保釈金とは|保釈金の金額が決まる基準や返ってくるケースを解説
保釈金(保釈保証金)とは、刑事裁判まで身柄を拘束されている人が、一時的に身柄を釈放してもらうために裁判所に預けるお金のことです。
一般的な会社員や公務員の保釈金の相場は150万円~300万円程度ですが、逃亡や裁判への欠席を防止するために、没収されたら困る金額を預けなければなりません。
著名人の保釈金が高額になるのもこのような理由からです。
保釈金は、裁判に出席すれば判決から1週間程度で返ってきますが、ルールを破れば没収されます。
この記事では、誤解の多い保釈金に関して以下の点をわかりやすく解説します。
- 保釈金の概要
- 保釈金の相場と保釈金が返ってくるかどうか
- 保釈金の支払い方法や流れ
- 保釈金が払えない場合 など
もしご家族の逮捕や長期間の勾留でお困りなら、お気軽にご相談ください。
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保釈金とは
保釈金は、身柄を解放してもらう際に、裁判所の命令を守るように裁判所に一時的に預けるお金のことです。正確には保釈保証金と言います。
刑事事件では、逃亡や証拠隠滅などのおそれがあると判断された場合、逮捕から刑事裁判まで、留置場や拘置所に長期間身柄を拘束されます(勾留)。
しかし、勾留されている人が限りなく怪しいとしても、裁判で有罪だと決まったわけではありません。
まだ無罪である可能性のある人を長期間勾留してしまうと、生活ができなくなってしまったり、家族を養えなくなってしまったり、生活や更生に影響してしまいます。
そのため、①一定の条件をクリアして、②保釈金を裁判所に預け、③許可された人のみ、勾留から解放してもらうことができます。
しかし、保釈されたことにより、逃亡されたり、また悪事に手を染められたりしては、治安が悪化してしまいます。
そのため、裁判所はこうした行為を禁止して、それを守らせるために保釈金という人質を取るのです。
保釈金は、裁判で有罪が確定した後に科せられる罰金とは全く異なります。
あくまでも裁判所の命令を守らせるためのお金なので、保釈金を支払ったからといって、無罪になったわけではありません。
保釈金の基準と相場
有名人が保釈される際は、その保釈金の金額が度々話題になります。
保釈金が決まる基準や相場は、被告人の年収などの資力と犯罪の性質などの要素から裁判所が総合的に判断します。
保釈金が決まる基準
保釈金は、被告人が刑事裁判に出頭すると保証するに足りる相当な金額でなければならないと定められています。
第九十三条 保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
② 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
引用:刑事訴訟法第93条2項 – e-Gov
法律では、被告人の資産、犯罪の性質や情状などを考慮するとしており、以下のような要素をもとに裁判所が決定します。
- 被告の収入や財産、経済状況
- 被告の家族構成、身元引受人など監督者の有無
- 犯罪の種類、共犯者の有無
- 前科の有無
- 言い渡される量刑の予想
- 容疑を否認しているか認めているか など
例えば、以下のような場合、保釈金はおおよそ150万円程度になるケースが多いです。
- 初犯や比較的軽微な犯罪である
- 執行猶予が見込める事案
- 逃亡や証拠隠滅のおそれがない
保釈金は裁判官が、上記の事情を勘案して職権で決定します。
一方で、被告人や家族などが工面できる金額でなければ、納付できず、勾留からも解放されません。
そのため実務上では、弁護士が事前に依頼者と話し合っておき、担当の裁判官と面談した際に、工面できる範囲で許可されるよう交渉しています。
保釈金の相場と年収
前述のとおり、保釈金が決まる要素には被告人の収入や資力が考慮されます。例えば、会社員や公務員の場合の相場は150~300万円程度になるケースが多いです。
高収入な職業であれば300万円を超えることもあります。有名人であれば、さらに高額になるケースが多いです。
