虚偽告訴罪とは|思い込みでも虚偽告訴罪?事例や時効についても解説
人を貶める目的などで捜査機関に虚偽の告訴や告発を行うと、虚偽告訴罪が成立します。
虚偽告訴罪は非常に珍しい犯罪であり、知らない人も多いのではないでしょうか。
実際に2019年に女性町議が町長に性被害を受けたと告白を行い、SNSでは町長や議会に対する批判が殺到しました。
しかし、裁判でその告発が事実無根であると明らかになったのは、事件から2年後のことです。この間、被害に遭った町長は、名誉を著しく傷つけられました。
虚偽告訴を行うと、刑事処分を受けるだけでなく、慰謝料を請求される可能性もあります。
この記事では、虚偽告訴罪について以下のポイントを解説します。
- 虚偽告訴罪の概要や時効
- 虚偽告訴罪となるケースや事例
- 虚偽告訴の被害に遭った場合や虚偽告訴をした場合の対処法
目次
虚偽告訴罪とは
虚偽告訴罪とは、人に刑事罰や懲戒処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴や告発を行った場合に成立する犯罪です。
例えば、嫌いな人を貶める目的で、あの人は物を盗んだから刑事処分をしてほしいと捜査機関に虚偽の訴えをする行為は、虚偽告訴に該当します。
(虚偽告訴等)
第百七十二条人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。
ここでは、虚偽告訴罪の目的や対象、時効などの概要を解説します。
虚偽告訴罪の目的
虚偽告訴罪が定められている理由(保護法益)は、適切な国家運営を維持し、個人の私生活の平穏が脅かされないためにあります。
もし虚偽の犯罪が多数でっち上げられ、捜査機関に告訴が相次ぐと、捜査機関や裁判所が無駄な作業を強いられ、司法制度が適切に運用されなくなるおそれがあります。
こうしたリスクを防ぎ、国の司法を適切に運用するために、虚偽告訴罪が定められています。
虚偽告訴罪の対象
虚偽告訴罪が成立するのは、実在する人物が加害者であると虚偽の申告を行った場合です。
自分自身が虚偽の犯罪を申告したり、架空の人物を加害者として申告したりしても、虚偽告訴罪には該当しません。
ただし、架空の人物が罪を犯したと警察に訴えれば、軽犯罪法違反になりますし、自分が犯人の身代わりで出頭すれば、犯人隠匿罪となります。
虚偽告訴罪の時効
刑事事件における時効とは、検挙された人物を刑事裁判で裁くことができる期限のことで、公訴時効と言います。
虚偽告訴罪の公訴時効は7年です。この期限を過ぎると、虚偽告訴罪としての刑事責任を追及することはできなくなります。
虚偽告訴罪の構成要件
虚偽告訴罪が成立する条件(構成要件)は以下のとおりです。
- 虚偽の告訴や告発をすること
- 人に刑事・懲戒処分を受けさせる目的がある
以下、それぞれの要件について詳しく解説します。
虚偽の告訴や告発をすること
虚偽告訴罪の構成要件の一つは、虚偽の告訴や告発、その他の申告を行うことです。この虚偽とは、客観的真実に反することを指します。
例えば、嫌いなAさんを貶めるために虚偽告訴したが、Aさんが本当に犯人だった場合は、客観的真実と一致するため、虚偽告訴罪は成立しません。
告訴や告発、その他の申告は以下の行為のことです。
告訴 | 犯罪事実を申告し、犯人の処罰を捜査機関に求めること |
告発 | 被害者や告訴権者以外の第三者が犯罪事実を申告し、犯人の処罰を捜査機関に求めること |
その他の申告 | 告訴・告発以外の方法で刑事処分や懲戒処分を求めること
行政機関への申告や弁護士会への弁護士の懲戒請求などが挙げられる |
人に刑事・懲戒処分を受けさせる目的がある
もう一つの要件は、他人に刑事処分や懲戒処分を受けさせる目的があることです。
例えば、嫌いな人を刑務所に入れてやろう、懲戒解雇に追い込もうといった意図が挙げられます。
なお、虚偽告訴罪は、捜査機関や懲戒処分をする相手に申告が届いた時点で成立します。
思い込みによる告訴は虚偽告訴罪になる?
