殺人未遂の刑期の平均|執行猶予がつくケースや殺意がない場合は?
殺人未遂とは、殺意を持って相手に危害を加え、相手が死亡に至らなかった場合に成立する犯罪です。
殺人は未遂であっても、殺人罪と同等の死刑または、無期懲役、もしくは5年以上の懲役が科されることになります。
実際に殺人未遂で有罪判決となった場合の刑期は、懲役3~7年以下になるケースが多く、3年以下であれば執行猶予が付く可能性があります。
この記事では次の点について解説します。
- 殺人未遂の刑期や懲役の平均
- 殺人未遂で執行猶予がつくケースと事例
- 殺人未遂はどこから?殺意がない場合は?
目次
殺人未遂の刑期は?
ここでは、殺人未遂罪の刑期について解説します。
殺人罪と同じ法定刑
殺人未遂罪は、刑法第203条に定められており、次のように記されています。
(未遂罪)
第二百三条 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。
引用:刑法第203条 – e-Gov
殺人罪と同等の処分、死刑、無期懲役、もしくは5年以上の懲役になると解釈されています。
懲役の上限は最長で20年ですが、他の罪や複数の罪が加重された場合は、最長30年となります(刑法第14条)。
懲役刑が言い渡される場合は、さまざまな事情を考慮して、5~30年の範囲で期間が決定します。
未遂罪は減軽される可能性がある
ただし、刑法第43条には、未遂罪について刑を減軽できると定められています(言い渡す量刑が軽くなる)。
(未遂減免)
第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
引用:刑法第43条 – e-Gov
明確な法定刑は定められていませんが、事案に応じて減軽された刑期が言い渡される可能性があります。
殺人未遂の懲役の平均は3~7年以下
殺人未遂の具体的な刑期や懲役は、各事件によって異なるため、一概に何年とは断言できません。
2008年4月から2011年3月までのやや古い統計になりますが、最高裁判所の資料によると、殺人未遂罪の懲役の相場は次のとおりでした。
判決 | 裁判官裁判 | 裁判員裁判 | 全体の割合 |
---|---|---|---|
死刑・無期 | 0 | 0 | 0.00% |
懲役23年以下~30年以下 | 0 | 0 | 0.00% |
懲役21年以下 | 1 | 0 | 0.19% |
懲役19年以下 | 0 | 0 | 0.00% |
懲役17年以下 | 3 | 1 | 0.75% |
懲役15年以下 | 7 | 4 | 2.06% |
懲役13年以下 | 8 | 5 | 2.43% |
懲役11年以下 | 20 | 7 | 5.06% |
懲役9年以下 | 24 | 18 | 7.87% |
懲役7年以下 | 64 | 45 | 20.41% |
懲役5年以下 | 87 | 38 | 23.41% |
懲役3年以下執行猶予 | 104 | 62 | 31.09% |
実刑 | 24 | 12 | 6.74% |
実刑の場合7年以下の懲役が科されるケースが多いです。
少年法改正で殺人未遂も逆送対象
少年事件の場合は、少年を更生させるために、刑事裁判ではなく、家庭裁判所で少年審判を行うのが一般的です。
ただし、2022年4月の少年法改正までは、16歳以上の少年が被害者を死亡させた場合に、検察官逆送といって、成人同様の手続きで刑事処分が下されていました。
少年法の改正後は、18歳、19歳の少年(特定少年)に対して逆送対象の事件の対象が拡大しています。
これは、重大な事件に関しては、少年法で保護するよりも、成人と同様に刑事裁判で厳しく処分すべきであるという考えに基づくものです。
対象は、死刑、無期懲役、1年以上の懲役、禁固にあたる犯罪となったため、殺人未遂罪も逆送の対象となります。
殺人未遂でも執行猶予がつくことはある?