下表は有名人が支払った保釈金の一例です。
起訴内容 | 保釈金 | |
元アイドル | 飲酒運転とひき逃げ | 300万円 |
元プロ野球選手 | 覚せい剤 | 500万円 |
音楽プロデューサー | 詐欺 | 3000万円 |
実業家 | 証券取引法違反 | 6億円 |
有名人は高額なお金を払えば保釈されるので不公平だという意見がありますが、収入や財産があればあるほど高額になります。
一方で、アルバイトや学生など収入が少ない場合は、100万円程度のケースもあります。
保釈金の上限は、被告人の資産状況や、罪名などによって異なりますが、100万円を下回ることはほとんどありません。
そのため、最低でも100~150万円は必要になるでしょう。
罪名別保釈金の相場
保釈金に影響するのは、資産状況だけではありません。重い処分が下される重大な犯罪だと、逃亡の欲求も大きくなるため、保釈金も高額になる傾向があります。
罪名別の保釈金の相場はおおよそ以下のとおりです。
窃盗・傷害 | 約150~200万円 |
詐欺 | 約150~200万円、組織的詐欺だと約500万円 |
不同意わいせつ | 約200万円 |
不同意性交等 | 約300万円 |
薬物の所持 | 約150万円 |
覚せい剤 | 約200万円 |
複数の薬物で起訴されている場合 | 約300~500万円 |
車のひき逃げや死亡事故 | 約200~300万円 |
他にも、重大な事件であれば300万円を超えることもあります。
ただしこれらはあくまでも目安です。先述したような、様々な事情を照らし合わせて、保釈金が決定されます。
保釈金はいつ誰が払う?返ってくる?
支払うタイミングは保釈決定後
保釈金を支払うタイミングは保釈が決定してからです。保釈を申請する流れは以下のとおりです。
- 弁護士が裁判所に保釈申請を行う
- 裁判官が検察官に意見を求める
- 弁護士が裁判官と面接する
- 保釈許可が出る
- 保釈金を裁判所に納付する
- 身柄が釈放される
保釈金は、支払いの期限は特に定められていませんが、保釈が決定されたその日に支払うケースが多いです。
保釈請求は、弁護士が裁判所に請求するのが一般的です。被告人本人や配偶者や兄弟、両親や子どもなど直系の血族であれば、請求が可能です(刑事訴訟法第88条1項)。
裁判所に保釈請求が行われると、弁護士は裁判官と面談を行い、保釈の必要性を訴えます。
裁判所は、検察の意見や弁護士との面談を踏まえて、保釈の可否を判断します。
ここで保釈が認められれば、保釈金が明示されますので、それに従い保釈金を支払うことになります。
なお、保釈金が支払われないと、被告人はいつまでも保釈されないことになります。
保釈金は弁護士が裁判所に払う
保釈金は、本人や家族などが弁護士に託して、保釈を決定した裁判所に支払うケースが多いです。
本人や家族、もしくは友人などから借りて支払うこともあります。保釈金が用意できない場合は、保釈支援協会などから借りることも可能です。
保釈金は弁護士経由で、裁判所の出納課で、現金で納付されます。最近では、事前登録することでネットバンキングなどから電子納付もできるようになりました。
保釈金は条件を満たせば返ってくる
保釈金は、あくまでも逃亡防止や裁判に出席させるための人質であるため、約束を守れば、判決内容に関係なく返還してもらえます。
ただし、裁判所からの命令に背けば、全額や一部を没収されることになります。
判決から1週間程度で返還される
保釈金は、判決から早くて2~3日、遅くても1週間程度で、指定の銀行口座に振り込まれます。
保釈金を納付する際は、一緒に保管金提出書という書面を提出します。
保管金提出書には、還付先の金融機関の情報を記入する欄があるため、そこに金融機関を指定しておけば、特に手続きなどを行わなくても、自動的に返還されます。
保釈は弁護士が申請を行い、依頼者から預かった保釈金を納付するケースが多いです。そのため、返金時も弁護士の口座に振り込まれてから返金されるのが一般的です。
弁護士費用の支払いが終えてない場合は、弁護士費用が差し引かれて、依頼者の口座に返金される場合があります。
