無期懲役とは?収容期間や出所率|終身刑との違いをわかりやすく解説
無期懲役とは、期限の定めなく懲役を科し、死亡するまで続く刑罰で、日本では死刑に次いで重い刑罰です。
無期懲役でも、一定の条件を満たせば出所することができますが、その条件は厳しいものとなっています。
また、無期懲役は軽すぎるため、服役期間が数百年になる終身刑を導入すべきだという議論もあります。
無期懲役で61年間服役していた元受刑者が2023年に話題となりました。
この記事では、無期懲役について次の点をわかりやすく解説します。
- 無期懲役の仮釈放が認められる条件
- 無期懲役の出所率や仮釈放の実態
- 無期懲役と終身刑、死刑の違い
- 無期懲役となる犯罪と実例
目次
無期懲役とは
ここでは、無期懲役について解説します。
無期懲役は死ぬまで執行される刑
無期懲役は、期限の定めがない懲役刑で、受刑者が死に至るまで執行が終わらない刑罰です。
日本の刑罰は大きく3つに分類されます。
生命を奪う生命刑 | 死刑 |
自由を奪う自由刑 | 無期懲役、懲役、拘禁刑、禁固刑、拘留 |
財産を奪う財産刑 | 罰金、科料 |
懲役は、有期でありその上限は最長30年です(刑法第14条)。
懲役の上限はかなり長いものとなりますが、無期懲役に関しては期限の定めがなく、死ぬまで刑が執行される重い処分なのです。
無期懲役は仮釈放で出所できる
ただし、無期懲役は、仮釈放が認められれば、一般社会に復帰することができます(刑法第28条)。
仮釈放とは、一定の条件を満たすことで、社会復帰の機会を与え、社会の中で更正を目指す制度です。
罪を犯したのに、なぜ仮釈放が認められるのかという疑問はもっともです。
そもそも刑罰とは、罪を犯した人に強制的に罰を与え、反省をうながすこと、そして犯罪が起こらないための抑止力にする目的があります。
罪を犯した人を隔離して再犯を防止し、矯正して更生させる目的もあります。
無期懲役の場合、死ぬまで刑の執行が行われるため、仮釈放など無用ではと考えるかもしれません。
しかし、罪を犯した人の中には、長い服役期間の中で考えを改める人もいます。
日本では更生に重きを置いているため、無期懲役であっても仮釈放の機会を設けているのです。
仮釈放されても保護観察は一生
仮に無期懲役で仮釈放が認められたとしても、死ぬまで自由に過ごせるわけではありません。
無期懲役で仮釈放された場合は、死ぬまで保護観察に付されることになります(更生保護法第40条)。
具体的には、保護観察官や保護司との面接や指導を受け、生涯遵守事項を守り抜かなければなりません。
一方、有期懲役の仮釈放は、残りの刑期の間だけ保護観察となり、刑期が終わればそのまま刑の執行も終了します。
無期懲役と終身刑や死刑の違い|どちらが重い?
