警察は携帯をどこまで調べる?スマホの解析で余罪は追及される?
スマホなどの携帯電話には、個人情報が詰まっており、生活に欠かせない存在です。
刑事事件に関与した場合は、警察に携帯電話を押収される可能性があります。
押収された場合、警察は携帯電話の中身をどこまで調べるのでしょうか。
この記事では、以下の点を解説します。
- 警察に携帯・スマホが押収されるケース
- 警察は携帯・スマホをどこまで調べる?余罪が発覚したらどうなる?
- 警察が携帯を返却してくれる時期は?
目次
警察に携帯・スマホが押収されるケース
ここでは、警察に携帯やスマホが押収されるケースを解説します。
警察に逮捕された時
警察に逮捕された場合は、携帯電話を所持していると警察に取り上げられます(刑事訴訟法第220条1項、日本国憲法第35条)。
これは、携帯電話で共犯者などと連絡を取り合い、口裏合わせや証拠隠滅が行われるのを防止するためです。
捜査で携帯電話の中身をチェックする必要がない限り、携帯電話の電源を切って、警察が預かることになります。
逮捕された場合は、そのまま警察署の留置場に身柄拘束(勾留)されるケースが多いです。
携帯電話が証拠品とならない場合でも、留置場で自由に携帯電話を使用することはできません。
他の私物とともに、留置場内にあるロッカーや管理ボックスに保管されます。
ロッカーや管理ボックスの中身は、警察の許可なしに出し入れできず、違法なものがないか定期的にチェックが行われることもあります。
任意提出した時
携帯電話が押収されるケースは、捜査に必要だから任意に提出してほしいと、任意提出を求められて提出した場合です。
第二百二十一条検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。
任意ですが、拒否しても捜索差押許可状を提示して、裁判所許可のもと強制的に携帯電話を押収される可能性があります。提出を拒否するのは難しいと言えます。
任意提出と聞くと、すぐに返却されると思うかもしれません。しかし、警察に押収された証拠品は、捜査が不要になるまで返してもらえません。
捜索差押をされた時
証拠品だと判断された場合は、裁判所が発布する捜索差押許可状をもとに、警察は携帯電話を証拠品として押収できます。
第二百十八条検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
許可状をもとに行われる押収は、強制処分であるため、拒否できません。
警察は携帯やスマホをどこまで調べる?
犯罪の記録が残っていると判断された場合や、捜査の必要性がある場合は、携帯電話の任意提出や、令状による押収が行われます。
警察には、情報技術解析課や高度情報技術解析センターがあり、電子機器から抽出した記録を可視化するなど、デジタル・フォレンジックを活用した分析が行われています。
画像やメール、アドレスなどは削除して見えなくなっても、記憶媒体に残されているため、データを復元できます。
実際に警察では、データの解析を活かして事件を検挙しています。
- 著作権違反事件で水没したハードディスクから、汚れを排除、内部を洗浄して、犯行を裏付ける記録の抽出に成功した
- 強盗事件で、スマホの解析を行い、アプリから、事件直前に被害発生場所付近にいたことを示す位置情報を抽出、同様の余罪も位置情報から抽出して検挙に貢献した
参考:トピックスV 警察捜査を支える情報技術解析 – 警視庁
他にも、高度な解析が行えるように、最新技術を持つ民間企業や研究機関と技術協力を行っています。
ここでは、どのようなケースに、警察は携帯やスマホをどこまで調べるのか解説します。
盗撮事件は画像のデータ解析や復元がされる
よくあるのが、盗撮や児童ポルノなどの捜査のために、画像のデータ解析や、削除された画像を復元するケースです。
盗撮事件では、常習的に盗撮を行っているケースが多いため、警察もデータ解析を駆使し、徹底的に余罪を調べ尽くします。
盗撮の証拠が残されているであろう携帯電話はもちろん、パソコンやハードディスク、メモリーカードなども押収されることがあります。
前述のとおり、削除した画像でもデータを復元されて、追及される可能性があります。

共犯者がいる犯罪ではやり取りが確認される
共犯者がいる犯罪の場合、警察は、共犯者とのLINEのやり取りや通話の履歴、X(旧Twitter)やInstagramなどのDMを調べることがあります。
例えば、特殊詐欺や強盗事件などの組織犯罪や、薬物の売買などのケースが考えられます。
共犯者とのやり取りを削除しても、復元される可能性があります。
殺人事件などでは検索履歴が捜査される
近年、殺人事件などの捜査では、携帯電話の検索履歴の調査も行われます。
検索や閲覧履歴が削除されていても、復元は可能です。
例えば、犯罪に関与する前後で、殺害方法や遺体の処理方法などを検索していることから、事件に関与したことや殺意などを立証されるケースがあります。
保険金目当てで大学生を替え玉として殺害した男性の裁判では、殺害方法に関してインターネットで多数の検索履歴があり、強い殺意のもと計画的に殺害を行ったとして、懲役30年の判決が言い渡されました。
参考:「自分」に仕立てた大学生を殺害 替え玉保険金殺人の33歳男に懲役30年判決 広島地裁 – 産経ニュース
警察の携帯押収は拒否できる?
警察の任意提出の要請を拒否しても、最終的には捜索差押許可状を提示して、強制的に携帯電話を押収されます。
また、携帯電話のロック解除のために、警察からパスワードを尋ねられることがあります。
携帯電話から決定的な証拠や余罪が発覚するケースはよくあるため、不利になる前に弁護士と相談した上で、対応することが重要です。
携帯電話のデータを見られたくない場合は、黙秘権を行使して、パスワードを答えないということも考えられます。
ただし、パスワードを回答しなくても、前述のとおり、捜索差押許可状にもとづき、強制的に顔認証や指紋認証を行いロックを解除したり、データ解析によりスマホのデータを抜き取っられたりする可能性があります。
いずれにしても、携帯電話に証拠が残されていたり、余罪があったり、あるいは捜査手法に違法な行為があった場合は、弁護士に相談するようにしてください。
警察がスマホを解析した場合余罪は追及される?
