情状酌量とは|情状酌量となる基準や判例は?情状証人との違い
情状酌量とは、刑事裁判で、裁判官が被告人(裁判で裁かれる人)の事情を考慮して、刑罰を軽くすることを指します。
情状酌量という言葉は、日常はもちろん、ニュースで聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
裁判官が被告人に刑を言い渡す際は、皆一律に同じ量刑を言い渡しているわけではありません。
犯行の内容はもちろんですが、その他に被告人の生い立ちや家庭環境、動機、反省、被害弁済などが考慮されて決定されます。
この記事では情状酌量に関して、次の点をわかりやすく解説します。
- 情状酌量とは|刑が減刑される基準
- 実際に情状酌量があるとされた事例
- 殺人罪でも情状酌量があるとして執行猶予がついた事例
目次
情状酌量とは
情状酌量は、刑事裁判において、裁判官が被告人の事情や背景を汲み取り、言い渡す量刑を軽くすることです。
[名](スル)刑事裁判において、同情すべき犯罪の情状をくみ取って、裁判官の裁量により刑を減軽すること。「情状酌量する余地がある」
引用:デジタル大辞典
わかりやすく言えば、被告人にも色々同情すべき点があるかもしれないから、刑罰を決めるにあたって、その事情を汲んで刑を軽くしてあげましょうということです。
情状酌量は、刑法第66条に定められており、法律用語では、酌量減軽と言います。
(酌量減軽)
第六十六条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。
引用:刑法第66条 – e-Gov
例えば、同じ殺人であっても、被害者が気に食わないから殺した人と、被害者から長年暴力を受けてやむを得ずに殺した人に対し、一様に同じ罰を与えてしまうと、後者には重すぎる処分となります。
そのため、個々の事情を照らし合わせて公平に刑を言い渡すために、情状酌量の制度が設けられているのです。
情状酌量で考慮される事情
情状酌量で考慮される事情には、次のものがあります。
- 犯罪の情状
- 被告人の背景事情(一般的な情状)
ここでは、どういった事情が情状酌量として、減軽される基準となるのか解説します。
犯罪の情状
犯罪の情状とは、犯罪に関する事情のことです。裁判では、~を考慮しても犯情は重い、犯情は悪いなどと表現されます。
犯情で考慮される事情は次のとおりです。
- 犯行に至る経緯や動機、目的
- 犯行の計画性、故意か過失か
- 犯行の手段、凶器の有無
- 結果の重大性、被害者の死亡の有無、ケガの程度、後遺症の有無、被害額の大小
- 単独か共犯か、共犯との主従関係や役割
- 犯罪直後の被告人の言動、被害者の救護措置の有無、自首の有無
- 事件が与えた社会的な影響 など
被告人の背景事情(一般的な情状)
被告人の事情では、次の点が考慮されます。
- 被告人の生い立ちや家庭環境、年齢、性格、学歴、家族関係
- 被告人の職業の地位や収入、勤務態度
- 被害者との関係、共犯者との絶縁
- 被害者の状況、反省の有無、被害者への謝罪や被害回復への努力、示談の有無
- 被害者の処罰感情や宥恕
- 被告人の前科前歴、常習性、再犯の可能性、更正の可能性、保護監督者の有無、定職に就くなどの再犯防止のための環境整備の有無
- 盗癖や酒癖、薬物依存の傾向、性犯罪に関する性癖の有無
- 長期間の勾留による制約や被告人が受けた社会的制裁(解雇、社会的信用の失墜)など
このようにありとあらゆる内容が一般的な情状として考慮されます。
情状酌量以外の法律上の減軽事由
こうした情状酌量以外にも、法律上減軽される事由があります。
例えば、次のような事情があると、減軽された刑罰が言い渡されることになります。
心神耗弱(刑法第39条) | 精神疾患などで判断能力が著しく減退している場合は、減軽される |
緊急避難(刑法第37条) | 災害などで自己や他人の生命、身体、自由や財産などの危機を避けるためにやむを得ずした行為で、避けようとした実害が、緊急避難で生じた害を超えない場合は処罰しない
超えた場合は減軽、免除される場合がある |
未遂犯・中止犯(刑法第43条) | 犯罪に着手して未遂に終わった者は減軽することができる
自分の意思により中止したときは減軽、免除することができる |
