公務執行妨害とは|罪の重さや要件は?警察以外の市役所職員も対象?
公務執行妨害とは、公務員の職務執行を妨害した際に問われる可能性のある犯罪です。
例えば、職務質問や通報で駆けつけた警察官に対して、暴行や脅迫をしたケースなどが挙げられるでしょう。
単に拒否しただけで公務執行妨害となるわけではありませんが、対応を誤ると逮捕される可能性があります。
この記事では、公務執行妨害について下記の点を解説します。
- 公務執行妨害の成立要件
- 公務執行妨害の罪の重さ
- 公務執行妨害に当たるケースやよくある質問
目次
公務執行妨害とは
公務執行妨害とは、警察官などの公務員の職務の執行を妨害した際に成立する犯罪です。
公務員は国家運営のために必要な職務を遂行しているため、この公務員の職務を妨げることは、国家運営を妨害する行為として、罪を問われることとなります。
公務執行妨害の罪の重さ
公務執行妨害の刑罰は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。
(公務執行妨害及び職務強要)
第九十五条公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
引用:刑法第95条|e-Gov
公務執行妨害の成立要件
公務執行妨害は、下記の条件を満たすと成立します。
- 公務執行中の公務員に対して
- 暴行または脅迫を加えること
公務執行妨害と聞くと、警察官の職務に対する妨害行為を連想するかもしれませんが、市役所の職員なども対象となるため、解説します。
職務執行中の公務員に対して
公務執行妨害が成立する条件の1つは、公務を執行中の公務員に対する行為であることです。
公務執行妨害と聞くと警察官を連想しますが、公務員については、刑法第7条で下記のように定義されています。
(定義)
第七条この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。
2この法律において「公務所」とは、官公庁その他公務員が職務を行う所をいう。
引用:刑法第7条|e-Gov
そのため、警察官だけでなく、市役所の職員、教員、裁判官、各省庁の職員や政治家、消防士や自衛官などに対する行為も該当します。
国や自治体の職員ではないものの、公共性や公益性が高い郵便局の職員なども、みなし公務員として扱われ、公務執行妨害が成立することがあります。
なお、公務執行妨害の対象となるのは、職務執行中の公務員です。公務に該当しない違法な行為があった場合には、公務執行妨害は成立しません。
公務員がプライベートでされた行為は、別の犯罪が成立することになります。
暴行または脅迫を加えること
公務執行妨害が成立するもう1つの条件は、暴行や脅迫を加えることです。
暴行とは | 人の身体に接触した攻撃や、非接触でもケガを負わせる可能性のある危険な攻撃 |
脅迫とは | 殺す、覚えておけなどの人を恐怖させるに足りる害悪の告知 |
暴行とは、例えば、胸ぐらをつかむなどの物理的な暴行だけでなく、警察官が押収した証拠品を破壊する行為なども該当します。
市役所の職員などに暴言を吐く行為も、場合によっては暴行や脅迫に当たることがあります。
人の近くで太鼓などを叩き、意識を朦朧とさせる行為や、携帯用拡声器を用いて耳元で大声を発する行為が暴行罪にあたるとする判例があるからです。
暴言の内容が脅迫に当たれば、公務執行妨害の成立が考えられるでしょう。
なお、暴行や脅迫によって実際に公務が妨害されたかどうかは問題となりません。公務が妨害される可能性のある行為であれば、公務執行妨害に該当することがあります。
参考:最高裁判所判例集|裁判所
公務執行妨害に関連する罪
公務執行妨害以外にも、威力業務妨害罪など関連する犯罪があるため、違いなども交えて解説します。
威力業務妨害罪
威力業務妨害罪とは、威力を用いて、他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
(威力業務妨害)
第二百三十四条威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
威力業務妨害罪は公務執行妨害罪とよく似ていますが、下記のような違いがあります。
威力業務妨害罪 | 公務執行妨害罪 | |
対象 | 民間企業に対して | 公務員に対して |
手段 | 殴るなどの行為のほか、ネット上への書き込みや執拗なクレーム電話、犯罪予告など | 暴行や脅迫のみ |
そのため、警察署や市役所に対して爆破予告などをすれば、威力業務妨害罪となりますし、暴行や脅迫の対象が民間企業であっても、威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
なお、威力業務妨害罪の罰則は3年以下の懲役、または50万円以下の罰金です。
暴行罪
暴行罪は、暴行を加えた人が負傷に至らなかった場合に罪に問われます(刑法第208条)。
暴行とは、人の身体に向けた有形力の行使と定義されており、人の身体に接触した攻撃はもちろん、非接触でもケガを負わせる可能性のある危険な攻撃も含まれます。
