業務上横領罪とは?逮捕されないケース・横領した場合の対応を解説

業務上横領罪とは、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する罪です。罰則は10年以下の懲役です。罰金刑がないことに加え、3年を超える懲役の場合は執行猶予が付かずに刑務所に収監されることになります。
業務上横領罪はこのように重い罪が下される恐れのある行為です。
この記事では、業務上横領罪の概要をお伝えした上で、横領をした方が今後の対応を検討する上で必要な知識をお伝えします。
業務上横領罪とは
最初に、業務上横領罪の全体像を解説します。
- 業務上横領罪の条文
- 業務上横領罪の構成要件
- 業務上横領罪の罰則
- 業務上横領罪の時効
- 業務上横領罪と類似の罪
業務上横領罪の条文
刑法第253条では、業務上横領を次のように規定しています。
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第253条
簡単にご説明すると、『業務をする上で自分の管理下にある他人のものを横領する行為』といったニュアンスになります。
例えば、経理担当者が架空の請求書を作成し、自身の口座(本人名義ではない)に会社の口座から送金するような行為がこれにあたります。
業務上横領罪の構成要件
以下4点に当てはまる行為をした場合は業務上横領の罪に問われる恐れがあります。
- 業務上
- 自己の占有する
- 他人の物を
- 横領した
業務上
法律上、業務とは職業や事業に関して、日々反復的に行う行為のことです。
企業では、管理職・役員・経理など、会社の金銭を扱う立場にある職業の方が横領に手を染める機会が多くなっています。特に会社で高い地位にある方が横領をした場合は、会社のお金を任せきりにされていることもあります。この場合は横領の被害額や期間が長くなるため、被害者との和解が困難になったり、より重い罪に問われる傾向があったりします。
自己の占有する
占有とは、自分の支配下にある状態のことをいいます。
仕事をする上で、経理担当者は会社の口座の番号や暗証番号を伝えられ、お金の管理を任されることがあります。このような状態のことを『委託信任関係に基づく占有』といいます。
他人の物を
他人のものとは、所有権が他人にあることを言います。
横領した
横領とは、所有者でなければできないような処分をする意思(不法領得の意思)がみられる行為をいいます。法的処分と事実的処分のいずれも横領行為となります。具体的には、他人が所有する物を勝手に売買、贈与すること(法的処分)、他人の物を使い込んだり、自分のものにしたり、隠したりすること(事実的処分)のいずれも、所有者でなければできないような処分をする意思がみられる行為として横領行為に該当します。
業務上横領罪の罰則
業務上横領罪の罰則は10年以下の懲役です。
単純横領罪の罰則は5年以下の懲役ですが(刑法第252条第1項)、業務上の横領であった場合はより重い罪に問われる恐れがあります。
また、刑事裁判で3年を超える懲役刑が言い渡された場合は、執行猶予がつきません。執行猶予がつかないと、刑務所に収監されることになります。
業務上横領罪の時効
業務上横領罪の公訴時効は7年です(刑事訴訟法第250条第2項第4号)。
業務上横領罪と類似の罪
次に、業務上横領罪と似た罪をご紹介します。
- 背任罪
- 単純横領罪
- 窃盗罪
背任罪
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法第247条
他人の財産の事務処理をする立場にある人が、任務に背いて財産の持ち主に損害を与えた場合は背任罪が成立することがあります。
例えば、回収が難しそうな業者への貸付や、粉飾決算などをして、会社に財産上の損害を与えるようなケースがこれにあたります。
背任罪と単純横領罪・業務上横領罪とは、背任が広く任務に背いて他人に損害を与える行為を指す一方、横領は対象を財物に限定し、その横領行為を罰する点で異なります。
単純横領罪
自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第252条
横領をした場合に問われる罪です。業務上での横領でない場合は単純横領罪に問われることがあります。
窃盗罪
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法第235条
窃盗罪は業務上横領罪や横領罪と多少似ているかもしれません。