例えば、あの人が犯人に違いないと思い込んで告訴をした結果、実際には相手が犯人でなかった場合でも、虚偽告訴罪は成立するのでしょうか。
心当たりのある人物を犯人だと思い込んで告訴した場合、それが事実と異なっていたとしても、虚偽告訴罪に該当しません。
虚偽告訴罪が成立するには、意図的に虚偽の申告をした場合に限られます。
相手が犯人でない可能性を認識しつつ、処罰されても構わないと思って申告した場合も、未必の故意による虚偽告訴罪が成立します。
ただし、実務上は、申告者が意図的に他者を陥れようとしたのか、単に思い込みや誤解で申告したのかを立証するのは困難です。そのため、虚偽告訴罪として扱われる事例は少ないです。
虚偽告訴罪により問われる責任
虚偽告訴罪が成立した場合、どのような罰則や責任が問われるのでしょうか。
刑事裁判で刑事責任を問われる
虚偽告訴罪の罰則は3か月以上10年以下の懲役です。罰金刑は定められていません。
民事訴訟で損害賠償請求を受ける
虚偽告訴によって他人の名誉や権利を侵害した場合、民事訴訟で損害賠償を請求されることがあります。
民法には、故意や過失により、人の権利や法律上保護される利益、人の体や自由、名誉などを侵害した場合、それにより生じた損害を賠償する責任を負うと定められています。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
このように、虚偽告訴によって人の名誉を毀損した場合は、民事訴訟を提起され、損害賠償請求を受ける可能性があります。
名誉毀損とは、公然と具体的な事実を示して人の名誉を傷つける行為を指します。
特に、虚偽告訴によって逮捕や長期間の身柄拘束を受け、仕事を失ったり社会的信用が失墜したりした場合、その損害は非常に大きなものとなります。
結果として、損害に応じた賠償が命じられることも考えられます。
事案にもよりますが、名誉毀損における慰謝料の相場はおおよそ10~50万円程度とされています。
虚偽告訴罪の事例
虚偽告訴罪の事例として話題となったのが、冒頭でお伝えした女性町議が、町長から性被害を受けたと告白した事件です。
この事件は、2019年にライターの取材を受けた女性議員が、町長から性被害を受けたと告白したことから始まりました。
ライターは取材内容をそのまま出版しましたが、その結果、SNSでは町長に対する批判が殺到し、町長はリコールで解職に追い込まれました。
その後、元町議の女性が町長を強制わいせつで刑事告訴しましたが、不起訴となりました。
一方で、虚偽告訴罪および名誉毀損罪で告訴されたライターには、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。
元町議の女性も虚偽告訴罪および名誉毀損罪で在宅起訴されました。民事訴訟では、元町議の女性に対して、165万円の賠償が命じられています。
参考:「町長から性被害」訴えた元草津町議を在宅起訴 名誉毀損罪などで – 朝日新聞デジタル
虚偽告訴罪に類似する犯罪
ここでは、虚偽告訴罪に類似する犯罪について解説します。
名誉毀損罪
名誉毀損罪とは、公然と事実を適示して人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です。
(名誉毀き損)
第二百三十条公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
例えば、不特定多数が知り得る状況や、ネットへの書き込みによって、Aさんに物が盗まれたなどと公表し、事実か否かに関わらず名誉を傷つけた場合が該当します。
名誉毀損罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。
虚偽告訴に加えて、不特定多数に犯人はあの人だと公表すると、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
偽証罪
偽証罪とは、裁判で宣誓をした人が虚偽の陳述をした場合に成立する犯罪です。
裁判では証人が、良心にしたがって、真実を述べ何事も隠さず、また何事も附け加えないと誓い、証言を行います(刑事訴訟規則第118条)。
しかし、証人が自分の記憶に反する陳述をした場合、偽証罪に問われる可能性があります。
(偽証)
第百六十九条法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。
偽証罪の罰則は、3か月以上10年以下の懲役です。虚偽告訴だけでなく、裁判で被害者として虚偽の陳述をすれば、偽証罪が成立します。
虚偽申告の罪
虚構の犯罪や火災の事実を公務員に申し出た場合は、軽犯罪法に定められた虚偽申告の罪が成立します。
虚偽告訴罪とよく似ていますが、虚偽申告の罪は告訴や告発は不要です。存在しない犯罪や災害について、捜査機関や消防職員などに虚偽の通報や申告を行った場合に該当します。
十六虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者
虚偽申告の罪の罰則は、拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)または科料(1,000円以上1万円未満の罰金)です。
恐喝罪・詐欺罪
虚偽告訴罪は、性犯罪の冤罪などで起きる可能性がありますが、それと類似した犯罪として、恐喝罪や詐欺罪があります。
恐喝罪(刑法第249条) | 人を恐喝して財物を交付させた場合に成立する犯罪 |
詐欺罪(刑法第246条) | 人を欺いて財物を交付させた場合に成立する犯罪 |
美人局では、男女が性的関係を持とうとした際や実際に関係を持った後に、女性の恋人が現れて、金品を恐喝する手口が典型例です。
ほかにも、女性が妊娠をしたと偽り、相手の男性から金銭を支払わせた場合は、詐欺罪が成立する可能性があります。
虚偽告訴罪の被害に遭った場合の対処法
虚偽告訴罪の被害に遭いやすいケースとして、痴漢の冤罪や美人局などが挙げられます。
実際に、示談金目当ての男女が共謀して、別の男性を痴漢の犯人に仕立て上げ、逮捕させた事例もあります。
もし痴漢などの冤罪被害に遭った場合は、毅然とした態度で、痴漢行為はしていないと相手に伝えましょう。
移動中にトラブルが発生した場合は、その場で弁護士に連絡するのが得策です。弁護士に相談することで、すぐに駆けつけてもらえたり、適切なアドバイスを受けたりすることができます。
さらに、相手の証言が当初と変化することもあるため、会話を録音しておくと後の証拠として役立つでしょう。
万が一逮捕されてしまった場合は、弁護士や当番弁護士に連絡をして接見をしてもらい、取り調べへの対応を相談することが重要です。

虚偽告訴をして警察に捜査されている場合の対処法
虚偽告訴により警察から捜査されている場合は、早い段階で虚偽告訴であることを正直に伝えることが大切です。
虚偽の申告をした事件について、裁判が確定する前や懲戒処分が行われる前に自白することで、刑が軽減または免除される可能性があります。
(自白による刑の減免)
第百七十三条前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
さらに、被害者と示談することで、不起訴処分が得られる可能性もあります。
特に、被害者は虚偽告訴により名誉を侵害され、経済的・精神的に大きなダメージを受けています。弁護士を通じて真摯に謝罪し、被害弁済を行うことが重要です。
まとめ
虚偽告訴罪は、人に刑事罰や懲戒処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴や告発を行った場合に成立します。
虚偽告訴を行えば、被害者の人生を大きく狂わせるだけでなく、本当に犯罪被害を受けた人が、被害を申告できなくなるなどの社会的な影響を与える可能性があります。
もし虚偽告訴の被害に遭ったり、関与したりした場合は、弁護士に相談して適切なサポートを受けましょう。