バスでの痴漢、逮捕後の罰則と対応方法を解説
バス内で痴漢をすると、迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪に問われるおそれがあります。
強制わいせつ罪の場合は6月以上10年以下の懲役に処されます。
罰金刑がないので、不起訴処分にならない限り、正式起訴されて刑事裁判を受けることになります。
この記事では、バス内で痴漢について、以下の点を解説します。
- バス内での痴漢で問われる罪
- 現行犯逮捕されるケース・後日逮捕されるケース
- バスで痴漢し、逮捕された場合の対処法
目次
バス内での痴漢で問われ得る罪
バスで痴漢すると、以下の罪に問われる可能性があります。
都道府県迷惑防止条例
各都道府県の迷惑防止条例は、痴漢行為を禁止する規定を設けています。
例えば、東京都の場合、公共の場所または公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から、または直接に人の身体に触れることが禁止されています。
この規定に違反した場合の法定刑は6月以下の懲役または50万円以下の罰金で、痴漢の常習のケースは1年以下の懲役または100万円以下の罰金と刑が加重されます。

強制わいせつ
一方、バス内での痴漢行為が強制わいせつ罪にあたる可能性もあります。
強制わいせつ罪は刑法第176条の規定で、13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処すると定められています。
迷惑防止条例との違いは、暴行または脅迫を用いて、被害者が反抗するのを著しく困難な状態にしたかどうかです。ただし、わいせつ行為そのものによって被害者が恐怖し、抵抗が困難な状態だったと認められれば、強制わいせつ罪は成立します。
バス内での痴漢に関しては、下着の中に手を入れたり、執拗に長い時間相手の身体を触り続けたりすると、強制わいせつ罪が適用される可能性があります。
夜行・高速バスでの痴漢は強制わいせつになりやすい
夜行バスや高速バスでの痴漢は、強制わいせつ罪に問われやすいと指摘されます。夜行バスや高速バスだと、なぜ強制わいせつになりやすいのでしょうか。
痴漢がエスカレートしやすい
夜行バスや高速バスは路線バスのように頻繁に停車し、乗客が乗り降りできるわけではありません。また、深夜の走行中だったり車内が静まり返ったりしていると、被害者にとっては声をあげづらい環境です。
路線バスのように立ち客が出て車内が混み合うことはありませんが、他の乗客はスマートフォンを操作したり仮眠をとったりして、痴漢に気付きにくくなっています。
こうした状況下では、被害者が車内を移動することも難しく、痴漢行為が長時間にわたるなどエスカレートしやすいです。痴漢行為がエスカレートすると、強制わいせつ罪に問われる可能性が高くなります。
高速バス内の痴漢の逮捕事例
実際、高速バス内での痴漢で、強制わいせつ容疑で逮捕された事例が確認できます。
京都に単身赴任中の男性は、実家の香川県高松市から京都市に移動するため、高速バスを利用しました。
高速バスの車内で午後7時40分から午後9時ごろまでの間、隣に座っていた女性に対して、服の中に手を入れ下着の上から胸などを触りました。
男性は被害者が寝ていて、「身体を触っても気付かない様子だったため、エスカレートした」と供述しています。一方、被害者の女性は痴漢行為に気付いていたものの、恐怖で抵抗できませんでした。
被害者の女性が終点の京都駅に着いたところで男性を追及し、その様子を見た後ろ座席の女性が110番して男性は逮捕されました。
バス内での痴漢は現行犯逮捕?
