害届を取り下げてもらうには
先述したとおり、被害届は、犯罪被害を警察に申告するための書類で、捜査のきっかけになるものです。
被疑者の処罰を求める意思表示である刑事告訴(刑事訴訟法第230条)とは違うため、被害届を取り下げてもらっても、警察が捜査を切り上げるとは限りません。
しかし、被害届を取り下げてもらうことで、加害者への処分は望まないという被害者からの意思表示になります。
捜査が終了したり、逮捕されずに済んだりすることもあり得ます。
逮捕による生活への影響は大きなものがありますので、事件化する前に、被害届を取り下げてもらうことが最善です。
ここでは、窃盗事件の被害届を取り下げてもらう方法を解説します。
弁護士を通じて被害者と示談する
弁護士を通じて、被害者と示談をすることで、窃盗の被害届を取り下げてもらえる可能性があります。
刑事事件における示談は、被害者の許しを得て、被害の回復に努めたと評価され、刑事処分に有利に働きます。
示談では、与えた損失や迷惑料を示談金という形で支払うことになります。
盗んだものを返せば、不起訴処分(処分なし)と判断される可能性もあります。
できれば被害届を出す前に示談する
示談のタイミングとして一番なのは、被害者が被害届を出す前です。
被害届が出されてしまうと、警察は被害を認知して、捜査に乗り出す可能性があります。
逮捕されてしまえば、最長で20日間の身柄拘束を受けるなどのおそれもあるでしょう。
被害届が出されて、事件化してしまう前に、被害者と示談をすることが重要です。
示談交渉の中で、示談書に被害届を出さない旨を明記してもらうことができます。
仮に被害届が出されてしまっていても、示談が成立していれば、事件が解決していると判断され、捜査されずに済むケースもあります。
示談に応じてもらえない場合
窃盗事件は他の事件と比較して、示談が成立しやすい傾向にあります。
被害者としても、金銭的な損失を弁償してもらえばいいと考えるケースが多いからです。
ただし、万引きなどは、店舗の方針として示談に応じないという場合があります。
また、被害者との示談交渉は、直接行うとトラブルに発展することもあり得るでしょう。
交渉やトラブル防止のためにも、示談交渉は弁護士に相談するようにしてください。
弁護士が交渉をしても示談に応じてもらえないような場合は、供託を利用する方法もあります。
供託とは、法務局に供託金(示談金)を預けることで、示談と同じ効果が得られる制度のことです。
仮に示談が成立しなくても、被害の弁済を行おうとした姿勢を評価して、刑事処分が軽くなる可能性もあります。
参考:供託Q&A – 法務省
窃盗事件の示談金が払えない場合はどうなる?
窃盗事件でも、被害者との示談が重視されますが、もし示談金が払えない場合はどうしたらいいのでしょうか?
示談しないと有罪になる可能性が高くなる
先述したとおり、被害者がいる犯罪では、被害者の受けた被害を弁済し、示談することで、刑事処分が軽くなるケースが多いです。
もし被害者と示談をせずにいた場合は、起訴される可能性があります。
起訴された場合の有罪率は99%と高く、前科があるような場合は、執行猶予もつかず実刑になることもあり得ます。
そのため、起訴されてしまう前に被害者と示談することが大切なのです。
分割払いで交渉することも可能
どうしても示談金が払えない場合は、被害者に分割払いを交渉することもできます。
しかし、刑事事件の示談金は一括払いが一般的です。
分割払いの場合、刑事処分に有利に働かない可能性があります。
刑事処分を判断する上では、実際に被害の弁済を行ったかどうかも重視されるためです。
もし示談金を分割払いしたい場合は、次のような条件を取り決め、支払いの見込みを示すのも1つの方法です。
- 今用意できる金額だけ支払い、足りない分を分割払いにする
- 分割回数を少なくする
- 担保や連帯保証人をつける
- 定職に就いて月々の支払額を決めておく など
分割払いを交渉したい場合も、まず弁護士に相談しましょう。
窃盗事件の示談金の相場
窃盗事件の示談金は、被害者が負った被害額の賠償が基本となります。
ただし、盗まれたことによる精神的な苦痛に対する慰謝料や、迷惑料が加算されるケースもあります。
例えば、財布を盗んだことで、被害者が警察への対応が必要となったり、クレジットカードの停止や再発行が必要となったり、金銭的な損失以外にも、迷惑を被ったような場合です。
他にも次のような要因で、示談金は決定されます。
- 被害額
- 被害者の感情
- 加害者の経済事情
- 加害者の処分の見通し など
また、次のように、示談金が高額になるケースもあります。
- 窃盗が原因で他にも損害が発生した
- 被害者にとって思い入れのある品物だった
- 希少価値のあるもので入手が困難 など
例えば、仕事で使うものを盗み、業務に支障が生じたような場合は、窃盗により発生した損害が加算されることも考えられるでしょう。
窃盗は被害届が取り下げられれば処分されない?
