更新日:2026年10月30日 (金)

公開日:2026年10月30日 (金)

六本木高校の殺人未遂事件から考える、高校生が逮捕された場合の殺人未遂罪の成立要件と刑事手続き

六本木高校の殺人未遂事件から考える、高校生が逮捕された場合の殺人未遂罪の成立要件と刑事手続き 六本木高校の殺人未遂事件から考える、高校生が逮捕された場合の殺人未遂罪の成立要件と刑事手続き

サマリー

東京都港区の都立六本木高校で女子生徒が殺人未遂容疑で現行犯逮捕された事件を題材に、少年事件における殺人未遂罪の成立要件と刑事手続きの流れを弁護士が解説します。

2026年10月30日、東京都港区の都立六本木高校で、女子生徒が別の女子生徒を包丁で刺したとして殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されるという事件が報じられました。

六本木高校で女子生徒刺され重傷 別の女子生徒“殺人未遂”で現行犯逮捕 東京・港区
出典:Yahoo!ニュース(テレビ朝日系(ANN))

報道によれば、同日午後1時すぎ、学校職員から警視庁に「生徒が刃物で刺された」との通報があり、高校の敷地内で女子生徒が別の女子生徒を包丁で複数回刺したとされています。刺された女子生徒は脇腹や肩などに傷を負い、病院に搬送されましたが重傷とのことです。現場にいた女子生徒は殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されており、警視庁が詳しい経緯を調べています。本稿では、この事件を一つの契機として、殺人未遂罪の成立要件と、未成年者が逮捕された場合の刑事手続きの流れについて解説します。

殺人未遂罪とは何か――成立要件の基本

殺人罪は刑法199条に規定されており、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」とされています。これに対して未遂犯を処罰する根拠は刑法203条にあり、「第199条の罪の未遂は、罰する」と定められています。つまり、殺人未遂罪が成立するためには、(1)殺人罪の実行行為に着手したこと、(2)結果として人を死亡させるに至らなかったことの2点が必要です。

ここで重要になるのが「殺意」の有無です。殺人未遂罪が成立するには、単に人を傷つける意図(傷害の故意)では足りず、相手を死亡させることを認識・認容していたという未必の故意を含む殺意が必要とされます。裁判実務では、凶器の種類や形状、創傷の部位・程度、攻撃の回数や態様、犯行前後の言動などの客観的事情から、殺意の有無を推認するという手法が広く用いられています。

報道では、包丁という殺傷能力の高い凶器が用いられ、脇腹や肩など身体の枢要部に近い箇所を複数回刺したとされています。凶器の種類、刺した箇所、回数といった客観的事実は、後の捜査・裁判において殺意の有無を判断する極めて重要な要素となります。ただし、現時点では逮捕段階であり、容疑者とされる女子生徒について殺意の有無や事件の経緯が確定したわけではない点に留意が必要です。

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加害者が少年である場合の刑事手続きの特殊性

報道の当事者が高校生、すなわち20歳未満の少年である可能性が高いことから、通常の刑事手続きとは異なる少年法上の手続きが適用されます。少年が罪を犯したと疑われる場合、警察段階での捜査は成人の場合と同様に行われますが、事件はすべて家庭裁判所に送致されることが少年法41条・42条で定められています(いわゆる「全件送致主義」)。

もっとも、殺人未遂罪のように故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪、及びこれに準じる重大事件については、少年法20条2項により、家庭裁判所が16歳以上の少年について原則として検察官に送致する「逆送」という制度があります。ただし、殺人未遂罪は被害者が死亡した事件ではないため、原則逆送の対象である「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」には直接該当せず、家庭裁判所が個別に保護処分相当か刑事処分相当かを判断することになります。

少年事件では、最終的に保護観察や少年院送致といった保護処分で終わるのか、検察官送致を経て刑事裁判にかけられるのかが、事件の重大性や少年の資質・環境などを踏まえて個別に判断される点が、成人の刑事事件と大きく異なります。この判断に際しては、家庭裁判所調査官による社会調査や、少年鑑別所での鑑別結果が重要な資料となります。

逮捕後の流れと今後想定される手続き

今回は「現行犯逮捕」と報じられています。現行犯逮捕は刑事訴訟法212条・213条に基づき、犯罪の実行中または実行直後の者を、令状なしに何人でも逮捕できる制度です。逮捕後は、警察官が48時間以内に事件を検察官に送致するかどうかを判断し(刑事訴訟法203条)、送致を受けた検察官はさらに24時間以内に勾留請求等を行うかを判断します(刑事訴訟法205条)。

もっとも、被疑者が少年である場合には、勾留に代えて観護措置や少年鑑別所への収容が検討されることもあり、成人の刑事手続きとは運用面で異なる配慮がなされます。その後、捜査機関による取調べや証拠収集を経て、事件は家庭裁判所に送致され、審判不開始、保護処分、検察官送致のいずれかの処分が決定されます。

少年事件であっても、被疑者・少年の権利を守るためには、逮捕・勾留の初期段階から弁護士(少年事件においては「付添人」としての活動も含む)に相談することが極めて重要です。早期の段階で弁護士が関与することで、取調べへの適切な対応や、被害者との示談交渉、更生環境の調整などを進めることができ、その後の処分内容にも影響を与え得ます。

被害者側が知っておくべきこと

被害者やその家族の立場からは、刑事手続きの進行を見守るとともに、民事上の損害賠償請求(民法709条の不法行為に基づく請求)を検討することも可能です。少年が加害者である場合でも、責任能力(おおむね12歳程度以上とされる)が認められれば、本人または監督義務者である保護者に対して損害賠償を請求できる場合があります。また、犯罪被害者等給付金制度の利用や、刑事裁判における被害者参加制度の活用も検討に値します。

まとめ

今回報じられた六本木高校での事件は、現行犯逮捕されたばかりの段階であり、今後の捜査によって事件の詳細な経緯や動機、殺意の有無などが明らかにされていくことになります。殺人未遂罪の成立には刑法199条・203条に基づく「殺意」の立証が不可欠であり、特に当事者が少年である場合には、少年法に基づく独自の手続き(家庭裁判所送致、保護処分か逆送かの判断など)が進行します。

加害者とされるご本人・ご家族にとっても、被害者の方にとっても、刑事事件、とりわけ少年が関わる重大事件は、通常の刑事手続きとは異なる専門的な知識と迅速な対応が求められる分野です。殺人未遂事件やその他の刑事事件、少年事件の加害者・被害者としての対応でお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。

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コラム監修者

佐藤 塁

佐藤 塁

所属:代表(東京オフィス)

東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。

早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。

公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。

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