バス内での痴漢行為については、現行犯逮捕されるケースが多いです。
現行犯とは、現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者(刑事訴訟法第212条)を指し、何人でも、逮捕状なく逮捕できる(同法第213条)のが特徴です。
バス内での痴漢では、現に痴漢されている被害者本人が「この人痴漢です」と運転手に申し出て現行犯逮捕されるケースや、痴漢行為を目撃した人が現行犯逮捕するケースもあります。
また、現行犯逮捕は、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる(同法第212条)場合も可能です。同法第212条は、以下の4つのうち、いずれか1つに該当しているとき、現行犯逮捕できると規定しています。
- 「痴漢だ!」「犯人だ!」などと呼ばれ、追われているとき
- 犯罪によって手に入れた物や明らかに犯罪に使ったと思われる凶器などを所持しているとき
- 身体や服に血痕など犯罪の顕著な痕跡があるとき
- 呼びとめられて逃走しようとするとき
バス内の痴漢で現行犯逮捕された事例
実際に、以下のような現行犯逮捕の事例があります。
男性はバスの車内で、隣の席に座っていた女性の身体を触りました。女性がバスの停車時に運転手に「触られました」と申し出、男性はその後ろを通り抜けてバスから降りました。
女性が「あいつです」と指さしたため、運転手はバス停から数メートル先で男性に立ちふさがり、押し問答の末に通りがかった警察官にその場を引き継ぎました。男性は強制わいせつ容疑で現行犯逮捕されました。
バス内での痴漢で後日逮捕の可能性も
バス内での痴漢で後日逮捕される可能性もあります。
後日逮捕とは、捜査機関が被疑者を犯行の後日に逮捕することで、後日逮捕には裁判所が発付した逮捕状が必要です。
逮捕状は警察が請求すれば必ず発付されるわけではなく、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると裁判官が認め、逮捕の必要性があると判断した場合のみ、発付されます。
警察は逮捕状の請求に根拠があることを示すため、防犯カメラ映像や被害者・目撃者の供述調書などを逮捕状の請求時にあわせて提出します。
逮捕の必要性は、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重などを考慮し、逃亡・証拠隠滅のおそれがあるかどうかで判断します。
仮に、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められる場合でも、警察に自首し身元引受人を用意するなどして、逃亡・証拠隠滅のおそれは低いとみなされれば、後日逮捕されずに済む可能性があります。
バスで痴漢し、後日逮捕される不安を抱えている人は、警察に自首することを検討した方がよいでしょう。
バスでの痴漢で逮捕された場合の対処法
バスでの痴漢で逮捕された場合、以下の対応をとることをおすすめします。
弁護士に相談
まずは弁護士に相談し、刑事弁護を依頼しましょう。弁護士の活動によって、以下のことが期待できます。
早期釈放
1つ目は早期の釈放です。刑事弁護を依頼された弁護士はまず、被疑者の早期釈放を目指します。
被疑者の身柄が拘束されるのは、被疑者に逃亡・証拠隠滅のおそれがあるとみなされているからです。釈放を実現するためには、逃亡・証拠隠滅のおそれがないことを示す必要があります。
例えば、釈放後の被疑者が逃亡・証拠隠滅しないよう監督する身元引受人を立てれば、弁護士が身柄の解放を訴える際に説得力が増します。弁護士は身元引受書の作成などを通じて、早期釈放の実現を図ります。

不起訴の獲得
被疑者の早期釈放に加えて、弁護士は不起訴の獲得を目指します。
バス内での痴漢行為が不起訴で済めば、刑事裁判にはならず、前科はつきません。前科がつくと、効力が停止・はく奪される資格もあり、後の社会復帰に影響します。
不起訴を獲得するためには、被害者と示談交渉を進めることが重要です。
被害者と示談交渉
被害者との間で示談が成立すれば、すでに提出された被害届や告訴状を被害者が取り下げ、加害者を許す意思を示してもらえる可能性があります。
検察官は起訴・不起訴の判断にあたって、被害者がどのような処罰感情を抱いているか考慮します。被害届や告訴状が取り下げられ、被害者が加害者を許す意思を示していれば、処罰感情は和らいでいると判断され、不起訴を得やすくなります。
まとめ
バス内で痴漢した場合、迷惑防止条例違反か強制わいせつ罪に問われる可能性があります。夜行バスや高速バスで痴漢すると、犯行がエスカレートしやすく、強制わいせつ罪に問われやすいです。痴漢で現行犯逮捕されなくても、後日逮捕される可能性は残っており、痴漢をしてしまった場合は早期に弁護士に相談した方がよいでしょう。