拘置所とは|留置場や刑務所との違いと拘置所の生活の実態
死刑が執行される場所として耳にすることのある拘置所ですが、どのような場所なのかよく知らないという人は多いでしょう。
他にも、留置場や刑務所といったよく耳にする施設とどう違うのでしょうか。
この記事では拘置所について次の点を解説します。
- 拘置所とは?収容される人や収容期間
- 拘置所の生活の実態
- 留置場や刑務所との違い
家族が起訴されて拘置所に移送されてしまったという人は、参考にしてみてください。
目次
拘置所とは
拘置所とは、刑罰が確定していない未決拘禁者や死刑囚を収容する法務省管轄の刑事施設のことです。
本来、裁判で刑罰が確定していない容疑者(被疑者)や被告人の身柄は、拘置所に収容されます(刑事訴訟法第64条1項)。
ここでは、拘置所の概要について解説します。
拘置所に収容される人
拘置所に収容されるのは次に挙げる人です。
- 警察に逮捕されて身柄拘束(勾留)が決定した人
- 検察が起訴して起訴後に勾留されて刑事裁判を待つ人
- 検察が逮捕して身柄拘束中の人
- 刑事裁判で死刑判決を受けて、死刑の執行を待つ人
警察に逮捕された後は、起訴か不起訴かが判断され、起訴されると裁判で刑罰が決定します。
拘置所に収容されるのは、刑罰が決定する前に身柄拘束を受けている未決拘禁者です。
他にも、刑事裁判で死刑判決を受け、死刑執行を待つ死刑囚も収容されています。
死刑自体は刑罰の一つですが、執行までの身柄拘束は刑罰ではないため、拘置所に収容されます。
拘置所の役割
未決拘禁者を収容するのは拘置所ですが、起訴前の被疑者の身柄は警察の留置場に拘束されていることがほとんどです。
場合によっては、起訴後の被告人の身柄も留置場に入れられることがあります。
これは、留置場は全国に1,300か所あるのに対して、拘置所は全国に8か所(拘置支所は103か所)しかありません。
拘置所の収容能力の問題で、代用監獄として留置場が活用されています。
法治国家である先進国の多くは、逮捕後拘置所に送られるのが普通ですが、日本の場合は逮捕直後から、警察が管理する留置場に入れられることになります。
警察からすればそのまま取り調べを行えるのは便利かもしれません。
しかし、被疑者や被告人からすれば、常に警察の監視下にあり、精神的な負担も大きく、自白強要や冤罪につながりかねません。
拘置所を増やすなどして対処すべき問題ですが、新たに拘置所を増設するとなると、予算や近隣住民の反対などの問題が予想されます。
また、2006年には留置場を正式に代用監獄として利用できるようにするため、監獄法が改正されました。
その背景には、取り調べのために遠方の拘置所まで移送するとなると、警察や検察の負担が大きいからではないかとも言われています。
拘置所に収容されるケース
前述のとおり、拘置所に収容されるのは、勾留をされている未決拘禁者と死刑囚です。
しかし、逮捕されたからといって必ず勾留が行われるわけではありません。
勾留は次のいずれかに当てはまる時に、裁判所の許可のもと行われます。
第六十条裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一被告人が定まつた住居を有しないとき。
二被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
また、これに加えて、裁判の欠席や被害者に対して危害を加えさせないために、起訴後も勾留が行われるケースが多いです。
拘置所に収容される期間
拘置所に収容される期間は、起訴前勾留(被疑者勾留)か、起訴後勾留(被告人勾留)かによっても異なります。
起訴前勾留(刑事訴訟法第208条) | 10日以内
延長が認められるとさらに10日 |
起訴後勾留(刑事訴訟法第60条、89条) | 起訴から2か月
更新は1か月 重大犯罪などの条件を満たした場合更新に制限なし |
起訴前の勾留は最長でも20日です。
一方で、起訴後に勾留されると基本は2か月、更新は1か月までと定められていますが、重大犯罪などの条件を満たした場合、更新に制限はありません。
起訴後は保釈金を支払うことで身柄を釈放してもらえる保釈制度もありますが、保釈率は30%程度です。
保釈が認められなければ、判決が確定するまで勾留されることもあります。
拘置所はどこにある?