保釈金が返ってこないケース
保釈金は裁判所の命令に違反すると没収されることになります。
一般社団法人 日本保釈支援協会によると、2023年に保釈が許可された人は1万3,736人(全体の30.61%)、保釈が取り消された被告人の数は106人でした。
保釈が取り消され、保釈金が没収されるケースは以下のように法律で定められています。
第九十六条 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定で、保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
五 被告人が、正当な理由がなく前条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
六 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
② 前項の規定により保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で、保証金の全部又は一部を没取することができる。
③ 保釈を取り消された者が、第九十八条の二の規定による命令を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときも、前項と同様とする。
一部引用:刑事訴訟法第96条 – e-Gov
ここでは、保釈金が返ってこずに没収されてしまう以下のケースを解説します。
- 裁判に出席しなかった
- 保釈中に逃亡や証拠隠滅をした
- 許可なく住居の変更や旅行をした
- 被害者など関係者と接触した
裁判に出席しなかった
保釈が取り消されて保釈金が没収されてしまうケースの1つは、裁判所への出頭義務を守らなかった場合です。
刑事事件では、被告人が出席しなければ、裁判を行うことができないと定められています(刑事訴訟法第286条)。
保釈したことで、逃亡や裁判に欠席することがないよう、保釈の条件には裁判への出席が義務付けられています(刑事訴訟法第96条1項)。
日本保釈支援協会によると、以下のようなケースで保釈が取り消された事例があります。
- 体調不良を理由に何度か裁判の出席を延期し、繁華街で飲酒していた
- 裁判への出席が嫌で自宅にいた
- 経営している会社の取引の契約があったため裁判を欠席した
安易に裁判を欠席すると、保釈金が没収されることになります。
参考:協会で仕事をして感じた事!後編 – 一般社団法人 日本保釈支援協会
保釈中に逃亡や証拠隠滅をした
同様に、保釈中に逃亡や証拠隠滅をすることも禁じられています。2019年には、カルロス・ゴーン被告が保釈中に国外逃亡したことから、保釈金の15億円が没収されたと報道されました。
参考:ゴーン被告、保釈金15億円は没収 過去最高額か – 朝日新聞デジタル
過去にはPCを遠隔操作し、ネットに無差別殺人の予告をした疑いのある男性が保釈された際に、真犯人を名乗るメールを送るなどして、偽装工作をしたことで保釈が取り消された事例もあります。
PC遠隔操作事件では、保釈金1,000万円のうち、600万円が没収されました。
許可なく住居の変更や旅行をした
保釈中は、仕事はもちろん普通の生活を送ることができます。
しかし、裁判所の職員や警察官が様子を見にくることがあるため、しっかりと対応できるようにしておかなければなりません。
もし裁判所の許可なく引っ越したり、旅行をしたりすれば、逃亡などのおそれがあるとして、保釈が取り消される可能性があります。
被害者など関係者と接触した
保釈中は、被害者や共犯者などと接触することももちろん禁止されています。これは、保釈中に被告人が被害者にお礼参りをしたり、共犯者と再犯に及んだりしないようにするためです。
日本保釈支援協会によると、関係者に接触したとして、保釈を取り消されてしまった事例があります。
- 被害者に謝罪をしようと思って連絡を取ってしまった
- 事件の関係者(友人)に悪気なく連絡を取ってしまった
参考:協会で仕事をして感じた事!後編 – 一般社団法人 日本保釈支援協会
保釈金を払わないとどうなる?
