歯科医師が逮捕されるケース|不正請求などの逮捕事例と逮捕のリスク

歯科医師の業務の中には、歯科衛生士などの補助を受けるものもあります。

しかし、指示を誤ると、歯科医師法や歯科衛生士法などに反して、罪に問われるおそれがあります。

歯科医師が逮捕されたら、場合によっては歯科医師免許を取り消されることもあるため、注意が必要です。

一度免許が取り消されると、再取得を認められるのが難しい場合も考えられます。

この記事では、歯科医師の逮捕について以下の点を解説します。

  • 歯科医師免許が取り消されるケース
  • 歯科医師が逮捕されるケースや不正行為が発覚する経緯
  • 逮捕のリスクや免許の再取得について

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歯科医師が逮捕されたら医師免許を失う?

ここでは、逮捕された場合に、歯科医師免許にどのような影響が生じるのか解説します。

罰金以上の刑に処されると免許が取り消される可能性がある

歯科医師は、罰金以上の刑に処されると免許が取り消される可能性があります。

これは歯科医師法において、免許の欠格事由として規定されているためです。

第四条次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。

一心身の障害により歯科医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

二麻薬、大麻又はあへんの中毒者

三罰金以上の刑に処せられた者

四前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者

引用:歯科医師法第4条|e-Gov

罰金以外にも、心身の障害や、薬物中毒、医事に関する犯罪や不正行為をした場合も、免許が取り消される可能性があります。

刑罰には、種類と重さがあり、没収→科料→罰金→拘留→禁錮→懲役(拘禁刑)→死刑の順で重くなります。

拘留は1日以上30日未満の身柄拘束刑で一見軽いように見えますが、罰金よりも重い処分です。

なお、歯科医師免許が取り消されるのは行政処分であり、刑罰ではありません。

このように逮捕から罰金以上の刑に処されると、歯科医師免許を取り消される可能性があります。

医師として品位を損なう行為があると免許が取り消される

他にも、医師として品位を損なう行為があると免許が取り消される可能性があります。

歯科医師法第7条には、上記の欠格事由以外に、医師として品位を行う行為があった場合に行政指導や行政処分が下されると定められているからです。

第七条歯科医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。

一戒告

二三年以内の歯科医業の停止

三免許の取消し

引用:歯科医師法第7条|e-Gov

歯科医師の行政処分を審議する医道審議会の行政処分の考え方によると、以下の行為は歯科医師や医師の品位を損ない、信頼感を失わせると示しています。

  • 贈収賄
  • 詐欺や窃盗
  • 文書偽造
  • 税法違反

基本的には、刑事処分がなされた後にその量刑を参考として、個々の事案に応じた処分を決定するとしています。

しかし、過去には医療ミスを繰り返した医師に対して、刑事処分が確定する前に処分された事例もあるため、刑事処分が下る前に行政処分となる可能性もないとは言い切れません。

2024年には歯科医師12人に行政処分が下されている

2024年には、歯科医師12人に行政処分が下されています。内訳は以下のとおりです。

(歯科医師)12件

歯科医業停止3年・・・・1件(詐欺1件)

歯科医業停止2年・・・・1件(覚醒剤取締法違反1件)

歯科医業停止1年7月・・1件(道路交通法違反、過失運転致傷1件)

歯科医業停止1年6月・・1件(大麻取締法違反1件)

歯科医業停止1年・・・・2件(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反1件、麻薬及び向精神薬取締法違反1件)

歯科医業停止6月・・・・1件(宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例違反1件)

歯科医業停止3月・・・・1件(北海道迷惑行為防止条例違反1件)

戒告・・・・・・・・・・4件(過失運転致死1件、道路交通法違反1件、道路運送車両法違反、自動車損害賠償保障法違反、過失運転致傷2件)

