更新日:2026年8月10日 (月)

公開日:2024年10月31日 (木)

支払督促の手続きの流れ|申立て方法・費用・強制執行・異議申立ても実務に基づいて解説

支払督促の手続きの流れ|申立て方法・費用・強制執行・異議申立ても実務に基づいて解説 支払督促の手続きの流れ|申立て方法・費用・強制執行・異議申立ても実務に基づいて解説

サマリー

支払督促手続とは、民事訴訟法に基づき、簡易裁判所の裁判所書記官を通じて相手方に金銭の支払いを命じてもらう、迅速な債権回収のための法的な手続きです。

この記事では、債権者(お金を回収したい側)と債務者(支払いを求められている側)双方の視点から、簡易裁判所への申立て方法、仮執行宣言の取得、財産の差押え(強制執行)までの具体的な手順、さらには通常訴訟へ移行させるための異議申立ての方法などを実務に基づいて詳しく解説します。

個別の事情により解決策が異なる場合があるため、まずは手続きの流れを正しく理解し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談しながら適切な対応をとるための参考にしてください。

支払督促とは?簡易裁判所で行う通常の裁判(訴訟)との違いを解説

支払督促は、金銭や代替物などの給付を求める場合に利用できる、簡易裁判所の裁判所書記官が発する法的な支払い命令です。
通常の裁判(民事訴訟)と異なり、裁判所書記官による書類審査のみで手続きが進行するため、原則として申立人が裁判所に出廷する必要はありません。
迅速かつ低コストで債権回収を目指せる点が大きなメリット(特徴)ですが、相手方(債務者)から督促異議の申立てが出されると、自動的に通常の裁判(通常訴訟)へ移行する点に留意が必要です。
そのため、実務上はこの制度は、請求内容について当事者間に事実関係の争いがないケースでの利用が推奨されています。

簡易裁判所でスピーディーな債権回収を目指せる法的手続きのメリット

支払督促は、売掛金や未払家賃などの金銭債権の回収が滞り、相手方に督促の連絡をしても支払いがない場合に有効な法的手続きです。
この手続きは、通常の訴訟のように法廷での口頭弁論や証拠調べを行わず、申立人(債権者)が提出した書面(支払督促申立書)のみを裁判所書記官が審査します。
相手方から一定期間内に異議の申立てが出なければ、通常の裁判と比べて短期間で、強制執行の申立てに不可欠な債務名義(仮執行宣言付支払督促)を取得することが可能です。
そのため、請求内容の事実関係自体に争いはなく、単に相手が支払いに応じないというケースにおいて、実務上、最も迅速な問題解決が期待できる法的手続きといえます。

関連記事:債務名義とは?効力や強制執行までの流れをわかりやすく解説

通常の裁判(通常訴訟)と比較した際の手続きの特徴

支払督促と通常の裁判(通常訴訟)の主な違いは、主に裁判所への出廷の有無(手続きの進め方)と申立てにかかる費用の2点にあります。
支払督促は裁判所書記官による書類審査のみで進行するため、債権者・債務者ともに裁判所への出廷は原則として不要です。
一方、通常の訴訟では、法廷で開催される口頭弁論期日に当事者(または代理人弁護士)が出廷し、お互いの主張や証拠による立証を行う必要があります。
費用面における最大のメリットとして、支払督促の申立て手数料(裁判所に納める収入印紙代)は、同じ請求金額で通常の訴訟を提起する場合に比べて半額に設定されています。
内容を総括すると、支払督促は迅速・簡易・低コストな手続きである反面、相手(債務者)に争う姿勢がある場合は督促異議によって結局は通常訴訟へ移行するため、事前の見極めや利用の向き不向きを慎重に判断することが実務上重要です。

