執行猶予中にやってはいけないこと|執行猶予が取り消しになるケース
執行猶予がつくと、刑の執行は猶予され、ただちに刑務所に収容されることはなくなります。
せっかく執行猶予がついても、執行猶予中にやってはいけないことをすると、執行猶予が取り消される可能性があります。
そのため、執行猶予期間中の過ごし方が重要です。
この記事では、執行猶予中にやってはいけないことや、執行猶予が取り消されるケースについて解説します。
目次
執行猶予の期間はいつまで?
執行猶予の期間は、判決が確定した日から数えます。
判決が確定した日とは、裁判で判決が言い渡された日の翌日から不服申し立ての控訴期間14日が経過した後です。
例えば、懲役3年執行猶予5年の言い渡しを2025年1月1日に受けた場合で考えます。
2025年1月1日 | 懲役3年執行猶予が5年の言い渡し |
2025年1月2日~1月15日 | 控訴期間 |
2025年1月16日 | 判決確定(執行猶予期間の5年がスタート) |
2030年1月15日 | 執行猶予期間が終了 |
無事に執行猶予期間が過ぎれば、懲役3年の刑は執行されずに済みます。
執行猶予が取り消される2つのケース
執行猶予期間が問題なく経過すれば、刑の執行は免除されます。しかし、執行猶予が取り消されるケースもあるため、注意が必要です。
執行猶予が取り消されるケースには、以下の2パターンがあります。
- 必ず執行猶予が取り消される必要的取り消し
- 執行猶予が取り消されることがある裁量取り消し
ここでは、執行猶予が取り消されるケースを解説します。
必要取り消しとなる場合
以下のいずれかに該当する場合、執行猶予は必ず取り消されます。
- 執行猶予の期間中に、さらに罪を犯して禁錮以上の刑に処され、その刑の全部について執行猶予の言い渡しがないとき
- 執行猶予の言い渡し前に犯した他の罪について、禁錮以上に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言い渡しがないとき
- 執行猶予の言い渡しの前に、他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとこが発覚したとき(ただし、執行猶予の言い渡しを受けた人が他の罪の刑期満了から執行猶予の言い渡しまでに5年が経過している場合、または他の罪について執行猶予の場合を除く)
非常に難しいですが、簡単に説明すれば以下のとおりです。
- 執行猶予期間内に再犯を犯し実刑となったとき
- 余罪で実刑となったとき
- 以前に実刑となったことが発覚したとき
執行猶予が取り消されるケースでは、①再犯がほとんどです。
裁量的取り消しになる場合
以下のいずれかに該当すると、裁判官の裁量で執行猶予が取り消されるおそれがあります。
- 執行猶予の期間内にさらに罪を犯して、罰金刑となったとき
- 保護観察付きの執行猶予中に遵守事項を守らず、情状が重いとき
- 執行猶予の言い渡し前に、他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行猶予が発覚したとき
簡単にまとめると、以下のとおりです。
- 執行猶予期間中に再犯で罰金刑になったとき
- 保護観察付きの執行猶予中に遵守事項を守らずルール違反が顕著だと判断されたとき
- 以前に執行猶予になったことが発覚したとき
執行猶予中にやってはいけないことは?