引用:2024年2月7日医道審議会医道分科会議事要旨|厚生労働省

処分に関しては、刑事処分や個々の事案に応じて決定されますが、2024年に免許が取り消された者はいませんでした。

歯科医師が逮捕される可能性のある行為

歯科医師の場合は、業務上でも、不正請求や医療行為において注意を怠ると、法律違反となり逮捕されるリスクがあります。

ここでは、法律に反する可能性のある行為を解説します。

診療報酬の不正請求をする

歯科医師が業務上で逮捕される可能性のある行為が、診療報酬の不正請求です。

診療報酬の不正請求が行われるケースとしては、以下のものが考えられます。

  • 行ってない治療の治療費を患者に請求する
  • 治療費を水増しして患者に請求する
  • 虚偽の診療報酬明細を各都道府県の審査委員会に提出して医療費を騙し取る
  • 親族や知人などの保険証の番号を利用して架空請求をする

診療報酬の不正請求を行うと詐欺罪が成立します。詐欺の刑罰は10年以下の懲役です(刑法第246条)。

刑事罰の他に、行政処分として保険医療機関と保険医の指定を取り消され、保険診療ができなくなる可能性もあります。

こうした不正を行う背景として、歯科医師の競争激化があると指摘されています。

参考:険診療等において不正請求等が行われた場合の取扱いについて|東海北陸厚生局

「歯医者さん」の倒産 2024年上半期は15件、前年の2.5倍に急増、過去最多ペースで推移|株式会社東京商工リサーチ

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歯科衛生士に歯科医業やレントゲン撮影をさせる

歯科医師が医業を行う際に注意したいのが、歯科衛生士に歯科医業やレントゲンの撮影などを行わせることです。

歯科医師と歯科衛生士はそれぞれ行える業務が異なります。

歯科医師が行うべき行為(絶対的歯科医行為) 歯牙の切削(虫歯治療)、観血的措置(歯茎の切開や切除、抜歯)、歯石除去以外の皮下注射や歯肉注射、精密印象や咬合採得(義歯の嚙み合わせの調整)
歯科衛生士が行うこと スケーリング(歯石除去)、歯牙や口腔に対する薬物の塗布、歯科診療の補助、ブラッシングなどの歯科保健指導

歯科衛生士は、歯科医師の直接指導の下であれば、絶対的歯科医行為以外の診療補助ができます。

例えば、X線の撮影は、歯科医か放射線技師でなければできませんが、X線の準備や説明であれば、歯科衛生士でも可能です。

歯科衛生士が行える業務範囲は細かく項目で分かれているわけではないので、場合によっては、歯科衛生士に指示した業務が歯科衛生士の業務範囲を超えてしまうこともあるかもしれません。

こうした行為をすれば、歯科医師法と歯科衛生士法に違反したとして、逮捕や刑事罰を受けるおそれがあります。

歯科医師法違反(歯科医師法第29条 3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこの両方
歯科衛生士法違反(歯科衛生士法第14条 1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはこの両方

