更新日:2026年10月21日 (水)
公開日:2026年10月21日 (水)
アスベストで死亡時の補償金額は?遺族が請求できる制度を解説
サマリー
ご家族をアスベスト(石綿)が原因の病気で亡くされた際、公的な補償や給付金を受け取れるのか、どの程度の金額になるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
アスベスト被害で死亡された場合、労災保険や石綿救済法のほか、建設アスベスト給付金や国との和解制度など、状況に応じて遺族が補償を請求できる仕組みがあります。
この記事では、死亡時に受け取れる補償金額の目安や請求可能な制度の種類、対象となる遺族の範囲や手続きの注意点について分かりやすく解説します。
アスベスト被害で死亡した場合に受け取れる補償金額の目安
アスベストが原因でご家族が亡くなられた場合に受け取れる補償金額は、故人がアスベストに曝露した状況(建設現場、工場、あるいは周辺環境など)や、利用する制度によって大きく異なります。
利用可能な主な制度と、死亡時に遺族へ支給される給付金・補償金の金額目安は下表のとおりです。
| 制度の名称 | 主な対象者 | 死亡時の補償・給付金額の目安 |
|---|---|---|
| 建設アスベスト給付金 | 建材加工や建築現場等で従事していた労働者・一人親方等の遺族 | 1,200万円〜1,300万円
(病態や喫煙歴等に応じ決定) |
| 工場型アスベスト訴訟
(和解) |
石綿製品製造等の工場で従事していた労働者の遺族 | 1,150万円〜1,300万円程度
(管理区分等に応じる) |
| 労災保険給付 | 業務が原因で発症した労働者の遺族 | 遺族(補償)年金(給付基礎日額に応じた額)
+葬祭料等 |
| 石綿救済法
(特別遺族給付金) |
労災給付の請求権が時効(5年)で消滅した労働者の遺族 | 特別遺族年金(年額約240万円)
または一時金(1,200万円) |
| 石綿救済法
(特別遺族弔慰金等) |
労災対象外の方(周辺住民や家族等)の遺族 | 約300万円
(特別遺族弔慰金および特別葬祭料の一括) |
建設アスベスト給付金における死亡時の給付金額
建設現場等で石綿に曝露し、中皮腫や肺がんなどの指定疾病で亡くなられた場合、建設アスベスト給付金制度により原則として1,200万円または1,300万円が支給されます。
肺がんを発症して死亡された方で一定の喫煙歴がある場合などは、給付金額が1,150万円程度に減額調整される規定が設けられています。
労働者だけでなく、労災保険の適用外となることの多い一人親方や中小事業主の遺族も請求対象となる点が本制度の大きな特徴です。
工場型アスベスト訴訟による和解金の目安
石綿製品の製造工場などで働いていて被害に遭われた場合、国を相手とする国家賠償請求訴訟を提起し、一定の要件を満たすことで和解金(賠償金)が支払われます。
最高裁判所の判決基準に基づき、中皮腫や肺がん等により死亡されたケースでは1,150万〜1,300万円程度の和解金が目安とされています。
じん肺管理区分の判定や石綿曝露期間の立証が主な判断要素となります。
労災保険および石綿健康被害救済法による給付概要
労働基準法上の労働者として勤務中に石綿を吸い込んだ場合は、労災保険から遺族(補償)年金や葬祭料が支給されます。
年金額は故人の過去の給与額(給付基礎日額)や遺族の人数に応じて算出されます。
労災の請求期限(死亡から5年)を過ぎてしまった場合でも、石綿救済法に基づく「特別遺族給付金」として、年金(年額約240万円)または一時金(1,200万円)を受け取れる枠組みが存在します。
工場勤務等の労働者ではなく、工場の近隣に住んでいたことなどによる環境曝露で亡くなられた方の遺族に対しては、同法より特別遺族弔慰金・特別葬祭料(合計約300万円)が支給されます。
死亡時に遺族が請求できる主な4つの補償制度
アスベストが原因で亡くなられた場合、被災された方の就労状況や曝露した環境に応じて、根拠法令や請求先の異なる複数の補償・救済制度が用意されています。
