営業妨害とは|業務妨害との違い・業務妨害はどこから?
営業妨害とは、店舗などの業務を妨害する行為といった意味合いで使われます。
しかし、法律上刑法に違反する業務妨害の範囲は広く、店舗や企業の業務に限られません。
ちょっとしたいたずら心から業務を妨害した場合でも、逮捕や捜査の対象となるリスクがあります。
この記事では、法律上の業務妨害行為について以下の点を解説します。
- 法律上の営業妨害とは
- 威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪とは
- 営業妨害をするとどうなる?営業妨害のリスク
目次
営業妨害とは
刑法上の定義
営業妨害とは、一般的に企業や店舗の業務を妨害する行為を指します。
しかし、営業妨害は法律用語ではありません。法律上は業務妨害と呼ばれます。
業務とは、仕事のことを指すととらえる人が多いかと思いますが、法律上の定義は異なります。
業務とは、職業やその他社会生活上の地位に基づき、反復継続して行われる事務のことです。
具体的には以下のものが法律上の業務に該当します。
- 経済的な利益を目的としたビジネス
- 非営利な活動であるボランティア
- 政党の政治活動、組合活動
- PTA、自治会
- イベント、セミナー
- サークル活動 など
利益の有無に関係なく、文化的・精神的な活動も業務に含まれます。ただし、個人的な趣味や娯楽は業務には該当しません。
こうした業務を妨害すると、業務妨害の罪が成立する可能性があります。
カスタマーハラスメントの定義
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が企業に対して理不尽なクレームや嫌がらせを行うことです。
近年、カスタマーハラスメントが社会問題化しており、2025年4月には東京都で全国初のカスタマーハラスメント防止条例が施行されます。
この条例では、カスタマーハラスメントの禁止や事業者の責務・措置などを定めていますが、刑罰は盛り込まれていません。
カスタマーハラスメントの定義として、以下のものが定められています。
- 顧客の要求内容が妥当性を欠く
- 要求を実現するための手段が違法または社会通念上不相当である
要求を実現する違法な行為としては以下が挙げられます。
- 身体的、精神的な攻撃
- 威圧的、差別的、性的な言動
- 土下座の要求
- 執拗、継続的な言動
- 長時間に渡り拘束する行動をとる
- 個人への攻撃や嫌がらせ
カスタマーハラスメント防止条例は、カスタマーハラスメントの定義と、企業の対応を盛り込んだもので、罰則はありません。
しかし、これらの行為は暴行罪や脅迫罪、恐喝罪などの犯罪に該当する可能性があります。
参考:カスタマーハラスメントを知る – TOKYOノーカスハラ支援ナビ
威力業務妨害罪とは
営業妨害行為によって成立する犯罪の一つが、威力業務妨害罪です。
威力業務妨害罪とは、威力を用いて、人の業務を妨害した場合に該当する犯罪です。
(威力業務妨害)
第二百三十四条威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
ここでは、威力業務妨害罪について解説します。
威力業務妨害罪の威力とは
威力業務妨害罪における威力とは、人の意思を制圧するような強い力や勢いのことです。
具体的には以下のような行為が威力に該当すると判断されます。
- 暴行や脅迫行為で威圧する
- 大声や叫び声を挙げて業務環境を混乱させる
- 生命や身体に対して危険な状態を作り出す
- 集団や地位などを利用して圧力をかける
- 業務に必要なものを意図的に破壊する
威力とは、必ずしも身体的な力や暴力だけを指すわけではありません。心理的な威圧や、社会的影響力を利用した威嚇も含まれます。
過去には以下のような行為が威力業務妨害罪だと判断されました。
- 大声で長時間抗議し乗務員に長時間の対応を強いた
- 飲食店の入り口付近に居座り続けた
- 大学に対して爆破や有害物質の散布を予告した
- 飲食店の醤油に口をつけて飲む動画を投稿した
- 脅迫文を送りイベントを中止させた
- 執拗に複数回のクレーム電話をかけ続けた など
このように、直接的な接触を伴わない方法でも威力業務妨害罪が成立することがあります。
威力業務妨害罪の罰則と時効
威力業務妨害罪の罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。威力業務妨害罪の公訴時効(刑事裁判で訴えられる期限)は3年です。
偽計業務妨害罪とは
業務を妨害した場合に成立するもう一つの犯罪が、偽計業務妨害罪です。
偽計業務妨害罪とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて業務を妨害した場合に該当する犯罪です。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
ここでは、偽計業務妨害罪について解説します。
偽計業務妨害罪の構成要件
偽計業務妨害罪は、虚偽の情報を流したり、偽計を用いたりすることで、他人の業務を妨害した場合に成立します。
虚偽の風説とは | 虚偽の情報のこと、嘘の情報を流すこと
真実の情報は該当しない |
偽計とは | 相手を騙したり、誘惑したり、相手の誤解を利用したりすること