拘置所は全国に8か所、拘置支所は103か所あります。
東京都 | 東京拘置所、立川拘置所 |
愛知県 | 名古屋拘置所 |
京都府 | 京都拘置所 |
大阪府 | 大阪拘置所 |
兵庫県 | 神戸拘置所 |
広島県 | 広島拘置所 |
福岡県 | 福岡拘置所 |
なお、死刑が執行される刑場があるのは、全国の拘置所、拘置支所のうちの7か所です。
東京拘置所はよく知られていますが、他には札幌拘置支所、仙台拘置支所、名古屋拘置所、大阪拘置所、広島拘置所、福岡拘置所で執行されます。
拘置所での生活の実態
拘置所に収容されている未決拘禁者は、裁判で有罪が確定していないため、刑務作業が科されることはありません。
拘置所は法務省管轄の刑事施設、留置場は警察が管理する留置施設で、それぞれ若干ルールが異なります。
拘置所の場合、起訴後なので取り調べを受けることはなく、作りたての食事を食べられるため、生活しやすいという人もいるようです。
一方で、基本的に他の未決拘禁者や死刑囚との会話は禁止されているなど、ルールが細かいため、私語が禁止されていない留置場の方が気楽という人もいます。
ここでは、拘置所の生活の実態を紹介します。
拘置所の部屋
未決拘禁者は、他人と証拠隠滅などを図らせないために、基本的に単独室に収容されます(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第35条、37条)。
単独室に収容できないような場合は、複数人がいる雑居房に収容されることもあります。
拘置所の部屋の様子は次のとおりです。
上記は2023年に公開された名古屋拘置所の単独室の様子です。部屋には布団、机、トイレ、洗面所があります。
未決拘禁者の場合は、部屋でテレビを見ることはできません。
また、未決拘禁者も基本的には単独室で過ごさなければならず、部屋の外に出られるのは運動、入浴、面会、裁判の時だけです。
衣類や寝具は施設から貸してもらうことができます。就寝時間になっても電気が完全に消えることはないため、なかなか寝付けないこともあるようです。
また、拘置所では冷暖房が設置されていない所もあり、熱中症や凍えるほどに寒いということもあります。
拘置所の1日のスケジュール
拘置所によって若干異なりますが、1日のスケジュールは次のとおりです。
- 午前7:00 起床
- 午前7:25 朝食
- 午後12:00 昼食
- 午後16:20 夕食
- 午後21:00 就寝
起床後は布団をたたみ、洗面と掃除を済ませて、刑務官の点呼を受けます。点呼は起床後と夕食後に行われます。
食事も単独室で行われます。収容者は、懲役刑が科されているわけではないので、刑務作業はありません。
基本的には、決められた時間に運動をするか、読書などをして過ごすことになります。
また、自己契約作業といって、外部業者と契約して軽作業を行い、報酬を得ることも可能です。
死刑囚の場合は、月に一度牧師と面会できます。
拘置所の食事
拘置所の食事は併設されている刑務所の受刑者などが調理するため、温かい食事がとれます。
また留置場のように、自弁といって、弁当を購入することも可能です。
他にも、自費でお菓子やフルーツ、缶詰、ジュース、カップ麺などが購入でき、食事のバリエーションは留置場よりも多いようです。
拘置所の入浴
拘置所では、基本的に一週間に2回以上の入浴が義務づけられています(刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則第25条)。
夏場は週に2~3回とする所もあります。未決拘禁者、死刑囚は基本的に単独用のお風呂を利用します。
しかし、1回の入浴時間はおおよそ15分程度となっているようです。
拘置所で面会できる?