歯科助手にスケーリングをさせる

同様に、歯科助手にスケーリングなどの歯科衛生士の業務を行わせることも禁止されています。

歯科助手は歯科衛生士は業務範囲が明確に異なります。

歯科助手 患者の口腔内に触れない

無資格でも就労可能

業務内容は歯科診療介助、歯科治療の補助(治療器具の準備や洗浄など)、受付や会計、レセプト業務

歯科衛生士 患者の口腔ケアや歯科保健指導などが主

国家資格の取得が必要

歯科助手は専門的な知識が必要ですが、国家資格が必須というわけではありません。

業務内容は明確に分けられているため、歯科助手に口腔内のケア(スケーリングやブラッシング、薬物の塗布など)といった歯科衛生士の業務を行わせることも違法となります。

歯科助手にこうした行為をさせた場合は、歯科衛生士法の違反として、歯科助手と歯科医師が逮捕される可能性があります。

実際に歯科医師が逮捕された事例

前述したとおり、歯科医師はその業務においても注意が必要であり、逮捕されるリスクがあります。

ここでは、実際に歯科医師が逮捕された事例を紹介します。

歯科衛生士に治療させた医師が歯科医師法違反で逮捕

2019年には、歯科衛生士に歯の治療をさせたとして、歯科医師と歯科衛生士がそれぞれ歯科医師法違反および歯科衛生士法違反で逮捕されました。

逮捕された歯科医師は海外に滞在している事が多く、留守の間に歯科衛生士に歯を削るといった医療行為やX線の撮影などを行わせていた疑いが持たれています。

参考:留守の治療は衛生士 歯科医ら歯科医師法違反容疑で逮捕|朝日新聞デジタル

診療報酬を水増しした歯科医師を詐欺で逮捕

2018年には診療報酬を詐取したとして、歯科医師2人が逮捕されました。

歯科医師は、患者の診療回数を28回分水増しして、虚偽の診療報酬明細書を作成した疑いが持たれています。

歯科医師のうちの1人は、2009年頃から同様の手口で不正請求を繰り返していたと供述しており、警察は2011年以降に受け取った診療報酬約9億円のうち、7割程度は不正請求の疑いがあるとして、捜査を続ける方針です。

参考:診療報酬詐取した疑い 都内の歯科医師2人を逮捕|カナコロ

治療と称してわいせつ行為をした医師を逮捕

治療行為中に、女性患者に対してわいせつな行為をした歯科医師が、準強制わいせつ罪(現:不同意わいせつ罪)で逮捕されました。

歯科医師は、治療中の女性患者に対して、歯が悪くなるのは肩こりのせいなどと言って、首や肩をマッサージして、胸を触った疑いが持たれています。

このように、歯科医師の立場を利用して信頼を損なう行為をした場合は、重い処分が下される可能性があります。

参考:女性患者にわいせつ行為 容疑で歯科医を逮捕|産経新聞

歯科医師が逮捕されるリスク

先述したとおり、歯科医師は業務を行う上でも細心の注意を払わなければ、逮捕されるリスクがあります。

ここでは、免許の取り消し以外の観点から、歯科医師が逮捕されるリスクを解説します。

実名報道をされる可能性がある

歯科医師が逮捕された場合は、一般的な犯罪と比較しても、実名報道がなされるおそれがあります。

実名報道をされる基準は法律上明確には決められておらず、各報道機関やメディアによっても異なります。

ただし、容疑者(被疑者)の社会的な地位が高く耳目を集めやすいようなケースでは、実名報道をされやすい傾向があります。

例えば、有名人や医師、公務員、士業などは実名報道をされやすいと言えるでしょう。

歯科医師の立場を利用した診療中の犯罪行為なども、公益性があるとして報道されることが考えられます。

実名報道をされてしまうと、情報が拡散されてしまうほか、ネットメディアに残り続けるおそれがあります。

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10~20日間勾留される

もし逮捕された場合は、そのままセットで勾留される可能性があります。

勾留とは、10~20日間、警察の留置場に身柄を拘束をされることです。

勾留は、証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断された際に、裁判所の許可によって行われます。

検察は、この勾留期間の満了までに、起訴して裁判で審理をしてもらうか、不起訴として事件を終了させるかを判断します。

なお、法務省によると、2022年に刑法に違反して逮捕された人のうち、約96.2%で勾留が認められています。

参考:令和5年版 犯罪白書 第3節 被疑者の逮捕と勾留|法務省

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有罪判決が下されると前科がつく

起訴されて、刑事裁判で有罪判決が下されたり、書面のみの審理で罰金刑が確定したりした場合は、前科がつくことになります。

近年は賞罰欄のある履歴書は少ないため、前科がつくことによって再就職が難しくなるケースは少ないかもしれません。

しかし、執行猶予がつかずに懲役刑が科された場合、刑務所に収容されることになるでしょう。

なお、2022年の日本の刑事裁判の有罪率は、約99.9%と高い割合であるため、起訴される前に不起訴を目指して弁護士のサポートを受けることが重要です。

参考:令和5年版 犯罪白書 第2節 確定裁判|法務省

歯科医師の行為で逮捕されるきっかけ

診療報酬の不正請求や、歯科衛生士や歯科助手に医療行為を行わせても、発覚しないのではないかと考える人もいるかもしれません。

ここでは、歯科医師の行為で逮捕に至るきっかけを解説します。

健康保険組合等のチェック

診療報酬は、保険証を交付している保険者や国保組合に報酬明細を提出して、(委託先の審査支払機関の)審査を経て、支払いが行われます。

レセプト1件あたりの点数が高い場合や、保険者、審査を行った支払基金、または退職した元従業員などから、事業者等の指導や監督を行う厚生局に情報提供が行われた場合、個別指導や監査が行われます。

