更新日:2026年10月21日 (水)
公開日:2026年10月20日 (火)
アスベストの遺族給付金とは?対象条件や請求期限・金額を解説
サマリー
ご家族をアスベスト(石綿)疾患で亡くされた方のなかには、遺族としてどのような補償や給付金を受け取れるのか分からず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
アスベスト被害に対する救済制度には、労災保険の遺族補償給付をはじめ、時効後に申請できる特別遺族給付金や建設アスベスト給付金など複数の枠組みが存在します。
制度ごとに支給対象となる遺族の要件や請求期限、金額などが異なります。
この記事では、遺族が利用できる各制度の対象条件や金額、手続きのポイントについて分かりやすく解説します。
アスベスト被害による遺族向け給付金・救済制度の概要

アスベスト(石綿)を取り扱う業務や周辺環境によって中皮腫や肺がんなどを発症し、亡くなられた方の遺族に対しては、国の法律に基づき複数の補償や救済制度が設けられています。
被災者がどのような立場で石綿に曝露したのか、また死亡からどの程度の期間が経過しているかによって、利用できる制度や請求窓口が異なります。
遺族を対象とする主な公的救済制度
代表的な枠組みの一つが、労働基準監督署へ請求する「労災保険(労働者災害補償保険法)」です。
被災者が会社などの労働者として石綿粉じんを吸入し、業務上疾病として死亡したと認定された場合に、遺族補償年金や遺族補償一時金などが支給されます。
労災保険の遺族補償給付を請求する権利は、死亡の翌日から起算して5年で時効消滅します。
この時効が成立して労災を受け取れなくなった遺族を救済するために創設されたのが「特別遺族給付金」です。
さらに、建設現場で石綿含有建材を取り扱った労働者や一人親方等を包括的に救済する「建設アスベスト給付金」や、工場の周辺住民など労災保険の対象とならない方を幅広く支える「石綿健康被害救済法」に基づく給付も整備されています。
| 制度名 | 主な対象者の就労状況 | 主な給付内容・位置づけ | 請求窓口 |
|---|---|---|---|
| 労災保険
(遺族補償等) |
労働者
(死亡から5年以内) |
遺族補償年金、遺族補償一時金など | 所轄労働基準監督署 |
| 特別遺族給付金 | 労働者
(死亡から5年経過で時効消滅した場合) |
特別遺族年金(年240万円等)または一時金 | 所轄労働基準監督署 |
| 建設アスベスト給付金 | 一定期間に建設現場で作業した労働者・一人親方等 | 国からの給付金
(死亡時は最大1,300万円) |
厚生労働省
(給付金受付窓口) |
| 石綿健康被害救済法 | 労災補償を受けられない方
(周辺住民や事業主等) |
特別遺族弔慰金、特別葬祭料など | 環境再生保全機構 |
これらの制度は重複して満額受給できないよう調整規定が置かれているケースが多く、生前の勤務先や曝露形態によって請求先が分かれます。
まずはどの枠組みに該当しうるかを整理することが手続きの第一歩となります。
労災保険が時効になった場合の「特別遺族給付金」
労働者が仕事中にアスベストを吸い込んだことが原因で亡くなった場合、本来であれば労災保険の遺族補償給付を請求できます。
しかし、労災保険の請求権は労働者が死亡した日の翌日から5年が経過すると、時効により消滅してしまいます。
アスベスト関連疾患は吸入から発症までの潜伏期間が数十年に及ぶことが多く、亡くなられた当時は原因がアスベストであると認識されていなかったケースも少なくありません。
その結果、労災の時効期間が過ぎてしまい、救済を受けられない事態が生じていました。
こうした時効消滅した遺族を救済するために「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づいて設けられた制度が、特別遺族給付金です。
支給対象となる疾患と請求可能な遺族の要件
特別遺族給付金の対象となる疾患は、労災保険の認定基準と同様に、中皮腫、石綿に起因する肺がん、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚などが該当します。
