更新日:2026年10月21日 (水)
公開日:2026年10月21日 (水)
アスベスト調査の流れとは?事前調査の手順や費用を解説
サマリー
建物の解体や改修工事を計画する際、法令に基づくアスベスト(石綿)の事前調査がどのような流れで進むのか気になる方も多いのではないでしょうか。
大気汚染防止法などの改正により、一定規模以上の工事では有資格者による調査や行政への報告が義務付けられています。
手続きを怠ると工事の遅延につながる可能性もあるため、事前に全体の流れを把握しておくことが大切です。
この記事では、アスベスト事前調査の具体的な手順や所要期間、費用の目安について分かりやすく解説します。
アスベスト(石綿)事前調査の義務と対象となる工事

建物の解体や改修工事を行う際には、作業員や周辺住民への健康被害を防ぐため、事前にアスベストの有無を調べる調査が法律で義務付けられています。
かつて建築材料として幅広く使われていた石綿は、微細な繊維を吸い込むことで深刻な疾患を引き起こすおそれがあります。
建物の老朽化に伴い解体工事のピークを迎えるなか、石綿の飛散防止対策を一段と強化する目的で、大気汚染防止法および労働安全衛生法に基づく石綿障害予防規則が順次改正されました。
これにより、工事の規模や建物の構造を問わず、原則としてすべての解体・改修工事において着工前の事前調査が求められる体制が整えられています。
行政への電子報告が必要となる工事の基準
事前調査そのものは原則として小規模な改修工事でも実施が必要ですが、一定の規模を超える工事については、調査結果を自治体や労働基準監督署へ報告する法定義務が課されています。
この報告は、国が整備したオンライン窓口である「石綿事前調査結果報告システム」を介して電子的に行うことが原則とされています。
対象となる工事の要件は、工事の種別や規模によって以下のように明確に定められています。
| 工事の対象・種別 | 報告が必要となる規模要件 |
|---|---|
| 建築物の解体工事 | 対象床面積の合計が80平方メートル以上 |
| 建築物の改修・補修工事 | 請負代金の合計額が100万円(税込)以上 |
| 特定の工作物の解体・改修工事 | 請負代金の合計額が100万円(税込)以上 |
なお、請負代金には資材費や施工費だけでなく、事前調査にかかる費用なども含めて判断されるケースがあるため、契約金額の算定には注意が必要です。
調査を実施できる専門資格者の規定
法令の改正により、事前調査の質を担保するために調査主体の要件も厳格化されました。
2023年10月以降に着工する建築物の解体・改修工事においては、国の登録を受けた講習を修了した有資格者等でなければ事前調査を行うことができません。
調査を行える主な有資格者には「一般建築物石綿含有建材調査者」「特定建築物石綿含有建材調査者」「一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て住宅や共同住宅の専有部分に限定)」などがあります。
また、制度施行前から一定の実務経験を有し、一般社団法人日本アスベスト調査診断協会に登録されている者も対象に含まれます。
資格を持たない者が行った事前調査は法令違反とみなされるおそれがあるため、発注者側も委託先が適切な資格を有しているかをあらかじめ確認することが大切です。
アスベスト調査の基本的な流れ・手順
建物の解体や改修工事に伴うアスベスト事前調査は、法令に沿った厳格なプロセスに沿って進められます。
全体の手順は大きく5つの段階に分かれており、各工程を確実に実施することが求められます。
| 手順 | 主な作業内容 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| ステップ1
書面調査 |
設計図書、竣工図、過去の改修履歴等の確認 | 建築確認日や使用建材の製造時期を特定する |
| ステップ2
現地目視調査 |
図面と実物の整合性確認、建材の劣化状況等の点検 | 図面に記載のない増改築箇所も含め網羅的に確認する |
| ステップ3
検体採取 |
アスベスト含有の疑いがある建材のサンプル採取 | 散水等による湿潤化や局所排気など飛散防止を行う |
| ステップ4
分析調査 |