被害届は、警察に被害を報告する書類に過ぎません。
被害届が取り下げられても、捜査や起訴される可能性はあります。
例えば、少額の窃盗であっても、窃盗の前科があり、常習的に犯行を繰り返していると判断されれば、起訴されて実刑判決を受けることもあります。
被害届が出されて捜査が開始される前に、示談を成立させることが大切です。
仮に被害届が出されてしまっても、示談は処分に有利に働く可能性が高いため、諦めずに弁護士に相談しましょう。
窃盗罪で有罪になり罰金刑が科された場合
ここでは、窃盗罪で有罪になり、罰金が科された場合の金額や、支払いができない場合について解説します。
窃盗罪の罰金は最大50万円
窃盗罪の罰金は、最大で50万円です。現金で一括納付が原則です。
罰金は、検察庁からの案内にしたがい、納付期限までに指定の金融機関に振り込むか、検察庁の徴収担当に直接納付することになります。
一括払いが難しい場合は、検察庁の徴収担当に相談することで、事情によっては例外的に分納が認められるケースもあります(徴収事務規程第16条)。
支払わないと財産を差押えされる
もっとも分納は特別な事情があるような場合にしか認められません。
もし期限までに納付できないような場合は、財産を差し押さえられる可能性があります。
財産がない場合は労役場留置となる
そもそも差し押さえる財産がないような場合は、労役場に留置されることになります。
(労役場留置)
第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
中略
6 罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。
一部引用:刑法第18条 – e-Gov
労役場とは、刑務所や拘置所内に併設されている強制労働を科す場所です。
要するに、罰金を支払えない場合は、労役場での労働が罰金に換算されることになります。
労役場の日当と期間は、判決時に言い渡されますが、1日5,000円相当に換算されるケースが多いです。
もっとも、労役場に留置できる期間は1日以上2年以下と決まっているため、留置できる期間と罰金の兼ね合いで、日当が異なります。
罰金が50万円で、日当が5,000円だった場合は、100日間労役場留置になることが考えられますが、これも裁判官次第です。
強制労働と聞くと過酷な肉体労働を想像するかもしれませんが、労役場での仕事は軽作業です。
例えば、民間企業から委託された紙袋などの作成を行います。
法務省によると、2018年に労役場留置処分が下されたのは、全体の1.8%、22万1,364件中、3,952件でした。
97.7%は罰金の納付が行われましたが、納付できない場合はこのように労役場留置の処分を受けることになります。
参考:罰金未納の方へ – 岐阜地方検察庁、罰金刑の執行状況 – 法務省
窃盗事件で警察は動かないって本当?
警察捜査の基本を定めている犯罪捜査規範第の第61条には、被害届の受理が義務付けられています。
しかし、被害届は警察に犯罪被害を申告する書類に過ぎず、受理されたからといって、警察には捜査を行う義務はありません。
また、次のようなケースでは、受理や捜査されないこともあります。
- 顔見知りの犯行で、少額を返してもらえないなど、民事事件だと判断された
- 窃盗から時間が経過している
- 窃盗が軽微である
- 重大事件の捜査があり対応できる人数が少ないから など
一方で、同様の被害が報告されている、あるいは、被害の内容などから事件の可能性がある、捜査が必要であると判断されれば、少額であっても警察が動くこともあります。
窃盗の被害届でよくある質問
ここでは、窃盗の被害届でよくある質問に回答します。
窃盗の被害届が受理されないことはある?
警察は被害届を受理する義務がありますが、すべての被害届を受理してもらえるわけではありません。
次のようなケースでは、捜査が行われない、被害届が受理されないこともあります。
- 軽微な事件である
- そもそも犯罪に該当してない
- 民事的な手続きで解決できる
- 他に捜査が必要な事件があり、警察内で捜査人員を確保できない場合 など
窃盗の被害届を出す期限はいつまで?
窃盗の被害届の提出期限には特に決まりがありません。
しかし、被害からかなり時間が経過していると、被害届を受理してもらえない可能性があります。
あまり時間が経過してしまうと、防犯カメラの記録が消えてしまうなど、証拠が残されておらず、捜査ができないからです。
被害額が少額、未成年なら処分されない?
被害額が少額であるようなケースでは、確かに警察が被害届を受理せず、捜査も行われないことがあります。
ただし、同様の被害が相次いでいるなど、必要だと判断されれば、捜査が行われるでしょう。
また、窃盗の加害者が未成年であっても、捜査や逮捕される可能性があります。
逮捕や補導が行われると、家庭裁判所で審判が行われ、児童相談所への保護、少年院送致などの処分もあり得ます。
場合によっては今後の生活に大きな影響が生じるかもしれません。
未成年者だから罪にならないと考えるのは危険です。
もしお子さんが窃盗行為をしたのであれば、早めに弁護士に相談するようにしてください。
まとめ
窃盗で被害届を出されると、捜査が行われ、場合によっては逮捕される可能性があります。
被害届を取り下げてもらったり、不起訴処分を得たりするには、弁護士に依頼して被害者と示談することが有効です。
また、軽微な窃盗や未成年の窃盗であっても、捜査や逮捕、重い処分が科される可能性もあるため、軽く考えるのは危険です。
弁護士に依頼することで、仮に示談ができないような場合でも、重い処分が下されないように、サポートしてもらうことができます。
窃盗で被害届が出されて心配な人や、被害者に謝罪して示談をしたいと考えている人は弁護士に相談しましょう。