他人のものを自分のものにする点は共通していますが、委託信任関係がなく他人の占有にあるものを自分のものにした場合は窃盗罪に問われることがあります。
業務上横領で逮捕されないケース
業務上横領をしたものの、逮捕されないケースを分類して解説します。
- 被害者が横領被害に気付いていないケース
- 被害者が警察に被害を申告していないケース
- 被害者と示談をして和解を得られたケース
- 在宅事件になったケース
被害者が横領被害に気付いていないケース
横領をしてもすぐにバレるわけではありません。被害者が事件に気付いていない場合は逮捕される恐れは低いでしょう。
業務上横領は非親告罪です。非親告罪とは、被害者が告訴をしなくても検察官が捜査を始められる事件のことをいいます。
ただ、業務上横領は仕事上の人間関係の中で起きる犯罪です。被害者が横領に気付き、被害届や告訴状を警察に提出しないことには、警察も犯罪に気付きようがありません。
被害者が警察に被害を申告していないケース
被害者が横領に気づいたものの、被害届や告訴状を警察に提出していなければ、すぐに逮捕されるリスクは少ないでしょう。
ただし、このケースの場合は被害者が横領に気付いている状態ですので、謝罪と被害金の弁済などをしないと、将来的に被害届が提出されて逮捕される恐れがあります。
被害者と示談をして和解を得られたケース
被害者に示談金を支払い、被害届や告訴状を警察に提出しない旨の条項を盛り込んだ示談書を作成した場合は、逮捕されるリスクは低いでしょう。
逮捕や実刑を免れるためには、被害者との示談交渉で和解を得ることが重要です。業務上横領における示談の重要性については後ほど詳しく補足します。
在宅事件になったケース
在宅事件とは、犯行の疑いがある人(以下、被疑者)の身柄を拘束せずに捜査を進めることをいいます。
被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがないと判断された場合は在宅事件になることがあります。ただし、被害額が数百万円以上の高額になる場合は、逮捕されるリスクが高くなります。
業務上横領で逮捕された後の流れ
ここでは、業務上横領で逮捕された後の流れを簡単に図解します。
- 警察による取り調べ:被疑者の供述をもとに供述調書が作成される
- 検察への送致:警察から検察に身柄が引き渡される
- 勾留:勾留請求が認められると、原則10日間(最大20日間)の身柄拘束がなされる
- 起訴・不起訴の判断:検察が刑事裁判の開廷を要求するべきかどうか判断する
- 起訴後勾留:原則2ヶ月、以降1ヶ月ごとに更新される身柄拘束のこと
- 刑事裁判:有罪か無罪か、有罪ならどの程度の刑罰が妥当か判断される
業務上横領は懲役刑しかなく、3年を超える懲役が下されれば直ちに刑務所に収監されることになります。
そのため、できれば逮捕される前に示談交渉を成立させたいところです。
これが難しい場合は、起訴・不起訴の判断が下される逮捕後23日以内に示談交渉の成立を目指すべきです。
逮捕後の流れにつきましては、以下の記事で詳しく解説しています。
業務上横領における示談について
この記事では示談の重要性についてたびたび触れてきました。ここでは、業務上横領における示談について、より理解を深めていきましょう。
- 業務上横領で有利な処分を得るには示談が必須
- 業務上横領における示談の難しさ
業務上横領で有利な処分を得るには示談が必須
示談成立のメリットは主に次の2点です。
- 示談成立で逮捕を回避できることがある
- 示談成立で不起訴や罪の軽減を期待できる
示談成立で逮捕を回避できることがある
可能な限り警察に被害届が提出される前に、被害者と示談交渉を成立させたいところです。
横領したお金を返し、被害者の許しを得られれば、刑事事件になるまえに解決を目指せます。
示談をする際は横領被害額の認識を加害者と被害者の間で一致させる必要があります。これが一致しないと、横領した以上の金額を請求されることにもなりかねません。弁護士に示談交渉を依頼することで、このようなトラブルを避けられます。
示談成立で不起訴や罪の軽減を期待できる
逮捕された後であっても示談成立は重要です。示談が成立することで被疑者にとって有利な情状となり、不起訴や罪の軽減を期待できます。
ただ、最終的な結果は被害額の大きさにもよります。被害額が数百万円規模の高額な事件になるほど、不起訴を得るのが難しくなってきます。
処分の内容は事件によって変わってくるので、気になる方は弁護士相談の際に今後の見通しを質問してみるといいでしょう。
業務上横領における示談の難しさ