先述した統計を見る限り、殺人未遂罪であっても約30%に執行猶予がついています。
執行猶予がつくには、言い渡された量刑が3年以下の懲役や禁固、または50万円以下の罰金でなければなりません。
その上で、次のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 過去に禁固以上の刑に処されたことがない
- 過去に禁固以上の刑に処されたが、服役や執行猶予から5年以上経過している
- 過去に禁固以上の刑に処されたが、その刑の全部の執行を猶予された者が、1年以下の懲役や禁固を言い渡されたとき
殺人未遂罪の場合は、死刑または、無期懲役、もしくは5年以上の懲役であるため、情状酌量などで、減軽されなければなりません。
後述しますが、殺人未遂罪の量刑判断にはさまざまな基準があります。
例えば次のような事情が加害者に有利に働く可能性があります。
- 被害者のケガが軽い、被害者と示談が成立している
- 反省している
- 前科がない
- 犯行が突発的で計画性がない
殺人未遂で執行猶予がついた事例
ここでは、殺人未遂罪で執行猶予がついた事例を紹介します。
知人を金属バットで殴った事件で執行猶予5年
漁港で知人を金属バットで殴り、海に突き落として殺害しようとした事件では、被告人に懲役3年、執行猶予5年が言い渡されました。
被害者は全治1か月のケガを負いましたが、命に別状はありませんでした。
裁判では、犯行は執拗で危険性が高く悪質としながらも、共謀した知人の計画に従ったもので立場は従属的だったとして、執行猶予がつきました。
ただし、執行猶予の上限は5年です。つまり5年間再び罪を犯さないようにということなので、執行猶予がついたとはいえ重い判決に変わりはありません。
参考:漁港で知人を金属バットで殴り海に突き落とす…殺人未遂被告に懲役3年・執行猶予5年:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
孫の首を絞めた事件で執行猶予4年
子育てに悩み、孫を殺害しようとした被告人に、懲役3年、執行猶予4年の判決が下されました。
被告人は離婚した息子の子ども、自分の孫の育児を担っていましたが、発達障害でトラブルを起こすことが度々あり、追い詰められて犯行に及んだとのことです。
裁判では、強い殺意があったとしながらも、被害者を含めて、家族が処分を望んでいないことなどから、執行猶予がつきました。
参考:【速報】小学生の孫殺害未遂 78歳に猶予刑 家族、処罰望んでいない 千葉地裁 – 千葉日報
殺人未遂の刑期が決まる基準
殺人未遂罪の量刑の相場はおおよそ3~7年以下のケースが多いですが、量刑はどのように決定されるのでしょうか。
ここでは、殺人未遂の刑期が決まる基準を解説します。
殺意の有無
殺人未遂罪の場合は、殺意の有無が非常に重要になります。
殺意がないまま、危害を加えた場合は殺人未遂罪は成立せず、傷害罪の成立にとどまり、量刑が変わってくるからです。
後述しますが、殺意があったかどうかについては、状況などから客観的に判断されます。
強い殺意を持って危害を加えた場合は、刑罰が重くなる可能性があります。
犯行の内容や計画性
量刑判断の材料となる1つが、犯行の内容です。
例えば、行為が残虐であるか、計画的であったかどうかです。
殺意を持って相手に危害を加えた場合でも、執拗に刃物で何度も刺して、被害者を苦しませた場合は残虐であると判断される可能性が高いです。
また、事前に凶器を準備するなど、殺害を入念に準備していて計画性が見られる場合も、悪質だと判断され、重い処分が下されることが考えられます。
被害の結果の大きさや被害者の処罰感情
被害の結果の大きさや、被害者の処罰感情も量刑判断のポイントとなります。
例えば、被害者が後遺症まで負い、日常生活にも大きな支障がでているような場合は、厳しい処分が科される可能性があります。
一方で、ケガの程度も軽く、被害者と示談が成立していて、被害者が許しているような場合は、処分も軽くなることが考えられます。
犯行動機
加害者の犯行動機も量刑判断の基準の1つです。
どういう経緯で殺意を覚えたのか、加害者には同情の余地があったかどうかなど、加害者側の事情も考慮されます。
例えば、加害者が日頃から被害者から暴力を受けていてやむを得ず殺害を判断したのであれば、情状酌量の余地があるかもしれません。
一方で、被害者に落ち度がなく、一方的で自己中心的な動機や、自分の思想の実現、社会への不満などを理由にして行われた犯行の場合、刑罰が重くなることが考えられるでしょう。
殺人未遂罪で重い処分が下された事例
殺人未遂罪の懲役の平均は3~7年以下でしたが、重い処分が下された事例もあります。
電車内で放火した殺人未遂で懲役23年
2023年には、電車内で乗客を刺し、車両に放火をして殺人未遂などに問われた被告人に、懲役23年の実刑判決が下されています。
この事件は2021年のハロウィンに、映画の悪役に扮して行われた犯行で、メディアにも大々的に報道されました。
被告人は以前から交際していた交際相手と別れたことや、仕事が上手くいかなかったことなどから、複数人を殺害して死刑になるために事件を起こしたと説明。
裁判では、犯行について多数の乗客を無差別に襲い、被害者を恐怖に陥れたことは凶悪で卑劣、特に重い部類の事案だと指摘して、判決が言い渡されました。
