脱税で逮捕されるのはいくらから?逮捕の基準や実刑になった例
脱税で逮捕されるのは、企業が何億円もの法人税を脱税したような限られたケースだけではありません。
例えば、脱税した額が数千万円でも、個人事業主でも、個人でも、所得などを隠せば、税務署の調査から、国税庁が検察庁に告発して、刑事処分を受けるおそれがあります。
特に近年では、独立して個人事業主として働く人や、個人で副業や株などで所得を増やす人も増加傾向にあるため、決して他人事ではありません。
この記事では脱税の逮捕について下記の点を解説します。
- 脱税がバレるケースや逮捕されるケース
- 脱税で逮捕される基準となる金額は?
- 脱税で実際に逮捕や起訴された事例
目次
脱税とは
脱税とは、納税義務のある税金を意図的にごまかして、税金の負担を免れることです。
個人の場合は、所得税や住民税などがかかりますが、会社員であればこうした納税は基本的に会社が行ってくれます。
一方で、会社や個人事業主の場合は、自ら納税をしなければなりません。
会社や個人事業主が納税する場合は、得た収益から経費を差し引いた額を納税します。
脱税となるのは、売上を減らした場合、もしくは経費を水増しした場合です。
売上の過少申告 | 売上を過少申告すること
一部の売り上げを申告しないなど |
経費の水増し | 事業に必要な支出をわざと多く見せかける
事業と無関係の支出を経費として算入するなど |
税金の不正還付 | 消費者から受け取った消費税よりも、仕入れの消費税が少ないように見せかけて、消費税の還付を受けるなど |
脱税が発覚すると、刑事罰が科されたり、行政処分として追徴課税を受けたりすることになります。
脱税と他の言葉との違い
脱税以外にも、税金の申告漏れや所得隠し、節税といった言葉の違いを解説します。
申告漏れ
申告漏れは、うっかり所得の申告が漏れてしまうことです。
例えば、計算や計上のミスから、申告が必要だと知らずに申告をしなかったり、申告の手続きが遅れてしまったりしたケースが挙げられるでしょう。
意図的にごまかして税負担を免れる脱税と違うのは、過失により申告が漏れてしまった点です。
過失で申告が漏れてしまった場合、追加で課税されることになります。
所得隠し
所得隠しとは、売上の隠ぺいや一部の無申告、経費の水増しなどにより売上が少ないように見せかけて、意図的に所得を隠して、税金の負担を抑える行為のことです。
故意に所得を少なく申告するため、悪質性が高いと評価され、申告漏れよりも重いペナルティが科される可能性があります。
脱税とほぼ同じ意味に聞こえますが、所得隠しで悪質性が高く、金額が大きいようなケースだと、検察庁に告発され、脱税として刑事罰の対象となります。
節税
節税とは、税務制度の範囲で合法的に税金の負担を軽くする行為のことです。
例えば、一般的な会社員が利用する控除には下記のものがあります。
- 配偶者控除や扶養控除
- 医療費控除
- 生命保険料控除
- 住宅借入金等特別控除 など
一定の条件を申請すると、所得税や住民税の一部が控除されます。
企業の場合は、事業に使用した支出を必要経費として計上したり、税法上の控除や特例を活用する方法が考えられます。
適切な制度を利用して、税負担を軽くするのであれば、節税として処分の対象にはなりません。
脱税はなぜバレる?
例えば、企業が脱税をする場合は、企業内の経理で脱税の処理をすることになるでしょう。
しかし、なぜか税務署などには脱税がバレてしまいます。脱税はなぜバレてしまうのでしょうか?
税務調査とは
税務調査とは、税務署に申告した内容に誤りがないかどうか税務署や国税局査察部が調査を行うことです(国税通則法第74条)。
全ての企業や個人事業主を一斉に調査するわけではありませんが、通常、3~5年に1度くらいの割合で調査を受けるケースが多いです。
また、脱税などが疑われる場合は、毎年調査が行われる場合もあります。
税務調査では、売上や所得、経費、計上もれ、計上の時期、口座などについて細かい調査が行われます。
任意調査と強制調査
税務調査には、前述したような任意調査と強制調査があります。
前述した税務調査の場合は、納税者の同意のもと調査が行われ、意思に反して自宅などに立ち入って調査することはできません。
ただし、税務署の調査官は納税者に質問を行える質問検査権があり、許否をすれば刑事罰が科されるため、実質強制だと言えるでしょう。
また、納税者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、例外的に事前通知なしで調査が行われるケースもあります。
一方強制調査は、事前に通知なく、裁判所の令状を通して、強制的に立ち入り調査や資料の収集が行われます。
強制調査が行われるのは、巨額の脱税や不正が疑われる事案で、刑事事件として立件することを視野に入れて実施されます。
違い | 任意調査 | 強制調査 |
通知 | 事前通知があるケースが多い | 事前通知なし |
内容 | 納税者同意のもと実施
1週間以上前に電話で連絡がある 逃亡や証拠隠滅などが疑われ、今の状況を調査する必要がある場合は事前通知なしで実施される |
国税局査察部による強制捜査
裁判所の令状のもと強制的に立ち入り調査が行われる 巨額の脱税や悪質な隠ぺいの疑いがある事案で実施される |
調査機関 | おおよそ2~3日ほど | 1か月~長いと1年以上になるケースも |
税務調査の対象期間
税務調査の対象となるのは、基本的に過去3年分の申告内容です。
法律上は5年までさかのぼり調査が可能ですが、問題が判明しない限りは、大体過去3年分が対象となります(国税通則法第70条)。
税務署や国税局は、脱税を見破るプロなので、隠し通すのは難しいでしょう。
脱税以外も、帳簿の不備などを指摘されるケースもあるため、個人事業主で不安な人は、税理士に立ち会ってもらいましょう。
もし申告漏れが発覚した場合は、追徴課税を受けることになります。
脱税で逮捕されることはある?
