更新日:2022年8月17日 (水)
公開日:2021年5月17日 (月)
企業法務を弁護士に依頼するメリットとは?業務内容や費用相場を解説
サマリー
事業の拡大や取引先の増加に伴い、契約書の確認や人事労務管理など、企業法務の体制整備を検討する経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。
法的なトラブルを未然に防止し、健全な企業活動を維持するためには、弁護士の知見を適切に活用することが有効な選択肢となります。
この記事では、企業法務において弁護士が対応する業務範囲や相談するメリット、企業内弁護士と顧問弁護士の違い、費用の目安や相談の手順について分かりやすく解説します。
企業法務において弁護士が対応する主な業務

企業活動に伴う法律事務全般を指す企業法務では、日常的な取引の適法性確認から組織運営、有事の紛争対応まで、幅広い領域で弁護士が関与します。
弁護士の役割は単に生じたトラブルを解決するだけでなく、将来的なリスクを抑制する観点からも重要視されています。
契約書の作成・リーガルチェックと予防法務
日常的な企業活動において頻度の高い業務が、取引基本契約書や秘密保持契約書などの作成およびリーガルチェックです。
相手方から提示された契約書に自社にとって著しく不利な条項がないか、法令に抵触する内容が含まれていないかを精査します。
契約条項の曖昧さを排除し、想定されるリスクを事前に洗い出す予防法務の取り組みは、将来的な法的紛争の回避につながります。
人事・労務管理と社内体制の整備
就業規則や雇用契約書の作成・見直し、時間外労働やハラスメントへの対策など、人事・労務関連の法務対応も主要な業務の一つです。
労働環境の適正化を支援するほか、労使間のトラブルが発生した際の交渉や労働審判・訴訟への対応も担います。
あわせて、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化やコンプライアンス規程の策定、社内研修の実施などを通じて、不祥事の発生を防ぐ内部統制体制の構築を支援します。
M&A・事業承継や知的財産・資金調達への対応
企業の成長や事業転換の局面では、M&Aに関する法務デューデリジェンスの実施や契約書の作成、各種手続きの支援を行います。
また、株式発行や融資契約などの資金調達における法的アドバイスも提供します。
さらに、特許権・商標権・著作権などの知的財産権の保護・管理や、ライセンス契約の締結交渉など、戦略的な知財マネジメントに関わる法務も扱われます。
債権回収・トラブル対応・危機管理
取引先の未払いに対する債権回収手続き(内容証明郵便の送付、支払督促、仮差押え、訴訟など)や、取引先・顧客とのトラブル対応も弁護士の職務領域です。
インターネット上の誹謗中傷に対する削除要請や発信者情報開示請求、反社会的勢力への対策などにも対応します。
不祥事や事故が発生した際には、被害の拡大を防ぐための初動対応や事実調査、対外的な説明に向けた助言など、危機管理全般の支援を行います。
企業法務を弁護士に相談・依頼するメリット
企業活動を安定して継続・発展させるためには、法的リスクを適切に管理することが欠かせません。
企業法務に関して弁護士へ相談・依頼することには、日々の業務におけるトラブル防止から有事の対応まで、多面的なメリットがあります。
潜在的な法的リスクの早期発見とトラブルの未然防止
事業の仕組みや取引内容を法律の視点から確認してもらうことで、自社では気付きにくい潜在的なリスクを早期に把握できます。
契約書の条項や社内規程の不備を事前に見直すことで、将来的な紛争や想定外の不利益を未然に防ぐ対策を講じやすくなります。
法改正や判例動向を踏まえた適切な企業運営の実現
企業活動に関連する法令は頻繁に改正され、新たな判例も日々蓄積されています。
社内のリソースだけでこれらを常に追跡し、実務上の影響を正確に見極めるのは容易ではありません。
弁護士から最新の法制度や判例動向を踏まえた助言を受けることで、法令遵守を徹底した健全な組織運営を維持しやすくなります。
社内リソースの負担軽減と有事における迅速な対応
