緊急逮捕の要件とは|現行犯逮捕や通常逮捕との違いと緊急逮捕の事例

痴漢行為などをした場合、現行犯逮捕されるケースが多いです。

また、逮捕状を示して行う通常逮捕もドラマなどで見聞きしたことがある人もいるでしょう。

逮捕にはもう一つ、一定の要件を満たすと行われる緊急逮捕があります。

この記事では、時々ニュースで耳にするものの、あまり馴染みのない緊急逮捕について、次の点を解説します。

  • 緊急逮捕とは?
  • 緊急逮捕の要件や行われるケース
  • 緊急逮捕と現行犯逮捕、通常逮捕との違い

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緊急逮捕とは

緊急逮捕とは、重大事件の被疑者に対して、緊急を要する場合に、逮捕状を発付する前に緊急に行われる逮捕の一種です。

逮捕は逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に行われます。

しかし、裁判で有罪となっておらず犯人だと断定されていない人を、単に怪しいという理由だけで、警察が勝手に逮捕することはできません。

逮捕は、被疑者にとって大きな不利益となるため、相当の理由を示し、裁判所の許可を得て逮捕状を発付してもらった上で行うことが原則です(逮捕状主義)。

これは、警察などの国家権力が暴走して、誤認逮捕や不当な逮捕が行われないように定められています。

しかし、指名手配犯を見つけた場合など、裁判所が逮捕状を発付するのを待っていては、被疑者に逃げられてしまうおそれがあります。

そのため、重大事件で緊急を要する場合は、例外的に逮捕状を発付する前に、緊急で身柄拘束できるのが緊急逮捕です。

緊急逮捕の要件

緊急逮捕を行うには、一定の要件を満たす必要があります。

第二百十条検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

引用:刑事訴訟法第210条|e-Gov

重大な犯罪であること

緊急逮捕が行えるのは、死刑、無期懲役、または3年以上の懲役や禁錮にあたる重大な犯罪に限られます。

例えば、次の犯罪が一例として挙げられます。

罪名 刑罰
殺人罪(刑法第199条) 死刑、無期懲役、5年以上の懲役
強盗罪(刑法第236条) 5年以上の懲役
現住建造物等放火罪(刑法第108条) 死刑、無期懲役、5年以上の懲役
詐欺罪(刑法第246条) 10年以下の懲役
傷害罪(刑法第204条) 15年以下の懲役または50万円以下の罰金
不同意わいせつ罪(刑法第176条) 6か月以上10年以下の懲役
不同意性交等罪(刑法第177条) 5年以上の懲役
窃盗罪(刑法第235条) 10年以下の懲役、50万円以下の罰金
恐喝罪(刑法第249条) 10年以下の懲役

上記は一例です。一方で、次の犯罪は、死刑、無期懲役、3年以上の懲役や禁錮にあたる犯罪ではないため、緊急逮捕はできません。

  • 暴行罪
  • 脅迫罪
  • 軽犯罪法違反
  • 軽微な痴漢行為(迷惑防止条例違反)など

罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があること

逮捕状を発付してから行われる通常逮捕では、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由が必要です。