自首(刑法第42条) | 犯罪や犯人であることが捜査機関に発覚する前に自首したときは減軽することができる |
従犯(刑法第63条) | 犯罪の実行を手助けした場合は、従犯として正犯よりも減軽される |
減軽についても次のとおり分類することができます。
必要的減軽 | 条文が定めるよりも軽い刑を適用しなければならない
例:心神耗弱、中止犯など |
任意的減軽 | 軽い刑を適用することができる
例:情状酌量、自首や未遂犯など |
ニュースなどでよく知られる心神耗弱は、必要的減軽により、軽い処分が下されることになります。
情状酌量は、任意的減軽といい、条文で定められるよりも軽い刑を適用することができます。
情状酌量を適用するかどうかは、裁判官の裁量にゆだねられています。
一方で、必要的減軽では、条文が定めるよりも軽い刑を適用しなければならないと決められています。
参考:法廷用語の日常語化に関するPT最終報告書 – 日本弁護士連合会
情状酌量により減軽される範囲
ここでは、情状酌量によりどの程度減軽されるのか解説します。
情状酌量により減軽される刑罰
情状酌量で減軽される範囲も、刑法で定められています(刑法第68条、71条)。
刑罰 | 説明 | 減軽の範囲 |
死刑 | 命で償う生命刑 | 無期懲役、または10年以上の懲役や禁錮 |
無期懲役 | 刑期の定めがない懲役 | 7年以上の有期懲役または禁錮 |
有期の懲役や禁錮 | 刑期の定めがある懲役、刑務作業のない禁錮 | 長期および短期の2分の1を減ずる |
罰金 | 金銭を支払う財産刑 | 上限及び下限の2分の1を減ずる |
拘留 | 1日以上30日未満独居房で過ごす自由刑 | 長期の2分の1を減ずる
|
科料 | 1,000円以上1万円未満が科される財産刑 | 上限の2分の1を減ずる |
有期懲役の場合は、長期および短期の2分の1を減ずるとあります。
例えば、10年以下の懲役であれば、2分の1にした5年以下の範囲で懲役が決定します。
犯罪によっては次のように、定められた刑罰が複数ある場合もあります。
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
引用:刑法第199条 – e-Gov
殺人罪でも、死刑なのか、無期懲役なのか、5年以上の懲役なのか、判断が分かれます。
例えば、死刑を言い渡す際に、情状酌量があれば、無期懲役や10年以上の懲役と判断される可能性があるでしょう。
言い渡された量刑によっては執行猶予がつく
情状酌量で刑が軽くなった場合は、言い渡された量刑によっては執行猶予がつく可能性があります。
執行猶予がつく条件は次のとおりです。
対象者 | 以前に禁固以上の刑が科されたことがない |
以前に禁固以上の刑に処されたが、服役や執行猶予から5年以上経過している | |
条件 | 言い渡された量刑が3年以下の懲役か禁錮、または50万円以下の罰金 |
以前に禁固以上の刑が科され、その刑で執行猶予中に犯した罪があっても、言い渡された量刑が1年以内の懲役や禁錮で、汲むべき事情があるような場合も、執行猶予がつきます。
そのため、減軽された刑罰が3年以下の懲役になったような場合は、執行猶予がつく可能性があります。
情状酌量とよく似た言葉の違い
刑事事件はニュースで報道されていますが、犯罪と無縁の生活をおくっている人には、刑事事件の手続きや用語が難しく感じることもあるでしょう。
ここでは、情状酌量とよく似た言葉の違いを解説します。
酌量・斟酌との違い
情状酌量とよく似た言葉には、斟酌(しんしゃく)などがあります。
酌量とは、裁判官が刑罰を判断する際に、被告人の事情(情状)を考慮して減軽することです。
斟酌とは、相手の事情や心情を汲み取って、加減をするという意味です。
法律では、斟酌以外にも、勘案(かんあん)などの言葉が用いられますが、いずれもさまざまな事情を考慮することです。
減刑との違い
減刑とは、刑を軽くすることです。しかし、情状酌量で減軽される場合の減軽と意味は異なります。
減刑は、すでに確定した刑罰を軽くすることで、恩赦(おんしゃ)の一種です。
減軽は、裁判官が言い渡す刑罰を軽くすることです。
恩赦との違い
減刑は恩赦の一種です。
恩赦というのは、裁判の手続きで行われるのではなく、内閣の決定と天皇の承認によって行われる刑が減刑や消滅する制度のことです。
