更新日:2025年8月15日 (金)
公開日:2025年8月15日 (金)
下請法改正(取適法)の従業員基準とは?適用要件と企業対応
サマリー
令和8年1月に施行される「中小受託取引適正化法(取適法)」では、適用対象を判断する枠組みとして、従来の資本金基準に加えて新たに「従業員基準」が導入されます。これまで資本金が少なく下請法の対象外と考えていた企業でも、従業員数によっては新たに規制対象となる可能性があるため、自社への影響を把握したいとお考えの方も多いのではないでしょうか。この記事では、取適法における従業員基準の具体的な要件や適用関係の考え方、施行に向けて企業が進めるべき実務対応について解説します。
下請法から取適法への改正と「従業員基準」新設の背景
令和8年1月より、現行の下請法(下請代金支払遅延等防止法)は「中小受託取引適正化法」(略称「取適法」)へと改められ、新たな枠組みのもとで施行される予定です。
この法改正における大きな変更点のひとつが、法律の適用対象を判定する枠組みとして、従来の「資本金基準」に加えて「従業員基準」が新たに導入される点です。
従来の「資本金基準」による適用関係とその課題
従来の下請法では、取引が規制の対象となるかどうかは、発注者である親事業者と受注者である下請事業者の「資本金の額」の組み合わせのみによって画一的に判断されてきました。
具体的には、製造委託や修理委託、情報成果物作成委託などの取引類型ごとに「3億円超」「5,000万円超」「1,000万円超」といった資本金の区分が設けられ、これに基づいて親事業者と下請事業者の該当性が判断されていました。
しかし、近年の経済環境の変化に伴い、資本金の多寡だけでは企業の実質的な規模や取引上の力関係を正確に反映しきれないケースが増加していました。
取引実態を反映するための「従業員基準」の導入
例えば、多額の売上や多数の従業員を抱える事業規模の大きいスタートアップ企業であっても、資本金が小さければ下請法の規制対象から外れてしまうという状況が生じていました。
また、法規制の適用を免れる目的で意図的に減資を行う企業が存在するなど、資本金基準のみに依存した制度設計には限界が指摘されていました。
こうした実態を踏まえ、事業規模の実質的な指標として「従業員数」を判断要素に加えることで、形式的な資本金額にとらわれない適切な取引適正化を図ることが今回の法改正の目的とされています。
取適法における「従業員基準」の具体的な区分と定義
取適法で新たに導入される「従業員基準」は、事業者が行う取引の内容(委託区分)に応じて基準となる人数が設定されています。自社の取引がどの類型に該当するかによって、適用対象となる従業員規模が異なるため、区分の整理が重要です。
取引類型ごとの従業員基準
取適法における従業員基準では、製造業や運送業などの物品・輸送関連の委託と、情報・サービス関連の委託で異なる人数の閾値が設けられています。具体的には、以下の区分に従って発注者(委託事業者)と受注者(中小受託事業者)の該当性が判断されます。
| 取引類型 | 委託事業者(発注側)の基準 | 中小受託事業者(受注側)の基準 |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託など | 従業員数 300人超 | 従業員数 300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託など | 従業員数 100人超 | 従業員数 100人以下 |
製造委託や修理委託、特定運送委託においては、従業員数が300人を超える事業者が、300人以下の事業者に対して委託を行う場合に規制の対象となります。一方で、プログラムやコンテンツ等の制作を行う情報成果物作成委託や各種サービスを提供する役務提供委託では、基準値が100人となり、より少ない人員規模でも対象となり得ます。
「常時使用する従業員」の範囲と算入ルール
基準となる従業員数を算定する際には、「常時使用する従業員」の範囲を正しく把握しておく必要があります。この従業員数には、自社が直接雇用している労働者が広く含まれる点に留意が必要です。
具体的には、正社員だけでなく、直接雇用の契約社員やパートタイマーなども算定対象に含まれます。一方で、他社から受け入れている派遣社員や、業務委託契約に基づき業務を行う個人事業主・外部スタッフなどは、直接雇用関係がないため従業員数には含まれません。
派遣社員や業務委託先の人員は除外されるものの、直接雇用の契約社員などは算入対象となるため、雇用形態ごとに人数を正確に把握することが求められます。
資本金基準と従業員基準の適用関係と判断のタイミング
取適法の実務においては、従来の資本金基準と新設される従業員基準がどのように関連し、どの時点で判断されるかを理解しておくことが不可欠です。
「資本金」または「従業員数」のいずれか一方を満たせば適用対象に
取適法における重要な変更点の一つは、資本金基準と従業員基準の双方が並列で扱われる点です。二つの基準を同時に満たす必要はなく、どちらか一方の基準に該当すれば、その取引は法の適用対象として扱われます。
資本金基準を満たさない場合であっても、従業員基準を満たしていれば法の適用対象となります。
