更新日:2026年11月2日 (月)

公開日:2026年11月2日 (月)

金型の無償保管は取適法違反?発注側が見直すべき型取引のポイント

金型の無償保管は取適法違反?発注側が見直すべき型取引のポイント 金型の無償保管は取適法違反?発注側が見直すべき型取引のポイント

サマリー

部品の製造を委託している中小受託事業者に、発注のない金型などについて保管費用を払わずに保管させると、取適法が禁じる不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがあります。本記事では、公正取引委員会が示す違反となり得る4つの事情、委託事業者が支払う保管費用の範囲と支払時期、勧告で違反とされた行為、発注側が社内で見直す運用を解説します。

この記事のポイント

  • 型等には金型のほか木型・治具・検具・製造設備が含まれます。中小受託事業者が所有する型でも、廃棄に委託事業者の承認が要るなど、委託事業者が事実上管理していれば対象になります。
  • 部品等の発注を長期間行わない、受託側が廃棄や引取りを希望している、次回の発注時期を示せない、再使用の予定がない、という事情があるのに無償で保管させると、違反となり得ます。
  • 保管費用は、中小受託事業者からの請求がなくても保管期間に応じて支払う必要があります。協議のうえで、年度ごとにまとめて支払う方法も認められています。
  • 型の無償保管に関する勧告は年々増えており、令和7年度には26件に上りました。保管のほか、棚卸作業や回収費用を受託側に負担させた行為も違反とされています。

部品の量産が終わった後も、製造に使った金型を発注先に預けたままにしていないでしょうか。

公正取引委員会は、保管費用を支払わずに型を保管させる行為を不当な経済上の利益の提供要請として扱い、令和7年度には金型等に関する勧告を26件行っています。取適法のQ&Aでも同じ考え方が示されており、発注側には、預けている型の扱いと費用負担を確かめることが求められます。

金型の無償保管が問題になる根拠

委託事業者が、発注を長期間行わないなどの事情があるのに保管費用を支払わずに中小受託事業者に型等を保管させると、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがあります。公正取引委員会は「よくある質問コーナー(取適法)」のQ119でこの考え方を示しています。

製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(以下「取適法」といいます。)は、下請代金支払遅延等防止法(以下「旧下請法」といいます。)を改正し、令和8年1月1日に施行された法律です。不当な経済上の利益の提供要請の禁止は、旧下請法では4条2項3号に、取適法では5条2項2号に定められています。

令和7年12月までにされた製造委託等には旧下請法が、令和8年1月以降にされた製造委託等には取適法が適用されます。令和8年に入ってから行われた型の無償保管の勧告にも、旧下請法を適用したものが含まれています。改正の全体像は「下請法から取適法への改正のポイント」で解説しています。

取適法の適用対象は、資本金の額による基準のほか、常時使用する従業員の数による基準でも判断されます。従業員基準の内容は「取適法の従業員基準」で解説しています。

対象となる「型等」の範囲

保管が問題になるのは金型に限りません。公正取引委員会のQ&Aは、型等として金型、木型、治具、検具、製造設備等を挙げています。

勧告の対象になった型等には、樹脂型、刃型、段ボール製品の印版も含まれています。自社の発注品の製造に使う道具は、名称にかかわらず確認の対象になります。

受託側が所有する型も対象になるか

同じQ119は、委託事業者以外が所有する型等でも、委託事業者が事実上管理しているものは型等に含まれるとしています。

その例として挙げられているのが、中小受託事業者が自社所有の型等を保管しているものの、その廃棄等に委託事業者の承認を要する場合です。受託側の所有であっても、廃棄に委託事業者の承認が要る型は、無償保管が問題になり得ます。

違反となり得る4つの事情

公正取引委員会は、これまでの主な違反事例で認められた事情として次の4つを挙げ、これらの事情があるのに保管費用を支払わずに型等を保管させると、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがあるとしています。

  1. 部品等の発注を長期間行わない場合。違反事例では、金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わないまま、金型等を無償で保管させていました。
  2. 中小受託事業者が型等の廃棄や引取り等を希望している場合。中小受託事業者から廃棄や引取りの希望を伝えられた後も、無償での保管を続けさせていた事例です。
  3. 委託事業者が次回以降の具体的な発注時期を示せない場合。今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態で、無償での保管を続けさせていた事例です。
  4. 型等の再使用が想定されていない場合。木型等で製品を製造した後、その木型等を改めて使う予定がないのに、無償で保管させていた事例です。

これらの事情は個別事案ごとに異なり、4つは主な違反事例から整理されたものです(Q119)。

自社の型等の中に1つでも上の事情に当たるものがあれば、その型等について保管費用を支払っているかを確かめる必要があります。

支払うべき保管費用の範囲と支払時期

発注を長期間行わないなどの事情がある型等を中小受託事業者に保管させる場合、委託事業者は、中小受託事業者と協議のうえ、保管期間中に発生した保管費用を支払わなければなりません(Q119)。

保管費用とは、自社倉庫の使用料相当額、外部倉庫の使用料、倉庫等への運送費、メンテナンス費用など、型等を保管させたことによる費用をいいます。ここでいう保管期間は、型等を用いる部品等の発注が行われていない期間を指します。

Q&Aは、受託側から請求がなければ支払わなくてよい、最終稼働から1年間は無償で保管させてよい、という認識を示す委託事業者がいることを挙げています。そのうえで、保管費用は中小受託事業者からの請求の有無にかかわらず、保管期間に応じて支払う必要があるとしています。

