刑事事件における示談書について解説
刑事事件における示談書は、例えば損害賠償請求等の民事上の紛争における示談書とは異なる意味を持ちます。
この記事では刑事事件における示談書について解説をしていきます。
目次
示談書の概要
示談書とはどのようなものなのか、和解書や合意書とはどこが違うのか等について解説します。
示談書とは
示談書とは、紛争を当事者間で解決し、その内容を記載した文書のことです。一般的には示談が成立すると、その内容を書面に残しておくため、示談書が作成されます。
示談書と和解書・合意書との違い
これらは全て契約書の一種で、原則として法的な違いはありません。また、示談書等の表題が記載されていなくても、法的効力に影響はありません。
なお、法律用語として定義されているものは和解だけです。(民法第695条)
民法第 695条(和解)
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
引用:e-Gov法令検索
和解あるいは合意とは、互いに譲歩して双方合意の上で紛争を終結するという意味合いがあります。和解したことを証する書面のことを和解(契約)書、合意したことを証する書面のことを合意書といいます。
刑事事件における示談とは、犯罪の加害者側が被害者側に対して謝罪をし、被害者側に許してもらうことです。被害者側に許してもらい示談が成立したことを証する書面を示談書といいます。
示談書と公正証書との違い
示談書は私文書にあたり、法的拘束力はありません。一方、公証人によって作成された公正証書は、法的拘束力を持ちます。
示談書を作成したからといって確実にその内容が履行されるとは限りません。示談書を公正証書にしておけば、内容が履行されない場合には公正証書に基づき強制執行が可能になります。
刑事事件における示談書の役割
刑事事件では、加害者が心の底から反省し、被害者との示談の成立が検察官の起訴不起訴の判断や、裁判所の量刑判断に大きく関わってきます。
示談書を作成する意味
示談書を作成する意味は、示談が成立したことを証明できることです。検察官や裁判官は証拠に基づいて判断をするため、例え示談が成立していたとしても示談書が無ければ、示談は成立していないと判断します。
そのため、刑事事件においては示談が成立したことを証明するために、示談書の作成が必須です。
刑事事件における示談書の効力
刑事事件における示談書が実際にはどのような効力を持つか、解説します。
示談書作成におけるポイント(3つ)
示談書の効力は、その書面の内容次第で決まります。示談金の支払いを決めたのに、示談書が有効でなかったために示談金を支払ってもらえない、あるいは、全てを解決するつもりで示談金を支払ったのに、後日別の名目で金銭の請求をされてしまった、ということも起こりえます。
そのようなことの無いように、有効な示談書を作成しておかねばなりません。有効な示談書を作成するためには、次の3つのポイントがあります。
示談書の署名・押印は加害者・被害者双方が行う
示談書の署名・押印は加害者と被害者双方が行う必要があります。これは、誰と誰の間の示談なのか、誰と誰が示談書の内容に合意したのか、を明確にするためです。
関係者が複数人いる場合には、全員の署名・押印が必要です。
示談金の金額を明記する
示談金の金額を示談書の中に明記し、今後それ以上の請求はしないということを明記します。加害者は明記された金額を被害者に支払うことで被害者に許してもらい、それ以上は請求されないということをはっきりさせます。
示談金については、支払い方法、支払先、および支払い期限についても明記します。
示談書の効力が及ぶ範囲を明示する
何についての示談なのか、どの範囲まで示談の効力が及ぶのかの確認も重要です。示談内容として、どのような事件について、誰と誰との間の紛争で、双方どのような権利義務があるのかを明記しておく必要があります。
示談金の支払いにより被害者が被害届や告訴を取り下げるのであれば、それも示談内容に明示しておく必要があります。
刑事事件で弁護士が示談書を作成する意味
刑事事件で弁護士が示談書を作成することには、どのような意味があるのでしょうか。
刑事事件では加害者が直接被害者と接触をすることは、証拠隠滅の恐れを疑われたり、被害者に更なる被害が発生したりする恐れ等もあるため、好ましくありません。
そのため刑事事件では、加害者側の弁護士が示談交渉を行い、示談書を作成することが望ましいと言えます。弁護士は加害者に代わり被害者に対し謝罪をし、慰謝料の支払いについて話をします。
示談書には、加害者が被害者に対して謝罪をし、示談金の支払いを約束し、その結果被害者が加害者を宥恕する(許す)ことを示す内容が記載されます。
示談書は私文書ですが、弁護士が間に入って作成することにより、その内容が履行されないという心配が無くなります。
なお、有効な示談書を作成するためには法律上の問題がないかのチェックも欠かせません。そのためにも示談書の作成は専門家である弁護士に任せることをお勧めします。
被害届・告訴状の取下げ・不起訴処分等
示談書は作成して終わりではありません。有効に成立した示談書を元に被害届や告訴状の取下げをしてもらい、示談書を捜査機関に提出することにより、早期の身柄解放、不起訴の獲得、刑の減刑等を目指します。
そのためにも、示談書の作成を弁護士に依頼し、被害者との交渉やその後の捜査機関との処分交渉も弁護士に任せることをお勧めします。
刑事事件における示談書の書き方
刑事事件における示談書を、弁護士に頼まずに自分で作成することは可能でしょうか?