専門機関による定性分析(有無)および定量分析(含有率) | JIS規格等に準拠した分析方法で判定する |
| ステップ5
結果報告・掲示 |
報告書の作成、行政への電子報告、現場での掲示 | 一定規模以上の工事では着工前の届出が必要となる |
各ステップの具体的な調査内容
ステップ1:設計図書等の確認(書面調査)
まず、対象建築物の竣工時の設計図面、仕様書、過去の改修履歴などの書類を確認します。
着工年や使用された建材の種類、製造メーカーなどの情報を洗い出し、アスベストが使用されている可能性がある部材を事前に絞り込みます。
図面が残っていない場合や古い記録では建材の詳細が不明なことも少なくありません。
その場合は、現地調査で実物を確認しながら調査対象を慎重に判断することになります。
ステップ2:現場での目視調査
有資格者が現地に赴き、図面と実際の建物の状況を照合しながら調査を実施します。
目視によって、建材の品番や商品名の印字、施工状況、劣化の度合いなどを直接確認していきます。
天井裏やパイプシャフト内など、普段は隠れている場所も点検対象となります。
過去の小規模な補修などで部分的に異なる建材が使われているケースもあるため、細部にわたる確認が行われます。
ステップ3:検体の採取(サンプリング)
目視調査や製造時期の特定だけではアスベストの有無を判別できない建材について、分析用の検体を採取します。
採取箇所や数量は、建材の種類や施工面積に応じた基準に沿って決定されます。
検体採取時には石綿粉じんの飛散を防ぐため、湿潤化や保護具の着用など法令で定められた措置の徹底が求められます。
ステップ4:定性分析・定量分析
採取した検体を分析機関に持ち込み、精密な検査を行います。
一般的には、まずアスベストが基準値(0.1重量%)を超えて含まれているかを確認する「定性分析」を実施します。
定性分析で石綿の含有が確認された場合、必要に応じてどの程度の割合で含まれているかを特定する「定量分析」に進みます。
これらの分析はJIS規格等に準拠した方法で慎重に行われます。
ステップ5:調査結果のまとめと報告・掲示
すべての調査工程が完了した後、調査者は調査結果をまとめた事前調査報告書を作成します。
対象となる工事規模に該当する場合は、工事着工前に行政の専用システムを通じて調査結果を電子申請します。
調査結果は書面として適切に保存し、工事現場の公衆の見やすい場所に掲示することが法令上義務付けられています。
アスベスト分析調査の種類と期間・費用の目安
定性分析と定量分析の違い
アスベストの分析調査には、大きく分けて「定性分析」と「定量分析」の2種類が存在します。
定性分析とは、採取した建材にアスベストが基準値(0.1重量%)を超えて含まれているかどうか、つまり「有無」を判定するための手法です。
偏光顕微鏡やX線回折装置を用いて判定が行われます。
これに対して定量分析は、定性分析によってアスベストの含有が確認された場合に、具体的にどの程度の割合(重量%)で含まれているかを詳細に測定する手法です。
一般的な解体・改修工事の事前調査では、まず定性分析を実施し、石綿の有無を確認したうえで必要な対策を判断するのが通例とされています。
分析調査にかかる期間の目安
書面調査から現地でのサンプリング、専門機関による分析結果の報告書作成までに要する期間は、建物の規模や採取する検体数によって異なります。
戸建て住宅などの比較的小規模な建築物であれば、検体採取から分析結果の受領まで概ね1週間から2週間程度を見込むのが一般的です。
一方で、延床面積が広い大型ビルや構造が複雑な施設では、検体数が数十箇所に及ぶこともあり、結果判明までに3週間から1か月程度を要するケースも珍しくありません。
また、工事が集中する時期には分析機関が混雑し、通常よりも日数が延びる傾向が見られます。
解体や改修工事の着工予定日に遅れを生じさせないためにも、事前調査から結果判明までの所要期間を考慮した余裕のあるスケジュール設計が重要となります。
調査・分析費用の相場と変動要因
アスベスト調査の総費用は、図面を確認する書面調査費用、現地での目視・採取作業費用、および専門機関での分析費用の合算によって算出されるのが基本です。
分析費用は検体数ごとに加算される仕組みとなっているため、調査対象となる建材の種類が増えるほど総額は上がります。