【債権者向け】簡易裁判所への支払督促申立てから強制執行(財産差押え)までの5ステップ

債権者が未払い金回収のために支払督促を利用する場合、法的な手続きは大きく5つのステップに分かれて進行します。

まずは支払督促申立ての事前準備から始まり、最終的には裁判所の執行手続き(強制執行)による債務者財産の差押えおよび債権回収を目指します。
相手方(債務者)から期限内に督促異議の申立てが出なければ、通常の訴訟手続きと比べて非常に迅速に権利を確定させることが可能です。
ここでは、簡易裁判所への申立てから実際に強制執行による債権回収が完了するまでの具体的な流れを、実務上のステップごとに詳しく解説していきます。

ステップ1:申立ての準備|支払督促申立書などの必要書類と費用を確認する

支払督促手続きを開始する最初のステップは、裁判所に提出する正確な必要書類と、申立てに要する費用の準備です。
主に必要となる書類は支払督促申立書(および当事者目録・請求の趣旨及び原因目録)であり、当事者が法人の場合は資格証明書(法人の登記事項証明書)などもあわせて必要となります。
これらの作成書類(ひな形)は、最寄りの簡易裁判所の窓口で直接入手するか、最高裁判所(裁判所)の公式ウェブサイトから書式をダウンロードして作成することができます。
支払督促申立書には、具体的に当事者(債権者・債務者)の情報、いくら請求するのかという請求の趣旨、およびその請求の根拠となる請求の原因を正確に記載します。
申立てに必要な費用としては、請求金額(元本)の多寡に応じて定められた収入印紙(申立手数料)と、裁判所から債務者へ書類を郵送(特別送達)するためにあらかじめ納める予納郵券(郵便切手)が必要です。
なお、請求する債権(未払い金)が複数月分に及ぶなど複数ある場合は、それらの発生時期や内訳を請求の原因欄においてそれぞれ具体的に区別して記載する必要があります。

ステップ2:管轄の確認|相手(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所へ申し立てる

申立書類一式と費用の準備が整ったら、原則として相手(債務者)の住所地(または営業所等)を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して申し立てます。
管轄裁判所の選定においては、相手が個人の場合は住民票上の住所地など、相手が法人の場合は本店所在地(本店の営業所所在地)が基準となるため、実務上の確認を怠らないよう注意が必要です。
例えば、相手(債務者)の住民票上の住所が大阪市内であれば、一般的にその地域を管轄する大阪簡易裁判所が具体的な申立先となります。
各地域の細かな裁判所の管轄区域については、最高裁判所(裁判所)の公式ウェブサイトにある管轄区域一覧等で事前に確認できます。
簡易裁判所への申立ては、該当する裁判所の窓口に直接書類を持参して提出する方法のほか、郵送(簡易書留など)によって行うことも実務上可能です。
郵送申立てを利用することにより、相手(債務者)の住所地が遠方にある場合であっても、現地に赴くことなく効率的に手続きを進められます。

ステップ3:支払督促の発付と送達|裁判所(裁判所書記官)から債務者へ書類が届く

支払督促の申立てが正式に受理されると、裁判所書記官が申立書および添付書類の形式的な内容を審査します。
記載内容や要件に不備がないと判断された場合、裁判所書記官は債務者に対して支払督促を発付し、郵便局の書留等の一種である特別送達という厳格な方法で債務者宛てに郵送します。
債務者に届くこの支払督促の書面には、債権者が主張する請求の具体的な内容と、それに基づいて速やかに金銭を支払うよう命じる旨が記載されています。
実務上、この(最初の支払督促が送達されただけの)段階では、相手の財産を直ちに差し押さえるような強い法的強制力(執行力)までは発生していません。
債務者がこの支払督促の書類を受け取った日(送達日)の翌日から起算して2週間以内に督促異議を申し立てなかった場合、債権者は次のステップである仮執行宣言の申立てへと進むことが可能になります。