無期懲役は、刑期の定めがなく、死ぬまで続く刑罰です。
しかし、仮釈放が認められるために、海外のようにもっと重い終身刑にするべきなのではと言った意見もあります。
ここでは、無期懲役と終身刑、死刑の違いを解説します。
無期懲役と終身刑に違いはない
結論からお伝えすると、無期懲役と終身刑に違いはありません。
終身刑と聞くと、仮釈放がなく生涯刑務所から出られない刑だと思っている人がいますが、終身刑でも仮釈放があるものとないものがあります。
相対的終身刑 | 仮釈放などが認められて刑務所から出所できる可能性もある終身刑のこと |
絶対的終身刑 | 一生刑務所から出所できない終身刑のこと |
終身刑の方が重い刑罰だから導入すべきという文脈で語られる場合は、後者を指します。
相対的終身刑であれば、それは無期懲役と同じ意味になります。
また、アメリカなどでは懲役何百年のように、生きている間に刑期を全うできないような期間を言い渡されるケースがあります。
これは日本のように死刑を定めている国や州が少ないことや、日本よりも恩赦で減刑される伝統があるため、安易に釈放されないためと考えられます。
無期懲役と死刑の違い
死刑は、罪を犯した人の命を国が奪う生命刑で、日本で一番重い罰です。
両者の違いは次のとおりです。
違い | 無期懲役 | 死刑 |
収容される場所 | 刑務所 | 拘置所
※これから裁判を受ける被告人なども収容されている |
刑務作業の有無 | 有 | 無
希望すれば可能 |
仮釈放の有無 | 有 | 無 |
無期懲役の場合は、仮釈放されても生涯保護観察に付されますが、社会に復帰できる可能性があります。
一方で死刑には仮釈放がありません。
死刑が執行されるまでの期間は平均5年で、その間は刑が執行されるのを待つことになります。
無期懲役と不定期刑の違い
不定期刑とは、具体的な刑期を定めずに言い渡される刑罰のことで、少年事件の判決時に適用されます(少年法第52条)。
成人の場合は、懲役5年など刑期を定めて量刑が言い渡されます。
少年の事件に関しては、懲役5年以上10年以下というように、幅を持たせて量刑を言い渡すことが可能です。
死ぬまで刑が執行される無期懲役とは全く異なる刑罰です。
少年の場合は、成人よりも柔軟で更生の可能性が高いことから、一定した刑期を科すより、更生に応じて刑期が変動する方法がとられるケースがあります。
例えば、懲役5年以上10年以下と不定期刑が言い渡された場合、短期の懲役5年以上のうち、その3分の1が執行された場合に、仮釈放の審査が行われることになります。
2022年には改正された少年法が施行され、不定期刑の対象は17歳以下と限定されました。
18歳、19歳の少年の場合は、成人と同様の手続きとなり、不定期刑は適用されません(少年法第67条)。
仮釈放が認められる条件
無期懲役でも仮釈放は可能ですが、一定の条件を満たす必要があります。
無期懲役の仮釈放の条件は次のとおりです。
- 最低でも10年は服役していること
- 悔悟の情及び改善更生の意欲がある
- 再び犯罪をするおそれがない
- 保護観察が更正のために相当である
- 社会の感情が仮釈放を認める
- 身元引受人や帰住地がある
また、これらの条件を満たすだけではありません。
仮釈放は次の流れで行われますが、仮釈放までには面接が行われ、最終的に地方更生保護委員会の審議の上で決定されるのです。
- 一定期間刑の執行を受けた者対象に、仮釈放の審査が行われる
- 受刑者の反省の有無、身元引受人についての調査が行われる
- 仮面接
- 本面接
地方更正保護委員会とは、加害者の釈放を判断する権限を持つ組織のことです(更生保護法第16条)。
ここでは、仮釈放の条件を解説します。
参考:犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則第28条 – e-Gov
最低でも10年は服役していること
無期懲役の仮釈放の条件の1つめは、最低でも10年は服役していることです。
(仮釈放)
第二十八条 懲役又は禁錮に処せられた者に改悛しゆんの状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
引用:刑法第28条 – e-Gov
10年程度で出所できるなんて納得できないという声もありますが、実務上は服役から30年経過して初めて、仮釈放の審査が行われる運用となっています。
参考:無期刑受刑者に係る仮釈放審理に関する事務の運用について(通達)
改悛の状や改善更生の意欲がある
仮釈放の条件の2つ目は、改悛(かいしゅん)の状や改善更生の意欲があることです。
改悛の状とは、自分の罪に対して悔い改め、心を入れ替えることです。
