セクハラで逮捕はありえる?問われる罪、被害届を出された後の刑事手続き
セクハラはつい自分本位で行ってしまいがちな行為です。
自分では「これくらい大丈夫だろう」と思っていても、相手の受け止め方しだいで重大な事態へと発展してしまうおそれもあります。
以下では、セクシュアルハラスメント(以下、「セクハラ」と呼称します。)で問われる可能性のある罪(刑事責任)について解説してまいります。
セクハラとは
厚生労働省は、職場におけるセクハラについて
①それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益をうけること
又は
②職場の環境が不快なものとなったため、労働者就業する上で見過ごすことができない程度の支障が生じること
と定義しています。
この定義からすると、セクハラ行為の要件としては、
- 「性的な言動」であること
- 性的な言動が「職場」において行われること
- 「労働者」の意思に反すること
の3つの要件を満たすものを「セクハラ」と定義しています。
「性的な言動」があること
「性的な言動」のうち「発言」の例としては、
- ①性に関連する事実関係を尋ねること
- ②性的な内容を含む情報又は噂を流布(るふ)すること
- ③食事やデートなどへの執拗に誘うこと
などを挙げることができます。
また、「性的な言動」のうち「行動」の例としては、
- ④性的な関係を要求すること
- ⑤必要がないのに身体へ接触すること
- ⑥暴行等を用いて相手の意思反して性的関係を持つこと
- ⑦わいせつな図画を配布・掲示して目に触れさせるようにすること
などを挙げることができます。
「性的な言動」が「職場」において行われること
「職場」とは単に就業場所に限られません。たとえば、
- 取引先の事務所
- 出張先
- 業務で使用する車中
など、「労働者」が業務を遂行する場所であれば「職場」に当たります。
また、
など、勤務時間外であっても実質的に職務の延長と認められるものは「職場」にあたります(ただし、その判断にあたっては、職務との関連性、強制参加か否かなどの事情が考慮されます)。
「労働者」の意思に反すること
「労働者」とは、正規労働者か、あるいはパートタイム労働者、契約社員などのいわゆる非正規労働者を問わず、事業主(使用者)に雇用されているすべての人を意味します。
また、意思に反するか否かはセクハラを受けた側(被害者)の意思を基準に判断されます。
セクハラで問われる罪(刑事責任)
では、ここからは、前記でご紹介した「性的な言動」(セクハラ)を行った場合に問われる可能性のある罪(刑事責任)について解説してまいります。
①性的な事実関係を尋ねること~卑わいな言動の罪
他の従業員の耳に届く可能性がある中、被害者に対して直接「初体験いつ?」、「これまで何人と経験したことがある?」などと尋ねた場合です。
この場合、各都道府県が定める迷惑行為防止条例の「卑わいな言動の罪」に問われる可能性があります。
罰則は都道府県によって異なりますが、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」、常習として行った場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」などです。
②性的な内容の情報又は噂を流布(るふ)すること~名誉棄損罪
不特定又は多人数の人のいる前で、被害者の性に関する情報を言いふらす、あるいはネット上にその情報をアップするなどした場合です。
この場合、刑法の名誉棄損罪に問われる可能性があります。
罰則は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。
③食事やデートなどへの執拗な誘い、④性的な関係の要求~強要罪
仕事中に電話やメールなどで無理矢理、食事やデートに誘った場合や「キスしろ」、「ハグさせろ」などと性的な関係を要求するなどした場合です。
食事やデートに誘ったり、性的な関係を要求する際の手段として暴行、脅迫を用いた場合は強要罪に問われる可能性があります。
また、食事やデート、性的な関係を持つことが実現できなくても、電話やメール等で、要求しただけでも強要未遂罪に問われる可能性があります。
罰則は「3年以下の懲役」です。
⑤必要なく身体へ接触すること~卑わいな言動の罪、痴漢の罪
他の従業員から見られる可能性がある中、被害者の胸、尻、太ももなどを触る、手に触れる、髪を撫でるなどした場合です。
この場合、各都道府県が定める迷惑行為防止条例の「痴漢の罪」、あるいは「卑わいな言動の罪」に問われる可能性があります(※なお、便宜上、痴漢の罪、卑わいな言動の罪と呼称していますが、実際はこうした罪はありません)。
罰則は都道府県によって異なりますが、痴漢の罪と卑わいな言動ともに「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、常習として行った場合は「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」としている都道府県もあります。
⑥暴行等を用いて性的関係を持つこと~強制わいせつ罪、強制性交等罪
⑤よりもさらに悪質なケースです。
すなわち、背後からいきなり抱き着き胸を鷲掴みにする(強制わいせつ罪)、無理やり性交や、性交類似行為をするなど(強制性交等罪)です。
また、飲み会や宴会後に被害者が酒に酔っていることに乗じて上記の行為を行った場合は準強制わいせつ罪、準強制性交等罪に問われる可能性があります。
強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪の罰則は「6月以上10年以下の懲役罰金」、強制性交等罪、準強制性交等罪の罰則は「5年以上の有期懲役(上限20年)」で罰金刑はありません。有罪と認定されるとほぼ実刑です。
2023年6月23日に公布され、2023年7月13日に施行された改正刑法の不同意わいせつ罪については、以下の記事をご参照ください。
⑦わいせつ図画等を配布・掲示すること~わいせつ図画等発布罪など
被害者に限らず性的部位が撮影された写真などを同僚に配布する、職場内で掲示するなどした場合は刑法のわいせつ図画頒布、公然陳列罪に問われる可能性があります。
また、被害者のそのような内容の写真、動画データをネット上にアップするなどした場合はリベンジポルノ禁止法違反に問われる可能性があります。
前者の罰則は「2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料」で懲役及び罰金の両方を科される可能性もあります。
後者の罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
⑧セクハラの結果、被害者がうつ病やPTSDを患った~傷害罪
その他、セクハラの結果、被害者がうつ病やPTSDを患ったと認められる場合、つまり、セクハラとうつ病、PTSDとの因果関係が認められる場合は刑法の傷害罪に問われる可能性があります。
罰則は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
セクハラの被害届を出された後の刑事手続
被害者からセクハラの被害届を出された後は警察の捜査を受けます。
行為の悪質さや罪の重さなどによっては逮捕されることもあるでしょう。
起訴される前の早い段階で被害者と示談できなければ、起訴(正式起訴、略式起訴)され刑事裁判を受けることになる可能性もあるでしょう。
正式起訴された場合、罪の重さなどによっては実刑となる可能性も否定できません。
被害者から拒否されるなどして起訴前に示談できなかった場合は、起訴された後も引き続き粘り強く交渉していくことが必要です。
まとめ
セクハラに当たる行為をすると刑法などの法律に基づき刑罰を科される可能性があります。
刑罰を科されるということは、場合によっては逮捕されることや実刑判決を言い渡されることもあるということです。
また、セクハラは会社の懲戒解雇事由に当たり、懲戒解雇される可能性もあるほか、損賠賠償という民事上の責任を負う場合もあります。
セクハラではこうした責任が伴うことは肝に銘じておくべきです。