不起訴や罪の軽減を得るためには示談成立が重要です。しかし、業務上横領で示談をする際は以下のような難しさがあります。
- 横領の被害金額の認識が一致しないことがある
- 示談開始前や示談中に警察に被害届が出されることもある
- 高額な示談金により示談がまとまりにくいことがある
- 本人が交渉をしようとすると弱い立場に立たざるを得ない
横領の被害金額の認識が一致しないことがある
示談をする際は、示談金額をいくらにするのか決めなければいけません。
業務上横領の場合は、横領した金額を客観的に調査する必要があります。調査をしないことには、示談金額が適切かどうかわからないので、示談に応じてもらうのは難しいでしょう。
示談開始前や示談中に警察に被害届が出されることもある
被害者感情への配慮も欠かせません。例えば示談交渉中に相手を刺激してしまえば、警察に被害届を提出される恐れがあります。被害届を提出せずに示談をしようという気になってもらう必要があります。
高額な示談金により示談がまとまりにくいことがある
業務上横領は発見が遅れて被害金額が数百万~数千万になることもあります。示談金として被害金額と同等以上の金額を支払わなければならないので、被害金額が大きくなるほど交渉も難しくなります。
さらに、横領した金額に加えて、横領事件の調査にかかった調査費や人件費なども示談金として支払う必要があります。
示談金を一度に支払うのが難しければ、分割払いの交渉をすることになります。どのくらいの期間をかけていくらずつ支払っていくのか交渉する必要があります。
本人が交渉をしようとすると弱い立場に立たざるを得ない
お金を横領した立場ですので、自ずと弱い立場で交渉せざるを得なくなります。立場が弱いと言うべきことが言いにくくなるので、横領した金額以上の示談金を請求されたとしても、反論するのが難しくなる恐れがあります。
ここまででお伝えした不利益を避けるためにも、業務上横領の示談をする際は弁護士に依頼するのが一般的です。以下では、業務上横領で示談交渉をする際の弁護士の必要性についてより詳しくご説明します。
業務上横領での弁護士への依頼について
業務上横領での弁護士への依頼につきまして、以下3点をお伝えします。
- 業務上横領で弁護士に依頼するタイミング
- 業務上横領で弁護士に依頼するメリット
- 業務上横領の弁護士費用
業務上横領で弁護士に依頼するタイミング
業務上横領で弁護士に依頼するタイミングとしては、逮捕前と逮捕後がありえます。
逮捕前
他の刑事事件の場合は逮捕前に弁護士に相談をしても弁護活動が必要でないケースもありますが、業務上横領の場合は逮捕されていても、いなくても示談交渉をすることが重要です。
被害金額が大きくなるほど、被害発覚時に逮捕されるリスクが高まりますし、厳しい判決がくだされることもあり得ます。
逮捕後
逮捕後であっても示談交渉をすることは重要です。
被害者としても示談金が支払わなければ、横領されたお金をそのまま損することになります。一度に示談金をすべて用意できなくても分割払いに応じてもらえる可能性がありますので、起訴・不起訴の判断がなされる前に対応をするべきです。
業務上横領で弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼するメリットには以下のようなものがあります。
- 交渉をすべて任せられる
- 逮捕を防げることがある
- 刑事事件化した場合でも有利な結果を目指せる
- 適切な金額での和解を図れる
交渉をすべて任せられる
ご依頼後、被害者との交渉はすべて弁護士が対応します。
逮捕を防げることがある
弁護士が交渉をすることで、被害届が提出されるリスクを少なくできます。
今後警察に被害届や告訴状を提出しない旨の条項を入れた示談書を作成するので、和解後は「警察に逮捕されるんじゃないか」という不安からは解放されます。
刑事事件化した場合でも有利な結果を目指せる
上でもお伝えしたように、逮捕された後でも示談が成立することで不起訴や罪の軽減を目指せます。
適切な金額での和解を図れる
横領の金額を客観的に明確にした上で示談金額の交渉をします。被害金額を大きく上回るような請求に応じることなく、適切な金額の示談金で和解を目指せます。
まとめ
業務上横領をした場合は、逮捕されていてもされていなくても、被害者との示談交渉をすることが大切です。バレないから、逮捕されないから、といって対応を先延ばしにしてしまえば、被害金額がどんどん大きくなったり、近い将来に警察が家まできたりするかもしれません。示談をお考えの方は一度ご連絡いただければと思います。