飲食店を経営するに際しては、店舗となる建物を確保する必要があります。土地や建物を自己所有している場合は問題ありませんが、そうではない場合には建物を借り、店舗を経営する方法が簡便でしょう。
建物を借りる場合には、建物賃貸借契約を締結することになります。建物賃貸借契約の内容をしっかり把握していないと後々トラブルになりかねません。
本稿では、飲食店の店舗を借りる際に、賃貸借契約のどのような点に着目すべきかといったことをまとめます。

賃貸借契約とは
飲食店を運営する店舗を借りる場合には、建物賃貸借契約を締結することになります。建物賃貸借契約とは、簡単に言うと、借主が賃料を支払い、貸主が借主に建物を使用させることを内容とする契約です。一見すると単純な契約ですが、契約毎に建物を使用に際しての条件が細かく定められています。中には、法律の原則より借主に不利な条件が定められていることも少なくありません。このような条件に違反すると、後に貸主との間や第三者との間でトラブルを生じかねません。
その意味では、賃貸借契約を締結する前に確り契約内容を確認し、注意点を洗っておく必要があるでしょう。
賃貸借契約の種類
建物賃貸借契約の中には、普通建物賃貸借と定期建物賃貸借という2つの種類があります。同じ賃貸借契約という枠組みですが、両者は大きく性質が異なります。まず、建物を借りる際にはどちらの契約類型なのかということは確実にチェックするようにしてください。
普通建物賃貸借
普通建物賃貸借は、契約が更新されることが前提の賃貸借契約です。例え契約期間が定められていたとしても、原則として更新がされます。
貸主側から契約を修了させるには、期間満了の1年前から6か月前までに契約を更新しない旨の通知(更新拒絶通知)をし、更には契約を終了させる正当な理由(正当事由)が備わっている必要があります。正当な理由はやや抽象的ですが、貸主が契約を終了させるだけの事情があることと言い換えてもらって構いません。具体的には、貸主が当該建物を利用しなければならなくなったこと、借主の使用状況が悪いこと、貸主側が適切な立退き料を支払っていること、等の事情が総合的に判断されることになります。
定期建物賃貸借
普通建物賃貸借に対して、定期建物賃貸借は賃貸借期間が満了すると契約が終了となるもので、基本的に更新が予定されていません。また、契約終了には更新拒絶通知や正当事由も必要とされておらず、契約を終了させやすいという点で貸主が有利な契約と言えるでしょう。定期建物賃貸借契約の留意点については別稿で詳細の説明をしていますので、そちらも参考にしてください。

賃貸借契約締結の際に確認すべきポイントは?
建物賃貸借契約においては、様々な条項が定められますが、特に次の事項についてチェックすべきポイントをまとめてみます。
使用目的
建物賃貸借契約において、目的物件の使用目的が定められることも多いです。当初定めていた目的と異なる目的で建物を使用した場合、契約違反と言われ、解除や損害賠償請求をされる可能性もあります。使用目的については、営業形態等を貸主によく説明をして適切な内容を定めるとともに、後に同店舗で新たな事業を行うことを見越している場合には、あらかじめ使用目的に盛り込み、あるいは後に覚書等でカバーできるよう含みを持たせた記載内容にしておくべきです。
契約期間
普通賃貸借契約であれば、原則として期間満了後も更新されますが、それでも契約期間は確り確認するべきでしょう。逆に、経営がなかなかうまくいかない場合を想定して、借主側からの中途解約が認められているかという観点も重要な確認要素になります。近年の例でいえば、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で店舗の売上げが落ち込み、損害が拡大する前に契約を中途解約した方が経営判断として有効な場合もあります。このとき任意に中途解約することができるか、それとも中途解約ができないか違約金が必要かという点は極めて重要な要素になると言えるでしょう。
修繕
賃貸借契約は、原則として貸主が修繕を行うものとされていますが、契約内容によっては借主が修繕を行うと定められている場合もあります。更に、賃借人が修繕を行わなければならないと定められてる場合もあり、修繕義務の所在はトラブルになりやすい事項と言えるでしょう。契約締結に際し、修繕は誰が行うのか、費用はだれが負担するのか、といった観点は是非確認するようにしてください。
原状回復義務
賃貸借契約が終了した際には、当然ながら、建物を返さなければなりません。退去するときに建物を入居した時の状態に戻すことを原状回復と言いますが、この原状回復義務の所在は明らかにしておくべきです。更には、原状回復工事を行う業者を貸主が指定するのか、借主の方で指定できるのか、という点も、貸主が指定する業者を利用した場合には工事費用が高くなる可能性があるため、注意が必要です。
連帯保証人の定め
賃貸借契約を締結する際には、借主は法人である場合が多いと思いますが、連帯保証人を定めることを求められることも多いでしょう。経営者が連帯保証をする場合には、その是非や極度額の定めなどを検討する必要があります。
おわりに
本稿では、飲食店の店舗を借りる場合に、建物賃貸借契約のどのような部分を確認すべきか、ということを概説しました。
他方、本稿はあくまで一般論を記載したにとどまり、実際には本稿で記載した以上に細かい点が定められている場合も多いです。特に、「特約事項」という形で特殊な内容が定められている場合もあり、個別具体的な判断が必要な状況もあるでしょう。
締結しようとしている契約がどのような内容なのか、修正するにはどうしたら良いか等、ご不安なことも多いと思います。ネクスパート法律事務所では、飲食店経営の法務を専門に行っているチームで、契約書のチェックや修正交渉等の業務をサポートさせていただいています。お困りのごとやご相談ごとがありましたら、ネクスパート法律事務所まで是非お問合せください。