執行猶予を取り消されないよう、期間中は慎重に行動することが求められます。
執行猶予中の再犯
執行猶予中にやってはいけないことの一つは、再犯することです。
執行猶予中に再犯をしただけで、ただちに執行猶予が取り消されるわけではありません。
しかし、再犯で罰金となった場合は裁量取り消しに、禁錮以上となった場合は必要取り消しの対象となります。
特に、覚せい剤などの薬物犯罪や性依存は再犯リスクが高い傾向があります。
法務省によると、2022年に検挙された人のうち、前科者が占める割合が高い犯罪は以下のとおりです。
窃盗罪 | 16.9% |
恐喝罪 | 13.9% |
傷害や暴行 | 10.2% |
薬物犯罪、性犯罪、窃盗罪(クレプトマニア)などは、依存症などの病気が原因となっている可能性があります。
執行猶予を得たことで安心して、その後治療を中断してしまうケースもあるため、油断せず治療を継続することが重要です。
恐喝や傷害、暴行など、暴力行為を繰り返す場合も、カウンセリングを受け、適切な対応方法を学んだ方がよいケースもあります。
執行猶予が取り消されるケースの9割以上が再犯によるものなので、一層注意すべきです。
参考:令和5年版 犯罪白書 第5編 再犯・再非行 第1章 検挙 2 刑法犯により検挙された20歳以上の有前科者 – 法務省
執行猶予中の交通違反
執行猶予中は交通違反や交通事故に細心の注意を払う必要があります。
特に、飲酒運転やスピード違反によって人身事故を引き起こすと、執行猶予が取り消される可能性があります。
軽微な違反の場合は反則金や罰金で済むこともありますが、罰金刑を受けると裁量取り消しの対象となります。
人身事故や相手のケガの程度によっては起訴され、実刑となるおそれがあります。
執行猶予期間中は、運転を控えるか、運転の必要がない環境を整えるなど、リスクを最小限にしましょう。
執行猶予中の海外旅行
執行猶予中は、そもそもパスポートが取得できない可能性があります。
(一般旅券の発給等の制限)
第十三条外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。
中略
三禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
四第二十三条の規定により刑に処せられた者
パスポートの申請書類には刑罰に関する欄があり、執行猶予中であることを隠して虚偽申告を行った場合、刑事処分を受ける可能性があります。
罰則は5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または併科です。
(罰則)
第二十三条次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一この法律に基づく申請又は請求に関する書類に虚偽の記載をすることその他不正の行為によつて当該申請又は請求に係る旅券又は渡航書の交付を受けた者
執行猶予中の呼び出しの無視
保護観察付き執行猶予の場合に、保護観察官や保護司からの呼び出しを無視したり、面接を受けなかったりすると、執行猶予が取り消される可能性があります。
保護観察付き執行猶予については、次項で詳しく解説します。
保護観察付き執行猶予中に守るべき遵守事項とは
執行猶予には、保護観察付き執行猶予となるケースがあります。
保護観察付き執行猶予とは、執行猶予期間中に保護観察官や保護司の指導のもと、遵守事項を守りながら生活する制度です。
再度の執行猶予や薬物使用による犯罪の場合、被告人の更正や再犯防止の観点から適当と判断された場合に、裁判所の裁量で保護観察とされることがあります。
保護観察中に執行猶予が取り消された場合、再度執行猶予を受けることはできず必ず実刑となります。
遵守事項に違反した場合にも執行猶予が取り消される可能性があるため、一般的に知られている執行猶予よりも厳しい処分だと言えるでしょう。
ここでは、保護観察付きの執行猶予期間中に必ず守らなければならない2種類の遵守事項について解説します。
一般遵守事項
一般遵守事項とは、保護観察となった人全員が守るルールです。具体的には以下の内容が挙げられます。
- 保護観察官や保護司の面接を受けること
- 生活状況の申告や、必要に応じて生活実態の資料を提出する
- 転居や旅行をする場合は、事前に保護観察所長の許可を得ること
- 届け出た住居に住むこと
- 再犯防止のため、健全な生活態度を保持すること など
健全な生活態度の保持という内容は抽象的ですが、まとめれば、保護観察官や保護司の指導に従う必要があるということです。
こうした遵守事項を怠り、例えば面接を受けない、生活状況を無申告にする、許可なく転居や旅行を行うと、執行猶予が取り消される可能性があります。
特別遵守事項
特別遵守事項は、事件の性質や被告人の状況に応じて個別に課されるルールです。具体例としては以下のようなものがあります。
- 就職活動を行う・定職に就くこと
- 薬物犯罪や性犯罪に対するプログラムの受講
- 深夜の無断外出の禁止
- 共犯者と接触しない、交友関係を絶つこと など
これらの特別遵守事項も一般遵守事項と同様に、違反した場合は執行猶予の取り消しにつながる可能性があります。
参考:保護観察所 – 法務省
執行猶予中の生活で注意すべきこと
執行猶予中であっても、やってはいけないことさえ避ければ、以下のように通常の生活がおくれます。
- 仕事をして普通に生活する
- 就職・転職できる
- 結婚できる
- 引っ越しや国内旅行(保護観察の場合は申告義務あり)
ただし、執行猶予中の生活で注意すべきこともあるため、以下で解説します。
資格取得
執行猶予期間中は、言い渡された刑罰によっては、資格取得が制限される場合があります。
例えば、医師、看護師、薬剤師などの資格は、罰金刑以上が科された場合に免許が与えられないことがあります。
そのため、執行猶予期間が終了してから、資格取得を目指した方がよいでしょう。
飲酒
犯罪行為の原因が飲酒にある場合、執行猶予期間中は飲酒を控えた方がよいでしょう。
例えば、飲酒による性犯罪、暴行、交通事故などを起こした場合、再度同様の罪を犯すリスクがあります。
断酒が難しい場合は、病院でアルコール依存症の治療を検討しましょう。
執行猶予が取り消されるとどうなる?