拘置所でも面会は可能です。ただし、面会できる相手や、面会方法、面会時間などさまざまなルールがあります。
なお、拘置所に移送されるケースは、起訴後が多いです。起訴が決定した後に、被告人の身柄は拘置所に移送されます。
移送の通知は、検察から弁護士に行われ、家族は弁護士から移送の事実を知ることになります。
拘置所で申し込めば面会可能
拘置所で面会する場合は、直接拘置所に赴き、面会窓口で受付を行って面会を申し込まなければなりません。事前に電話で予約などはできません。
面会を申し込んだら、面会の順番が回ってくるまで待つことになります。
家族はもちろん、友人や恋人などでも面会が可能です。
ただし、1日1回、面会できる人数は3人まで、面会時間はおおよそ30分程度と決められています。
面会できるのは基本的に平日のみで、午前8時半~午後16時くらいまで、午後12~13時を昼休憩としている所も多いです。
面会のルール
面会では、証拠隠滅などを防止するため、拘置所の職員が立ち会い、録画されることがあります。
携帯や録音機器、タバコなどは持ち込めません。
また、面会ができないケースがあります。
- 被疑者の場合、取り調べなどで不在のとき
- 共犯者がいて証拠隠滅のおそれがあり面会自体が制限されているとき
なお、弁護士であれば、面会には制限はありません。
面会が制限される接見禁止の場合は、家族との面会を認めてもらえるように、弁護士に接見禁止の一部解除を依頼したり、手紙などを差し入れてもらったりしましょう。
差し入れできる物
拘置所も留置場と同様に、差し入れが可能です。各拘置所によって異なりますが、次のものは差し入れが認められていることがほとんどです。
- 現金3万円まで
- 本
- 手紙や写真
- 衣類や下着(紐やベルトのないもの)
- メガネ、コンタクトレンズ
- 歯ブラシ
自殺や自傷防止のために、紐のある衣類やタオルは禁止されています。同様に、歯磨き粉やシャンプーなど、容器の中身の成分を確認できないものも差し入れできません。
差し入れは宅配便で送ることもできますが、差し入れできる数には制限があるため、事前に拘置所に確認してください。
また、手紙や写真であれば、郵便でやり取りできます。
拘置所に収容されるまでの流れ
拘置所に収容されるまでの流れは次のとおりです。
- 逮捕される
- 逮捕から48時間以内に、検察に身柄が引き継がれる(送致)
- 検察が24時間以内に勾留の要否を判断
- 検察が裁判所に勾留請求をする
- 被疑者は裁判所から勾留質問を受ける
- 勾留が決定すると留置場に10~20日間身柄を拘束される
- 勾留満了までに検察が起訴か不起訴かを判断する
- 起訴が決定すると起訴通知書や起訴状が届く
- 起訴後に身柄が拘置所に移送される
本来なら、⑤の後勾留が決定すれば身柄は拘置所に移送されますが、実務上は引き続き留置場で身柄拘束が行われることがほとんどです。
もし拘置所に収容されるとしたら、起訴後になりますが、起訴後も留置場に勾留されることがあります。
拘置所と留置場の違い
留置場の本来の目的は、逮捕した人が検察に送致されるまでの間に留め置いておく施設です。
勾留される際は、被疑者の逃亡や証拠隠滅を防止するために、収容しています。
拘置所と留置場の違いは次のとおりです。
留置場 | 拘置所 | |
収容場所 | 全国の警察署内、1,300か所 | 各地の拘置所や拘置支所、111か所 |
収容期間 | 起訴前勾留は10~20日間
逮捕から最長23日間 |
起訴後勾留は2か月 |
生活 | 取り調べや実況見分 | 裁判 |
部屋 | 6人程の被疑者がいる雑居房が多い | 単独室 |
食事 | 1日3食、業者が作った弁当が配られる | 1日3食、受刑者が作った料理が食べられる |