ステップ4:仮執行宣言の申立て|債務者から2週間以内に督促異議がない場合の法的手続き

債務者が支払督促の送達を受けてから2週間以内に督促異議の申立てを行わなかった場合、債権者は裁判所(裁判所書記官)に対して、支払督促に仮執行宣言を付すよう申し立てることができます。
実務上、この仮執行宣言の申立てを行うべき法定のタイミングは、2週間の督促異議申立期間が経過した後の30日以内と厳格に定められています。
万が一この30日の期限を過ぎてしまうと、それまでに発付された支払督促は法律上当然にその効力を失ってしまう(失効する)ため、債権者側には遅滞のない迅速な対応が求められます。
債権者による仮執行宣言の申立てが適法であると認められると、裁判所書記官によって支払督促の正本に仮執行宣言が付され、この仮執行宣言付支払督促が債務者に対して再び特別送達の形式で郵送されます。
これにより、支払督促は通常の判決(仮執行宣言付判決)などと同様に、相手の財産に対する強制執行の着手が可能となる債務名義としての強い法的効力(執行力)を正式に持つことになります。

関連記事:仮執行宣言とは?目的や流れをわかりやすく解説

ステップ5:強制執行の申立て|確定した債務名義による財産の差押え手続き

仮執行宣言が付された支払督促(正本)が債務者に送達されたにもかかわらず、なお未払い金の支払い(弁済)がない場合、債権者は法的な最終手段として、裁判所への強制執行(差押え)の申立てが可能になります。
注意点として、この強制執行の申立ては、支払督促を行った簡易裁判所ではなく、原則として相手(債務者)の財産所在地や住所地を管轄する地方裁判所(執行裁判所)に対して行います。
強制執行の対象となる債務者の財産は、銀行の預貯金口座、勤務先から支払われる給与(一部制限あり)、所有している不動産や動産など多岐にわたります。
例えば、相手(債務者)の名義がある銀行の預金口座を差し押さえる(債権差押命令を得る)ことで、第三債務者である銀行から直接、未払い債権を回収する権利が与えられます。
この厳格な強制執行手続きを経ることによって、債権者は国(裁判所)の法的な強制力(執行力)を背景に、相手の意思にかかわらず未払い金を強制的に回収することが可能となります。

関連記事:債権執行とは|されたらどうなる?手続きや流れをわかりやすく解説

【債務者向け】簡易裁判所から支払督促が届いた場合の正しい対処法と放置リスク

もし自宅や営業所に、簡易裁判所から支払督促と書かれた特別送達の書類が届いた場合は、決して無視して放置してはいけません。

これは、債権者が裁判所を介してあなたの財産を差し押さえるための法的手続きを開始したことを意味する、極めて重要な法的通知です。
すぐに送達された書面の内容を確認し、仮に身に覚えのない不当な請求であったり、主張されている請求金額に誤り・納得がいかない点があったりする場合は、速やかに「督促異議の申立て」を行う必要があります。
何も対応せずに所定の期限を放置してしまうと、最終的にはあなたの預金や給与などの財産を強制的に差し押さえられるリスクが極めて高くなるため、実務上正しい対処法をあらかじめ知っておくことが極めて重要です。
ここでは、裁判所から支払督促の書類を受け取った債務者側が、不利益を回避するために直ちにとるべき具体的な対処行動について解説します。

絶対に無視はNG!支払督促を放置すると財産を差し押さえられる実務上のリスク

簡易裁判所から特別送達で届いた支払督促の書面を、何もせずに無視して放置を続けることは、債務者にとって最も避けるべき危険な対応です。
支払督促の書類(正本)を受け取った日から起算して2週間以内に、裁判所に対して督促異議の申立てを行わない場合、債権者側は次の手続きである仮執行宣言の申立てを行うことが法律上可能になります。
支払督促に仮執行宣言が付されてしまうと、債権者は確定判決を待つことなく、あなたの給与(一定枠)や銀行の預貯金といった重要な財産を差し押さえるための具体的な強制執行手続きに直ちに進むことができます。
仮に全く身に覚えがない不当な請求(架空請求の類など)であったとしても、裁判所からの公的な書類である以上、無視を続けると法廷で自分の言い分(反論)を主張する機会を永久に失い、一方的に強制執行を受けて財産を失う深刻なリスクが生じるため、必ず2週間という期限内に適切な法的手続きをとってください。

