現行犯逮捕とは?現行犯が多い犯罪や特徴を解説
現行犯逮捕(げんこうはんたいほ)とは、罪を犯している最中の犯人または罪を犯した直後の犯人を逮捕することで、通常逮捕や緊急逮捕といった他の逮捕とは異なる特徴があります。
本コラムでは、以下の点を解説します。
- 現行犯逮捕の概要
- 他の逮捕との違い
- 現行犯逮捕された場合にとるべき対応
現行犯逮捕とは
現行犯逮捕の概要を説明します。
現行犯の定義
刑事訴訟法第212条は、現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者を現行犯人とすると定義しています。
現に罪を行う者とは、犯罪の実行行為をしている最中の者を意味し、例えば、路上で許可なく覚醒剤を所持していれば、覚醒剤取締法違反(覚醒剤の単純所持罪)の現行犯です。
現に罪を行い終わった者は、犯罪の実行行為を終了した直後の者を意味します。実行行為の終了から何分までが直後にあたるか、あるいは実行行為を終了した地点から何メートルまでが現行犯逮捕可能な範囲か、法律に数字は示されていません。
現行犯逮捕が可能な範囲
現行犯逮捕が適法か否かは、個々のケースごとに判断されます。その際、考慮されるのは犯行と逮捕が時間的・場所的に接着しているかどうかで、逮捕される者が犯人であると明白でなければなりません。
実行行為の終了から時間が経過し、終了地点から逮捕場所までが遠くなるほど、時間的・場所的な接着性は希薄になると考えられます。接着性が希薄になればその分、犯罪と犯人の明白性は弱くなり、誤認逮捕のおそれが生じます。
実行行為の終了からある程度時間が経過していたり、終了地点から遠く離れたりしている現行犯逮捕は、違法と判断される可能性があります。ただし、犯行を行った者が現場から逃走を図った場合で、逮捕者が犯人を見失うことなく追跡して逮捕した場合は、場所的・時間的に接着していなくても違法にならないことがあります。
現行犯逮捕の条文
現行犯逮捕に関する条文は、刑事訴訟法第212条から第217条にあります。
212条は現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者を現行犯人とすると現行犯を定義し、同条2項で準現行犯について説明しています。準現行犯については後の章で詳しく説明します。
213条は、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができると現行犯逮捕特有の性格を記載し、214~217条は現行犯逮捕の手続きに関する規定などです。
現行犯逮捕の要件
現行犯逮捕の要件は刑事訴訟法第212条が示すように、現に罪を行っているか、または現に罪を行い終わった直後かどうかです。
現行犯人逮捕手続書とは
警察が現行犯逮捕した場合、あるいは現行犯逮捕された被疑者を引き渡された場合、警察は現行犯人逮捕手続書を作成します。
現行犯人逮捕手続書には、逮捕日時や場所、逮捕時の状況などに加えて、被疑者が現に罪を行い、または現に罪を行い終わったと認められた状況を具体的に記載しなければなりません。
現行犯逮捕と他の逮捕との違い
現行犯逮捕と他の逮捕との違いを説明します。
現行犯逮捕と準現行犯逮捕の違い
刑事訴訟法第212条2項は、以下の4条件のいずれか1つに該当する者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき、現行犯人とみなすと定めています。こうした現行犯人を逮捕することを準現行犯逮捕といいます。
犯人として追呼されているとき
1つ目の条件は、犯人として追呼されているときです。これは、「あの人痴漢です!」「泥棒!」などと呼ばれ、追いかけられている状態です。
