更新日:2025年8月15日 (金)
公開日:2025年8月18日 (月)
周知表示混同惹起行為とは?成立要件や違反時のリスクを解説
サマリー
新商品の名称や店舗のデザインを検討する際、意図せず他社と類似して法的トラブルに発展しないか懸念される事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
不正競争防止法では、広く知られている他人の商品等表示を用いて混同を生じさせる「周知表示混同惹起行為」を規制しており、該当した場合は差止請求や損害賠償請求などの対象となる可能性があります。
この記事では、周知表示混同惹起行為の基本的な定義や成立要件、生じ得る法的リスクについて分かりやすく解説します。
周知表示混同惹起行為とは何か

市場経済において、事業者は自由に商品やサービスを開発し、自社のブランド力を高めるための営業努力を行っています。
しかし、他社が築き上げた知名度や信用に不当に便乗するような行為が行われると、公正な市場競争が損なわれてしまいます。
こうした不公正な行為を取り締まり、健全な取引秩序を維持するために定められているのが「不正競争防止法」です。
不正競争防止法第2条第1項第1号の規定
不正競争防止法では、公正な競争を阻害するさまざまな類型を「不正競争」として列挙して禁止しています。
その代表的な類型のひとつが、同法第2条第1項第1号に規定されている「周知表示混同惹起行為」です。
法律上の規定では、「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、…他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」と定義されています。
すなわち、すでに広く知られている他社の名称やマークなどに似た表示を使用し、需要者に「その会社の商品やサービスである」あるいは「何らかの関係がある」と誤認させる行為を指します。
制度の目的と保護される利益
事業者が長期間にわたる事業活動や宣伝広告を通じて獲得した信用や顧客吸引力は、事業活動を支える極めて重要な財産的価値を持ちます。
仮に他社がその知名度を無断で利用して類似の商品を販売した場合、先行して信用を築いてきた事業者の営業上の利益が害されるだけでなく、商品を購入する需要者側も誤った選択をしてしまうリスクがあります。
そのため、周知表示混同惹起行為の規制は、事業者の信用やブランド価値を守るとともに、需要者が正しく商品やサービスを選択できる環境を確保し、市場全体の公正な競争秩序を維持することを目的としています。
周知表示混同惹起行為が成立するための3つの要件
不正競争防止法第2条第1項第1号に規定される周知表示混同惹起行為が成立するには、法律上定められた3つの要件をすべて満たす必要があります。
自社や他社の行為が本号に抵触するかどうかを検討する際は、これら3つの要件について個別に当てはめることが基本となります。
要件1:他人の「商品等表示」であること
1つ目の要件は、対象となる表示が他人の「商品等表示」に該当することです。
商品等表示とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器や包装など、商品の出所や営業の主体を示す表示を指します。
商品等表示として保護されるためには、自他を区別する機能(自他識別力)を備えていることが必要です。
単なる商品の品質説明や一般的な普通名称は自他識別力がないため原則として該当しません。
一方で、商品の形態(デザイン)や店舗の外観なども、独自の工夫が施され、長期間の使用や宣伝を通じて特定の事業者のものとして需要者に認識されるに至った場合は、商品等表示として認められ得ます。
要件2:需要者の間に広く認識されていること(周知性)
2つ目の要件は、その商品等表示が「需要者の間に広く認識されている」こと、すなわち周知性を有していることです。
需要者とは、その商品やサービスを購入・利用する消費者や取引先事業者を指します。
周知性の判断において、必ずしも日本全国での知名度までは求められません。
特定の地域や特定の業界・顧客層において広く知られている場合であっても、法律上の周知性が認められることがあります。
要件3:他人の商品又は営業と「混同」を生じさせること
3つ目の要件は、同一または類似の表示を使用することによって、他人の商品や営業と混同を生じさせることです。
現実に誤認購入などの被害が発生していることまでは必須とされず、混同が生じるおそれがあれば足ります。
法律上の混同には、主に以下の2つの類型が存在します。
- 狭義の混同:他人の商品や営業そのものであると直接的に誤認・取り違える状態(主に競業関係にある事業者間で生じる)
- 広義の混同:商品や営業自体の取り違えはないものの、両者の間に親子会社、系列関係、提携関係などの緊密な関係が存在すると誤認する状態(異業種間でも生じ得る)
このように、直接競合しない分野であっても、著名なブランドとの関係性を誤信させるような表示の使用は、広義の混同として違法と判断される可能性があります。
周知表示混同惹起行為が問題となった具体的事例
周知表示混同惹起行為に該当するかどうかは、表示の知名度や類似性、取引の実態などを総合的に考慮して判断されます。
過去の裁判例や紛争事例を見ることで、どのような態様が問題視されるのかを把握できます。
商号や看板における著名表示の無断使用
他社が長年の実績によって広く周知させた名称を、自社の看板や会社名(商号)として無断で使用した事案があります。
例えば、ソニー株式会社の周知な表示である「ウォークマン」を店舗看板に掲げ、「有限会社ウォークマン」という商号を使用した業者に対し、表示の使用禁止等が認められた事例が存在します。
