薬剤師が逮捕されると免許は取り消し?|免許の取り消し事例と再取得
命にかかわる調剤や処方は、基本的に国家資格を持つ薬剤師にしかできない業務です。
そんな薬剤師が逮捕された場合は、薬剤師免許を失う可能性があります。
罰金刑以上に処された場合は、一定期間薬剤師の免許が得られないことも考えられるでしょう。
この記事では薬剤師の逮捕について下記の点を解説します。
- 薬剤師の免許が取り消されるケースと処分を受けた事例
- 薬剤師の免許の欠格事由
- 薬剤師が逮捕されるリスク
- 免許が取り消された場合に、再取得は可能か
目次
薬剤師が逮捕されると薬剤師免許はどうなる?
もし薬剤師が逮捕されると、薬剤師免許はどうなるのでしょうか?
逮捕されただけでは免許が取り消されることはない
基本的には、薬剤師は逮捕されただけで薬剤師免許が取り消されるようなことはありません。
薬剤師の免許の欠格事由にも、逮捕が欠格事由になると明記されていません。
ただし、後述するように罰金刑以上の刑に処されると、免許が取り消される可能性があります。
罰金刑以上の刑に処されると免許が取り消される可能性がある
薬剤師に関する使命や資格、罰則などを規定している薬剤師法では、下記に該当した場合に、薬剤師の免許の取り消し処分ができると定められています。
(免許の取消し等)
第八条 薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
(相対的欠格事由)
第五条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により薬剤師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者
この相対的な欠格事由のうちの1つは、罰金刑以上の刑に処された場合です。
もし逮捕された後に、罰金刑に処された場合は、行政処分として薬剤師の免許が取り消される可能性があります。
同様に、罰金刑以上に処されたり、後述する他の欠格事由に該当する場合も、免許を与えないことがあると定められています。
ただし、一定期間を経れば、免許の取得が可能となるため、後述します。
薬剤師の品位を損なう行為があると免許が取り消される
薬剤師の免許が取り消される可能性があるのは、罰金刑以上の刑に処された場合だけではありません。
薬剤師の欠格事由に加えて、薬剤師の品位を損なう行為があった場合に、薬剤師免許の取り消し処分ができると定められています。
(免許の取消し等)
第八条 薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の業務の停止
三 免許の取消し
厚生労働省の薬剤師の行政処分に関する考え方によれば、下記の行為は、薬剤師の品位を損なうとされています。
- 贈収賄(賄賂の受け渡し)
- 詐欺や窃盗行為
- 処方箋の偽造
- 税法違反、脱税 など
他にも、刑事処分や量刑を考慮して処分が決定されますが、薬剤師の立場を利用したような犯罪や、倫理が欠けていると判断される場合は、重めの処分をすると明記されています。
薬剤師の免許の欠格事由になるもの
薬剤師の免許の取り消しや取得においては、罰金刑以上の刑に処された者以外にも欠格事由になるものがあります。
- 心身の障害により業務を適正に行えない場合
- 薬物中毒の場合
- 薬事に関する犯罪や不正行為があった場合
麻薬や大麻、またはあへんなど薬物を使用している場合や、薬事に関する犯罪や不正行為があった場合も、薬剤師免許を与えないことがあると明記されています。
また、欠格事由の1つとなるのが、心身の障害により薬剤師の業務を適正に行えない者として厚生労働省令で定める場合です。
薬剤師に関しては、厚生労働省令で、資格または精神の機能の障害により、業務を適正に行うにあたって必要な認知や判断、意思疎通を行うことができない場合と定めています。
ただし、これらは個別で審査を行い、免許の交付が判断されます。
以前は成年被後見人や被保佐人には薬剤師の免許を与えないと明記されていました。
しかし、障害者差別であるなどの指摘を受けて、2019年の薬剤師法改正にともない、削除されています。
参考:○障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律の施行について〔理学療法士及び作業療法士法〕|厚生労働省
刑事処分以外にも処分を受ける可能性がある
薬剤師が逮捕された場合は、刑事処分以外にも行政処分を受ける可能性があります。
薬剤師が受ける行政処分