不正が発覚すれば、場合によっては保険医療機関や保険医の指定が取り消されることがあります。

従業員の内部告発

診療報酬の不正請求だけでなく、従業員に対して医療行為を強要しているような場合は、従業員の内部告発で不正行為が発覚するケースもあります。

従業員はこうした不正行為について、厚生局に公益通報することができます。

参考:公益通報者保護|厚生労働省 関東信越厚生局

患者からの通報

診療報酬の不正請求の場合は、患者から通報されるケースもあります。保険に加入している人には、保険の利用状況がわかる医療費通知が郵送されます。

その医療費通知を確認した際に、治療日数や治療の回数などが水増しされていることが判明し、患者から厚生局に情報提供されて発覚することもあるでしょう。

罰金以上の処された歯科医師は免許を再取得できる?

もし罰金以上の刑に処されて、歯科医師免許が取り消された場合、再取得はできるのでしょうか?

5年以上の期間が必要になる

歯科医師の免許の取り消しを受けた場合、その処分から5年が経過し、再び免許を与えるのが適当だと認められれば、再免許を取得できると歯科医師法に定められています。

第七条歯科医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。

一戒告

二三年以内の歯科医業の停止

三免許の取消し

2前項の規定による取消処分を受けた者(第四条第三号若しくは第四号に該当し、又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつた者として同項の規定による取消処分を受けた者にあつては、その処分の日から起算して五年を経過しない者を除く。)であつても、その者がその取消しの理由となつた事項に該当しなくなつたときその他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときは、再免許を与えることができる。この場合においては、第六条第一項及び第二項の規定を準用する。

引用:歯科医師法第7条|e-Gov

ただし、処分から5年経過するか、もしくは免許取り消しの理由となった事項に該当しなくならなければなりません。

この事項に該当しないというのは、刑の言い渡しの効力が消滅することを指します。

判決で刑が言い渡されても、一定期間経過すれば、刑の言い渡しの効力は消滅し、資格制限が解除されます(刑法第34条の2)。

刑の言い渡しの効力が消滅する期間は、刑罰によって異なります。

懲役や禁錮の場合 刑期を終えてから10年間罰金以上の刑に処されなかった時
罰金の場合 罰金を支払ってから5年間罰金以上の刑に処されなかった時
執行猶予がついた場合 執行猶予期間が経過した時

そのため、5年の待期期間だけでなく、上記の刑の効力が消滅する期間も経過する必要があります

厚生労働大臣の許可を得る必要がある

仮に、5年や刑の効力が消滅する期間が経過していても、無条件に再免許が認められるわけではありません。

さらに厚生労働大臣に、再免許の付与が適切であると判断してもらえるような事情を主張して、認めてもらう必要があります。

このように、一度歯科医師の免許を取り消されてしまうと、再免許を取得するのも難しくなってしまうのです。

まとめ

歯科医師免許は、逮捕が欠格事由とは定められていませんが、場合によっては刑事処分が決定する前に免許が取り消されたケースもあります。

一度免許が取り消されてしまうと、最低でも5年は待期期間が生じ、再取得にあたり厚生労働大臣の許可も必要となるため、簡単ではありません。

日本の刑事事件の有罪率はほぼ100%と高い割合で有罪となるおそれがあるため、起訴されるまでに適切なサポートを受けて、不起訴を目指すことが重要です。

もし歯科医師で逮捕されたり、検察から呼び出されたり、不正行為に関与している場合は、弁護士に相談してください。

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