請求内容に不服・異議がある場合は2週間以内に督促異議申立書を提出する

支払督促に記載された債権者の請求内容に納得できない点、例えば「そもそもお金を借りた覚えがない」「すでに全額(または一部)返済している」「請求されている金額が間違っている」といった異議がある場合は、書類を受け取った日(送達日)の翌日から数えて2週間という不変期間内に、督促異議申立書を管轄の簡易裁判所へ提出する必要があります。
この督促異議の申立書(書式)は、通常、簡易裁判所から送られてくる支払督促の書類一式の中に予め同封されています。
実務上、この段階で督促異議を申し立てるにあたっては、法的な根拠や詳細な反論の理由、証拠などを細かく記載する必要は一切ありません。
同封されている用紙の項目にチェックを入れ、「債権者の請求には応じられない(異議がある)」という明確な意思を示すだけで、裁判所には正式な督促異議として受理されます。
2週間以内に適法な督促異議を申し立てることで、支払督促の手続きはストップし、舞台は自動的に通常の裁判(通常訴訟)へと移行することになります。

督促異議申立て後の手続きの流れ|自動的に通常の裁判(通常訴訟)へ移行した後の展開

債務者が2週間の期限内に対象の簡易裁判所へ督促異議の申立てを行うと、それまでの簡易な支払督促手続きは終了し、事案は自動的に通常の裁判(通常訴訟)へと移行します。
通常訴訟に移行した場合、事件は一般的に、支払督促を取り扱っていた簡易裁判所、または請求金額に応じてその地域を管轄する地方裁判所などの適切な管轄裁判所において審理される流れとなります(個別事情により移送の手続きが生じる場合もあります)。
通常の裁判(訴訟)に移行した後は、原告となった債権者が請求内容の正当性を証明するための具体的な主張や客観的な証拠(契約書や利用履歴など)を提出する立証責任を負い、被告となった債務者側もそれに対して具体的な反論(答弁書や準備書面の提出)を行っていくことになります。
以降の手続きは、法廷において裁判官が双方の言い分や証拠を慎重に吟味し、実務上は途中で訴訟上の和解を模索するか、最終的な判決を下すという通常の民事裁判手続きに沿って進行するため、この段階に達した場合は弁護士などの法律の専門家に適切な対応を相談することを推奨いたします。

債権者が支払督促を利用する主なメリットと実務上の有効性

簡易裁判所の支払督促は、未払い金を回収したい債権者にとって、実務上多くのメリットがある法的手続きです。

通常の民事訴訟に比べて手続きが非常に簡易であり、裁判所に納める費用も安く抑えられるうえ、迅速な債権回収が期待できます。
特に、相手方(債務者)が売掛金や未払い家賃などの請求内容について争わないことが客観的に明らかな場合には、極めて有効な解決手段となり得ます。
ここでは、債権者が支払督促を選択する主なメリットについて、実務的な3つの側面に分けて具体的に解説します。

メリット1:通常の裁判に比べて申立手続き(書類作成)が比較的簡単

支払督促手続の大きなメリットとして、最初の申立てに要する書類作成や手続きが比較的簡単である点が挙げられます。
通常の民事訴訟を提起する場合、裁判所に提出する訴状の作成に加え、請求内容の正当性を裏付けるための客観的な証拠書類(契約書や請求書など)をはじめから添付して提出する必要があります。
しかし、支払督促の申立てにおいては、支払督促申立書に請求の趣旨と請求の原因を法的に正しく記載するだけで足り、原則としてこの段階で証拠書類を裁判所に添付・提出する必要はありません。
簡易裁判所の裁判所書記官は、提出された申立書の記載内容を形式的に審査(書面審査)するだけであるため、債権者にとって申立てを行う心理的・実務的なハードルが低いといえます。
この書類作成の手軽さと迅速性が、個人・法人を問わず多くの債権者に支払督促が利用されている大きな理由の一つです。