贓物または明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持しているとき
贓物(ぞうぶつ)は犯罪によって手に入れた物を意味します。
例えば、宝石店から貴金属が盗まれ、明らかに盗んだと思われる貴金属を所持している場合や、血の付いたナイフを所持している場合などは、準現行犯に該当する可能性があります。
身体または被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
身体や着ている服に返り血が付いている場合などが、これにあてはまります。
誰何されて逃走しようとするとき
誰何(すいか)とは、呼びとめて何者かと問いただすことです。
警察に声をかけられて逃げようとした場合などが、例として考えられます。
現行犯逮捕と通常逮捕の違い
通常逮捕とは刑事訴訟法第199条に定められた逮捕手続きで、裁判所が発付した逮捕状を根拠に被疑者を逮捕します。
「通常」と名前が付いているのは、日本国憲法が現行犯を除き令状に基づく逮捕を原則としているからで、現行犯逮捕は逮捕状を必要としません。
逮捕状は捜査機関が裁判所に請求し、裁判官が逮捕状発付の可否を判断します。判断に際しては、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうか、被疑者に逃亡・証拠隠滅のおそれがあるかどうかを考慮します。
逮捕状の請求が却下されれば捜査機関は被疑者を逮捕できず、逮捕状の執行時は逮捕状を被疑者に示さなければなりません。
現行犯逮捕と緊急逮捕の違い
緊急逮捕は刑事訴訟法第210条に定められた逮捕手続きです。
緊急逮捕できるのは、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯した被疑者で、急速を要し裁判官の逮捕状を求めることができない場合に限られます。
逮捕時に逮捕状を示す必要はありませんが、被疑者に犯罪の嫌疑と急速を要し逮捕状の発付を待てない理由を告げなければなりません。
逮捕後はただちに裁判官に逮捕状を請求しなければならず、却下されたときはすぐに被疑者を釈放する必要があります。
現行犯逮捕の特徴
現行犯逮捕には、以下の特徴があります。
現行犯逮捕は一般人でも可能(私人逮捕)
1つ目は、一般人でも現行犯逮捕が可能な点です。
刑事訴訟法第213条は、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができると規定しています。
他の逮捕形態(通常逮捕、緊急逮捕)では、私人逮捕は認められていません。通常逮捕、緊急逮捕の権限を有するのは、警察をはじめとした司法警察職員と検察官、検察事務官のみです。
一般人が現行犯以外を逮捕するのは違法
現行犯に該当しない人を、逮捕権限を持たない一般人が逮捕した場合、逮捕罪(刑法第220条)に抵触します。逮捕罪の法定刑は3月以上7年以下の懲役です。
一般人が現行犯逮捕した場合の手続き
一般人が現行犯を逮捕した場合、ただちに身柄を捜査機関に引き渡さなければなりません。
逮捕状が要らない
逮捕状が不要な点も、現行犯逮捕の特徴の1つです。他の逮捕形態では、逮捕状の取得が義務付けられています。緊急逮捕は逮捕時に逮捕状を必要としませんが、逮捕後ただちに裁判官に逮捕状を請求し、請求が認められなければ被疑者を釈放しなければなりません。
現行犯逮捕に逮捕状が不要なのは、犯罪と犯人の関係が明白で誤認逮捕のおそれが低く、逮捕しなければ犯人を取り逃がしてしまう緊急性があると認められるからです。
現行犯逮捕で何時間拘束される?
現行犯逮捕に伴う身柄拘束時間に一律の決まりはありません。現行犯逮捕後は、通常逮捕と同様の刑事手続きがとられます。
どのタイミングで釈放されるかはケースバイケースです。
現行犯逮捕されたらどうなる?逮捕後の流れは?
