更新日:2026年10月21日 (水)
公開日:2026年10月21日 (水)
アスベストに関する法律まとめ!規制内容や近年の法改正を解説
サマリー
建物の解体や改修工事を控えており、アスベスト(石綿)に関する法令や必要な手続きが分からず困っていませんか。
アスベストは深刻な健康被害を引き起こすリスクがあるため、大気汚染防止法や石綿障害予防規則など、複数の法律によって厳格な規制が設けられています。
近年も事前調査の義務化など法改正が相次いでおり、適切な把握が不可欠です。
この記事では、アスベストを取り巻く主な法律の全体像や工事に伴う義務、近年の法改正内容、被害救済の制度まで分かりやすく解説します。
アスベスト(石綿)を取り巻く主な法律の全体像

アスベストはかつて耐火性や断熱性に優れた建材として広く使用されていましたが、その粉じんを吸入することで中皮腫や肺がんなどを引き起こすリスクが明白となり、現在では多角的な法体系のもとで厳格に規制されています。
規制の対象や目的は法律ごとに分かれており、周辺環境への飛散防止を図るもの、工事現場で働く労働者の安全を守るもの、建築物の安全基準を定めるもの、過去の曝露による健康被害者を救済するものなど多岐にわたります。
アスベスト規制を正確に理解するためには、それぞれの法律が「誰を」「どのような危険から」保護するためのものかを整理して捉えることが不可欠です。
目的ごとに異なる主な関連法令の役割
アスベストに関わる主な法令には、大気汚染防止法、労働安全衛生法およびその下位命令である石綿障害予防規則(石綿則)、建築基準法、石綿健康被害救済法などが挙げられます。
これらが相互に機能することで、飛散防止から被害者救済までの網羅的な対応が図られています。
| 法律・規則名 | 主な対象・保護目的 | 基本的な規制内容や制度の概要 |
|---|---|---|
| 大気汚染防止法 | 周辺環境の保全・一般住民の保護 | 解体・改修工事に伴う石綿の飛散防止基準の遵守、事前調査や作業の届出義務の規定 |
| 石綿障害予防規則
(労働安全衛生法関連) |
工事等の現場で作業する労働者の保護 | 保護具の着用、作業計画の策定、作業記録の保存、特別教育の実施など事業者への義務付け |
| 建築基準法 | 建築物の利用者や周辺住民の安全確保 | 吹付け石綿等の使用禁止、増改築時や大規模修繕時における除去・封じ込め等の義務付け |
| 石綿健康被害救済法 | 健康被害を受けた本人および遺族の救済 | 労災保険の対象とならない周辺住民や労働者の遺族等を対象とした医療費・特別遺族弔慰金の支給 |
製造・使用の全面禁止に至る経緯と現在の基本方針
日本におけるアスベスト規制は、健康被害の深刻化とともに段階的に強化されてきました。
1975年に吹付け石綿の原則禁止が導入された後、2004年にはアスベストを一定割合(1重量%)を超えて含有する建材等の製造・輸入・使用が禁止されました。
さらに2006年には基準が強化され、アスベスト含有率が0.1重量%を超える製品の製造等が原則禁止となり、代替が困難とされたごく一部の猶予用途を除いて市場からの排除が進められました。
そして2012年には猶予用途も撤廃され、例外のない全面禁止に至っています。
このように新規の製造や使用が完全に禁止された現在では、過去に建築された建物に残存するアスベストの適切な把握、解体・改修工事における確実な飛散防止、および廃棄物の適正処理が法運用の中心的な基本方針となっています。
解体・改修工事で重要となる法規制と義務
建築物や工作物の解体・改修工事を実施する際は、周辺環境へのアスベスト飛散防止と作業員のばく露防止のため、複数の法令に基づいた厳格な義務が課されます。
特に中心となるのが大気汚染防止法と石綿障害予防規則(石綿則)です。
大気汚染防止法に基づく届出と作業基準
大気汚染防止法では、吹付け石綿や石綿を含有する断熱材・保温材などを除去・封じ込め等を行う作業を「特定粉じん排出等作業」と定義しています。
これらの作業を伴う工事を行う場合、工事開始の14日前までに都道府県知事等への事前届出が必要です。
届出の義務者は原則として工事の発注者(施主)または自主施工者です。