第百九十九条検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。

引用:刑事訴訟法第199条|e-Gov

これに対して、緊急逮捕では、罪を犯したと疑うに足りる十分な理由が必要とされます。

この十分な理由とは、単なる疑い以上の強い疑いでなければなりません。

例えば、職務質問をした際に挙動不審で怪しいという主観的な理由ではなく、客観的な証拠や目撃証言、本人の自白などが必要です。

緊急逮捕は、逮捕状をもとに行われるべき逮捕の例外的な行為であるため、より慎重に判断するために、通常逮捕よりも厳しい要件を設けています。

緊急を要し裁判所に逮捕状を求めることができないこと

緊急逮捕の三つ目の要件は、緊急を要し裁判所に逮捕状を求めることができないことです。

裁判所に逮捕状を請求している間に、強い疑いのある被疑者を取り逃したり、証拠隠滅をされたりするおそれが高い、切迫した状態を指します。

また、逮捕する際には、逮捕状を提示し、犯罪事実を告げてから逮捕しなければなりません。

緊急逮捕でも、逮捕時に被疑者に逮捕の理由と緊急を要することを告げて行う必要があります。

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緊急逮捕後に逮捕状を求めること

緊急逮捕の四つ目の要件は、緊急逮捕後ただちに裁判所に逮捕状を求めることです。

緊急逮捕から何時間以内に逮捕状を請求しなければならないと、具体的に法律で定められているわけではありません。

実務上は、緊急逮捕から1~2時間以内に逮捕状が請求されることが多いです。

半日や、10時間近く経過してから逮捕状を請求しても、遅すぎると却下されることが考えられます。

逮捕状が発付されないときは、ただちに被疑者の身柄を釈放しなければなりません。

このように、緊急逮捕はあくまでも緊急の際の例外的な行為であるため、逮捕状主義が形骸化しないために、厳しい条件を設けています。

緊急逮捕が行われるケース

指名手配犯を見つけた

緊急逮捕が行われるケースの一つが、指名手配犯が見つかった時です。

指名手配犯を見つけても、逮捕状を請求している間に逃亡されるおそれがあるため、犯罪事実を告げて緊急逮捕を行います。

なお、指名手配は、すでに逮捕状が発付されていて、逃亡している被疑者に対して行われます。

すでに逮捕状が発付されていても、指名手配犯を見つけた警察官が、逮捕状を所持していないこともあるため、その際は緊急執行が行われます。

緊急執行とは、犯罪事実と逮捕状が発付されていることを被疑者に告げて逮捕することです。

緊急執行も、逮捕後速やかに被疑者に逮捕状を示す必要があります。

ただし、指名手配をした警察署と、実際に逮捕された警察署が遠方である場合は、逮捕状の提示に時間がかかり、緊急執行が違法になる可能性があります。

こうした場合は、緊急執行ではなく、緊急逮捕が行われることがあります。

犯行後に警戒している警察官に見つかった

実際に事件を起こした後に、捜査中の警察官に見つかって緊急逮捕が行われることもあります。

実際に事件を起こした後であれば、現行犯逮捕が適用されると考えられるかもしれません。

しかし、現行犯逮捕は、実際に目の前で犯罪が行われたか、犯罪が行われた直後でないと逮捕できません。

犯行時刻から時間が経過していたり、事件現場から離れすぎたりしていると、現行犯ではないと判断される可能性があります。

緊急逮捕と現行犯逮捕の違い

逮捕には、緊急逮捕の他にも、現行犯逮捕、逮捕状を発付して行う通常逮捕があります。

ここでは、緊急逮捕と現行犯逮捕の違いを解説します。

現行犯逮捕とは

現行犯逮捕とは、目の前で犯罪を行った人や、犯罪を行った直後の現行犯人を、逮捕状なしで逮捕することです(刑事訴訟法第212条)。

現行犯逮捕が認められている理由は、犯罪行為とそれを行った被疑者であることが明白で、誤認逮捕の可能性が低いからです。

現行犯逮捕と緊急逮捕の違いは次のとおりです。

現行犯逮捕 緊急逮捕
逮捕できる人 警察官、私人 警察官だけ
逮捕状の要否 逮捕状は不要 逮捕後に逮捕状が必要

現行犯逮捕は、緊急逮捕と違い、警察官以外が行うことも可能です。

逮捕状は不要ですが、現行犯逮捕後には現行犯逮捕手続書という書面を作成します。

現行犯逮捕の要件

現行犯逮捕の要件は次のとおりです。

現行犯であること 犯罪行為の逮捕が、犯行時刻および犯行現場に近いこと
犯罪行為とそれを行った犯人が明白であること 逮捕者が、犯罪を直接目撃するなど、犯人が明白であること
逮捕の必要性があること 犯人が逃亡や証拠隠滅をするおそれがある

罰金30万円以下、拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)や科料(1,000円以上1万円未満の罰金)にあたる軽微な罪については、次の要件を満たす必要があります。