脱税でも逮捕される可能性はあります。ここでは、脱税で逮捕されるケースや、実際に処分を受けた事例について紹介します。
強制調査だと逮捕の可能性は高まる
任意の税務調査から、強制調査が行われた場合、脱税で逮捕される可能性が高まります。
強制調査は、裁判所の令状のもと、刑事事件での立件を視野に入れて行われる調査だからです。
令和5年度は9人に実刑判決が下る
国税庁によると令和5年度には、83件に有罪判決が下され、9人に実刑判決が下されています。
実刑が下された場合、懲役の平均期間は15.6か月で、最長4年の判決が下されたケースもありました。
国税庁では、消費税の還付や、無申告の事案、海外取引などの事案について、積極的に告発したとしています。
脱税で逮捕される基準はいくらから?
前述したとおり、所得隠しが疑われる事案でも、悪質性が高く、脱税額が多額になると、検察庁に告発されたり、強制調査が行われたりして、脱税として刑事事件に発展する可能性があります。
逮捕される脱税の基準がいくらからなのかは、公には公表されていません。
1億円近くの脱税があった場合、逮捕されるケースが多いと言われていますが、実際は数千万円の脱税でも、検察に告発されるケースがあります。
脱税がバレたときのリスク
脱税がバレた場合は、刑事罰の他に、追徴課税といった行政処分を受けることになります。
また、何よりも社会的な信用を失うことになるでしょう。
ここでは、脱税がバレた時のリスクを解説します。
追徴課税
脱税や申告漏れなどが明らかとなった場合は、行政処分として追徴課税を受けることになります。
追徴課税とは、本来収めるべき税額の不足や不正が発覚した場合に、不足額に対して追加で課されたり、ペナルティとして加算されたりする税金のことです。
内容 | 課税額 | ||
申告漏れや無申告の場合 | ①過少申告加算税 | 期限内に申告や納税をしたものの、本来の納付額より少なかった場合に課税される税金
ただし、税務調査前に自ら修正申告を行えば課税されない |
課税割合は10% |
②無申告加算税 | 期限内に申告や納税をしなかった場合に課税される税金
一定の条件を満たした場合のみ課税されない |
課税割合は15% | |
③不納付加算税 | 源泉所得税を期限内に納付しなかった場合に課税される税金 | 課税割合は原則10%
自主的に納付すれば5% |
|
脱税や所得隠しをした場合 | ④重加算税 | 確定申告において、意図的な隠ぺいや仮装などの不正事実があった場合に課税される税金 | 課税割合は35~40% |
その他加算税 | ⑤延滞税 | ①~④に対して、納付期限の翌日から実際に納付するまでの間に加算される延滞税 | 2か月を経過する日までなら年7.3%
以降は年14.6% ※令和3年1月1日以降 |
⑥利子税 | 税金を一括で納付できない場合に、未納分に対して課税される税金 | 0.9% |
※2024年7月時点
刑事罰
脱税が悪質で、金額も高額となるような場合、刑事事件に発展する可能性があります。
所得税や法人税など脱税した場合は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこの両方が科せられます(所得税法第238条、法人税法第159条など)。
また、不正行為がなくても、意図して申告をせずに納税を免れようとした者は無申告脱犯とされ、5年以下の懲役、500万円以下の罰金が科せられます。
他にも正当な理由がないのに期限までに申告しなかったような場合も処罰される場合があります。
このように、脱税となった場合、お金を払っても刑事罰から逃れることはできません。
個人では巨額な脱税などはできないかもしれませんが、甘く見るのは危険です。
脱税で逮捕されるまでの流れ
ここでは、脱税で逮捕されるまでの流れを解説します。
税務調査(任意調査)
そもそも脱税が発覚する、もしくは疑われるのが任意の税務調査からです。
この調査の時点で怪しいと判断されても、突然逮捕されるということはありません。
税務調査を経た上で、不審な点があれば、その後の強制調査に繋がります。
査察調査(強制調査)
任意調査の中で、不審な点や、巨額の脱税が疑われるケース、もしくは悪質な不正が疑われるケースの場合、今度は裁判所の令状のもと矯正の立ち入り調査が行われることになります。
この国税庁の調査の中で、検察庁に告発されると、刑事事件として捜査が開始される可能性があります。
国税局の告発で検察が捜査を開始
国税局が検察庁に告発をすると、刑事事件として捜査が開始されることになります。
なお、2023年の国税庁の査察調査で、検察庁に告発された割合は66.9%でした。
