禁錮とは|懲役との違いや禁錮刑の生活をわかりやすく解説
交通事故や車が暴走する事故などで、被告人に禁錮という刑罰が科されることがあります。
法務省によると、2022年の刑事裁判で禁錮刑が科された割合はわずか1.3%です。
禁錮がどのような刑罰で、懲役とどう違うのかを知らないという人も多いでしょう。
この記事では、禁錮について次の点をわかりやすく解説します。
- 禁錮とはどんな刑罰?
- 禁錮と懲役の違いや禁錮の生活
- 禁錮刑は廃止され拘禁刑になる
目次
禁錮・禁錮刑とは
禁錮とは、刑事裁判で有罪になった人を刑務所に拘置する刑罰で、刑務作業が義務付けられていないもののことです。
懲役刑のように強制労働を強いられることはありませんが、刑務所に収容されて監視されて生活することになります。
ここでは、禁錮刑について、概要を解説します。
禁錮刑の目的
禁錮刑や懲役刑など、身柄を拘束して自由を奪う自由刑が存在するのは、次のような目的があるからです。
- 犯罪者を社会から隔離して治安を維持する
- 刑罰があることで犯罪を抑止する
- 罪を犯した人を矯正する
刑罰を定めることで、犯罪の抑止と、犯罪者を隔離して社会の治安を維持する目的があります。
罪を犯した人には、刑務所に収容して自由を奪う刑を執行するとともに、規則正しい生活や集団生活を学ばせて、再犯防止のための矯正を行います。
なお、禁錮刑は政治犯や過失犯などに適用されるケースが多いです。
禁錮刑の刑期
禁錮刑の刑期には、期限に定めのある有期、期限の定めのない無期があります。有期禁錮の刑期は、1か月以上20年以下の範囲で決定されます。
(禁錮)
第十三条禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2禁錮は、刑事施設に拘置する。
引用:刑法第13条|e-Gov
また、刑事裁判で複数の犯罪で禁錮刑となり、刑が加重された場合は、禁錮の刑期を最長30年まで重くできます(刑法第14条)。
一方、無期禁錮には刑期の定めがないため、死ぬまで刑が執行されます。ただし、10年を経過して一定の条件を満たせば、仮釈放が認められて、釈放されることもあります。
なお、1日以上30日未満で身柄を拘束される場合は、拘留が科されます。
禁錮刑の重さ
刑罰は基本的に、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の順で重いとされています。
刑務作業を強いられる懲役の方が禁錮よりも重い刑罰です。
ただし、無期禁錮と有期懲役では、刑期の定めがない無期禁錮の方が重い刑となります。
禁錮刑の刑期が懲役刑よりも2倍を超える期間であれば、禁錮刑の方が重いと判断されます。
(刑の軽重)
第十条主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
一部引用:刑法第10条|e-Gov
もっとも、これらは刑罰を科す際の基準のようなもので、必ずしも実態に即しているとは言えません。
禁錮刑が定められている犯罪
禁錮刑が定められている犯罪は次のとおりです。
罪名 | 法定刑 |
過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法第5条) | 7年以下の懲役・禁錮、100万円以下の罰金 |
業務上過失致死傷・重過失致死傷罪(刑法第211条) | 5年以下の懲役・禁錮、100万円以下の罰金 |
公務執行妨害・職務強要罪(刑法第95条) | 3年以下の懲役・禁錮、50万円以下の罰金 |
名誉毀損罪(刑法第230条) | 3年以下の懲役・禁錮、50万円以下の罰金 |
自殺教唆・同意殺人罪(刑法第202条) | 6か月以上7年以下の懲役・禁錮 |
内乱罪(首謀者)(刑法第77条) | 死刑、無期禁錮 |
内乱罪(参与・群衆の指揮) | 無期禁錮・3年以上の禁錮 |
内乱幇助罪(刑法第79条) | 7年以下の禁錮 |
このように、禁錮刑では、過失によるもの、国家利益に対する罪に定められていることが多いです。
禁錮刑と懲役刑の違い
懲役刑とは、刑務所に収容して自由を奪う自由刑の一種で、刑務作業が義務づけられている刑罰のことです。
ここでは、禁錮刑と懲役刑の違いを解説します。
刑務作業の有無
禁錮刑と懲役刑の違いは、刑務作業が義務とされているかどうかです。懲役刑となった場合は、次のような刑務作業が科されることになります。
生産作業 | 木工、印刷、洋裁、金属などで物品を制作や労務の提供 |
自営作業 | 刑務所の炊事、選択、経理、建物の修復などの刑務所の運営に必要な作業 |
社会貢献作業 | 除雪や除草、医療ガウンの制作など社会に貢献する作業 |
職業訓練 | 自動車整備や介護、建築、溶接、情報処理、美容師などの職業訓練 |
参考:刑務作業|法務省
懲役刑になる割合の方が多い
自由刑には、懲役、禁錮、拘留があります。
法務省によると、2022年に判決が下された刑事裁判の自由刑の中で、懲役刑となったのは約94%、禁錮刑となったのは約6%でした。
禁錮刑は、政治犯と過失犯の犯罪に適用されますが、現代日本において政治犯で処罰されるケースは多くありません。
過失犯の場合も、罰金刑になることが多いため、一般の人に禁錮刑が知られていないのも当然かもしれません。
参考:令和5年版 犯罪白書 第3章 裁判 第2節 確定裁判|法務省
禁錮刑と懲役刑でどっちが辛いとは言えない
法律上は、刑務作業を強いられる懲役刑の方が重い罪とされています。
刑務作業が強いられない禁錮刑の方が楽なのではないかと思われがちです。
しかし、禁錮刑の受刑者の約80%が自ら希望して、刑務作業を行っています(請願作業)。
確かに禁錮刑で、特にやることもなく一日中居室にいて監視され続けることの方が苦痛かもしれません。