人間だけでなく、機械の誤作動を利用した場合も偽計に該当する可能性がある |
例えば、以下のような行為は、偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。
- あの飲食店は虫が大量に沸いていて不衛生だと虚偽の情報をネットに投稿した
- 飲食店に嘘の注文をして出前を配達させた
- 虚偽の通報を行い消防や警察などを出動させる
- 複数回にわたり無言電話をかけた など
偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪はよく似ていますが、以下のような違いがあります。
威力業務妨害罪 | 偽計業務妨害罪 | |
共通点 | 業務を妨害する | |
相違点 | 暴力や威圧を用いる
被害者にわかる形でなされた行為 |
嘘を用いる
被害者にわからない形で成された行為 |
また、他人の経済的信用を毀損する行為は、信用毀損罪に該当します。例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- あの会社は経営が苦しいからもうすぐ倒産すると虚偽の投稿をした
- あの会社は赤字だから、従業員に給料が支払われていないと嘘の情報を流した
偽計業務妨害罪の罰則と時効
偽計業務妨害罪の罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。公訴時効は3年です。
営業妨害はどこから?犯罪に該当した例
業務妨害行為が刑法に反するのは、業務を妨害した場合です。ここでは、営業妨害行為が犯罪に該当した例をいくつか紹介します。
コロナだと町役場を閉鎖させた例
町役場で新型コロナウイルスに感染したなどと発言し、感染を装い威力業務妨害罪に問われた男性に、懲役1年6か月、執行猶予3年の判決が言い渡されました。
この事件が起きた2020年当時は、新型コロナウイルスの影響が深刻な状況でした。役場の閉鎖によって業務が妨害される結果となりました。
男性は職員を驚かせたかっただけと釈明しましたが、軽い気持ちでこのような行為をすると、有罪や前科となる可能性があります。
参考:町役場で「俺コロナ」男 威力業務妨害罪で有罪 名古屋地裁 – 産経新聞
警察に3875回通報した例
偽計業務妨害罪によくあるケースの一つが、無言電話などで店舗や施設の業務を妨害する行為です。
実際に、約1年にわたり計3875回の110番通報を行った男性が、偽計業務妨害罪の疑いで逮捕されています。
男性は不要不急の110番通報を繰り返し、からかうようなメッセージを伝えることで警察の業務を妨害したとされています。
参考:110番通報、1年間に3875回かけた容疑 男を逮捕 – 朝日新聞デジタル
爆破予告をした例
イベントや公共施設への爆破予告も、威力業務妨害罪に該当する代表的なケースです。
認定こども園に爆弾を仕掛けたと書いた紙を置き、休園させた保育教諭の男性には、懲役1年、執行猶予2年の判決が下されました。
男性は発表会の予行練習で上司から厳しい指導を受けることをおそれ、練習を延期させる目的で犯行に及びました。
参考:上司の指導恐れこども園に爆破予告、保育教諭に威力業務妨害で有罪…発表会の練習を延期させるため – 読売新聞オンライン
営業妨害が他の犯罪に該当するケース
営業妨害は他にも他の犯罪に該当するケースがあります。
罪名 | 内容 | 罰則 |
暴行罪(刑法第208条) | 人に暴力行為をした場合に該当する | 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料 |
傷害罪(刑法第204条) | 人にケガをさせた場合に該当する | 15年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
脅迫罪(刑法第222条) | 生命や身体、名誉や財産などに対する害悪の告知をして人を脅迫した場合に該当する | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
恐喝罪(刑法第249条) | 暴行・脅迫を用いて、人に恐怖を感じさせて財産上の利益を得た場合に該当する | 10年以下の懲役 |
名誉毀損罪(刑法第230条) | 公然と事実を適示して人や会社の名誉を毀損した場合に該当する | 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金 |
侮辱罪(刑法第231条) | 公然と人を侮辱した場合に該当する | 1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
強要罪(刑法第223条) | 暴行や脅迫を用いて、人に義務のないことを負わせるなどした場合に該当する | 3年以下の懲役 |
不退去罪(刑法第130条後段) | 退去の要求を受けたにも関わらず、正当な理由なく退去しない場合に該当する | 3年以下の懲役または10万円以下の罰金 |
公務執行妨害罪(刑法第95条1項) | 警察官などの公務員の職務の執行を妨害した場合に成立 | 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金 |
営業妨害をするとどうなる?