逮捕(逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合)
検察の捜査の結果、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断された場合は、逮捕される可能性があります。
刑事事件では、下記の要件を満たすと、逮捕されることになります。
- 被害者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある
- 逃亡や証拠隠滅をするおそれがある
脱税の場合は、下記のようなケースだと、証拠隠滅のおそれがあると判断される可能性があります。
- 調査や捜査に非協力的である
- 脱税を二人しており、関係者と口裏合わせをする可能性がある など
もし脱税が疑われた場合は、下記の点を注意することで、逮捕されずに済む可能性があります。
- 警察や検察からの捜査や取り調べには素直に応じる
- 証拠となる帳簿などの提出にも協力する
- 脱税が事実なら素直に出頭する
また、脱税が意図的に行ったのか、過失だったのかによっても処分は異なるため、不安な人は弁護士に相談しましょう。
脱税で逮捕や起訴された事例
ブリーダー業で約6100万円を脱税した事例
所得を隠して脱税をしたブリーダーの親子に、それぞれそれぞれ懲役1年、執行猶予3年、罰金1500万円と、懲役10か月、執行猶予3年の判決が下されました。
両被告は、コロナ禍のペットブームで売り上げが増加し、犬や猫の餌代を架空に計上して、所得約1億6000万円を隠し、約6100万円を脱税した疑いが持たれていました。
裁判官は、両者が脱税の指示と実行を担っており、それぞれの刑事責任は重いとして、上記判決を言い渡しています。
脱税をした金額は約6100万円ですが、新潟地検が逮捕して捜査を進めていたほか、関東信越国税局が脱税について新潟地検に告発をしていました。
このように1億円に満たない脱税でも逮捕や有罪判決を受ける可能性があります。
参考:ブリーダー業の親子に有罪 架空経費計上で6000万円超脱税 新潟地裁|産経新聞
約4700万円を脱税した漫画家が在宅起訴された事例
所得約2億6000万円を申告せず、約4700万円を脱税したとして、漫画家が所得税法違反で在宅起訴されました。
在宅起訴とは、逮捕されないものの、捜査対象となり、身柄拘束を受けずに起訴されることです。
近年では、こうした個人事業主の所得隠しや、不正な消費税の還付について、国税庁も厳しくチェックを行っています。
読売新聞によると、個人事業主の消費税の無申告は過去最高となり、年間7615人が追徴課税を受けているとのことです。
税務署にバレないだろうと思っていると、場合によっては告発され刑事事件に発展するおそれがあります。
参考:「薬屋のひとりごと」作画の漫画家、4700万円脱税で在宅起訴…2億6000万円申告せず|読売新聞オンライン
「ばれないと思った」個人事業の消費税無申告が過去最高…年間7615人198億円追徴課税|読売新聞オンライン
脱税スキームを指南した元税理士を逮捕
海外法人に経費を払ったと装って法人税などを約3200万円を脱税した法人税法違反の疑いで、元税理士の男性が逮捕されました。
男性はこうした脱税スキームを数十社に指南して報酬を受け取っていたとみられています。
近年では、税理士やコンサル業が、脱税を節税と謳い指南をして報酬を受け取るケースが発生しています。
万が一指南を受けて脱税した場合は、追徴課税や刑事処分を受けるおそれがあります。
こうした税理士やコンサル業から、節税だと言われても鵜呑みにせず、必ず別の税理士に確認をするようにした方がよいでしょう。
参考:数十社に脱税スキーム指南で報酬受領か、容疑で元税理士逮捕|産経新聞
「節税」と偽り脱税指南、容疑のコンサル経営者150億円集金…税理士お墨付きで企業が契約|読売新聞オンライン
まとめ
脱税は、意図的にごまかして、税負担を免れる行為のことです。
個人の場合は、会社が納税してくれるケースが多いですが、近年は株や副業などで所得を増やしている人も増えており、決して他人事ではありません。
また、脱税で逮捕される基準は、1億円以上脱税したケースだとする場合もありますが、実際に数千万円で国税庁から検察庁に告発されて、刑事事件に発展してるケースもあります。
そのため、このくらいなら税務署にバレないだろうと、いい加減な納税をするのは危険です。
逮捕されてしまった場合は、社会的な信用が失墜するだけでなく、一定期間身柄拘束を受けるなどのリスクがあります。
もし強制調査を受けるなど脱税が疑われている場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。