メリット2:裁判所(法廷)へ出廷する必要がなく、申立て手数料も格安

支払督促の手続きは、原則として裁判所書記官による書面審査(書類審査)のみで完結するため、債権者(申立人)が簡易裁判所の法廷に直接出廷する必要は原則ありません。
簡易裁判所への申立て自体も郵送(または電子申立てシステムなど)で行うことができるため、日中の業務で忙しい方や、遠方の裁判所が管轄となる場合でも時間や場所の制約を受けにくいのが実務上の大きな特徴です。
また、時間的なメリットだけでなく、裁判所に支払う費用面(経済的コスト)においても極めて大きなメリットがあります。
具体的には、申立ての際に簡易裁判所に納める申立手数料(法的効力を得るための収入印紙代)は、同じ請求金額(訴額)で通常の裁判(民事訴訟)を起こす場合と比較して半額の安さに設定されています。
このように、時間的・経済的な負担(コスト)を最小限に抑えながら、国家権力を背景とした法的な回収手続きを進められる点は、債権者にとって大きな利点といえます。

メリット3:短期間での債務名義取得による迅速な債権回収が期待できる

債権回収実務において、支払督促を選択する最大のメリットは、その圧倒的な手続きの迅速性にあります。
相手方(債務者)から期限内に督促異議の申立てが出なければ、最初の申立てから一般的に約1〜2か月という異例の短期間で、相手の財産を差し押さえる(強制執行)ために必要な債務名義(仮執行宣言付支払督促)を取得することが可能です。
これに対して、通常の訴訟(裁判)を起こした場合は、第1審の判決が出るまでに少なくとも数か月、事案が複雑な場合や相手が争ってきた場合は1年以上かかることも実務上少なくありません。
そのため、売買代金や貸付金の存在自体に当事者間の争いがなく、相手が単に資力不足や放置によって支払いを怠っているだけのケースでは、支払督促を利用することで、通常の裁判よりもはるかに早く債権を回収できる可能性(傾向)があります。

債権者が知っておくべき支払督促のデメリットと実務上の注意点

支払督促はコストを抑えてスピーディーに進められる便利な手続きですが、決して万能な回収手段ではありません。

相手方(債務者)の対応や状況によっては、せっかくの申立てが失効・却下されたり、かえって通常の裁判を起こすよりも時間や手間(コスト)がかかってしまったりするケースもあります。
したがって、メリットの側面だけでなく、以下に挙げるデメリットや法的な注意点を正しく理解したうえで、自身の抱える債権回収の状況に適した手続きかどうかを慎重に(必要に応じて弁護士に相談しながら)判断することが実務上極めて重要です。

デメリット1:相手(債務者)から督促異議が出されると自動的に通常訴訟へ移行する

支払督促における最大のデメリット(リスク)は、相手方からわずかでも納得がいかないとして督促異議を申し立てられると、事案のいかんを問わず手続きが自動的に通常の裁判(通常訴訟)へと移行してしまう点です。
一度でも督促異議が出されてしまうと、それまで支払督促が持っていた迅速性や書面審査だけの手軽さといった恩恵(メリット)はすべて失われてしまいます。
さらに、通常訴訟に移行した場合の管轄(裁判地)は、そもそも支払督促の申立て自体が債務者の住所地を基準とする専属管轄であるため、原則として相手(債務者)の住所地を管轄する裁判所の法廷で争うことになります。
そのため、遠方に居住する相手に対して支払督促を申し立てていた場合、通常の裁判への移行後は、法廷での口頭弁論などのために現地の裁判所までわざわざ出向く(または弁護士に依頼する)必要が生じ、かえって債権者側の時間的・経済的負担が大きくなる可能性があります。
最初から相手(債務者)が請求内容や金額に不満を持ち、反論・合意を争う可能性が高いと予想されるケースでは、支払督促の手間を挟まず、初めから通常の民事訴訟(裁判)の提起を検討する方が、結果として実務上効率的であるといえます。

