更新日:2026年10月21日 (水)
公開日:2026年10月20日 (火)
アスベスト事前調査の義務化とは?対象工事や報告の流れを解説
サマリー
建物の解体や改修工事を行う際、アスベスト(石綿)の事前調査がいつから義務化され、どのような工事が対象になるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
大気汚染防止法などの改正により、現在では原則として多くの工事で事前調査が求められ、一定規模以上の工事では電子報告や有資格者による調査が義務付けられています。
この記事では、法改正のスケジュールや対象となる工事の基準、調査・報告の具体的な流れ、違反時の罰則について分かりやすく解説します。
アスベスト(石綿)事前調査の義務化とは?法改正の背景と時期
日本では過去に多くの建材へアスベスト(石綿)が使用されていましたが、1970年代から1990年代にかけて建設された建築物が解体・改修の時期を一斉に迎えつつあります。
これに伴い、適切な飛散防止措置がとられないまま工事が行われることによる健康被害リスクが懸念されていました。
こうした背景を踏まえ、作業者のばく露防止および周辺環境への飛散防止を徹底するため、大気汚染防止法および労働安全衛生法関連の石綿障害予防規則(石綿則)が抜本的に改正されました。
一連の法改正により、現在では建物の解体・改修工事に際して工事前の石綿事前調査の実施が原則として義務付けられています。
法改正の段階的な施行スケジュール
法改正は実務への影響や資格者の育成期間などを考慮し、一度にすべてが施行されたわけではなく、段階的に義務の範囲が拡大されてきました。
主な施行スケジュールは以下のとおり整理されています。
| 施行時期 | 主な改正内容・義務化事項 | 対象となる主な工事・要件 |
|---|---|---|
| 2021年4月 | 調査方法の法定化・作業記録の保存義務 | 書面調査および現地目視調査の義務付け、写真等の記録保存 |
| 2022年4月 | 事前調査結果の電子報告義務化 | 一定規模以上の建築物等の解体・改修工事(労働基準監督署および自治体へ報告) |
| 2023年10月 | 建築物の有資格者による調査義務化 | 建築物の解体・改修工事(建築物石綿含有建材調査者等による事前調査) |
| 2026年1月
(予定) |
工作物の有資格者による調査義務化 | 特定の工作物の解体・改修工事(工作物石綿事前調査者等による事前調査) |
2022年4月:調査結果の電子報告の義務化
2022年4月からは、一定規模以上の解体・改修工事について、石綿の有無にかかわらず事前調査結果を行政機関(労働基準監督署および自治体)へ報告することが義務付けられました。
この報告は原則として「石綿事前調査結果報告システム」を利用した電子申請により行われ、施工業者が法令を遵守して適切な調査を行っているかを公的に把握する仕組みが整えられました。
2023年10月:建築物の有資格者による事前調査の義務化
2023年10月には大きな転換点を迎え、建築物の事前調査について、厚生労働省・国土交通省・環境省が定めた一定の講習を修了した有資格者が行わなければならないと定められました。
これにより、施工業者が目視だけで独自に「石綿なし」と判断することは認められず、専門知識を持つ「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者による正確な判定が求められることになりました。
2026年1月予定:工作物に対する有資格者調査の義務化
建築物に続いて、プラント設備や配管、煙突、サイロなどの特定の工作物についても、2026年1月より有資格者による事前調査の義務化が予定されています。
現在すでに建築物については有資格者による事前調査が完全義務化されており、工作物についても将来的な完全施行に向けて有資格者の育成や準備が進められている状況です。
事前調査・結果報告が義務付けられる対象工事の条件

大気汚染防止法および石綿障害予防規則では、建築物や特定の工作物を解体・改修する際、一定の規模や請負金額を超える工事について、事前調査結果を行政(所轄の労働基準監督署および自治体)へ報告することを義務付けています。
行政への結果報告が義務となる3つの基準