警察がスマホを解析した場合、余罪が追及される可能性があります。
ここでは、余罪が発覚した場合にどのようなことが起きるのか、解説します。
余罪が発覚すると再逮捕される可能性がある
余罪が発覚すると、再逮捕される可能性があります。
本来、逮捕状に記載された犯罪事実(本罪)とは別の余罪について、取り調べを行うことは原則として禁止されています。
余罪を追及する場合は、余罪として再逮捕されることになります。
ただし、複数の余罪がある場合に、そのたびに再逮捕や再勾留をしていては、身柄拘束の期間も長くなってしまいます。
そのため、例外的に、同種の余罪や、本罪と密接に関係する余罪については、取り調べが行われることもあります。
余罪も起訴されると罪が重くなる
本罪だけでなく、余罪も立件されて起訴されると、併合罪として扱われて、罪が重くなる可能性があります。
併合罪とは、裁判で判決が下されていない複数の罪のことです。併合罪として扱われる場合、量刑は以下のように決定されます。
- 複数の罪のうち、死刑、無期懲役・無期禁錮が科される場合は、他の刑が科されない
- 複数の罪がある場合、最も重い罪の刑期の上限が1.5倍になる
- 最も重い罪の刑の上限が、それぞれの罪の刑期の上限を超える場合には、それぞれの罪の刑期の上限となる
例えば、盗撮行為をして撮影罪で起訴された場合の罰則は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
被害者Aと、被害者Bに対する盗撮行為、それぞれ撮影罪で起訴された場合、刑期の上限は1.5倍となり、4年6か月が上限となります。
また、撮影罪とは別に、撮影罪より重い罪が適用される場合は、重い罪の刑罰が1.5倍になります。
このように併合罪で起訴されると、重い処分が科される可能性があります。
余罪が立件されなくても処分に影響する
例えば、盗撮の場合、実務上、データ解析により余罪が発覚しても、場所や被害者が特定できなければ、捜査や起訴が行われないことがほとんどです。
ただし、余罪が立件されなくても、本罪の処分に影響する可能性があります。
量刑判断においては、犯罪の内容や被害者の処罰感情、結果の重大性などだけでなく、前科前歴や常習性の有無も考慮されます。
余罪が多数ある場合は、初犯であっても重い処分が下される可能性があります。
警察が携帯を返してくれない?スマホが押収される期間は?
釈放時などに返却される
逮捕され、警察に取り上げられた携帯電話は、釈放される際に他の私物と一緒に返却されます。
逮捕された場合、スマホが押収される期間は、短ければ13~23日ほどです。
刑事裁判になり、その後も勾留が続けばさらに2か月、あるいは、裁判が終わるまで返却されないこともあります。
そのまま実刑判決が下されて、刑務所に収容されてしまった場合も、釈放時に私物が返却されます。
証拠品となった場合は返却されないこともある
証拠品として押収された携帯電話は、捜査が終了すれば返却されます。
ただし、携帯電話が証拠品として押収される際に、所有権放棄の書面にサインを求められることが多いです。
所有権放棄の書面にサインをしてしまうと、携帯電話は返却されません。
また、所有権を放棄していなくても、捜査に必要であったり、裁判時に証拠として提出されたりする場合も、事件が終わるまで返却されないことがあります。
逮捕が行われた事件であれば、釈放時に携帯電話が返却される場合があります。
一方で、逮捕が行われずに、定期的に検察などに呼び出される在宅事件の場合、捜査が終了するまでに、半年ほどかかる可能性があります。
盗撮や児童ポルノの場合は、返却時に捜査員立ち合いのもと、画像を消去してから返却されます。
携帯電話をいつまでも返却されない場合は、裁判所に押収品の還付を求める方法もありますので、弁護士に相談しましょう。

警察に携帯・スマホを押収される場合の注意点
携帯を解約すると証拠隠滅と判断される可能性がある
警察に携帯電話を押収された場合の注意点の一つは、携帯電話を解約すると証拠隠滅と判断されるおそれがある点です。
例えば、逮捕や勾留が行われていない事件の場合、携帯キャリアを解約することも可能です。
警察は、保存されているデータを確認するために、携帯電話を押収しています。そのため、今の携帯電話を解約しても、基本的には問題ないと考えられます。
ただし、携帯電話の解約は、証拠を隠滅しようとしていると判断される可能性もあるため、解約する前に弁護士に相談することをおすすめします。
勾留期間が長いと料金未納で携帯が解約になる
一つの罪で勾留される期間は、10~20日間です。ただし、余罪で再逮捕されれば、その再逮捕の数だけ勾留されることになります。
また、勾留されると、刑事裁判になった際(起訴後)も勾留される可能性があります。
起訴後の勾留は2か月とされていますが、事件によっては裁判の終了まで勾留が続く可能性があります。
そのようなケースでは、口座に十分なお金がないと、携帯電話の料金が引き落とされず、料金未納でのより、強制解約されることがあります。
そのため、長期間の勾留が予想される場合は、弁護士や家族に相談して、解約するか料金を支払ってもらいましょう。
まとめ
携帯電話は個人情報の宝庫であり、警察に捜査されると、決定的な証拠や余罪が発覚するおそれがあります。
逮捕されている場合はもちろん、逮捕されずに警察に呼び出されている場合でも、不利な状況に陥る前に、弁護士に相談して対策を講じることが重要です。
また、携帯電話は生活に欠かせないツールであるため、返却されない場合は、弁護士を通じて返却を求めるとよいでしょう。