現行犯逮捕されると、逮捕から48時間以内に身柄が検察官に送致されます。検察官は被疑者の身柄拘束を続ける(勾留)必要があるか判断し、勾留する場合は送致から24時間以内に裁判官に勾留を請求しなければなりません。
検察官が勾留請求しない場合、または勾留請求が却下された場合、身柄拘束は解かれます。一方、勾留が認められると、身柄拘束は原則10日間、最長で20日間続きます。
検察官はこの間に被疑者を起訴するか不起訴にするか判断し、起訴後勾留が認められた場合はさらに2か月間(以後、1か月ごとの更新可能)身柄が拘束されます。
現行犯逮捕できる罪・できない罪
犯罪の中には、現行犯逮捕が多い罪と、一定の要件を満たしていないと現行犯逮捕できない罪があります。
現行犯逮捕できる罪
以下の犯罪は、現行犯逮捕されるケースが多いです。
痴漢
痴漢は、物的証拠や目撃証言を集めるのが難しい犯罪で、現行犯逮捕のケースが多いです。被害者本人や被害者が声をあげて気が付いた周囲の人が現行犯逮捕する場合もあります。

盗撮
盗撮も現行犯逮捕が多い犯罪です。被害者や目撃者が盗撮に気付き、犯人を取り押さえるケースが多いです。

薬物犯罪
薬物犯罪の逮捕パターンとして多いのが、職務質問で違法薬物の所持が発覚するケースです。警察は職務質問の際、通常、所持品検査をします。この所持品検査で薬物が見つかる場合が多く、薬物が違法なものとわかれば現行犯逮捕されます。

銃刀法違反
銃刀法違反についても、職務質問時の所持品検査で携帯していることが発覚し、現行犯逮捕されるケースが多いです。
現行犯逮捕できない罪
30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪は、一定の要件を満たしていないと現行犯逮捕できません。
一定の要件とは、犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合または犯人が逃亡するおそれがある場合です。
拘留とは、1日以上30日未満、刑事施設に身柄を拘束される刑罰で、科料を命じられると1000円以上1万円未満の金銭を納付しなければなりません。
過失傷害罪
刑法第209条は、過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金または科料に処すると定めています。過失傷害罪は、被害者の告訴がなければ検察官が起訴できない親告罪です。
侮辱罪
刑法第231条は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留または科料に処すると定めています。侮辱罪も親告罪です。ただし、令和7年7月7日以降、侮辱罪の法定刑が「1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられています。今後は侮辱罪で現行犯逮捕される事件が発生する可能性があります。
軽犯罪法違反の罪
軽犯罪法の規定に抵触した場合、拘留または科料が科されます。軽犯罪法には、侵入具携帯の罪や虚構申告罪などが設けられています。もっとも、軽犯罪法に抵触する行為を行う場合、軽犯罪法の法定刑よりも重い刑を定める他の犯罪に該当する可能性もあり、軽犯罪法以外の法律に規定する犯行を理由に現行犯逮捕されることもあります。
現行犯逮捕で弁護士に相談すべき理由
現行犯逮捕された場合に、弁護士に刑事弁護を依頼すべき理由を説明します。
早期釈放を得るため
まず、弁護士に刑事弁護を依頼すると、早期釈放が期待できます。
早期釈放を実現するには勾留されないことが重要で、弁護士は勾留されないための活動を行います。具体的には、以下の働きかけを実施します。
- 検察官に勾留請求しないよう意見書を提出する
- 裁判官に勾留請求を却下するよう意見書を提出する
- 勾留が決まった場合は、勾留決定取り消しを求める準抗告を行う
身柄の拘束が解かれるには、被疑者が逃亡・証拠隠滅するおそれが低いと認められなければなりません。釈放後の被疑者を監督する身元引受人を用意するなど、早期釈放を実現するには対策が必要です。

不起訴を得るため
不起訴を獲得することも現行犯逮捕された被疑者にとっては重要です。
一度起訴されれば、罰金刑を含めて有罪になる可能性が極めて高く、有罪になれば前科が付きます。
前科を付けないためには起訴されないことが肝要で、不起訴の獲得に効果的なのが被害者との示談です。被害者との間で示談が成立し、被害者が加害者を許す意思を示せば、検察官は被害者の処罰感情が弱まっていると判断でき、不起訴の可能性が高まります。
弁護士は被疑者に代わり、被害者と示談交渉できます。
まとめ
現行犯逮捕は逮捕状が要らず、一般人でも可能な逮捕形態です。もっとも、現行犯逮捕にも一定の要件があり、要件を満たしていない現行犯逮捕は違法です。
犯罪の中には、現行犯逮捕されることが多いものもあり、現行犯逮捕された際は早急に弁護士に刑事弁護を依頼するのが得策です。現行犯逮捕された場合は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。