また、作業にあたっては作業場所の隔離、集じん・排気装置(HEPAフィルター付き)の設置による負圧の維持、薬液等による湿潤化といった具体的な作業基準の遵守が義務付けられています。
石綿障害予防規則に基づく安全対策と保護具の着用
労働安全衛生法に基づく石綿障害予防規則では、施工業者(事業者)に対して労働者の健康障害を予防するための詳細な措置を定めています。
工事着手前には事前調査結果を踏まえた「作業計画」を作成し、作業員への周知と計画に沿った指揮を行わなければなりません。
作業現場では、石綿作業主任者の選任や従事者に対する特別教育の実施が不可欠です。
さらに、粉じんの吸入を防ぐための適切な呼吸用保護具(電動ファン付き呼吸用保護具や防じんマスク)および保護衣・作業衣の着用が義務付けられています。
義務違反に対する罰則と直接罰の導入
近年の法改正により、大気汚染防止法における作業基準違反に対して、従来の改善命令を経ずに直接刑事罰を科す「直接罰」が導入されました。
隔離や集じん・排気装置の稼働などの基準を守らずに作業を行った場合、命令を待たずに罰則が適用される可能性があります。
解体・改修に関わる関係法令の概要と罰則例は以下のとおりです。
| 根拠法令 | 主な対象・義務者 | 義務付けられる主な措置 | 主な罰則規定の例 |
|---|---|---|---|
| 大気汚染防止法 | 工事発注者・施工業者 | 特定粉じん排出等作業の届出、作業場所の隔離・負圧管理、湿潤化基準の遵守 | 直接罰(作業基準違反等):3月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金など |
| 石綿障害予防規則 | 施工業者(事業者) | 作業計画の策定、石綿作業主任者の選任、保護具の着用、作業記録の保存(40年間) | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金など(労働安全衛生法第119条等) |
このように、解体・改修工事におけるアスベスト対策は、発注者と施工業者の双方が法令上の義務を負っています。
基準の不遵守は工事の中断や重い罰則につながるため、綿密な計画と法令に則った手順の徹底が求められます。
近年の法改正における重要ポイント
大気汚染防止法および石綿障害予防規則は、2020年(令和2年)に大幅な改正が行われ、2021年から2023年にかけて段階的に施行されました。
この一連の法改正により、解体・改修工事におけるアスベスト対策は過去に類を見ないほど厳格化されています。
規制対象建材の拡大と作業基準の厳格化
2021年4月施行の改正では、それまで規制の中心であった吹付け材(レベル1)や保温材等(レベル2)だけでなく、成形板や仕上塗材といったいわゆる「レベル3建材」も規制対象に明確に位置づけられました。
これにより、ケイ酸カルシウム板やスレートなどの石綿含有成形板を除去する際にも、切断や破砕を極力避け、原形のまま手作業で取り外すことや、散水等による湿潤化を行うことが義務付けられています。
事前調査結果の電子報告義務化
2022年4月からは、一定規模以上の解体・改修工事について、着工前にアスベスト含有の有無を調べた「事前調査結果」を行政機関へ電子報告することが義務化されました。
報告は原則として「石綿事前調査結果報告システム」を利用してオンラインで行い、労働基準監督署と自治体の双方へ同時に提出する形をとります。
アスベストの有無にかかわらず、基準を満たす規模の工事であればすべて報告対象となります。
有資格者による事前調査の義務化
2023年10月からは、建物の事前調査を適切に行うため、一定の資格を有する者による調査の実施が義務付けられました。
対象建築物の書面調査および目視調査は、専門知識を持つ調査者でなければ行うことができません。
主な資格としては「一般建築物石綿含有建材調査者」「特定建築物石綿含有建材調査者」「一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て住宅・共同住宅の住戸内部限定)」などが定められており、無資格者による調査は法令違反となります。