デメリット2:相手(債務者)の現住所が不明な場合は支払督促を利用できない

支払督促手続きは、簡易裁判所から発付された公的な書類(支払督促正本)が、特別送達によって相手方(債務者)の手元に確実に届く(送達される)ことが法律上の厳格な前提条件となっています。
そのため、相手の住所が不明な場合には利用できません。
通常の民事訴訟であれば、相手が行方不明や居場所不明の場合でも、裁判所の掲示板に書類を掲げることで法律上届いたとみなす公示送達という制度が利用できますが、簡易な支払督促手続きにおいては、この公示送達の制度を利用することが法律上認められていません(民事訴訟法第382条ただし書)。
そのため、もし相手(債務者)が既に夜逃げや引越しをしており、住民票の登録地に実際には住んでおらず書類が返送(送達不能)されてしまった場合、新たな送達先を調査・補正できなければ、申立ては裁判所によって却下(却下みなし)され、手続きはすべて無効(失効)となってしまいます。

実務上の注意点:仮執行宣言の申立てに定められた30日以内の厳格な期制限界

債権者側が支払督促の手続きを進める上で、実務上最も厳格に管理・注意しなければならないのが手続きの期限(期間制限)です。
前述の通り、債務者が最初の支払督促(正本)を受け取った日の翌日から起算して2週間以内に督促異議を申し立てなかった場合、債権者は仮執行宣言の申立てを行う権利(要件)を得ます。
しかし、法律(民事訴訟法第392条)により、この仮執行宣言の申立てを行うことができる期間は、上記の2週間の異議申立期間が満了した(申立てができるようになった)時から30日以内と非常に短く制限されています。
万が一、カレンダーの確認漏れ等でこの30日という法定期限を1日でも過ぎてしまうと、それまでに簡易裁判所から発付された支払督促は法律上当然にその効力を失ってしまい、手続きがすべて水の泡となってしまいます。
そのため、債権者はスケジュール管理を徹底し、異議がないことを確認した後は、遅滞なく速やかに仮執行宣言の申立てを行う実務上の必要があります。

支払督促の手続きによる金銭債権の消滅時効の更新(時効中断)効果と実務の注意点

売買代金や貸付金などの金銭債権には法律上の消滅時効が定められており、債権者が一定期間その権利を行使(請求など)しないままでいると、債務者側から時効を主張されることで法的に請求できなくなってしまいます。
そこで簡易裁判所への支払督促手続は、実務においてこの消滅時効のカウントダウンを一時的に止め(完成猶予)、最終的にリセットする(時効の更新・旧時効中断)ための有効な手段としても広く利用されています。
ただし、実務上厳格に注意しなければならないのは、単に裁判所に支払督促の申立てを行ったという事実だけでは、消滅時効の更新(リセット)までは確定しない(完成猶予の効力にとどまる)という点です。
法律上、消滅時効の更新(リセット)が正式に確定するのは、債務者から督促異議が出されないまま仮執行宣言が付され、その仮執行宣言付支払督促が異議申立期間(再送達後2週間)の経過によって最終的に確定したときです(確定後は民法第169条に基づき、時効期間がそこから新たに10年間に延長されます)。
万が一、債務者から中途で督促異議が出されて通常訴訟へと移行した場合は、支払督促の申立て時に遡って裁判上の請求があったものとみなされるため、最終的にその訴訟手続きが裁判所の確定判決や訴訟上の和解などによって終了したときに、正式に時効の更新(リセット)が認められる実務の流れとなります。

簡易裁判所の支払督促手続きの流れに関するよくある質問(Q&A)

ここでは、簡易裁判所における支払督促の手続きの流れに関して、実務上多くの方が抱く疑問や不安についてQ&A形式で詳しく解説します。
申立てにかかる具体的な期間や費用、相手方から督促異議の申立てをされた後の通常訴訟への展開など、実務的な疑問に答えることで、手続きへの理解をさらに深めていきましょう。

支払督促の手続きが完了し、強制執行が可能になるまでにかかる期間はどれくらいですか?

