更新日:2026年10月21日 (水)
公開日:2026年10月21日 (水)
アスベスト対策の基本|レベル分類や除去工法・法規制を解説
サマリー
所有する建物にアスベスト(石綿)が使用されていないか、解体や改修時にどのような対応が必要か不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
かつて建材に広く用いられたアスベストは、微細な繊維を吸い込むことで深刻な健康被害を引き起こすリスクがあるため、飛散防止に向けた厳格な管理が求められます。
建物の安全性を確保し法令に沿った工事を行うには、危険度に応じた分類や必要な手続きを正しく理解することが大切です。
この記事では、アスベスト対策の基本知識やレベル別の特徴、主な工法、解体工事等における事前調査義務について解説します。
アスベスト(石綿)対策が必要とされる背景と健康リスク

アスベスト(石綿)は天然の鉱物繊維であり、耐熱性や耐火性、防音性、絶縁性など多くの優れた性質を備えています。
安価で扱いやすかったことから、日本では高度経済成長期を中心に、鉄骨の耐火被覆や屋根材、壁材、保温材など幅広い建築資材として重宝されてきました。
しかし、アスベストは極めて細かな繊維状の形状をしており、建材が劣化したり工事で破壊されたりすると、目に見えないほど微小な粒子となって空気中に浮遊します。
この微細な繊維を呼吸とともに吸い込んでしまうと、肺の奥深くまで入り込み、体外へ排出されずに長期間滞留し続ける性質があります。
吸入したアスベスト繊維が肺の組織を刺激し続けることで、数十年という長い年月を経て深刻な疾患を発症させることが明らかになっています。
代表的な健康被害には、肺組織が線維化して呼吸困難を招く「石綿肺(じん肺の一種)」、肺に生じる悪性腫瘍である「肺がん」、そして肺や胃などを包む胸膜・腹膜に発生する「悪性中皮腫」などが挙げられます。
| 主な疾患名 | 疾患の概要 | 発症までの潜伏期間(目安) |
|---|---|---|
| 石綿肺(肺線維症) | 高濃度のアスベスト吸入により肺が線維化し、咳や息切れが生じるじん肺の一種 | 10年〜20年程度 |
| 肺がん(原発性肺がん) | アスベスト繊維の沈着により肺の気管支や肺胞に発生する悪性腫瘍 | 15年〜40年程度 |
| 悪性中皮腫 | 胸膜や腹膜などの表面を覆う中皮細胞から発生する極めて悪性度の高い腫瘍 | 20年〜50年程度 |
| 良性石綿胸水 | アスベスト吸入に伴い胸膜に炎症が起こり、胸腔内に胸水が貯留する疾患 | 10年〜40年程度 |
アスベストによる疾患の最大の特徴は、ばく露してから症状が現れるまでの潜伏期間が極めて長い点にあります。
悪性中皮腫などの重篤な病気では吸入から発症までに30年〜50年ほどかかることも珍しくなく、過去のばく露が原因で近年になって健康被害が生じるケースが続いています。
現在、日本国内ではアスベストの製造・使用・輸入等が全面的に禁止されています。
しかし、過去にアスベスト建材が使用された建築物は全国に多数現存しており、それらの建物が耐用年数を迎えて解体・改修工事のピーク期に入りつつあります。
老朽化した建築物の解体やリフォームに伴うアスベストの再飛散を防止し、作業員や周辺住民のばく露リスクを抑えることが、今なお社会的に極めて重要な課題と位置づけられています。
発じん性に応じたアスベストのレベル分類(レベル1〜3)
アスベストが使用されている建材は、工事の際や劣化時にどれだけ粉じんが飛び散りやすいかという「発じん性」の高さに応じて、レベル1からレベル3までの3段階に区分されています。
建材の物理的な性状や結合の強さによって危険度が大きく異なるため、解体や改修工事を行う際は、該当する建材のレベルに合わせた適切な作業手順と飛散防止対策を講じることが重要です。
レベル1(発じん性が著しく高い):吹付け材
レベル1は、アスベストとセメントなどの結合材を水と混合して機械で吹き付けた建材が該当します。
代表的なものには、吹付け石綿や吹付けロックウールなどがあります。
綿状で非常に柔らかく、結合力が弱いため、わずかな接触や経年劣化による剥離でも大量のアスベスト繊維が空気中に飛散する性質を持っています。