高度な法務知識を持つ人材を自社で採用・育成するには一定のコストと期間を要します。外部の弁護士を活用することで、採用コストを抑えながら必要なタイミングで注力分野に応じた法的支援を受けることが可能です。
また、日頃から自社の状況を把握している弁護士が存在すれば、取引先とのトラブルやクレームなどの問題が発生した際にも、前提知識の共有に時間を取られず、迅速な初動対応を期待できます。
企業内弁護士(インハウス)と顧問弁護士の違い

企業法務に関与する弁護士には、大きく分けて企業に直接雇用される「企業内弁護士(インハウスロイヤー)」と、法律事務所に所属しながら外部から関与する「顧問弁護士」の2種類があります。
企業内弁護士(インハウスロイヤー)の特徴
企業内弁護士は、企業の従業員として法務部門などに所属し、社内の一員として法務業務を担当します。
日々の業務を通じて自社の事業内容や企業文化、業務フローを深く理解している点が大きな特徴です。
事業部門と日常的に密接な連携を取りやすく、新規プロジェクトの立ち上げや契約交渉の初期段階から迅速に関与できる強みがあります。
社内規程の整備や予防法務、日々の細かな法的確認にも柔軟に対応しやすい立場です。
顧問弁護士の特徴
顧問弁護士は、法律事務所に所属しながら企業と顧問契約を締結し、外部アドバイザーとして法的な助言や紛争対応を行います。
社内組織から一定の距離を置いているため、第三者としての客観的な視点から法的リスクを判断し、冷静な助言を提供できる点が特長です。
また、自社で弁護士を直接雇用する場合と比べ、事業の状況や必要な業務量に合わせて契約プランを選べる柔軟性があります。
自社の規模や経営フェーズに応じた選択の考え方
企業内弁護士と顧問弁護士は、どちらか一方のみに限定されるものではなく、自社の事業規模や経営フェーズ、法務ニーズの量に応じて適した体制を検討することが重要です。
| 区分 | 企業内弁護士(インハウス) | 顧問弁護士 |
|---|---|---|
| 所属形態 | 自社の従業員として雇用 | 法律事務所に所属(外部委託) |
| 主な役割 | 社内業務への密着対応・事業推進 | 外部アドバイザーとしての客観的助言 |
| 主なメリット | 自社事業への深い理解と迅速な連携 | 客観的な視点とコスト・活用の柔軟性 |
| 適したフェーズ例 | 日常的に膨大な法務案件が発生する規模 | 法務体制の立ち上げ期や事業拡大期 |
自社の事業フェーズや法務ニーズの量に応じて、顧問弁護士の活用や企業内弁護士の採用を適切に選択・組み合わせることが大切です。
創業期や事業拡大期にはまず外部の顧問弁護士を活用し、事業規模の拡大に伴って法務案件が恒常化した段階で企業内弁護士の導入を検討するなど、段階的な体制整備を行うことも選択肢の一つとなります。
企業法務について弁護士に相談するタイミングと相談の流れ
企業活動を継続する中では、日常的な取引から組織運営に至るまで、法的な検討が必要となる場面が数多く存在します。
トラブルが深刻化してから対処するのではなく、状況の変化に応じた適切なタイミングで弁護士へ相談することが重要です。
弁護士への相談を検討すべき主な場面
取引規模が拡大し、契約書を日常的に取り扱うようになった段階は、弁護士への相談を検討する代表的な契機の一つです。
契約条項の確認が不十分なまま締結してしまうと、自社にとって不利益な条件を課されるリスクが生じることがあります。
新規事業の立ち上げや海外進出などの事業拡大を行う際にも、法的確認が欠かせません。
新規ビジネスモデルの適法性確認や許認可の要否、関係法令の調査を事前に実施することで、事業展開に伴うリスクの低減を図ることができます。
従業員の雇用が増加した局面では、労働基準法をはじめとする各種労務法令への適合が求められます。
就業規則の改定や時間外労働の管理、ハラスメント防止策などの体制を整えることで、労使間のトラブル防止につながります。
取引先からの売掛金未払いなど、債権回収が困難になった場合も相談のタイミングとなります。
自社のみでの対応が難しい場合でも、弁護士による督促や保全手続きなどを検討することで、迅速な対応を進めやすくなります。
問い合わせから顧問契約締結までの一般的な手続きの流れ
企業法務に関する相談を行い、顧問契約などを締結するまでの一般的な手続きは、主に以下の手順で進められます。