石綿ばく露作業に従事していた事実と疾患との間に医学的な因果関係が認められる必要があります。
請求できる遺族には法令上の優先順位が定められており、最優先となるのは労働者の死亡当時にその収入によって生計を維持していた配偶者(事実婚を含む)です。
配偶者がいない場合は、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順となります。
配偶者以外の遺族が年金を受給するには、死亡当時に生計を維持されていたことに加え、一定の年齢要件(原則として子・孫は18歳未満、父母・祖父母・兄弟姉妹は60歳以上など)または一定の障害状態にあることが求められます。
特別遺族年金と特別遺族一時金の金額水準
給付の内容には、定期的に支給される「特別遺族年金」と、一時金として支給される「特別遺族一時金」の2種類があります。
生計維持関係にあった優先順位の高い遺族には原則として年金が支給されますが、年金の受給対象者がいない場合には一時金が支給される仕組みです。
| 給付の種類 | 主な支給対象者 | 給付額の目安 |
|---|---|---|
| 特別遺族年金 | 死亡時に生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹(配偶者以外は年齢等の要件あり) | 原則として年額240万円
(対象遺族が2人以上の場合は人数に応じて加算) |
| 特別遺族一時金 | 年金受給資格者がいない場合の生計維持遺族、または生計維持関係のない配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹 | 原則として1,200万円
(すでに支給された年金がある場合は差額調整あり) |
なお、特別遺族一時金は、特別遺族年金を受け取っていた遺族が受給権を失った時点で、支給済みの年金総額が1,200万円に満たない場合にも、残余の遺族に対してその差額が支給されることがあります。
建設アスベスト給付金や国・企業に対する賠償請求
建設現場や製造工場などで石綿粉じんに曝露し、疾患を発症して亡くなられた方の遺族は、労災保険や特別遺族給付金だけでなく、国の給付金制度や国家賠償請求による救済を受けられる場合があります。
建設アスベスト給付金における遺族の請求要件と金額
「特定石綿被害建設業務労働者等認定給付金等の支給に関する法律」に基づく建設アスベスト給付金は、一定の期間に石綿を取り扱う建材を用いた屋内作業に従事し、中皮腫や肺がんなどを発症した労働者や一人親方、中小事業主が対象となります。
被災者ご本人が亡くなられている場合でも、遺族が認定申請を行うことが可能です。
支給される金額は疾患の種類や障害の程度などに応じて法令で定められており、被災者が死亡したケースでは最大1,300万円の給付金が支給されます。
| 対象となる疾患・病態 | 死亡時の給付金額 |
|---|---|
| 中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 | 1,300万円 |
| 石綿肺(管理区分や障害等級に応じた一定の病態) | 1,200万円〜1,300万円 |
| 良性石綿胸水 | 1,200万円〜1,300万円 |
工場型アスベスト訴訟(国家賠償)における和解手続き
石綿を原材料として使用する工場で勤務し健康被害を受けた方やその遺族については、国を被告とする国家賠償請求訴訟を提起したうえで、裁判上の和解を通じて賠償金(給付)を受給する手続きが整備されています。
一定の期間に局所排気装置の設置が義務付けられていた工場で就業していたことや、指定の石綿関連疾患に罹患したことなどの要件を満たす必要があります。
提訴から和解成立まで一定の審理期間を要しますが、死亡に至った事案では最大1,300万円程度の賠償金が支払われる枠組みとなっています。
請求権を引き継ぐことができる遺族・相続人の範囲
建設アスベスト給付金と国家賠償請求では、被災者の死亡後に手続きを行える「遺族」の決定方法が異なる点に注意が必要です。