電子システムなどを通じた報告が必要となる工事の基準は、作業の種類や対象物によって明確に区分されています。
具体的には、建築物の解体工事、建築物の改修工事、特定の工作物の解体・改修工事の3区分に分かれて基準が設けられています。
| 対象区分 | 工事の種別 | 報告義務が生じる規模・金額基準 |
|---|---|---|
| 建築物 | 解体工事 | 作業対象となる床面積の合計が80㎡以上 |
| 建築物 | 改修・補修工事(リフォーム等) | 請負代金の合計額が100万円以上(税込) |
| 工作物 | 特定の工作物の解体・改修工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(税込) |
改修工事や工作物工事の基準となる「請負代金」には、材料費や施工費だけでなく、足場の仮設工事費用や諸経費など、その工事一式にかかるすべての費用(消費税を含む)が含まれます。
同一の施工業者が一連の改修計画を複数に分割して契約した場合でも、実質的に同一の工事とみなされれば合算金額で判定される点に留意が必要です。
基準未満の小規模工事でも「事前調査」自体は原則必須
実務上よく見られる誤解として、上記の報告基準未満であれば調査そのものが不要になると捉えてしまうケースが挙げられます。
しかし、報告義務の規模に達しない場合でも、法令上、事前調査そのものは原則としてすべての工事で義務付けられています。
報告義務の基準未満であっても、事前調査そのものは原則としてすべての解体・改修工事で実施しなければなりません。
たとえば、請負金額が数十万円程度のリフォーム工事であっても、壁や天井の切断、掘削、取り外しなどを伴う作業を行う際は、着工前に石綿含有の有無を確認する必要があります。
調査結果の記録を作成し、現場に備え付けるなどの対応が求められます。
なお、例外として事前調査が不要とされるのは、木材や金属の単なる釘打ち・ねじ留めなど、既存の建材をほとんど損傷しないごく軽微な作業や、石綿が使用されていないことが設計図書等で明白な極めて限られたケースにとどまります。
事前調査を実施できる資格と調査から報告までの手順
アスベストの事前調査は、建物の設計図書や現地を漫然と確認するだけでは認められず、法令で定められた専門的な知識を有する資格者が実施する必要があります。
正確な調査を行わずに解体や改修工事を進めると、周囲への石綿飛散や作業員の健康被害につながる恐れがあるため、調査から行政への報告、現場掲示に至るまでの一連のプロセスが制度化されています。
事前調査を実施可能な資格者
建築物の事前調査を行うことができるのは、厚生労働省・環境省・国土交通省が定めた講習を修了した調査者、またはこれと同等以上の能力を有すると認められた人材に限られます。
| 資格・要件の名称 | 対象となる建築物・範囲 |
|---|---|
| 特定建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物(実地研修等を含み高度な判断に対応) |
| 一般建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物(戸建て住宅および共同住宅・ビル等) |
| 一戸建て等石綿含有建材調査者 | 一戸建て住宅および共同住宅の住戸内部 |
| 一般社団法人日本アスベスト調査診断協会 登録者 | すべての建築物(制度改正前の審査合格者など) |
なお、工作物の調査については2026年1月より工作物石綿事前調査者等による実施が義務付けられる予定となっており、対象物に応じた適切な有資格者の確保が必要です。
調査の着手から結果報告・掲示までのステップ
事前調査およびその後の手続きは、段階的に進められます。基本的には「書面調査」「現地目視調査」「分析調査」の順に建材を確認し、その結果を行政機関へ報告したうえで現場へ掲示します。
- 書面調査:設計図書、竣工図、修繕履歴などの書類を確認し、建築時期や使用建材を把握する
- 現地目視調査:現場に立ち入り、図面と現況の整合性や建材の品番、製造メーカーの刻印等を目視で確認する
- 分析調査:書面や目視でアスベスト含有の有無が判明しない場合、検体を採取して専門機関で分析を行う
- 電子報告:一定規模以上の工事について、工事着工前に「石綿事前調査結果報告システム」から届け出る