公務執行中の公務員に暴行を加えれば公務執行妨害に該当しますが、暴行を加えた相手がたまたま公務員であるようなケースや、公務執行中でない公務員に対する暴行は、暴行罪に問われることになるでしょう。
暴行罪の罰則は、2年以下の懲役もしくは、30万円以下の罰金、または拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)、もしくは科料(1000円以上1万円未満の罰金)です。
傷害罪
傷害罪は、人に暴行を加えて負傷させた場合に該当する犯罪です。相手がケガをしたかどうかで傷害罪か暴行罪か異なります。
なお、公務員に対して暴行を働き、相手がケガをした場合は、公務執行妨害と傷害罪が成立することになります。
このような、1つの行為が2つ以上の罪に触れることを観念的競合と言います。
観念的競合となった場合は、2つ以上の刑罰の中で最も重い罪によって処罰されます。
傷害罪 | 15年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
公務執行妨害罪 | 3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金 |
この場合ですと、傷害罪の罰則が適用されて、15年以下の懲役か、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
公務執行妨害で逮捕されるケース
警察の逮捕には3つの種類があります。
現行犯逮捕 | 罪を行った人や、犯罪を行った直後の人の身柄を拘束する逮捕 |
通常逮捕 | 捜査を行い、裁判所で逮捕状を発付した上で容疑者(被疑者)を訪ねて行う逮捕 |
緊急逮捕 | 被疑者が重大な犯罪を犯したと疑うに足る十分な理由があり、緊急を要して逮捕状の発付を待てない場合に、逮捕状なしに緊急で行う逮捕 |
公務執行妨害で逮捕される場合は、下記のような現行犯逮捕のケースがほとんどでしょう。
- 警察の職務質問に対して暴行を働いて現行犯逮捕される
- 市役所の職員などの通報により駆け付けた警察官に現行犯逮捕される
ただし、市役所の職員などが警察に被害届を提出して、後日通常逮捕されることも考えられます。
公務執行妨害で逮捕された事例
実際に公務執行妨害で逮捕された事例を紹介します。
救急隊員の活動を邪魔した男性を逮捕
患者を乗せた救急車を誘導していた救助隊員の搬送活動を妨げた男性が、公務執行妨害で逮捕されました。
男性は救助隊員に対して、邪魔だと帽子を投げつけた疑いがあり、通報で駆け付けた警察に現行犯逮捕されています。
救助隊員の搬送活動を妨げる行為も、公務執行妨害に該当します。搬送される患者の命にも関わる危険な行為で、患者が亡くなってしまった場合に責任を求められる可能性もあります。
参考:患者乗せた救急車誘導の隊員に「邪魔だ」、男が帽子投げつける…病院到着30分遅れ|読売新聞オンライン
市職員に暴行した男性を逮捕
市職員に対して、暴行を働いた男性が逮捕されました。
男性は、生活保護の支給業務に当たっていた職員の対応に腹を立て、傘で職員の頭を1回叩いた疑いが持たれています。
参考:生活保護担当の市職員に立腹、持っていた傘で頭たたく…男を逮捕|読売新聞オンライン
裁判官に朱肉を投げつけた男を逮捕
裁判官に朱肉を投げつけた男性が、公務執行妨害で逮捕されました。
男性は、簡易裁判所で器物損壊事件の勾留の手続き中で、裁判官の机の上にあった朱肉を投げた疑いが持たれています。
このように、公務を執行中の公務員に暴行を行うと、公務執行妨害で逮捕される可能性があります。
参考:質問した裁判官に朱肉投げつけ…器物損壊事件で勾留手続き中の23歳男|読売新聞オンライン
公務執行妨害で逮捕された場合
公務執行妨害で逮捕された場合は、どのようなリスクがあるのでしょうか。
ここでは、公務執行妨害で逮捕された場合のリスクやすべきことについて解説します。
警察署で身柄釈放されるケースがある
公務執行妨害で逮捕されたとしても、比較的軽微な事案であれば、微罪処分としてその日のうちに釈放されることがあります。
刑事事件は、捜査の末、最終的に起訴(刑事裁判になること)して刑罰を科すかどうか決めます。
この起訴か不起訴にして事件を終了させるかは、検察官が判断するため、逮捕後は検察に身柄が送致されます。
検察が指定した事件以外で、軽微な事案であれば、例外的に警察が微罪処分として釈放することがあります。
(微罪処分ができる場合)
第198条捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
そのため、公務執行妨害で逮捕されてしまった場合は、真摯に反省をして謝罪することが重要です。
ただし、微罪処分とするかどうかは担当の警察官によります。
釈放されたものの微罪処分とはならず、その後検察に起訴されるケースもあります(在宅起訴)。
勾留されると10~20日間身柄拘束をされる