ただし、受刑者が自ら悔い改めたと申告しただけで認められるわけではありません。
改悛の状や改善更生の意欲があるかどうかは、次の点から客観的に判断されることになります。
- 被害者に対する謝罪の有無、被害者への償いのために行った行動
- 刑務所における処遇への取り組み、反則行為などの有無や内容
- 刑務所での生活態度
- 釈放後の生活への計画 など
参考:犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則 – e-Gov
無期刑及び仮釈放制度の概要について – 法務省
再び犯罪をするおそれがない
仮釈放の3つ目の条件は、再犯のおそれがないことです。
上記同様、受刑者がいくら再犯をしないと誓っても、受刑者の言い分だけで仮釈放が決定するわけではありません。
次の点を考慮して判断されます。
- 受刑者の性格や年齢
- 犯罪の動機や内容
- 社会に与えた影響
- 釈放後の生活環境 など
保護観察が更正のために相当である
仮釈放の条件4つ目は、保護観察が更正のために相当であることです。
保護観察とは、刑務所の外で、保護観察官や保護司と面接を行い、指導を受けながら更生を目指すことです。
刑務所で更生を目指すよりも、社会に出して、保護観察を受けた方が更生の上で効果的であるかどうかが判断されます。
保護観察が相当かどうかは、これまでの改悛の状や更生の意欲、再犯のおそれがないなどの事情を総合的に考慮して決定されます。
参考:保護観察 – 法務省
社会の感情が仮釈放を認める
仮釈放の条件5つ目は、社会の感情が仮釈放を認めることです。
社会の感情というのは、被害者や検察の意見、地域社会などのことです。
仮釈放時には、社会の感情として次の点が確認されます。
- 被害者等の感情
- 検察官等からの意見
- これまでの収容期間 など
仮釈放は、被害者の希望があれば、事前に被害者へ通知が行きます。
そして、仮釈放の際は、被害者や検察の意見を聞いた上で、地方更正保護委員会が審議を行い決定するのです。
身元引受人や帰住地がある
仮釈放の6つ目の条件は、身元引受人や帰住地(帰る場所)があることです。
6つ目の条件は法律上明記はされていませんが、実務上では、身元引受人という監督者や、帰住地があることが条件となっています。
仮に帰住地がない場合は、出所までに保護司や保護観察官が、一時的な帰住地を探してくれます。
例えば、更生保護施設や自立準備ホームといった施設で、生活指導や就職援助などを受けながら過ごします。
犯罪白書によると、身元引受人や帰住地があり、仮釈放された人は、仮釈放が認められずに満期で釈放された人と比べると、再犯率が低いという統計があります。
仮釈放者が再度刑務所に収容される割合は29.8%、満期釈放者の収容される割合は47.9%です。
このように、仮釈放には身元引受人や帰住地が不可欠なのです。
無期懲役の出所率
仮釈放は、一定期間服役するなど条件を満たし、面接を経て、地方更正保護委員会の審議で認められなければなりません。
ここでは、実際に無期懲役で仮釈放が認められている割合を解説します。
無期懲役の出所率は15.8%
実際に無期懲役が仮釈放で出所する割合は、15.8%です。
2022年の無期懲役の受刑者数 | 1,688人 |
仮釈放の審理が行われた件数 | 38件 |
仮釈放が認められた人数 | 6人 |
仮釈放が認められた受刑者の平均服役期間 | 45年3か月 |
2022年の統計を見ますと、仮釈放の審理が行われたのは38件、実際に認められたのはわずか6人でした。
実務上は簡単に認められない
無期懲役で服役している受刑者数から、審理が行われたのは2.25%に過ぎません。
同統計によると、2013~2022年の間で、無期懲役から仮釈放のために行われた審理の期間は平均で9か月、面接も複数回行われます。
また、2022年に仮釈放が認められた人の平均服役期間は約45年になります。
一方で、同年中に刑務所の中で死亡した無期懲役の受刑者は41人です。
45年が経過してもそう簡単に出所できないことがわかります。
参考:無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について – 法務省
無期懲役が定められている犯罪
無期懲役が定められている犯罪の一部を紹介します。
殺人罪(刑法第199条) | 死刑、無期、5年以上の懲役 | |
強盗致死傷・強盗殺人罪(刑法第240条) | 死刑、無期、6年以上の懲役 | |
強盗・不同意性交等致死傷罪(刑法第241条) | 強盗・不同意性交等罪の場合:無期、7年以上の懲役
被害者が死亡した場合:死刑、無期懲役 |