このように、他社の周知な商品名やブランド名をそのまま営業上の表示として転用する行為は、自他識別力を害し出所混同を招く典型例とみなされます。
店舗外観や商品形態(デザイン)の模倣
文字やロゴマークだけでなく、特徴的な店舗の外観や商品の形態自体が商品等表示として保護の対象となり、模倣が争われた事例もあります。
有名コーヒーチェーン「珈琲所コメダ珈琲店」の事例では、特徴的な建物構造や内装を含む店舗外観が商品等表示にあたるとされ、類似した店舗外観を用いた同業者に対して使用禁止が認められました。
また、ISSEY MIYAKEのバッグ「BAO BAO」のように、独自の立体的な幾何学構造を持つ商品形態を模倣した類似品の販売が問題となった事案もあります。
長年の使用や強力な宣伝により、外観やデザイン自体が特定の事業者を想起させるに至っている場合、商品形態の模倣も不正競争行為となり得ます。
異業種間における関係性の誤認(広義の混同)
直接の競業関係にない異業種間であっても、出所の混同が認められるケースがあります。
ファッションブランド「シャネル」の名称が無断で使用された「スナックシャネル」の事例はその代表例です。
この事例では、高級服飾ブランドとスナックという異なる業種であっても、消費者が「ブランドの系列店や提携関係にあるグループ企業ではないか」と誤認するおそれ(広義の混同)があると判断されました。
取扱商品や業種が異なる場合であっても、他社の知名度に便乗して関係性を誤信させるような表示の使用には十分な注意が必要です。
周知表示混同惹起行為に該当した場合の法的責任
不正競争防止法に規定されている周知表示混同惹起行為に該当すると判断された場合、行為者は民事上および刑事上の重い法的責任を追及される可能性があります。
民事上の措置(差止請求・損害賠償請求・信用回復措置)
民事上の責任として、営業上の利益を侵害された、または侵害されるおそれがある事業者から「差止請求」(第3条)を受けることがあります。
これにより、対象となる表示の使用停止だけでなく、侵害行為を組成した商品の廃棄や設備の除却などを求められる場合があります。
また、故意または過失によって他人の営業上の利益を侵害した場合には、「損害賠償請求」(第4条)の対象となります。
損害額の算定にあたっては、侵害者が得た利益の額などを基準に算定される規定が整備されています。
さらに、他人の業務上の信用を害した場合には、金銭的な賠償だけでなく、謝罪広告の掲載など業務上の信用を回復するために必要な措置を命じられる「信用回復措置請求」(第14条)が認められることもあります。
刑事上の責任(不正の目的がある場合)
不正競争防止法では、民事上の責任にとどまらず、悪質な行為に対して刑事罰も規定されています(第21条)。
「不正の目的」をもって周知表示混同惹起行為を行った個人には、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはこれらが併科される可能性があります。
法人の代表者や従業員が法人の業務に関して違反行為を行った場合には、行為者本人のみならず法人に対しても3億円以下の罰金刑が科される両罰規定が設けられています。
| 責任の種別 | 主な根拠条文 | 具体的な内容・ペナルティ |
|---|---|---|
| 差止請求 | 不正競争防止法第3条 | 侵害行為の停止、侵害物品の廃棄、設備の除却等の請求 |
| 損害賠償請求 | 不正競争防止法第4条 | 故意・過失による営業上の利益侵害に対する金銭賠償 |
| 信用回復措置 | 不正競争防止法第14条 | 謝罪広告の掲載など、害された信用の回復措置 |
| 個人の刑事罰 | 不正競争防止法第21条 | 不正目的の場合:5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金(または併科) |
| 法人の刑事罰(両罰規定) | 不正競争防止法第22条 | 法人に対して3億円以下の罰金刑 |
知的財産・不正競争に関する紛争の予防と弁護士への相談

新商品や新サービスの開発、あるいは店舗展開などを進める際には、採用しようとしている名称やデザイン、容器包装などが他社の先行する表示と類似していないか、企画段階で慎重に確認することが重要となります。
意図的な模倣でなくとも、市場に広く認知されている表示が存在する場合、思わぬ形で不正競争防止法上の紛争に発展するリスクがあります。
事前の市場調査や商標調査を行い、自他識別力や混同のおそれをあらかじめ検証しておくことがトラブルの予防につながります。
模倣被害を受けた際の法的検討
自社が長年の事業活動を通じて築き上げてきた商品名や外観などが他社に模倣された場合、放置すると築き上げたブランド価値や顧客からの信用が損なわれるおそれがあります。
模倣への対策を検討する際は、自社の表示が需要者の間に広く知られているか、相手方の行為によって混同が生じる可能性があるかなど、法律上の要件を具体的事実に基づいて整理することが求められます。
他社からの警告への対応と弁護士相談の有用性
他社から周知表示混同惹起行為に該当するとして警告書や使用停止の申し入れを受けた場合も、過剰な反応や放置を避け、事実関係を冷静に精査することが重要です。
相手方の主張する周知性の程度や混同のおそれの有無を客観的に検討する必要があります。
不正競争防止法に基づく判断には、取引の実態や過去の裁判例を踏まえた個別具体的な法解釈が不可欠です。
事前のリスク確認や紛争発生時の対応方針に迷う場合は、知的財産分野を取り扱う弁護士に相談し、法的な見通しを踏まえた助言を得ることも有効な手段となります。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。