合算された年数刑務所に収容される
執行猶予中に再び罪を犯して執行猶予が取り消されると、元の刑期と再犯による刑期が合算され、その期間刑務所に収容されることになります。
例えば、懲役1年6か月、執行猶予3年だった場合、再度有罪で懲役1年6か月が言い渡されると、計3年間服役することになります。
執行猶予が取り消された事例
法務省によると、2022年に執行猶予が取り消されたケースは以下のとおりです。
執行猶予が言い渡された人員 | 2万6,650人 | |
執行猶予が取り消された人員(保護観察含む) | 2,949人 | |
執行猶予が取り消された割合 | 11.1% | |
保護観察の中で執行猶予が取り消された割合 | 26.2% | |
執行猶予が取り消された理由 | 再犯 | 2,800人(94.9%) |
余罪 | 99人(3.4%) | |
遵守事項違反 | 45人(1.5%) | |
その他 | 5人(0.2%) |
執行猶予が取り消されるケースの9割以上が再犯によるものです。
参考:令和5年版 犯罪白書 第5編 再犯・再非行 第2章 検察・裁判 2 全部及び一部執行猶予の取消し – 法務省
執行猶予の取り消しを回避する方法
執行猶予期間中に再犯した場合、重い処分が下される可能性があります。
ただし、ただちに執行猶予が取り消されるわけではありません。弁護士に依頼をして以下のサポートを受けることが重要です。
不起訴を獲得する
執行猶予が取り消されるのは、執行猶予期間中に罰金や実刑となった場合です。
不起訴処分を獲得できれば、刑事裁判での有罪は回避できます。
被害者がいる犯罪では、謝罪や示談成立が極めて重要です。一方、被害者がいない薬物犯罪などでは、薬物の所持量や捜査の違法性によって不起訴となる可能性があります。
早期に弁護士に相談し、適切なサポートを受けることが不可欠です。
再度執行猶予を得る
仮に再犯で起訴されても、条件を満たせば再度執行猶予を得られる可能性があります。条件は以下のとおりです。
- 1年以下の懲役または禁錮を言い渡されたとき
- 特に情状酌量があるとき
- 前の執行猶予で保護観察がついていないこと
そのため、少しでも刑事処分を減軽してもらえるように、被害者との示談交渉や、具体的な再犯防止策を実行することが重要です。
まとめ
執行猶予中は、以下のいずれかに該当すると、執行猶予が取り消される可能性があります。
- 執行猶予期間中に再犯をして実刑や罰金となったとき
- 保護観察付き執行猶予の遵守事項に違反したとき
- 余罪で実刑となった時
- 以前に執行猶予や実刑となったことが発覚したとき など
特に再犯による取り消しが多いことから、慎重に行動し、再犯を防ぐ努力が重要です。
執行猶予期間が終了しても前科が残るため、資格取得などに一定の制限がかかる場合があります。
いずれにしても、油断せず慎重に生活しましょう。もし執行猶予期間中に再び罪を犯してしまった場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。