恩赦は、日本国憲法第7条と73条に定められています。
恩赦の種類は次のとおりです。
大赦:有罪判決前の場合、起訴や有罪判決ができなくなり、有罪判決後の場合、刑の言渡しの効力が失われます。
特赦:刑の言渡しの効力が失われます。
減刑:刑種が軽くなったり、刑期が短くなったりします。
刑の執行の免除:刑罰を受ける必要がなくなります。
復権:現行法令上、有罪の言渡しが確定した人に対し、その付随的な効果として、特定の資格の喪失または停止等の資格制限を規定するものが多くありますが、
復権は、刑の執行が終わった人等に対し、刑事裁判において有罪の言渡しを受けたため喪失し又は停止されている資格を回復させるという効力があります。※
引用:恩赦 – 法務省
恩赦は、一度罪を犯して服役している人に更正する意欲をうながす目的があります。
ただし、恩赦があるからといって、誰でも減刑などが行われるわけではありません。
恩赦が認められるにも、被害者の感情に配慮し、更正しているかどうかなどを個々に審査した上で決定されます。
減刑などの恩赦は近年慎重に議論されており、2019年に元号が変わり天皇が即位される際は、復権のみが行われました。
情状証人とは
情状証人とは、刑事裁判で被告人の罪が少しでも軽くなるように、被告人の情状を証言する人のことです。
例えば、被告人の性格や生活状況、反省の態度、今後更正のためにどのように監督するのかなどを証言します。
情状証人の証言により、裁判官は被告人の人となりや生活状況、更正の可能性などを知ることができます。
被告人をよく知り、今後更正のために監督できる同居家族、両親や配偶者などが情状証人になるケースが多いです。
実際に情状酌量があるとされた事例
実際の裁判例から、情状酌量があるとされた事例を紹介します。
被害者と示談が成立している
刑事裁判においても、被害者と示談を行い、被害の回復に努めている点は、情状酌量として影響します。
以前通っていた大学の同じサークルに所属していた知人Aに対しての暴行、知人Bに対して顔に硫酸をかけて後遺症を負わせた事件の裁判では、次の点が考慮されて、懲役3年6か月が言い渡されました。
被告人が、公判において、事実関係を認め、A及びBと二度と接触しないなどと述べ、Aに対しては20万円を支払って示談を成立させ、Aから告訴取下げの意思が表明されるに至ったこと、Bに対しては被害弁償の一部として800万円を支払い、Bの処罰感情は今なお厳しいが、慰謝の努力がみられること、また、更生支援計画が策定され、親族による支援等も見込まれること、被告人に前科はないことなどの事情も認められるので、これらの事情も考慮し、主文掲記の刑に処するのを相当とする
引用:判例 – 裁判所
この事件は、サークルで活動していた当時、知人AおよびBからからかわれたことを理由に両者を狙ったことや、被告人に自閉症の影響があったと認められています。
裁判では、計画的な犯行であり、犯情は悪質、自閉症の影響を斟酌するにも限度があるとしながらも、被害回復などの事情が考慮されて、検察が求刑する懲役6年よりも減軽されました。
令和5年2月28日 東京地方裁判所刑事第18部宣告 令和3年刑(わ)第3156号 暴行、傷害被告事件 |
更生の意欲がある
更生の意欲があるかどうか、再犯防止の環境が整っているかどうかも、情状酌量として考慮されます。
大麻を使用していた被告人の裁判では、18歳ころから仕事の緊張を緩和するために大麻を使用するようになり、辞める機会があったにも関わらず、継続して使用し、依存性や常習性が認められました。
しかし、次の点を考慮して、求刑懲役6か月に対して、執行猶予3年が付されました。
他方で、被告人にはこれまで前科前歴がなく、事実を認めて反省の態度を示し、大麻の関係者との連絡を絶つなどして更生を図ろうとしている。被告人の母親や仕事関係者も被告人の更生を支援する旨の上申書を提出している。
このような被告人のために酌むべき事情も考慮すると、被告人に対しては、主文の刑に処した上、その刑の執行を猶予するのが相当である。
引用:判例 – 裁判所
薬物や繰り返す窃盗行為や、性犯罪などでは、再犯防止が大きな鍵となります。
更正を図るために、犯罪に関与する友人との絶縁や、監督者の存在、依存症の治療を受けているかどうか、更正に努めているかどうかも考慮されます。
令和5年9月1日 東京地方裁判所 令和5年特(わ)第1291号 大麻取締法違反被告事件 |