| 調査・分析の項目 | 費用の目安 | 所要日数の目安 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 書面調査・現地目視調査 | 約2万円〜5万円 | 1日〜2日 | 設計図書の精査、現地確認、サンプリング箇所の特定 |
| 検体採取(サンプリング) | 約1万円〜3万円/箇所 | 半日〜1日 | 飛散防止措置を講じた現場での建材採取・復旧作業 |
| 定性分析(有無の判定) | 約2万円〜4万円/検体 | 約3日〜1週間 | 顕微鏡やX線分析によるアスベスト含有(0.1%超)の有無確認 |
| 定量分析(含有率の測定) | 約3万円〜6万円/検体 | 約1週間〜2週間 | 定性分析で陽性となった建材中の正確な含有割合(重量%)の測定 |
費用が変動する主な要因としては、採取が必要な建材(吹付け材、成形板、保温材、仕上げ塗材など)の多さや、足場を要する高所での採取作業の有無などが挙げられます。
また、工期が差し迫っている場合に特急分析を依頼すると追加費用が発生することがあるため、事前に内訳を確認しておくことが大切です。
アスベスト調査をスムーズに進めるためのポイント

解体工事や改修工事を円滑に進めるためには、法令に基づくアスベスト事前調査を滞りなく完了させることが欠かせません。
調査の手続きや分析には一定の時間を要するため、事前の準備やスケジュール管理が重要となります。
建築当時の図面や改修履歴などの資料を揃える
書面調査を効率的に進めるには、建物の建築確認通知書や竣工図面、設計仕様書などの資料をあらかじめ準備しておくことが推奨されます。
これらの資料から着工時期や使用された建材の名称が確認できれば、現地調査での確認箇所を絞り込みやすくなります。
過去に増改築や内装のリフォームなどを行っている場合は、その際の図面や施工記録も手元に揃えておくことが大切です。
資料が不足していると、現地で確認すべき対象や採取する検体数が増加し、調査全体の期間や費用に影響を与える可能性があります。
工事着工に影響を与えないスケジュール確保
工事の着工予定日が迫った段階で調査を依頼すると、検体の分析結果待ちや行政への電子報告の手続きによって、予定していた工事の開始がずれ込むリスクが生じます。
特に繁忙期などは、分析機関の混雑により結果が出るまでに通常以上の期間を要するケースも見られます。
分析結果の確認や報告手続きを確実に完了させるため、工事着工までに十分な余裕を持った日程を確保することが望ましいとされています。
石綿が検出された場合の除去・対策計画の想定
分析の結果、対象建材にアスベストが含まれていることが判明した場合、通常の解体・改修作業とは異なる飛散防止対策や除去工事が必要になります。
作業内容によっては、労働基準監督署や自治体への事前の計画届出が義務付けられている建材もあります。
除去作業に伴う養生や隔離措置、特別管理産業廃棄物としての適正処理などにより、追加の工期や費用が発生することをあらかじめ見込んでおくことで、想定外の工程遅延を防ぎやすくなります。
| 準備項目 | 主な確認内容・留意点 |
|---|---|
| 設計図書・仕様書 | 建築確認済証、竣工図、使用建材の一覧などを可能な限り収集する |
| 過去の改修記録 | 増改築や過去の補修工事の時期・施工箇所・使用建材を確認する |
| 調査期間の確保 | 書面調査から分析・報告完了までを見越した余裕ある工期を設定する |
| 検出時の対応準備 | 石綿含有が確認された場合の除去費用や工期延長の可能性を想定する |
まとめ
アスベストの事前調査は、法令遵守はもちろんのこと、工事に携わる作業員や周辺住民の健康被害を防止し、安全な生活環境を守るために欠かせない手続きです。
調査を円滑に進めるためには、書面調査から分析・報告に至るまでのステップを正しく把握し、有資格者が在籍する専門機関と早い段階から連携して計画を立てることが重要となります。
アスベスト関連の法規制への対応や、解体・改修工事に伴う契約上のトラブルなどに関して法的な確認が必要な場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所へお気軽にご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。