参考:「ジョーカー」姿で京王線車内に放火、裁判長「凶悪で卑劣な犯行」…懲役23年判決 – 読売新聞オンライン
電車内の死傷事件で懲役19年
2023年には、電車内で無差別殺傷事件を起こした被告人に、懲役19年の実刑判決が言い渡されました。
電車という密室で、複数の乗客が刃物で切りつけられたこの事件は、社会に大きな衝撃を与えました。
被告人は動機について、大学の中退後にバイトを転々とし、自分だけ不幸だと感じ、幸せそうな女性を狙ったと供述していました。
裁判では、逃げ場のない車内で無差別に襲う非常に悪質なもの、自分の憤りを社会に向けた身勝手な動機であり、情状酌量はないとして、19年の判決が確定しました。
ストーカー行為で殺人未遂に懲役14年6か月
参考:小田急線の刺傷事件、被告に懲役19年の判決 東京地裁|朝日新聞デジタル
2017年には、ストーカー行為をして被害者を刺した被告人に懲役14年6か月の実刑判決が下されました。
芸能活動をしている被害者に対して好意を寄せていた加害者が、被害者に相手にされなかったことで激昂し、被害者を刃物で複数回刺して重傷を負わせた事件で、社会に大きな衝撃を与えました。
被害者は幸い一命をとりとめましたが、事件直後は心肺停止と危険な状態に陥り、裁判の段階でも酷い後遺症や心的外傷後ストレス障害を抱えていました。
裁判では、犯行の計画性や執拗性、被害者が心身ともに負った苦痛は重大であり、一方的な動機で情状酌量はないとしました。
殺人未遂はどこから?殺人未遂の定義
殺人未遂とは、人を殺すつもりで危害を加えたが、相手が死に至らなかった場合に、殺人の未遂罪が成立します。
ここでは、殺人未遂の定義を解説します。
殺意がある
殺人未遂が成立する構成要件で重要なのは、殺意があることです。
殺意とは相手を殺そうという意思のことです。
殺意がないまま相手に危害を加えた場合は、傷害罪や暴行罪が成立するにとどまります。
ただし、殺意があったかどうかは加害者の主観の問題であるため、証言だけで判断するのは不可能です。
そのため、次のような事情を考慮して客観的に判断します。
- 殺傷能力の高い凶器か、凶器の種類や使い方
- 被害者の傷やケガの程度、危害を加えた部位、傷の深さ、攻撃の回数
- 犯行前後の加害者の行動、被害者に対する救護措置の有無
- 加害者と被害者の関係や殺意を抱く事情の有無
- 殺すなどの意思表示の有無
例えば、刃渡りの長い刃物で体を何度も刺せば殺意があったと認定されることが考えられます。
一方で、カッターなどの凶器で手足を切った場合は、殺意があったと判断されない可能性があります。
また、被害者が無傷であっても殺意を持って攻撃すれば、殺人未遂罪は成立します。
殺人の実行行為
もう1つの構成要件は、人が死亡する危険性のある行為をしたかどうかです。
例えば、刃物で刺す、鈍器で複数回殴る、毒を盛る、銃で撃つなどは相手が死亡することも予想できる危険な行為です。
殺人未遂罪が成立する可能性があります。
一方で、殺意があっても、現実的な危険な行為を引き起こしていなければ、殺人未遂罪は成立しません。
例えば、殺意を持ち、呪いの儀式を行っても、相手が死亡する危険な行為だとは判断されないため、殺人未遂罪は成立しません。
殺人未遂罪で殺意がない場合は?
殺意がなければ傷害罪が成立
殺意がなく、相手に危害を加えて、相手がケガをするに留まれば、傷害罪が成立する可能性があります。
傷害罪は、相手に暴行を加えて、ケガをさせた場合に適用されます。
被害者が重傷を負った場合でも、殺意がないと判断されれば、傷害罪として処罰されることになります。
殺人未遂から傷害罪になった事例
実際に殺人未遂から傷害罪になった事例があります。
自宅でゲームを巡り口論になった際、弟をハンマーで殴り脳挫傷のケガをさせた事件では、兄の殺意が争点となりました。
裁判では、急所を狙ったとは認められず、被害者が死ぬ危険を認識していたか疑問として、殺人未遂ではなく、傷害罪の成立にとどまるとしました。
傷害罪が適用され、懲役3年、執行猶予5年が言い渡されています。
参考:「ゲームやめさせようとした」大学生の弟をハンマーで殴る 殺人未遂罪の兄が殺意否定 京都地裁 – 産経ニュース (sankei.com)
殺人未遂で減軽されるケース
殺人未遂であっても、減軽されれば執行猶予がつく可能性もあります。
被害者にケガをさせてしまった結果は変えようがありません。
しかし、殺意がない場合や、突発的な犯行であったり、やむを得ない事情があったりすれば、減軽されることが考えられます。
また、被害者に謝罪を申し入れることも大切です。
被害者のケガの程度が軽微であれば、被害者が謝罪を受け入れて示談になるケースもあります。
当然ながら、被害者は加害者に恐怖や怒りを覚えているため、弁護士を通して、謝罪を申し入れるようにしてください。
まとめ
殺人未遂罪の刑期の平均は3~7年以下です。3年が言い渡されれば、執行猶予がつく可能性もあります。
殺人未遂は、被害者が亡くならなかったために、未遂罪となっているにすぎず、懲役が科される可能性もある重い犯罪です。
しかし、人によってはさまざまな事情を抱えて犯行に及んでしまうケースもあります。
殺人未遂に問われた場合、被害者にした行為は取り返しがつきませんが、できる限り早く真摯に謝罪をして反省することが大切です。
ご家族が逮捕されたり、殺人未遂に問われたりした場合は、迷わずご相談ください。