ここでは、概要だけではありますが示談書の書き方を解説します。ひな形もありますので、ご参考にしてください。
自分で作成することも可能
示談書は弁護士に頼まずに自分で作成することも可能です。自分で作成する場合には書籍やインターネット等を検索すると、一般的なひな形が載っています。
示談書は個々の事案によって記載内容が違い、記載すべき文言も異なるため、書籍等で示談書作成の注意点などを調べましょう。調べた内容を踏まえて、ご自身のケースに合わせて示談書の内容を修正します。
示談書ひな形を利用する
以下、ご参考までに、一般的な示談書のひな形を用意しました。
示談書
被害者△△△(以下、「甲」という)と、加害者×××(以下、「乙」という) は、令和〇年〇月〇日午後〇時〇分頃、〇県〇市○町において、乙が甲に対し× ××した事件(以下、「本件」という)について、下記の通り示談した。 記 1.本件について乙は深く反省し、真摯に謝罪する。 2.乙は、甲に対し、本件の示談金として金〇〇万円の支払義務があることを認 める。 3.乙は、甲に対し、前項の金〇〇万円を本日支払い、甲はこれを受領した。 4.甲は、本件について乙を許し、直ちに、告訴、被害届、告発を全て取り下げる。 5.乙は、甲に対して、今後は一切接触しない。 6.甲と乙は、本件示談書記載のほか、本件に関し、甲乙間に何らの債権債務関 係が存在しないことを相互に確認する。 7.甲および乙は、本件事件について、今後お互いに一切口外しない。 本示談契約を証するため、本書を2通作成し、各自1通を所持する。 令和〇年〇月〇日 (甲) 住所 氏名 印
(乙) 住所 氏名 印 以上 |
示談書を作成する上での注意事項
示談書を作成する上では、形式面と実質面での注意事項があります。以下それぞれ説明します。
形式面における注意事項
形式面における注意事項は、ひな形を参考にすれば、大きく間違えることはありません。ひな形を手本に作成しましょう。
作成した示談書は、日本語として意味が理解できるか確認しましょう。
ただ、法律の専門家でないと言い回しに誤り等があることに気が付かないこともあるので、やはり弁護士に確認してもらうことをお勧めします。
実質面における注意事項
実質面における注意事項は、どのような条件でお互いが納得し、紛争を解決できるかを考えることです。
示談は、紛争を当事者間の合意によって解決するものなので、民事事件における示談の場合にはお互いに納得のいく金額で合意することが前提です。基本的には民事裁判で認められるような適正金額が基準となります。
しかし、刑事事件における示談の場合には、被害者の被害感情の大きさや、処分決定までの時間が非常に短いという制約がある関係上、かなり高額な示談金が提示されることも多々あります。
示談の成立は起訴不起訴の判断や、量刑判断に大きな影響を及ぼしますが、現実的に支払えないような高額な示談金の支払いに応ずるべきかというと、必ずしもそうとは言えません。
納得のいく条件で紛争を解決する必要があります。
高額な示談金の支払いをすべきときの注意点
高額な示談金を支払うべきか否かを検討する際には、示談成立の影響を把握することが重要です。
高額な示談金を支払っても、加害者が期待したほど減刑されないこともあります。反対に、それほど高額ではない示談金を支払った場合でも、加害者が真摯に反省をしていた場合には執行猶予になる可能性もあります。
あまりにも高額な示談金を請求された場合には、適正な賠償金額の支払いだけよって謝罪の意思を示すことも一つの手です。そして、不当な金額を請求されたことを証拠化しておきます。
高額な示談金を支払うべきかどうかの判断は難しいところです。示談金の金額を決める前に弁護士に相談してみることをお勧めします。
示談書の作成は弁護士にお任せ
示談書の作成は個人でもできますが、示談書は、法的に有効でなければ効力がないとされ、後日紛争が起こる可能性もあります。
示談書の効力を法的に有効なものとするためには、法律の専門家に確認してもらう必要があるので、弁護士に任せることをお勧めします。
示談書の作成には法的知識が必要
法的に有効な示談書を作成するためには法的知識が必要です。示談は当事者間での紛争を解決するための契約なので、示談書に一旦署名してしまうと後日自分に不利な内容が記載されていたことが判明しても、修正が困難です。
示談書の作成は慎重に行わなければなりません。後になって不利な内容に気が付いて後悔しないためにも、示談書を作成する際には、弁護士に任せることをお勧めします。
示談書の内容は事案ごとに異なる
示談書に記載する内容は、事案ごとに異なるため、示談書のひな形を事案に応じて修正していくことになります。しかし、法律の知識がないと具体的な修正方法が分からないこともあるでしょう。
修正した結果、法的に無効な示談書になってしまった、あるいは自分に不利な示談書になってしまったということもあります。
法的に有効な示談書を作成しなかったがために、後日民事裁判で損害賠償請求をされてしまうという可能性もあります。
法的に有効な示談書を作成し、後の紛争を防止するためにも、弁護士に依頼することをお勧めします。
示談成立の影響が大きい刑事事件
刑事事件においては、示談の成否がその後の結果に影響を及ぼします。示談が成立し、示談書を作成することにより、被害者との間では事件が解決したことになります。
示談書を捜査機関に提出できれば、加害者が反省をし、それによって被害者が加害者を許したことを示せます。早期の身柄解放、不起訴処分の獲得、あるいは起訴された場合でも減刑等の可能性が高くなります。
まとめ
示談書は、書籍やインターネットを調べることで、誰でも作成できます。しかしながら、法的に有効な示談書の作成は、法律の知識がないと難しいといえます。
個人で解決しようとして示談書を作成した後に、自分にとって不利な内容になっていることに気が付き、修正しようとしても相手が応じてくれないこともあります。
特に、刑事事件における示談書は今後の刑事手続きにおいても影響を及ぼしますし、その後の民事訴訟防止の観点からも、法律の専門家である弁護士に作成を依頼することをお勧めします。