一方で、希望すれば刑務作業をするかどうか選択できる点で、禁錮刑の方が楽なのではないかという意見もあります。一概にどっちが辛いとは言えないようです。
参考:令和5年版 犯罪白書 第2編 犯罪者の処遇 第4章 成人矯正 第3節 受刑者の処遇等 作業|法務省
禁錮刑の一日の生活
刑務作業がなくてもダラダラすることはできない
禁錮刑は、刑務官に監視される中で、日中独居房で静かに座り続けることになります。
刑務作業を強いられることはありませんが、横になって過ごすことはできません。そのようなことをすれば、当然刑務官から注意されることになります。
刑務作業の有無以外は、刑務所のスケジュールに沿って生活しなければなりません。
起床時間から点呼、運動時間、就寝時間などが定められ、自由時間以外で何かをする際には、刑務官の許可を得る必要があります。
ネットやスマホは使えない
当然ながら、刑務所ではインターネットは使用できません。スマホも逮捕の段階で、警察に没収され、証拠品として押収されます。
ネットもスマホも使用できないですが、読書や手紙を書くことは許されています。
禁錮刑の受刑者は、請願作業をする者が多いですが、中には家族の差し入れや、図書室で借りた本を読んで過ごす人もいます。
自由時間には、テレビを見たり、ラジオを聴いたりすることもできます。
2025年には禁錮刑と懲役刑が一本化し拘禁刑となる
2022年には、禁錮刑と懲役刑を一本化した拘禁刑が制定され、2025年6月から導入されることになりました。
ここでは、2025年に施行される拘禁刑について解説します。
禁錮刑と拘禁刑の違い
拘禁刑では、更正のために必要な作業や指導を行うことができると定められています。
従来の懲役刑では、刑務作業が主となり、十分な更正プログラムの実施が困難でした。
拘禁刑に変われば、受刑者ごとの特性に応じて、薬物や性犯罪の更正プログラムや、高齢者に対して運動トレーニングなどが実施されることになります。
更正プログラムが機能することで、再犯防止や刑務所への再入所率の低下が期待できます。
拘禁刑が導入された理由
拘禁刑が導入された背景には、次のさまざまな理由があります。
- 刑務所の高齢者率の増加(2003年4.3%から2022年には14%)
- 体力や認知機能が衰えた高齢受刑者に対して、一律に刑務作業を行わせるのは難しい
- 受刑者の再入所率も増加(2003年48.1%から2022年には56.6%)し、矯正や社会復帰が課題
- 禁錮刑の受刑者8割が刑務作業を希望し、懲役刑と大きな差がない
- 懲役刑は刑務作業の時間が主で十分な更正プログラムの実施が難しい
このような理由から、懲役刑と禁錮刑を一本化し、受刑者ごとの特性に応じた処遇が行えるように、拘禁刑が創設されました。
拘禁刑は2025年6月から導入されるため、これからニュースで耳にする機会も増えるでしょう。
参考:拘禁刑の創設 効果的な対策で再犯防ぎたい|読売新聞オンライン
禁錮についてよくある質問
禁錮とは何をする?
禁錮は、強制労働が義務づけられていないため、刑務官に監視されながら、刑務所の居室に拘束されることになります。
刑務作業を希望する受刑者もいれば、居室で読書をする受刑者もいます。
特にやることはないため、じっとしていることが苦手な人にとっては厳しい罰と感じる人もいるかもしれません。
禁錮刑が自宅で行われることはある?
禁錮刑が自宅で執行されることはありません。ただし、刑事裁判で判決が下されて刑罰が確定した後で、検察官により刑の執行が停止されることはあります(刑事訴訟法第482条)。
例えば、判決後に被告人が認知症や心身喪失状態になった場合は、刑の執行を停止しなければなりません。
刑の執行を行うことで、受刑者が健康を害して死亡するおそれがある場合などに、検察官の裁量で刑の執行停止が行われることがあります。
例えば、受刑者が高齢、末期がんで余命わずか、出産後60日以内などの場合です。
ただし、余程のことがない限り、刑の執行停止が行われるケースはないと考えられます。
禁錮以上の刑とは?
公務員の欠格や執行猶予の条件として、禁錮以上の刑に処された場合と定められていることがあります。
例えば、公務員の欠格事由には次のように定められています。
(欠格条項)
第三十八条次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則で定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。
一禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
引用:国家公務員法|e-Gov
禁錮以上の刑とは、死刑、懲役、禁錮のことです。そのため、地方公務員は死刑、懲役、禁錮刑が科された場合に、執行猶予がついたとしても、失職することになります。
一方禁錮以下の刑は、罰金、拘留、科料ですので、罰金刑で済めば公務員の欠格条項には当てはまりません。
同様に、執行猶予の条件も、以前に禁錮以上の刑に処せられたことがない人が対象となります。
執行猶予の条件については、関連記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
まとめ
禁錮は、刑務作業が義務付けられていない自由刑ですが、受刑者の8割が刑務作業を希望するため、今では懲役と違いがありません。
2025年6月には、禁錮と懲役を一本化した拘禁刑が施行されるため、禁固刑は廃止となります。
今後は、受刑者の特性に合わせた指導が行われるため、更正や再犯防止が期待できるかもしれません。
しかし、禁錮も拘禁刑も、自由を奪われる刑罰であることには変わりはありません。
もし犯罪に関与してしまった場合は、早い段階で弁護士に相談しましょう。