逮捕された後も、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、裁判所の許可のもと、勾留される可能性があります(刑事訴訟法第60条)。
勾留された場合、勾留期間10~20日間、警察署の留置場に身柄を拘束されることになります(刑事訴訟法第208条)。
検察はこの勾留期間中に、起訴か不起訴かを判断します。
このように長期間勾留されると、出社や登校はできないため、日常生活にも影響することになるでしょう。
法務省によると、2022年に公務執行妨害で逮捕された人のうち、約68.1%が勾留されています。
参考:罪名別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員|e-Stat 政府統計の総合窓口
起訴されると懲役が科される可能性もある
公務執行妨害で起訴されると、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
法務省や司法統計によると、2022年に公務執行妨害の起訴率や地方裁判所で懲役となった割合は下記のとおりです。
起訴率 | 約45% |
懲役となった割合 | 約82.9% |
罰金となった割合 | 約17.1% |
懲役の傾向として、1年以上の実刑となった割合が約21.6%が最多で、全体の約66%に執行猶予がついています。
参考:司法統計|裁判所
被疑事件の罪名別起訴人員、不起訴人員及び起訴率の累年比較 (1993年~)|e-Stat 政府統計の総合窓口
示談ができないので早期に弁護士に相談するべき
一般的な刑事事件で、被害者がいる場合は、被害者と示談をすることで、不起訴処分となる可能性があります。
犯罪を取り締まる法律は、被害者の安全を守るために存在しており、被害者が受けた損害を賠償することで、刑事や民事共に被害者の被害の回復に努めたと判断されるためです。
一方で、公務執行妨害は、滞りなく公務が執行されるために法律が定められています。
そのため、示談をする相手は、公務員ではなく公務の執行を妨害された地方自治体などの国となり、基本的に示談に応じてもらえないでしょう。
示談に応じてもらえない場合でも、真摯に反省して、具体的な再犯防止策を示すことが重要です。
暴行などで公務員がケガをしてしまった場合は、傷害罪に問われるおそれがあります。
その場合は、公務員が負った損害に対して示談を行い、被害回復に努めるようにしましょう。
なお、公務執行妨害を無実として争う方法もあります。ただし、否認をすれば身柄拘束の期間が長引く可能性もあるため、早期に弁護士の力を借りて対処してください。
公務執行妨害でよくある質問
市役所の職員にクレームを入れると公務執行妨害になる?
単に市役所にクレームを入れただけで、公務執行妨害になるわけではありません。
ただし、そのクレームの内容によっては、公務執行妨害や威力業務妨害罪、強要罪などが成立する可能性があります。
例えば、クレームの内容が脅迫に当たったり、クレームを言う際に暴れたりして、脅迫や暴行が成立すれば、公務執行妨害になるでしょう。
生活保護を支給させるために、殺すなど脅迫をすれば、職務強要罪に該当し、公務執行妨害と同様の刑罰が科される可能性があります(刑法第95条)。
他にも、クレームとして市役所に執拗に電話をかけるなどすれば、威力業務妨害罪に問われることも考えられます。
警察に暴言を吐くと公務執行妨害になる?
暴言の内容に、殺すぞなど危害を加えるような脅迫に当たるものがあれば、公務執行妨害に問われる可能性があります。
職質や任意同行を拒否すると公務執行妨害になる?
警察の職務質問や任意同行を許否したとしても、公務執行妨害には当たりません。
そもそも職務質問は、任意の捜査活動であるため、拒否したからといって逮捕されることはありません。
通常の逮捕は逮捕状が必要となりますし、その場で罪を犯していない限り現行犯逮捕はできないのです。
ただし、職務質問を拒否する行為の中に、暴行などがあれば公務執行妨害が成立する可能性があります。
なお、任意同行はあくまでも任意ですが、犯罪の疑いがある中で正当な理由もなく許否を繰り返せば、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断され、逮捕状を発付されて逮捕されることも考えられるでしょう。
職務質問や任意同行は、拒否する正当な理由がない限りは素直に応じて、捜査に協力をした方が得策です。
万が一、職務質問や任意同行に適法でない行為があった場合は、弁護士を呼びましょう。
まとめ
公務執行妨害は、警察官だけでなく公務員の職務の執行を妨害した場合に問われる可能性があります。実際に職務を妨害したかどうかは関係ありません。
一般の刑事事件とは異なり、示談が難しいなどの特徴があります。
警察官などは法律にしたがって捜査活動を行っていますが、中には職務権限を越えた行為や不当な逮捕が起きてしまうケースもあるかもしれません。
もし公務執行妨害として、検察などから呼び出しを受けたり、家族が逮捕されたりした場合、一人で捜査機関と対峙するのは困難です。
弁護士に相談して、適切な対処をしてください。