ここでは営業妨害をすると起きるリスクを解説します。
警察に検挙される
営業妨害行為で店や企業から通報や被害届を出されると、警察に検挙されることになります。
例えば、店舗で暴れるなどした場合、駆けつけた警察に現行犯逮捕されることが考えられます。
また、ネットなどに虚偽の投稿を行えば、警察から連絡が来ることもあるでしょう。
逮捕された場合、検察が起訴(刑事裁判になること)か不起訴か判断するまでの10~20日間、警察の留置場に拘束(勾留)される可能性もあります。
一方、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されれば逮捕されない場合もありますが、捜査自体は継続され、起訴や有罪となることもあります。
場合によっては実名報道される
逮捕や書類送検された事件は、警察がメディアに対する報道発表を行います。この報道を元に、メディアが実名報道をすることがあります。
メディアが実名報道する基準は公表されていませんが、以下のケースでは実名報道される可能性があります。
- 殺人事件などの重大事件
- 著名人や公務員、有名企業在籍などの社会的地位が高い人の事件
- 詐欺など社会的関心が高い事件
近年はカスタマーハラスメントも話題となっており、世間の耳目を集めるような事案であれば、実名報道される可能性があります。
実名報道をされると、ネットで事件が拡散したり、社会的信用を失ったり、その後の就職活動や家族の生活にまで影響が及ぶことも考えられます。

有罪となると前科がつく
営業妨害行為で罪に問われ、起訴後に有罪となると、たとえ執行猶予や罰金刑であっても前科がつくことになります。
前科がつくと、以下のようなケースで今後の人生に影響します。
- 前科や言い渡された量刑によっては、公務員などの欠格事由となり資格のはく奪や失職の可能性がある
- 前科により海外渡航が制限され、仕事などで海外出張ができなくなる可能性がある
- 再び犯罪行為を行った場合には、前科前歴が考慮され、警察の捜査対象となったり、刑罰が重くなったりすることがある
起訴された場合の有罪率は99%とされているため、不起訴を得るためには弁護士のサポートを受けることが重要です。
被害者から訴えられる
民法では、故意や過失により他人に損害を与えた場合、加害者は賠償責任を負います(民法第709条、710条)。
そのため、営業妨害行為で店舗や企業などに損害を与えた場合、被害者から訴えられる可能性があります。
相手に与えた損害の大きさによっては、高額な賠償命令が下されることも考えられます。
また、刑事事件で不起訴となった場合でも、民事事件では賠償が認められることがあります。
営業妨害でよくある質問
営業妨害で逮捕された場合はどうしたらいい?
営業妨害で逮捕されたり、警察から連絡があったりした場合は、被害者への謝罪と示談、そして弁護士の適切なサポートを受けることが大切です。
被害者に謝罪を行えば、被害者が許してくれる可能性があります。
示談によって損害が補償されれば、検察が不起訴処分とする可能性も高まります。
弁護士に相談すれば、以下のサポートが受けられます。
- 取り調べに対するアドバイス
- 早期の身柄解放に向けた対応
- 示談が困難な場合には、供託や再犯防止策を検討
店舗や企業の方針で示談に応じてもらえない場合もあります。
その際は弁護士に交渉を依頼し、不起訴や減軽に向けたサポートをしてもらいましょう。
営業妨害を軽く考えるのは危険です。適切な対処を行いましょう。
営業妨害と業務妨害の違いは?
営業妨害とは、店舗や企業の業務を妨害する行為を指しますが、法的な基準は存在しません。
一方、威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪に定められる業務とは、仕事に限らず、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる広範な活動を指します。
ボランティア活動や組合活動、自治会、イベントなども含まれます。
刑法上はどちらも業務妨害罪として扱われることがありますが、営業妨害は主に経済活動に特化した問題として取り上げられることが多いです。
営業妨害とクレームの違いは?
クレームとは、一般的に商品やサービスに対する不具合や不満を指摘し、対応や改善を求める意見のことです。
例えば、商品に欠陥がある場合やサービスが不適切だった場合の苦情は、消費者の正当な権利です。
ただし、以下のようなクレーム行為は法律に触れる可能性があります。
- 自分の意見を通すために暴れる・脅迫行為をする
- 過剰・執拗な改善要求をする
- 営業活動を妨害する
大声で改善を求める行為も威圧的だと判断される可能性があります。また、店舗や企業に対して、妥当な範囲の改善要求をすることが大切です。
それでも対応に納得がいかない場合は、自分で要求を通そうとせず、弁護士に相談し、適切な交渉や法的対応を行いましょう。
予約してた居酒屋を直前でキャンセルしたら営業妨害になる?
予約をしていたものの、事情により突発的に行けなくなる場合や、うっかり忘れてしまうこともあるでしょう。
そのような理由でキャンセルしても罪に問われる可能性は低いと考えられます。
しかし、行く意思がないのに予約を入れ、無断キャンセルをした場合は偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。
店舗側に実際の損害が発生し、行為が意図的であると証明された場合、法的措置が取られることもあります。
意図的でなくても、直前のキャンセルは店舗にとって迷惑行為です。無断キャンセルは避け、事前に連絡を入れるなど、常識的な対応を心掛けましょう。
まとめ
営業妨害行為が刑法に触れるのは、暴行や脅迫、威力や偽計などを用いて業務を妨害した場合です。
一般の人がこうした犯罪行為に該当してしまうケースとして、店舗や企業の商品やサービスに納得できずに改善を求める場合が考えられます。
しかし、自分の主張が正当であっても、訴える手段によっては犯罪に該当し、罪に問われる可能性があるため注意が必要です。
刑事事件に発展した場合、刑法で処罰されるだけでなく、前科がつき、社会的信用を失うことにもなります。
また、場合によっては企業や店舗から高額な損害賠償を請求される可能性もあります。
もし逮捕や警察から連絡があった場合は、刑事事件の実績がある弁護士に相談しましょう。