相手方(債務者)から督促異議の申立てが出なければ、簡易裁判所への申立てから約1〜2か月程度で仮執行宣言付支払督促が確定し、手続きが完了するのが実務上一般的です。
具体的には、申立て後に裁判所書記官から発付された支払督促が特別送達で相手に届き、その送達日の翌日から起算して2週間の督促異議申立期間が経過するのを待ちます。
その後、債権者が30日以内に仮執行宣言の申立てを行い、裁判所書記官に認められて仮執行宣言付支払督促が発付・再送達され、最終的に確定すれば債務名義としての手続きは完了します。
ただし、期間内に相手から一度でも督促異議の申立てが出された場合は自動的に通常訴訟へと移行するため、口頭弁論や証拠調べが必要となり、最終的な解決までの期間は数か月から1年以上かかることも実務上あります。

簡易裁判所への支払督促の申立てにかかる実務費用はいくらですか?

申立てにかかる主な実費は、国の法律で定められた請求金額(訴額)に応じて裁判所に納める申立手数料(収入印紙代)と、特別送達の郵送等に使用する予納郵券(郵便切手代)です。
このうち申立手数料は、回収したい請求金額の多寡によって段階的に異なりますが、同じ金額で通常の民事訴訟を提起する場合の手数料と比較して半額(2分の1)に優遇されています。
例えば、実務上で相手方に100万円の未払い金を請求する場合、通常の訴訟であれば1万円の手数料(印紙代)がかかりますが、支払督促であれば半額の5,000円となります。
一方の予納郵券(郵便切手代)は、申し立てる各地域の簡易裁判所によって運用上多少異なりますが、一般的には数千円程度があらかじめ納める額の目安となります。
なお、自分で手続きを行わず、弁護士や司法書士などの専門家に申立ての代行や代理人を依頼する場合は、上記の実費とは別に、個別の法律事務所等の規程に基づく専門家報酬(着手金・報酬金など)が必要となります。

相手(債務者)から督促異議の申立てをされたら、必ず通常の裁判(訴訟)になるのでしょうか?

はい。相手方(債務者)から期間内に適法な督促異議の申立てがなされた場合は、法律の規定(民事訴訟法第395条)に基づき、支払督促の手続きは終了し、自動的に通常の裁判(通常訴訟)へと移行します。
この移行に伴い、もし債権者側が時間や手間の観点から通常の訴訟(裁判)を継続することを望まない(判決まで争うつもりがない)のであれば、実務上、支払督促の申立てそのものを原則として取り下げることも可能です。
ただし、途中で手続きを取り下げた場合であっても、それまでに裁判所に納めた申立手数料(収入印紙代)などの実費は原則として戻ってきません(還付されません)。
そのため、あらかじめ相手が督促異議を申し立ててくる可能性(争う姿勢の有無)を慎重に考慮した上で、支払督促を利用するべきか、あるいは初めから通常訴訟を提起するべきかを、弁護士等の専門家とも相談しながら事前に判断することが極めて重要です。

まとめ|支払督促の手続きの特性を理解した適切な債権回収を

簡易裁判所の支払督促は、相手方(債務者)が売掛金や未払い家賃などの請求内容について争わないことが見込まれる場合に、通常の訴訟に比べて迅速かつ低コストで債権を回収できる非常に有効な法的手続きです。
お金を回収したい債権者にとっては、裁判所(法廷)へ一度も出廷することなく、支払督促申立てから仮執行宣言の取得、さらには強制執行(財産差押え)に不可欠な債務名義の確保までを比較的簡易に進められる大きなメリットがあります。
一方で、書類を受け取った債務者にとっては、簡易裁判所から届いた特別送達の書類を無視して放置すると、一方的に給与や預金などの財産を差し押さえられる(強制執行を受ける)重大な実務上のリスクがあるため、必ず2週間以内という期限内に督促異議の申立てなどの適切な対応をとらなければなりません。
万が一相手から督促異議が出されると自動的に通常訴訟(通常の裁判)へ移行するため、当事者間の対立関係の深さや状況によっては、実務上、初めから通常の民事訴訟を選択する方が時間や手間の面で適切な場合もあります。
支払督促という法的手続きのメリット・デメリット(特性)を正しく理解し、個別の事情や債権の状況に合わせて適切に活用するためにも、判断に迷う場合や不測の事態(異議申立て後の対応など)が生じた際には、まずは弁護士などの専門家へ相談しながら進めることを推奨いたします。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。

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