近年の法改正と主な施行時期
| 施行時期 | 主な改正内容 | 対象となる工事・要件の目安 |
|---|---|---|
| 2021年4月 | 規制対象建材の拡大・作業基準強化 | 仕上塗材、成形板(レベル3建材)を含むすべての石綿含有建材 |
| 2022年4月 | 事前調査結果の行政への電子報告義務化 | 解体工事:床面積80㎡以上/改修工事:請負代金100万円以上など |
| 2023年10月 | 有資格者による事前調査の義務化 | 建築物石綿含有建材調査者などの有資格者による事前調査 |
このように、解体・改修工事に関するルールは年を追うごとに細分化・強化されており、施工業者だけでなく発注者側も最新の義務内容を正確に把握しておく必要があります。
アスベストによる健康被害を救済するための法制度

アスベストが原因で生じる疾患は潜伏期間が数十年に及ぶことも多く、退職後や高齢になってから発症するケースが珍しくありません。
こうした健康被害を受けた方やそのご遺族の迅速な生活安定と補償を図るため、業務歴やばく露の状況に応じた複数の救済法制度が整備されています。
労災保険制度による補償
事業場で労働者としてアスベストを吸い込み、中皮腫や肺がんなどの指定疾病を発症したと認められた場合は、労働者災害補償保険(労災保険)の給付対象となります。
療養補償給付(医療費の支給)や休業補償給付、亡くなられた場合の遺族補償給付などがあり、手厚い所得補償や治療支援が行われます。
申請は管轄の労働基準監督署に対して行います。
石綿健康被害救済法による給付
労災保険の対象とならない周辺住民、家族の作業着を洗濯したことによる受動ばく露、自営業者などの方を幅広く救済するために設けられたのが「石綿健康被害救済法」です。
独立行政法人環境再生保全機構が給付を行っており、医療費や療養手当、亡くなられた場合の特別遺族弔慰金などが支給されます。
また、労災保険の請求権が時効(5年)により消滅したご遺族に対する特別遺族給付金もこの枠組みで規定されています。
建設アスベスト給付金制度の概要と対象者要件
建設現場でアスベストにばく露し健康被害を受けた労働者や一人親方等の早期救済を目的に、2021年に成立した「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」に基づく制度です。
裁判を起こすことなく、国への申請手続きによって給付金が支給されます。
雇用されていた労働者だけでなく、労災保険の適用外となりやすかった一人親方や中小事業主等も対象に含まれる点が大きな特徴です。
支給対象となるには、一定の期間(作業内容に応じ昭和47年10月1日〜平成16年9月30日など)に屋内建設現場で従事していたこと、および中皮腫や肺がん、石綿肺などの指定疾病に罹患していることなどの要件を満たす必要があります。
| 制度名 | 主な対象者 | 主な給付内容 | 窓口・請求先 |
|---|---|---|---|
| 労災保険制度 | 労働者として業務上ばく露した方 | 療養補償給付、休業補償給付、遺族補償給付など | 労働基準監督署 |
| 石綿健康被害救済法 | 周辺住民、受動ばく露者、労災時効消滅遺族など | 医療費、療養手当、特別遺族弔慰金など | 環境再生保全機構 |
| 建設アスベスト給付金 | 屋内の建設作業に従事した労働者・一人親方など | 病態区分に応じた給付金
(最大1,300万円等) |
厚生労働省 |
まとめ
アスベストに関する法規制は、周辺環境への飛散防止から作業員の安全確保、さらには発症後の健康被害救済に至るまで多岐にわたります。
近年は事前調査の厳格化など規制が順次強化されているため、工事を伴う際は最新の法令基準を確認することが大切です。
過去の作業等に伴う健康被害への給付金制度や救済手続きは、対象要件の確認や資料の収集において法的な確認を要する場面が少なくありません。
救済制度の申請や法的な対応に関して不明な点がある場合は、公的な相談窓口のほか、弁護士法人ネクスパート法律事務所へのご相談もご検討ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。