そのため、除去や改修の作業にあたっては、作業場所を完全に密閉して負圧隔離を行うなど、厳重な飛散防止対策が法令で義務付けられています。
レベル2(発じん性が高い):耐火被覆材・断熱材・保温材
レベル2は、配管やボイラーの周囲、建築物の骨組みなどに巻き付けたり張り付けたりして使用された、保温材や耐火被覆材、断熱材などが分類されます。
代表的な建材として、石綿保温材、珪藻土保温材、煙突用断熱材などが挙げられます。
板状や筒状に成形されているものの、密度が低く崩れやすいものが多く含まれます。
施工箇所の取り外しや切断、建材の破損によって大量の粉じんが発生するおそれがあるため、レベル1に準じた厳格な隔離や湿潤化措置が求められます。
レベル3(発じん性が比較的低い):成形板等
レベル3には、セメントや樹脂などの硬い原料でアスベストを練り固めて作られた「成形板等」と呼ばれる多種多様な建材が含まれます。
代表的な建材には、屋根に用いられるスレート瓦、内装の天井や壁に使用される珪酸カルシウム板、床に貼られるビニル床タイルなどがあり、一般住宅を含め広く普及しました。
硬質に固められているため通常時の飛散リスクは比較的低いものの、解体時に破砕したり切断したりすると繊維が飛散するため、原則として手作業による取り外しが行われます。
レベル3建材であっても、破砕や切断を伴う工事では粉じんが飛散するため、薬液等による湿潤化や保護具の着用が不可欠です。
| 区分 | 発じん性 | 代表的な建材 | 主な使用箇所 |
|---|---|---|---|
| レベル1 | 著しく高い | 吹付け石綿、吹付けロックウール | ビルの機械室、鉄骨梁・柱、地下駐車場など |
| レベル2 | 高い | 石綿保温材、耐火被覆板、煙突用断熱材 | ボイラー、空調配管、鉄骨耐火被覆、煙突内部など |
| レベル3 | 比較的低い | スレート波板・瓦、珪酸カルシウム板、Pタイル | 屋根、外壁、室内の壁・天井、床など |
建築物におけるアスベストの主な対策工法
建物内にアスベストが使用されていることが判明した場合、建物の継続使用の有無や劣化状態、将来の解体計画などに応じて適切な工法を選択する必要があります。
建築物における主な対策工法には「除去工法」「封じ込め工法」「囲い込み工法」の3種類が存在します。
除去工法(根本的な解決策)
除去工法は、アスベスト含有建材を下地から完全に剥ぎ取り、密閉梱包して特別管理産業廃棄物などとして最終処分場へ搬出する工法です。
建物を将来的に解体する際には基本的にこの除去工法が選択されます。
アスベストそのものを建物内から完全に取り除くため、施工後は飛散リスクが完全に解消される点が最大の利点です。
一方で、作業エリアをプラスチックシート等で隔離養生し、負圧除じん機を設置するなど極めて厳格な飛散防止対策が求められるため、工事規模や費用負担が大きくなりやすい傾向があります。
封じ込め工法(薬剤による飛散防止)
封じ込め工法は、アスベスト含有建材の表面に固化剤などの薬剤を塗布・浸透させ、繊維を母材に固着させて空気中への飛散を防止する工法です。
建材の劣化が初期段階であり、下地との付着強度が十分に維持されている場合に適用が検討されます。
除去工法と比較して工期短縮や初期費用の抑制が図れる場合があります。
ただしアスベスト自体が現場に残るため、建物を解体する段階で改めて除去工事が必要となるほか、経年劣化による再飛散を防ぐための定期的な点検や維持管理が不可欠です。
囲い込み工法(非石綿建材による密閉)
囲い込み工法は、アスベストが吹き付けられている天井や壁面の周囲を、板金や石こうボードなどの非石綿建材で密閉して覆い隠す工法です。
居住・利用空間へのアスベスト繊維の拡散を物理的に遮断できるため、配管等が混在して除去作業の難易度が高い箇所の維持保全対策として選定されることがあります。
封じ込め工法と同様に建材そのものを撤去するわけではないため、囲い込み内部の状況確認や、将来の改修・解体時に別途除去作業が発生することへの配慮が必要です。
各対策工法の特徴と比較
それぞれの工法には異なる特徴があり、建物の改修計画や予算、使用継続期間に合わせて適切な判断を行うことが大切です。