建設アスベスト給付金における請求権者は法律で順位が定められており、原則として「配偶者(事実婚を含む)」「子」「父母」「孫」「祖父母」「兄弟姉妹」の順となります。
同順位の遺族が複数いる場合は代表者を決めて請求することになります。
一方、工場型アスベスト訴訟などの国家賠償請求は民法上の損害賠償請求権となるため、請求権は被災者の法定相続人に相続されます。
各相続人が自身の法定相続分に応じて請求を行う形が基本となります。
制度ごとに請求対象者や優先順位のルールが異なるため、誰が申請主体となるのかを事前に整理しておくことが大切です。
知っておくべき請求期限(時効)と申請手続きのポイント
アスベスト関連疾患による各種の給付金や賠償金は、制度ごとに異なる請求期限が法律によって定められています。
いずれの制度も自動的に支給されるものではなく、定められた期限内に遺族側から必要書類を揃えて申請を行わなければなりません。
請求期限を過ぎてしまうと受給権が消滅し、救済を受けられなくなるおそれがあるため、各制度の起算点と期限の確認が不可欠です。
各救済制度における主な請求期限
労災保険の遺族補償給付をはじめ、特別遺族給付金や建設アスベスト給付金にはそれぞれ時効や申請受付の期限が設けられています。
まずは代表的な制度の期限の目安を整理しておきましょう。
| 救済制度の名称 | 主な請求期限の基準 | 具体的な期限の目安 |
|---|---|---|
| 労災保険
遺族補償給付) |
被災労働者が死亡した日の翌日 | 5年以内 |
| 特別遺族給付金 | 法律で定められた請求期限 | 2032年(令和14年)3月27日まで |
| 建設アスベスト給付金 | 労災認定等を受けた日の翌日、または死亡等の翌日 | 認定通知等の翌日から5年
(または死亡翌日から20年等) |
| 石綿健康被害救済法
(特別遺族弔慰金等) |
施行日や死亡日の翌日など対象事由ごと | 原則として死亡翌日から25年以内など |
特別遺族給付金と建設給付金の期限に関する注意点
労災の時効(5年)を経過した方を対象とする特別遺族給付金は、救済対象を広げる目的から過去に複数回の法改正が行われ、請求期限が延長されてきました。
現行法における請求期限は2032年(令和14年)3月27日までとなっています。
これに対して建設アスベスト給付金制度では、労災保険の支給決定通知等を受けた日の翌日から5年以内、あるいは労災認定を受けていない場合は被災者が死亡した日の翌日から20年以内など、個別の状況に応じた期限が設定されています。
申請に必要となる医療記録と就労履歴の準備
給付金の請求手続きでは、被災者が対象となる指定疾病を発症していたこと、および対象となる期間に石綿ばく露作業に従事していたことの2点を証明する必要があります。
そのため、医療面と就労面の両面から証拠資料を収集しなければなりません。
医療記録としては、死亡診断書(死体検案書)のほか、生前の主治医による診断書、レントゲンや胸部CT検査の画像データ、病理組織検査結果などが対象となります。
医療機関のカルテ保存期間(5年)が経過している場合でも、画像フィルム等が別保管されている事例があります。
就労履歴の証明には、雇用保険被保険者証の控え、厚生年金の加入記録(年金被保険者記録照会回答票)、当時の給与明細や退職証明書などが用いられます。
客観的な記録が不足している場合は、当時の同僚による証明書や陳述書を作成して補強を図ることも行われます。
まとめ
アスベスト関連疾患で亡くなられたご家族に対する救済制度は、被災者の従事していた業務内容や就労形態、死亡された時期などによって、利用可能な給付金の種類や請求先が異なります。
各制度にはそれぞれ請求期限が設けられているため、ご自身が対象となる制度を早期に把握し、必要な手続きを進めることが重要です。
当時の就労実態の確認や医療記録の収集など、請求手続きに不安がある場合は、弁護士などの専門職への相談を検討するとよいでしょう。
弁護士法人ネクスパート法律事務所でも、アスベスト被害に関するご相談を受け付けています。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。