身元引受人や監督者がいる
再犯の可能性などを考慮した場合に、身元引受人や監督者がいることは情状酌量として考慮されます。
専門学生が大麻を複数回使用、後輩らとの使用や、大麻の譲渡が行われ、親和性がある、大麻の害悪を拡散していて悪質とされた裁判では、次の点が考慮され、懲役8か月が言い渡されました。
被告人に前科はないこと,被告人が反省の意思を示していること,被告人の母が出廷し,被告人の更生のため同人を監督する旨述べていることなど被告人に酌むべき事情も存在する。
引用:判例 – 裁判所
令和3年12月22日 京都地方裁判所 令和3(わ)27 大麻取締法違反 |
被告人の生い立ちなどが考慮された
刑事裁判では、被告人の生い立ちなども、量刑を言い渡すにあたり、情状酌量として考慮されます。
親から育児を押し付けられて、兄弟を死亡させた裁判では、次の点が考慮されて、懲役5年の求刑から、懲役3年、執行猶予5年が言い渡されました。
犯行に至る経緯,動機についてみるに,被告人は,父から幼少期等に暴力を受け,母からは弟妹への暴力を指示されるなど,暴力肯定的な家庭で生育した。そのような生活の中,弟らの世話を押し付けられ,これが知的障害を有する被告人にとっては過度の負担となっていたものの,両親に逆らうことができず,不満を募らせて犯行に及んだと認められる。何ら落ち度がない被害者に暴行を加えた点は非難を免れないものの,劣悪な家庭環境に置かれる中,知的障害の影響により自力でそこから逃れることができず,犯行に及んだ点は相応に酌むべき事情といえる。
引用:判例 – 裁判
この他、次の点も考慮されました。
- 被告人には軽度の知的障害があること
- 両親と別居してグループホームへの入居が決まっていること
- 支援が受けられること
- 朝晩に被害者の冥福を祈るなど反省の態度があること
- 前科がないこと
令和2年9月18日 大阪地方裁判所 令和1(わ)2860 傷害致死 |
殺人罪でも情状酌量があるとした判決
殺人罪であっても、情状酌量があると判断され、減軽や執行猶予がついた判例もあります。
殺人罪の場合、法定刑は死刑、無期懲役、もしくは5年以上の懲役です。
しかし、5年以上の懲役であっても、情状酌量で2分の1まで減軽されれば、刑罰は懲役2年5か月となり、執行猶予がつくケースもあります。
ここでは、実際に殺人罪で情状酌量があるとされた事例を紹介します。
40年介護した妻を殺害した事件
妻を絞殺した夫に、懲役3年、執行猶予5年の判決が言い渡されました。
半身まひの妻を40年間献身的に介護してきたが、自身も体が動かないことが多くなり、心理的に追い詰められた末の犯行でした。
裁判官は、介護の苦労は想像を絶するため強く非難するのはやや酷である点や、自ら110番して自首した点を考慮して、懲役5年の求刑から、減軽して執行猶予がつく判決を下しました。
参考:妻殺害の81歳被告に猶予判決 40年介護「想像絶する」 – 産経新聞
精神疾患を持つ娘を殺害した事件
精神疾患の長女を殺害した被告人の裁判では、懲役3年、執行猶予5年の判決が下されました。
被告人は、重い精神疾患がある長女を長年にわたり面倒を見続けていましたが、肉体的精神的にも限界に達しており、病身の妻に暴力をふるうのを見て、殺害を決意。
長女に対しても、苦しむ娘を救えなかったのが一番の罪と後悔をにじませました。
裁判官は、約20年に渡り長女の面倒を見て努力し、心身ともに限界を迎えた末の犯行であり、強く非難することはできないとし、被告人が高齢であること、病身の妻がいることなどを考慮して、上記の量刑を言い渡しました。
参考:「肉体的、精神的に限界迎えた」 精神疾患の41歳長女殺害、81歳父に異例の猶予判決 傍聴席からもすすり泣く声 – 産経新聞
まとめ
情状酌量は、被告人の背景などを考慮して、刑罰を軽くする制度です。
ただし、情状酌量があるからといって、必ずしも減軽されるわけではありません。
犯情が悪いような場合では、情状酌量を考慮しても減軽されないケースもあります。
被告人のこれまでの生い立ちや家庭環境、年齢や性格、犯行までの経緯、被害回復の有無、前科前歴、更正の可能性などの他、犯行時の言動なども含めて、総合的に判断されることになります。
情状酌量は司法における公平性を保つために重要な制度なのです。