要件 犯人の氏名や住居が明らかでないとき

犯人が逃亡するおそれがあるとき

対象となる犯罪 軽犯罪法違反

過失傷害罪

侮辱罪など

参考:刑事訴訟法第213条|e-Gov

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緊急逮捕と通常逮捕の違い

通常逮捕とは

通常逮捕とは、警察が捜査を行い、裁判所に逮捕状を発付して行われる逮捕のことです。

通常逮捕の場合は、早朝、被疑者が自宅にいる時間帯を見計らって行われることがほとんどです。

司法統計によると、2023年に逮捕状が発付された逮捕のうち、93.7%が通常逮捕でした。

前述のとおり、不当な逮捕や誤認逮捕が行われないために、逮捕状を発付して行う通常逮捕が原則であり、一般的です。

通常逮捕と緊急逮捕の違いは次のとおりです。

通常逮捕 緊急逮捕
逮捕状の請求のタイミング 逮捕前 逮捕後
対象事件 制限なし 死刑、または無期懲役、もしくは3年以上の懲役や禁錮にあたる罪

通常逮捕の要件

通常逮捕の要件は次のとおりです。

  • 被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある
  • 逃亡や証拠隠滅をするおそれがある

参考:刑事訴訟法第199条刑事訴訟規則第143条の3

これに加えて、発付された逮捕状を被疑者に示してから、行う必要があります。

通常逮捕の要件は、他の逮捕でも共通です。

現行犯逮捕でも、緊急逮捕でも、犯人や被疑者が逃亡や証拠隠滅のおそれ(逮捕の必要性)がある場合にのみ行うことが可能です。

例えば、被疑者が著名である場合や、会社の役員など、逃亡をしないと考えられる時は、逮捕状が認められないことが考えられます。

通常逮捕は、緊急逮捕や現行犯逮捕と異なり、対象事件に制限がありません。

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実際に緊急逮捕が行われた事例

ここでは、実際に緊急逮捕が行われた事例を紹介します。

自宅で女性を死亡させた男性を緊急逮捕

警視庁は、女性を死亡させたとして、殺人未遂の疑いで元交際相手の男性を緊急逮捕しました。

男性の知人が、男性から女性を殺したと言われ、交番に届け出たことで事件が発覚しました。

警察や救急隊が現場のマンションに駆け付けましたが、女性の死亡が確認されました。

警察は、防犯カメラの映像などの証拠をもとに、男性を緊急逮捕しました。

参考:大田区の一室で19歳女性死亡 21歳男逮捕「殺すつもりなかった」|朝日新聞デジタル

立てこもりで医師を撃った男性を緊急逮捕

2022年には、自宅に立てこもり、医師を撃った男性が殺人未遂で緊急逮捕されています。

男性は、母親の治療を巡り医師に恨みを抱いており、医師が自宅を訪ねた際に、散弾銃などで攻撃して、人質にしてから自宅に立てこもりました。

警察は説得を続けていましたが、立てこもりから数時間後、被疑者との連絡が途絶えたため、自宅に突入し、事件発生から11時間後に緊急逮捕しました。

犯行直後の逮捕となりましたが、医師に対する発砲から11時間が経過していたこともあり、現行犯逮捕ではなく緊急逮捕になったと考えられます。

参考:埼玉立てこもり、撃たれた医師が死亡 逮捕の男「訪問看護に怒り」|朝日新聞デジタル

小学生を誘拐しようとした男性を緊急逮捕

大分県警は、わいせつ略取未遂の疑いで、会社員の男性を緊急逮捕しました。

男性は市内の路上で、一人で登校中の女子小学生を、強引に車に連れ込もうとしました。

通行人が目撃し、子どもが誘拐されそうになっていると通報したことで、男性は逃走。

その後警察の緊急配備が行われ、発生から30分後に男性の車が発見され、逮捕となりました。

参考:女子小学生を軽ワゴンに連れ込み、わいせつな行為しようとした疑い…緊急配備で男逮捕|読売新聞オンライン

緊急逮捕後の流れ

緊急逮捕後の流れは、通常逮捕や現行犯逮捕と同様に次のとおりです。

緊急逮捕から警察の取り調べが行われ、手続き上48時間以内に検察に事件を引き継ぐ決まりとなっています(送致)。

最終的に起訴(刑事裁判)して、刑罰を科してもらうかどうか、訴える権限を持っているのが検察であるためです。

検察は、24時間以内に勾留するかどうかを判断し、裁判所の許可を経て、警察の留置場に被疑者を拘束します。

勾留期間は10~20日間のため、その間に検察が起訴するか、不起訴にするかを判断します。

逮捕された場合、そのまま勾留される可能性が高いです。

起訴されると、刑事裁判が行われて、裁判で有罪か無罪か、有罪の場合は刑罰が決定されます。

なお、起訴後も勾留されると、2か月間拘束される可能性が高く、重大事件の場合は裁判が終了するまで拘束が続くこともあります。

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まとめ

緊急逮捕の要件は、①死刑、無期、懲役や禁錮3年以上の重大な犯罪であること、②罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があること、③緊急を要し裁判所に逮捕状を求めることができないことです。

加えて、緊急逮捕後には裁判所に逮捕状を発付してもらう必要があります。

緊急逮捕後の手続きは、他の通常逮捕や現行犯逮捕と同様です。

家族が逮捕されてしまった場合、勾留決定まで家族は接見(面会)は認められません。

勾留が決定すると、10~20日間身柄が拘束されるなど、私生活にも大きな影響が生じてしまいます。

まずは弁護士に相談し、接見を通じて状況を把握し、今後の見通しに基づいて方針を決め、適切なサポートを受けましょう。

ネクスパート法律事務所では、刑事事件において豊富な実績があります。

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