大きな違いは、取り調べや実況見分が行われることです。しかし、それ以外の時間は自由なので、読書や手紙を書くなどして過ごせます。
また、冷暖房が完備されていない拘置所があるのと違い、警察署内にある留置場には冷暖房が完備されています。
入浴は拘置所同様週2回と決められています。健康保持のため、平日午前中に30分ほど運動時間が設けられていることが多いです。
食事も拘置所とは大きく異なります。留置場では調理が行われないため、3食の食事は業者が作ったお弁当が配られます。
弁当はカロリーや栄養が考慮されていますが、被疑者によっては味が薄く物足りなく感じることがあるようです。また現金で自弁を購入することもできます。
拘置所と刑務所の違い
刑務所は、起訴後裁判で実刑判決が下された場合に収容される施設で、拘置所とは異なります。
留置場 | 拘置所 | |
収容目的 | 受刑者の更生 | 逃亡や証拠隠滅の防止 |
収容場所 | 全国77か所の刑務所 | 各地の拘置所や拘置支所、111か所 |
収容期間 | 量刑による
最長で30年 |
起訴後勾留は2か月 |
生活 | 刑務作業や矯正教育 | 裁判 |
部屋 | 4~6人の共同室か単独室 | 単独室 |
面会 | 可能 | 可能 |
刑務所では、刑務作業に従事させると共に、刑務所では規則正しい生活、共同生活における自分の役割や責任を自覚させて、更生や円滑な社会復帰を促進しています。
なお、刑罰には、刑務作業が義務付けられている懲役と、刑務作業が義務付けられていない禁錮刑があります。
しかし、2025年6月からは拘禁刑が施行され、懲役と禁錮は一本化されます。
拘禁刑は、刑務作業を義務化せず、再犯防止や矯正指導に重きを置くことになります。
参考:拘禁刑を25年6月導入 懲役と禁錮を一本化、更生を重視|日本経済新聞
拘置所と拘置支所の違い
拘置所の役割を果たしているのが拘置支所です。
拘置支所は拘置所をカバーするために、地方の刑務所に併設されている法務省管轄の刑事施設です。
もちろん、刑務所とは区切られており、他の拘置所と大きく変わりません。
拘置所についてよくある質問
拘置所の生活でスマホは使える?
拘置所の生活ではスマホは使用できません。拘置所はもちろん、留置場でもスマホは没収されてしまいます。
また、スマホは証拠品として押収されてしまうことがほとんどでしょう。
弁護士でさえ、スマホやパソコンなどは接見の際に許可を得て持ち込みます。
拘置所に移送される場合連絡は来る?
拘置所に移送される場合、検察から家族に直接連絡が来ることはありません。被告人も前日に移送が知らされます。
家族は、検察から知らされた弁護士経由で、移送を知ることになるでしょう。
拘置所にいる相手と連絡がつかなくなったけどなぜ?
拘置所にいる相手と連絡がつかなくなったのは、実刑判決が下されて刑務所に収容されたからだと考えられます。
収容される刑務所は、犯罪の傾向や性別、刑期の長さや精神疾患の有無などによって、異なります。
判決確定後に調査が行われて、収容先が決定しますが、本人が伝えない限りは、家族に通知されることはありません。
もし拘置所にいる相手と連絡がつかなくなった場合は、刑務所に収容されたことが考えられるため、相手から手紙で連絡が来るのを待ちましょう。
まとめ
拘置所は、刑事裁判で処分が決定していない未決拘禁者や死刑囚が収容される場所です。
しかし、拘置所は数が少ないため、起訴前勾留においては、留置場が使用されているのが一般的です。
未決拘禁者はまだ有罪となっていないため、推定無罪の法則で犯罪者とは確定していません。
刑務作業は科されませんが、刑事裁判で処分が下されるまで、監視のもとで生活しなければなりません。
もし起訴が決まり、拘置所に移送されてしまっても、保釈や執行猶予が認められるように弁護士にサポートしてもらいましょう。