例えば、製造委託を行う資本金5,000万円・従業員400人の企業を考えます。従来の資本金基準(3億円超など)のみでは親事業者に該当しなかったケースでも、新法では従業員基準(300人超)を満たすため、従業員300人以下の事業者に発注する際は「委託事業者」として規制を受けることになります。
適用関係を判断する基準時(発注時基準の考え方)
自社や取引先が適用対象となるかをどの時点で判断すべきかについては、取引の実務上きわめて重要な論点です。現行の下請法実務においては、個別の取引を発注した時点の状況をもって判断する「発注時基準」が採られてきました。
取適法においても特段の規定が設けられない限り、この発注時基準の考え方が維持される可能性が高いと考えられます。資本金や従業員数は事業年度の途中でも増減することがあるため、契約更新時だけでなく個別の発注時点におけるステータスの把握が重要になります。
取引の都度、自社および相手方の資本金や従業員数を確認できる管理体制をあらかじめ整えておくことが望まれます。
施行に向けて企業が取り組むべき実務対応
取適法が施行されると、これまで対象外と捉えていた取引であっても新たに法の規制対象となる可能性があります。意図しない法令違反を防止するためには、施行前に社内体制や取引管理の枠組みを整備しておくことが重要とされています。
自社および取引先のステータス確認
実務対応の第一歩として、まず自社の「常時使用する従業員」の数を正確に把握することが挙げられます。その上で、主要な委託先や発注先について、資本金だけでなく従業員数のステータスも含めて適用要件に該当するかどうかを洗い出します。
これにより、従来の資本金基準では対象外であったものの、新法下では規制対象となる取引関係を事前に把握し、対応が必要な取引をリストアップしておくことが考えられます。
発注管理フローおよび契約書・社内規程の見直し
取引先の状況を正確に把握するため、取引先の新規登録時や契約更新時のチェックリストに「従業員数」の確認項目を追加するなど、購買・発注管理のプロセスを見直すことが求められます。
発注管理フローに取引先の従業員数を確認する手順を組み込み、定期的にステータスを更新できる体制を整えておくことが望まれます。
また、取引基本契約書や個別契約書、発注書面などが取適法の義務規定や禁止行為に抵触しないかを確認し、必要に応じて社内規程や契約条項の改訂を進めることも重要です。
現場担当者への教育と周知徹底
法改正への対応を定着させるためには、購買部門や調達部門、製造現場などの実務担当者に対する研修の実施が効果的です。
従業員基準の新設によりどのような取引が新たに対象となるのか、発注時にどのような点に留意すべきかを社内に周知し、コンプライアンス意識を高める取り組みが推奨されます。
取適法への対応に関する弁護士への相談
中小受託取引適正化法(取適法)への移行に伴い、自社が関わる個別の取引が規制対象に該当するか否かの判断には、多角的な検討が求められます。
資本金基準に加えて従業員基準が導入されることで、取引類型ごとの閾値の確認や、常時使用する従業員の範囲の正確な把握など、確認すべき事項は複雑化します。
取引実態に応じた該否判断の重要性
形式的な契約形態が業務委託であっても、委託内容の実質によって製造委託や役務提供委託などに分類され、適用される従業員基準の数値が異なる場合があります。
取引実態に即した正確な法的判断を怠ると、意図せず法令の適用対象から外れていると誤認し、発注書面の交付義務や支払期日の制限などに違反してしまうリスクが生じます。
契約書改訂とコンプライアンス体制の構築
改正法への適切な対応を行うためには、現在使用している取引基本契約書や個別発注書の条項が、新たな法規制に適合しているか精査する必要があります。
また、購買部門や営業部門が日常業務において適切に取引先ステータスを確認できるよう、社内マニュアルの整備や運用プロセスの見直しを組織的に進めることが大切です。
法的な助言を踏まえた対応の検討
自社の取引関係が取適法の対象となるか判断に迷う場合や、社内規程の改訂および契約書のリーガルチェックが必要な場合には、弁護士への相談を検討することが有効です。
施行に向けた早期の段階から法的知見を踏まえた体制整備を進めることで、法適合性を高め、取引先との円滑な関係維持につなげることができます。
まとめ
令和8年1月に施行される中小受託取引適正化法(取適法)では、従来の資本金基準に加えて従業員基準が導入され、資本金が少ない企業であっても従業員規模によって規制対象となる可能性があります。
資本金または従業員数のいずれかを満たせば適用対象となるため、取引類型ごとの基準値や「常時使用する従業員」の範囲を正しく理解し、自社および取引先のステータスを把握することが重要です。
施行に向けて、発注管理フローや契約書・社内規程の改訂、社内教育などの準備を早期に進め、必要に応じて弁護士の助言を活用しながら適切な体制を整えていくことが推奨されます。
コラム監修者
KOHEI TAKASAWA
所属:東京オフィス
東京都立大学法科大学院修了後、新司法試験合格。 弁護士登録以前は、上場準備中の企業(現・東証グロース市場上場企業)の管理部門において、IPO準備業務に従事。