先述した通り、薬剤師が受ける行政処分には下記のものがあります。
- 戒告
- 業務停止処分
- 免許の取り消し
免許の取り消しにまで至らずとも、戒告や業務停止処分を受けることがあります。
行政処分に関しては、医道審議会の審議により厚生労働大臣が処分を決定します。
薬剤師が行政処分を受けた事例
医道審議会によると、2022年には9人の薬剤師が行政処分を受けています。
・免許取消:2件(麻薬及び向精神薬取締法違反及び常習累犯窃盗罪1件、保護責任者遺棄
致死及び死体遺棄1件)
・業務停止6月:2件(窃盗1件、贈賄1件)
・業務停止3月:2件(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法
律違反2件)
・業務停止2月:1件(過失運転致傷及び道路交通法違反1件)
・戒告:2件(道路交通法違反1件、廃棄物の処理及び清掃に関する法律1件)
処分については、薬剤師に求められる倫理観や世論への影響、そして刑事処分の量刑などを考慮して決定されていると考えられます。
特に、生命や身体に危害を加えるような重大な犯罪については、処分が重くなる傾向があるでしょう。
薬剤師が問われる可能性のある罪
ここでは、薬剤師が問われる可能性がある罪について解説します。
業務上過失致死傷罪
業務の上で調剤過誤(調剤ミス)があったような場合は、業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります。
業務上過失致死傷罪とは、業務の上で必要な注意を怠り、人を死傷させたような場合に成立する罪です。
法定刑は5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金です。
(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2022年には、高齢者に必要量の100倍のモルヒネを処方した医師と薬剤師が業務上過失致死の疑いで書類送検されています。
医師が電子カルテに誤った入力をし、薬剤師が処方箋をよく確認せずに調剤した可能性があるとのことです。
参考:93歳に必要量100倍のモルヒネ処方 容疑の医師と薬剤師書類送検|朝日新聞デジタル
薬剤師法違反
薬剤師法には、薬剤師の義務が定められており、これに反した場合も刑事処分を受けることになります。
内容 | 罰則 |
処方箋にしたがった調剤義務(薬剤師法第23条) | 1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはその両方(薬剤師法第30条) |
疑義照会義務(処方箋に疑問点などがあった場合に医師に確認を行う義務)(薬剤師法第24条) | 50万円以下の罰金(薬剤師法第32条) |
刑法にも、薬剤師の守秘義務が規定されており、守秘義務に反した場合は、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。
(秘密漏示)
第百三十四条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
薬機法(旧薬事法)違反
薬剤師の場合は、医薬品の取り扱いにも注意が必要です。薬機法では、医薬品の取り扱いについて下記の罰則が定められています。
法律 | 内容 | 罰則 |
処方背に薬品の販売規制違反(薬機法第49条) | 医師や歯科医師、獣医師が交付する処方箋を持たない者に対して処方箋医薬品を販売してはならない | 3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方(薬機法第84条) |
違反医薬品の販売(薬機法第55~56条) | 薬機法の規制に反する医薬品の販売は禁止 | 2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方(薬機法第83条) |
薬機法にはほかにも、無許可営業や無登録営業、広告規制などが定められており、違反した場合は刑事罰を受けることになります。
薬剤師が逮捕された場合のリスク
薬剤師が逮捕された場合、行政処分以外でどういったリスクがあるのでしょうか。
ここでは、薬剤師の逮捕に伴うリスクについて解説します。
10~20日間勾留される
もし罪を犯して逮捕された場合は、裁判所の許可のもと、10~20日間警察署の留置場に身柄を拘束される可能性があります(勾留)。
逮捕された場合に、無条件で勾留が行われるわけではありません。
下記の要件を満たした場合に、検察が裁判所に勾留を求めることができます。