| 工法名 | 概要 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 除去工法 | 建材を下地から完全に剥がし取って処分する | 飛散リスクを根本的に解消できる | 厳重な隔離措置が必要で費用・工期が膨らみやすい |
| 封じ込め工法 | 薬剤を浸透・固着させて飛散を防ぐ | 除去に比べて初期コストや工期を抑えやすい | アスベストが残るため定期点検や将来の解体時撤去が必要 |
| 囲い込み工法 | 非石綿建材で周囲を覆い密閉する | 撤去が困難な複雑な箇所でも施工しやすい | 内部の状態把握が難しく将来の解体時には除去が別途必要 |
解体・改修工事における法令規制と事前調査の義務
近年、建築物の解体や改修工事に伴うアスベストの飛散事故や作業員の健康被害を防ぐため、大気汚染防止法および石綿障害予防規則(石綿則)が段階的に改正され、規制が大幅に強化されています。
法改正による規制対象の拡大と報告義務
従来の法規制では主に吹付け材などの発じん性が高い建材が中心とされていましたが、近年の改正により、成形板等を含むすべての石綿含有建材が飛散防止措置や作業基準の対象に位置付けられました。
これにより、小規模な改修であっても建材を破砕・切断する作業を伴う場合は、法令に定められた飛散防止手順を順守することが義務付けられています。
| 規制項目 | 対象・要件の概要 | 主な適用時期 |
|---|---|---|
| 作業基準の対象拡大 | レベル1・2に加え、成形板等のレベル3建材も規制対象に追加 | 2021年4月〜 |
| 電子システム報告 | 解体80㎡以上・改修100万円以上等の工事で行政への事前報告義務 | 2022年4月〜 |
| 調査者の資格要件 | 建築物石綿含有建材調査者などの一定の有資格者による事前調査の義務化 | 2023年10月〜 |
| 下請負人の責務強化 | 下請負人にも作業基準の遵守義務および直接の罰則を新設 | 2021年4月〜 |
有資格者による事前調査と電子報告システム
建築物の解体・改修工事を行う元請業者は、工事に着手する前に石綿含有の有無を調査しなければなりません。
2023年10月以降は、厚生労働大臣等が認定する「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者による調査が義務化されています。
調査は設計図書等の書面確認だけでなく現地での目視確認が原則とされ、含有の有無が判定できない場合は分析調査を行うか、含有しているものとみなして対策を講じる必要があります。
一定規模以上の工事に該当する場合は、国が運営する電子システムを通じて、工事着手前に労働基準監督署および地方自治体へ調査結果を報告する手続きが必要です。
飛散防止措置と作業基準の遵守
石綿含有建材の除去作業にあたっては、作業場所からの粉じん漏洩を防ぐため、厳格な養生と換気設備の導入が求められます。
特に発じん性が高い作業では、作業場をシートで隔離した上で負圧集じん・排気装置を常時稼働させる必要があります。
建材の取り外し時は薬液散布などによる湿潤化を徹底し、原則として破砕せず原形のまま手作業等で取り外すことが求められます。
また、工事現場の見やすい場所への事前調査結果や作業計画の掲示が義務付けられており、作業完了時には資格者による目視検査等で取り残しがないか確認する手順が定められています。
まとめ
アスベスト対策を進める上では、建材の発じん性に応じたレベル分類を正しく把握し、法令に基づく事前調査や飛散防止措置を徹底することが不可欠です。
適切な手順を踏むことが、建物の利用者や近隣住民の健康を守ることにつながります。
安全な維持管理や解体工事を行うためには、有資格者による調査を踏まえ、信頼できる専門業者と連携しながら早めに対策を検討することが重要です。
アスベスト対策に伴う法的なトラブルや契約関係、近隣対応などでお困りの際は、弁護士法人ネクスパート法律事務所への相談もご検討ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。