- 法律事務所への問い合わせ(電話や問い合わせフォームから連絡)
- 弁護士との面談・ヒアリング(自社の課題や希望するサポート内容の共有)
- 支援内容や費用の提示(顧問プランや対応範囲の確認)
- 契約内容の合意と顧問契約書の締結
初回の面談では、自社が直面している課題や顧問弁護士に期待する役割を明確に伝えることが、スムーズな契約締結と適切なサポートの実現につながります。
企業法務に関する弁護士費用の目安と弁護士選びの視点
企業法務を弁護士に依頼する際の費用体系には、継続的なサポートを受ける顧問契約と、個別の案件ごとに依頼するスポット契約があります。
自社の事業規模や法務相談の頻度に応じて適した形態を選択することが大切です。
企業法務に関する費用の目安
顧問弁護士を活用する場合、法律事務所ごとに複数の顧問料プランが設けられていることが一般的です。
従来は月額5万円程度が目安とされていましたが、近年では月額3万円程度から契約できるプランを用意している事務所も見られます。
顧問料に含まれる相談時間や契約書チェックの通数、対応範囲はプランごとに異なります。
超過分の相談や法的手続きの代理などについては、別途費用が発生する場合があるため、事前に契約内容を確認しておく必要があります。
なお、スポットで契約書の作成やトラブル対応を依頼する場合は、着手金・報酬金方式や、作業時間に応じたタイムチャージ方式などが採用されることが一般的です。
顧問契約を検討する際は、費用の安さだけで選ぶのではなく、自社が必要とする法務サポートの範囲がカバーされているかを確認することが重要です。
自社に合った弁護士を選ぶための視点
予防法務に注力しているか
企業法務においては、トラブルが起きた後の対処だけでなく、契約書の精査や社内規程の整備などを通じて紛争を未然に防ぐ予防法務の視点が欠かせません。
リスクを事前に洗い出し、具体的な対策を提案してくれる姿勢があるかを確認しましょう。
円滑なコミュニケーションが可能か
法律問題について分かりやすく丁寧に説明してくれるか、迅速なレスポンスが期待できるかも重要な判断基準です。
電話や面談だけでなく、チャットツールやオンライン会議など、自社の業務環境に合わせた連絡方法に対応しているかも確認しておくと安心です。
自社の事業やニーズに合致しているか
自社の業界構造やビジネスモデルを理解し、事業の推進を妨げない実務的な助言を行ってくれるかどうかも大切です。
直面している課題や今後の事業展開に合わせて、適切なサポートを提供してくれる弁護士を選ぶことが望まれます。
企業の健全な事業活動を支える弁護士への相談
近年の企業活動においては、コンプライアンスの遵守やコーポレートガバナンスの確立に対する社会的な要請が一段と高まっています。
法的な観点を取り入れた社内体制の整備は、予期せぬトラブルを防止するだけでなく、取引先や顧客、投資家からの信頼を獲得し、中長期的な企業価値の向上にも寄与します。
企業運営において重大な法的リスクがひとたび顕在化すると、多大な経済的損失や社会的信用の失墜を招くおそれがあります。
日常業務の段階から潜在的なリスクを点検し、適切に対処できる仕組みを構築しておくことは、安定した事業運営を継続する上で不可欠な要素です。
自社の事業規模や成長フェーズに適した法務体制を整えることが、企業の健全な持続的成長を支える強固な基盤となります。
企業が直面する法的な課題は、新規事業の立ち上げ、取引契約の増加、従業員の雇用管理、資金調達など、事業のステージや業種によって多岐にわたります。
自社の社内リソースだけで対応が難しい局面では、客観的な視点を持つ弁護士の知見を活用することが有効です。
弁護士との継続的な連携や相談体制を築くことにより、課題の早期発見やトラブルへの迅速な初動対応が可能となります。
自社の状況に合った適切な法的アドバイスを受けることで、経営者や法務担当者が安心して本業の成長に専念できる環境作りにつながります。
法務体制の強化や弁護士の導入を検討される際には、まずは自社が現在抱えている課題や将来想定されるリスクを整理し、一度弁護士への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。