- 被告人が定まった住居を有しないとき
- 被告人が証拠を隠滅すると疑うに足る相当な理由があるとき
- 被告人が逃亡すると疑うに足る相当な理由があるとき
法務省によると、2022年に逮捕された人の96.2%が勾留されています。
勾留された場合は、当然出社することができないため、仕事や私生活に大きな影響が生じることになります。
参考:令和5年版 犯罪白書 第3節 被疑者の逮捕と勾留|法務省
場合によっては実名報道される
逮捕によって、実名報道を受けるリスクもあります。
ただし、実名報道がされるかどうかは、警察が事件を公表するかどうか、メディアが取り上げるかどうかによります。
実名報道の明確な基準は公表されていませんが、下記のケースでは実名報道される傾向があります。
- 殺人や強盗などの重大な事件
- 特殊詐欺など社会問題となっている事件
- 著名人や社会的地位が高い職業の人が起こした事件
薬剤師の場合は、職務上の立場を悪用したような職業倫理に反した犯罪の場合は、悪質性がある、もしくは公益性があるとして実名報道の対象になる可能性があるでしょう。

仕事を失う可能性がある
同様に、有罪判決が下された場合は、仕事を失う可能性があります。
逮捕段階では、まだ裁判で有罪と確定していないため、この段階での解雇は原則として違法となることが考えられます。
そのため、有罪判決で罪を犯したと確定した場合に、犯罪の内容や、会社に与える影響、就業規則などに照らし合わせて、処分が決定されるのが一般的です。
薬剤師の場合は、罰金刑以上が科された場合に、免許を取り消される可能性もあります。
有罪判決で前科がつく
逮捕後に起訴されて刑事裁判で有罪判決が下された場合は、前科がつくことになります。
下された判決が、罰金刑であっても、執行猶予がついても、有罪判決であるため前科がつきます。
前科は、検察庁のデータベースや、市区町村が保管する犯罪者名簿(資格の欠格を確認する際に使用)に記録されます。
他者が確認することはできませんが、前科を消すこともできません。
逮捕されても薬剤師の免許は取得できる?
もし逮捕されてしまった場合は、その後薬剤師の免許が取得できるのでしょうか?
薬剤師法には、確かに罰金刑以上に処された場合に、相対的な欠格事由として免許を与えないことがあると定められています。
しかし、罰金刑に処されたことがただちに絶対的な欠格事由になるとは明記されておりません。
そのため、通常通り薬剤師の試験を受けることはできます。
ただし、薬剤師の免許の申請書には、罰金刑以上に処されたことや、薬事に関する犯罪や不正行為を申告しなければなりません。
この申請を受けて、厚生労働大臣が免許を交付するかどうか判断します。
薬剤師の免許が取り消された場合は再取得できる?
罰金刑以上に処され、薬剤師の免許が取り消された場合は、その取り消しの日から5年が経過し、免許を与えるのが適当であると認められれば再免許を取得することができます。
(免許の取消し等)
第八条 薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の業務の停止
三 免許の取消し
3 第一項の規定により免許を取り消された者(第五条第三号若しくは第四号に該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあつた者として第一項の規定により免許を取り消された者にあつては、その取消しの日から起算して五年を経過しない者を除く。)であつても、その者がその取消しの理由となつた事項に該当しなくなつたときその他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときは、再免許を与えることができる。この場合においては、第七条の規定を準用する。
この場合も、医道審議会の意見のもと、厚生労働大臣が判断をすることになります。
まとめ|逮捕や処分を受けないためにすべきこと
先述した通り、罰金刑以上に処され、薬剤師免許が取り消されても、その日から5年経過すれば、再免許が得られる可能性があります。
ただし、刑罰を受けてから5年の経過が必要であり、厚生労働大臣が認めなければ得ることはできません。
もし薬剤師が逮捕されたり、検察などから取り調べを受けた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼することで、そもそも罰金刑を受けないように不起訴を目指してサポートを受けることができます。
事件に関与してしまい不安な人は、逮捕や処分を受けてしまう前に、弁護士に相談してください。