型等の稼働状況を常に把握することが双方にとって過度な負担になる場合もあります。そのときは、双方協議のうえで、年度ごとに型等を用いる部品等の発注状況を確認し、その年度の保管期間に応じた保管費用をまとめて支払うことも許容されています(Q119)。

勧告事例に見る違反の内容

型の無償保管に関する勧告は、年度を追って増えています。公正取引委員会と中小企業庁のリーフレット「型の無償保管について、監視を強化しています」によると、型の無償保管に係る勧告件数は令和4年度が1件、令和5年度が3件、令和6年度が9件でした。

公正取引委員会の「令和7年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」(令和8年6月10日)によると、令和7年度は勧告39件のうち26件が、金型等を無償で保管させること等を理由とするものでした。102社の中小受託事業者に合計19,461個の型および治具を無償で保管させていた事例もあります。

勧告では、保管させたこと以外の行為も違反とされています。保管させている型等の現状確認などの棚卸作業を年1回または年2回行わせていた事例や、貸与していた型等を回収する際に、その回収費用を中小受託事業者に負担させていた事例です。

型の所有者が委託事業者以外である事例もあります。委託事業者が顧客やリース会社から借り受けて貸与していた型や、中小受託事業者が所有する型のうち自社の承諾なしには廃棄させないようにしていた型も、無償での保管が違反とされました。

型以外の物の保管も同じ禁止の対象になります。製品サンプルの製造・保管や、品質記録の帳票類の長期保管を無償で求めた行為も、不当な経済上の利益の提供要請とされました。量産が終わって発注数量が大幅に減ったのに、量産時の数量を前提とした単価を一方的に据え置いた行為は、買いたたきとされています。

保管させたことによる費用に相当する額を、公正取引委員会の確認を得たうえで速やかに中小受託事業者に支払うことは、勧告の内容の一つです。取適法Q&AのQ138は、過去の勧告事例を参考に、取締役会の決議による違反の確認、発注担当者への研修などの社内体制の整備、採った措置の取引先への通知も挙げています。

発注側が見直すべき型取引の運用

見直しは、自社の型等がどの中小受託事業者のもとに何個あり、それぞれを使う部品等を最後に発注したのはいつかを把握することから始まります。4つの事情に当たるかどうかは、この情報がなければ判断できません。

受託側が所有していても、廃棄に自社の承認を求めている型等は、この確認に含めます。購買部門の発注記録と生産技術部門の型の管理台帳を突き合わせると、発注が止まっている型を見つけやすくなります。

4つの事情に当たる型等については、廃棄・回収するか、保管を継続するかを中小受託事業者と協議する必要があります(Q119)。保管を継続する場合は、保管費用の額と支払方法も協議して決め、保管期間に応じて支払います。

保管費用の負担、廃棄・回収の手続、廃棄に自社の承認を要するかどうかを取引基本契約書や覚書に定めておくと、担当者の交代後も同じ扱いを続けやすくなります。契約書の確認の進め方は「下請法違反にならないための契約書作成・レビューのポイント」で解説しています。

社内調査で違反を見つけた場合は、公正取引委員会または中小企業庁への自発的申出を検討します。公正取引委員会は、調査に着手する前に違反を自発的に申し出て、中小受託事業者の不利益を回復する措置を採っているなどの事案は、勧告するまでの必要はないものとして扱うことを公表しています。令和7年度の自発的申出は、違反類型全体で53件でした。

まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ

社内で最初に行うのは、中小受託事業者に預けている型等の一覧と最終発注日を購買部門と生産技術部門で突き合わせ、4つの事情に当たる型がないかを確かめることです。

当たる型があれば、未払となっている保管費用の扱いと、廃棄・回収・保管継続の方針を受託側と協議することになります。過去の保管期間の費用の算定方法や、自発的申出をするかどうかの判断に迷う場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

ネクスパート法律事務所では、企業の法律問題に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

コラム監修者

寺垣 俊介

寺垣 俊介

所属:代表(東京オフィス)

広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。

2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。

また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

弁護士詳細を見る

関連記事を見る

改正公益通報者保護法が12月から施行!実際何が変わる?企業がとるべき対応とは

2026.11.02

NEW

企業法務

改正公益通報者保護法が12月から施行!実際何が変わる?企業がとるべき対応とは

秘密保持契約(NDA)とは?重要条項5選と締結時の注意点

2025.09.11

契約書

M&A・デューデリジェンス・資金調達

企業法務

秘密保持契約(NDA)とは?重要条項5選と締結時の注意点

オンラインオリパは違法?賭博罪や景品表示法との関係を解説

2026.07.29

企業法務

オンラインオリパは違法?賭博罪や景品表示法との関係を解説

【公認会計士有資格者の弁護士監修】J-KISS 2.0はどこが変わった?旧バージョンとの違いを解説

2026.10.29

NEW

M&A・デューデリジェンス・資金調達

企業法務

【公認会計士有資格者の弁護士監修】J-KISS 2.0はどこが変わった?旧バージョンとの違いを解説

【公認会計士有資格者の弁護士監修】J-KISSの転換価額はどう計算する?4つの数値例で解説

2026.10.29

NEW

M&A・デューデリジェンス・資金調達

企業法務

【公認会計士有資格者の弁護士監修】J-KISSの転換価額はどう計算する?4つの数値例で解説

PREV
NEXT