- 現場掲示・備え付け:調査結果の概要を工事現場の見やすい場所に掲示し、調査書面を現場に備え付ける
電子報告の対象となる工事では、環境省および厚生労働省が共同運用する「石綿事前調査結果報告システム」を通じて、労働基準監督署および地方公共団体へ一括して報告を行います。原則としてパソコンやスマートフォン等からのオンライン申請となります。
報告義務の有無にかかわらず、調査結果の掲示や記録の備え付け、発注者への書面交付は原則としてすべての工事で実施する必要があります。
事前調査を怠った場合の罰則と「みなし判定」の注意点
アスベストの事前調査や結果の報告を怠った場合、工事関係者には厳しい法的ペナルティが科される可能性があります。
法改正により、是正命令を経ずに刑事罰が科される「直接罰」の規定が整備されており、法令遵守の徹底が求められます。
事前調査や報告を怠った場合の法的リスクと罰則
大気汚染防止法および労働安全衛生法(石綿障害予防規則)では、事前調査を行わなかった場合や、虚偽の報告を行った場合に対する罰則が定められています。
法令違反が確認された場合、工事の即時停止命令を受けるだけでなく、事業者としての社会的信用を大きく損なう要因となります。
| 主な違反行為 | 該当する法令 | 想定される法定刑・罰則 |
|---|---|---|
| 事前調査を行わずに解体・改修工事に着手した | 労働安全衛生法・大気汚染防止法 | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金など |
| 特定粉じん排出等作業の中止命令・改善命令に違反した | 大気汚染防止法 | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 事前調査結果の報告を怠った、または虚偽の報告をした | 大気汚染防止法・石綿障害予防規則 | 30万円以下の罰金 |
元請業者だけでなく下請負人であっても、石綿含有建材の除去等において法令で定められた作業基準を遵守しなかった場合には、直接罰が適用されるリスクが存在します。
「みなし判定」の要件と誤解しやすい注意点
事前調査の実務においては、分析調査に要する時間やコストを考慮し、建材を「石綿が含有されているもの」とみなして厳しい基準で除去工事等を行う「みなし判定」が認められています。
建築年が古い建材などで含有の蓋然性が高い場合によく用いられる手法です。
みなし判定を採用しても事前調査そのものが免除されるわけではなく、書面調査や現地での目視調査、およびシステムによる結果報告は必須です。
「石綿含有として扱えば調査を行わなくてもよい」と誤解して工事を進めると、事前調査義務違反や報告義務違反に問われるおそれがあります。
みなし判定を行う場合でも、有資格者による調査プロセスの記録や掲示は法令通りに実施しなければなりません。
発注者(施主)と元請業者の責任および協力義務
アスベスト事前調査の直接的な義務者は主に工事を請け負う元請業者ですが、建物の所有者や発注者(施主)にも法令上の責務が課されています。
発注者は設計図書の提供や現場への立ち入り許可など、元請業者の調査に協力する義務を負っています。
発注者が調査費用を著しく不当に値引いたり、無理な短工期を強要して調査を妨げたりすることは法律上避けるべき行為とされています。
万が一ずさんな管理により石綿が飛散した場合、工事の中止による工期遅延や周辺住民との紛争など、発注者側にも甚大な影響が及ぶ可能性があります。
まとめ
建物の解体や改修工事に伴うアスベスト事前調査は、作業員の健康被害や周辺環境への飛散を防ぐための重要な法的義務です。
一定の規模を超える工事では行政への電子報告や有資格者による調査が義務付けられており、基準未満の工事であっても調査の実施自体は原則として免除されません。
発注者と施工業者の双方が改正内容を正しく把握し、綿密に連携して手続きを進めることが、予期せぬ法的トラブルや工事遅延を防ぐ鍵となります。
事前調査の義務違反に対する罰則リスクや、工事請負契約におけるトラブルへの対応など、法的な判断に不安がある場合は弁護士法人ネクスパート法律事務所へご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。