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不同意わいせつ・不同意性交等致死傷罪(刑法第181条) | 不同意性交等致死傷罪:無期、6年以上の懲役
不同意わいせつ致死傷罪:無期、3年以上の懲役 |
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現住建造物等放火罪・激発物破裂罪(刑法第108条、117条) | 死刑、無期、5年以上の懲役 | 放火、爆発物で建物を損壊する罪 |
水道毒物等混入致死罪(刑法第146条) | 死刑、無期、5年以上の懲役 | 水道に毒物などを混入する罪 |
現住建造物等浸害罪(刑法第119条) | 死刑、無期、3年以上の懲役 | 人のいる場所を浸水させて害を与えた罪 |
身代金目的拐取罪・身代金要求罪(刑法第225条) | 無期、3年以上の懲役 | 身代金目的の誘拐 |
無期懲役となった実例
ここでは、実際に無期懲役となった事例を紹介します。
医師を殺害した立てこもり事件
2022年に住宅に立てこもり、医師を殺害した被告人に無期懲役が言い渡されました。
事件は、介護中の母親が死亡した件について、医師の措置に納得がいかなかったことから、自宅に呼び出し、散弾銃で医師を殺害。
理学療法士の男性も銃撃され、瀕死の重傷を負いました。
裁判では至近距離の発砲により、強固な殺意が認められました。
また、計画性が高く、動機も理不尽、医療関係者への影響も大きいとして、2023年に無期懲役が言い渡されています。
参考:医師を射殺し立てこもった男は、前日に死んだ母親の蘇生に固執した。根拠は30年近く前のテレビ情報。「72時間以内なら脳機能は生きている」 – 47NEWS
小学生を殺害した事件
2018年に起きた小学生を殺害した事件では、最高裁まで争い、2023年に被告人に無期懲役の判決が下っています。
わいせつ目的で小学生を連れ去り殺害、遺体を遺棄した事件です。
裁判では殺意などが争点になりましたが、犯行は場当たり的で偶発的である点や、過去の量刑などに基づいて死刑ではなく無期懲役となりました。
参考:読売新聞オンライン
一家3人を殺害した事件
2021年に一家3人が殺害された事件では、被告に無期懲役が言い渡されました。
被告は一家から電磁波攻撃を受けていると証言しており、責任能力の有無が争点となっていました。
裁判では、精神疾患による被害妄想から犯行に至ったとしながらも、自分の人生を考えて殺人をためらう様子があり、責任能力を完全に失っていないとして、無期懲役となりました。
参考:3人殺害で男に無期懲役 心神耗弱と判断、愛媛 – 日本経済新聞
無期懲役と死刑が分かれる基準
同じ殺人事件であっても、死刑、もしくは無期懲役が下される場合があります。
無期懲役と死刑が分かれる基準にはどういうものがあるのでしょうか。
死刑を選択する際の基準として、昭和58年に示された永山基準があります。
当時未成年者だった被告が、4都道府県で警備員4人を相次いで殺害した事件では、死刑を巡り最高裁まで争うことになりました。
この時最高裁では、死刑を選択する基準を明らかにしました。
- 犯行の罪質や動機、内容
- 殺害手段の執拗性、残虐性
- 結果の重大性
- 殺害された被害者の数
- 遺族の感情
- 社会的な影響
- 前科
- 犯行後の事情 など
上記を考慮した上で、罪責が重く、刑罰の均衡の見地、一般予防の見地などからも極刑がやむを得ないと認められる場合、死刑の選択は許されるという判断を示しました。
そして、この事件では、犯行時の年齢が未成年者であることや、不遇な成育歴、犯行後の獄中結婚、被害の一部を弁済したなどの事情を考慮しても尚、金品目的の犯行で残虐、執拗、冷酷な方法で4人の命を奪い、遺族の感情も深刻であることから、死刑の判断が下されました。
参考:判例検索 – 裁判所
永山基準はこれ以降、死刑を選択する際の基準として用いられるようになりました。
しかし、近年では被害者の数が1人であってもさまざまな事情を考慮して死刑が下されるケースも増えています。
まとめ
無期懲役は海外の終身刑と比較すると10年程度で出所できると誤解されることがありますが、それは誤りです。
終身刑でも仮釈放制度はありますが、無期懲役で仮釈放が認められるのは30年以上服役した受刑者のごくわずかなケースに過ぎません。
仮に出所できたとしても、長期間刑務所に服役していたために、社会になじめないことも考えられるでしょう。
刑罰に関する考え方は年々変化しており、受刑者の高齢化などの課題もあります。無期懲役や死刑に関しても今後法律が改正されるかもしれません。