保釈金を払わないと、被告人はいつまでも保釈されず、裁判中も拘置所に身柄を拘束されたままになります。
裁判中も保釈されないままだと、実刑判決が下された場合、そのまま刑務所に収容されます。
保釈金が払えないことで、刑事処分や判決に影響は生じません。しかし、拘束期間が長引けば、会社や学校、など私生活に大きな影響を及ぼします。
被告人が一家の主な稼ぎ手だった場合は、家族まで困窮する可能性があります。その後執行猶予がついたとしても、社会復帰が困難になるかもしれません。
保釈金が払えない場合は、以下の対処法も検討するとよいでしょう。
保釈金が払えない場合の対処法
保釈金の相場は最低でも100万円以上し、場合によっては保釈金が払えないケースもあるでしょう。ここでは、保釈金が払えない場合の対処法について解説します。
弁護士に相談する
保釈金が払えない場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士に相談することで、弁護士が裁判官に保釈金を下げられるか交渉してくれます。
保釈金は、逃亡のおそれがあるような場合に、高額になるケースがあります。
弁護士は、そのような高額になるケースに対して、家族が身元引受人となり監督するため、逃亡のおそれがないなど、裁判官に主張してくれます。
日本保釈支援協会の立て替え制度を利用する
保釈金を用意できない人を支援しているのが、一般社団法人 日本保釈支援協会です。保釈支援協会では、500万円を上限に保釈金の建て替えを行ってくれます。
ただし、立て替える金額に応じた手数料を月ごとに支払う必要があります。例えば、保釈金200万円を立て替える場合の手数料は2か月で5万5,000円です。
高額な保釈金を一括で用意できないという人は相談してみてください。
保釈保証書を発行してもらう
保釈は、保釈金を預けるほかに、裁判所の許可のもと、保釈保証書を提出することで保釈してもらえるケースがあります。
保釈保証書は、万が一被告人が逃亡したような場合に、保釈保証書を提出した人が保釈金の支払い義務を負うというものです。
全国弁護士協同組合連合会という団体では、保釈金の一定額を預けることで、この保釈保証書を発行する事業を行っています。
もし被告人が逃亡した場合は、全国弁護士協同組合連合会が保釈金を一時的に支払ってくれます。
保釈保証書の発行には、収入などの審査や2~3%の保証料などが必要ですが、今すぐ保釈金全額を用意できないという人におすすめです。
保釈金制度は不公平でおかしい?
保釈制度をよく知らない人は、高額なお金を払えば、保釈される制度だから、金持ちだけが優遇されて、不公平でおかしいと批判する人もいます。
しかし、保釈制度は、逃亡などの抑止力として、資産状況に応じた保釈金を預けることで、身柄を解放してもらえる制度です。
保釈金は資産状況だけで決定するわけではありません。しかし、裁判所の命令を守らせるためにあるお金なので、収入に応じた金額を求められる可能性があります。
むしろ高収入であればそれだけ高額な保釈金が求められることが予想できるでしょう。
さらに、保釈の条件を満たさなければ、どれだけ高額な保釈金を支払おうとしても、保釈されません。
加えて、高額な保釈金を支払ったとしても、罪から逃れられるわけではありません。裁判で有罪になれば処分を受けることになります。
お金がないという人でも、支援団体のサポートなどがあれば保釈金は用意できます。お金持ちだけが優遇される制度だというのは誤解です。
保釈金に関するよくある質問
ここでは保釈金に関するよくある質問に回答します。
保釈金を払えば実刑にならない?
保釈金は、身柄を解放してもらう代わりに、裁判所に預けるお金です。刑事裁判の判決には影響しないため、保釈金を払ったからといって、有罪や実刑が回避できるわけではありません。
実刑になったら保釈金は返ってくる?
保釈金は、裁判に出廷するなど、裁判所の命令に従えば、判決後に返ってきます。仮に実刑になったとしても、指定の銀行口座に自動的に返還されます。
保釈金を借りることはできる?
保釈金の借り入れは可能です。例えば、家族や知人からの借り入れが考えられます。
さらに、日本保釈支援協会の保釈保証金の立て替え制度や、全国弁護士協同組合連合会の保釈保証書を発行してもらう制度を利用する方法もあります。
なお、全国弁護士協同組合連合会に申請する場合は、弁護士を通じて行う必要があります。
まとめ
保釈金は長期間の身柄拘束から一時的に釈放されるために、必要となるお金です。
保釈中に裁判所の命令に背けば、没収されてしまうため、資産状況や事件の内容などを考慮して、被告にダメージのある金額に設定されます。
仮に保釈金が用意できなくても、保釈金を立て替えてくれる団体もあるため、お金がない人でも保釈してもらえる可能性があります。
保釈が認められない場合、裁判が終わるまで身柄拘束が続き、日常生活や家族に大きな影響を及ぼします。
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