どの補償制度を利用できるかは、亡くなられた方が「どこで、どのような立場で石綿を吸い込んだか」によって大きく分かれます。
1. 労働者災害補償保険(労災保険給付)
事業主に雇用されて石綿を取り扱う業務に従事し、それが原因で指定疾病を発症して亡くなられた場合に請求できる制度です。
所轄の労働基準監督署へ請求を行います。
亡くなられた労働者の収入によって生計を維持していた遺族には「遺族(補償)年金」が支給され、受給要件を満たす遺族がいない場合には「遺族(補償)一時金」が支給されます。
あわせて「葬祭料(葬祭給付)」の請求も可能です。
2. 石綿健康被害救済制度(石綿救済法)
労災保険の時効(死亡から5年)が経過して受給権を失った方や、工場の周辺住民、労災対象外の職種など、労災補償を受けられない遺族を救済するための制度です。
窓口は独立行政法人環境再生保全機構となり、認定されると「特別遺族弔慰金」や「特別遺族葬祭料」が支給されます。
また、労災時効の経過によって救済を受けられなかった労働者の遺族には「特別遺族給付金」が支給されます。
3. 建設アスベスト給付金制度
建築現場等で石綿建材を扱い、粉じんを吸入した元建設作業員やその遺族を迅速に救済するために創設された比較的新しい給付金制度です。
雇用されていた労働者だけでなく、労災保険の適用外となりやすかった一人親方や中小事業主等も幅広く対象とされている点が大きな特徴です。
厚生労働省に対して直接給付金の認定請求を行います。
4. 工場型アスベスト国家賠償請求(和解手続き)
石綿製品を製造・加工していた工場で働き、粉じんに曝露して健康被害を受けた作業員やその遺族が、国の規制権限不行使の責任を追及する手続きです。
最高裁判決の基準に基づき、国を相手方とする国家賠償請求訴訟を提起したうえで、一定の要件を満たしていることを裁判手続き内で確認し、和解によって賠償金の支払いを受ける流れとなります。
4つの補償制度の主な対象者と申請先
| 制度名 | 主な対象者 | 請求・申請先 |
|---|---|---|
| 労災保険給付 | 会社等に雇用され業務中に石綿を吸入した労働者の遺族 | 所轄の労働基準監督署 |
| 石綿健康被害救済制度 | 労災時効経過者、工場周辺住民、労災対象外の作業者等の遺族 | 独立行政法人環境再生保全機構 |
| 建設アスベスト給付金 | 屋内建設現場等で従事した労働者・一人親方等の遺族 | 厚生労働省 |
| 工場型アスベスト国家賠償 | 石綿製品製造工場等の作業に従事した労働者の遺族 | 国(裁判所を通じた訴訟提起・和解) |
給付金・補償金を受け取るための要件と対象となる遺族の範囲
アスベスト関連の給付金や賠償金を請求するには、亡くなられた原因が指定された疾病に該当することに加え、請求する遺族が法律で定められた順位や範囲に入っていることが求められます。
補償の対象となる主な指定疾病
給付金や労災保険などの対象となる疾病は、石綿(アスベスト)の吸入が原因で発症するものとして法令で具体的に定められています。
単に肺の病気というだけでは認められず、医学的な診断基準を満たしている必要があります。
対象となる代表的な疾病には、中皮腫(胸膜・腹膜・心膜・精巣鞘膜)、肺がん(原発性肺がん)、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水などが挙げられます。
これらの疾病により亡くなられた場合、生前に労災認定を受けていなかったケースであっても、死後に遺族が医学的資料を提出して認定を受けられる可能性があります。
請求権を持つ遺族の順位と範囲
死亡時の補償金や給付金を請求できる遺族には法令上の順位が定められており、最優先順位の遺族がいる場合、後順位の遺族は請求を行うことができません。
例えば建設アスベスト給付金法では、請求権者の順位は配偶者(事実婚を含む)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順と規定されています。
| 順位 | 対象となる遺族の範囲 | 備考 |
|---|---|---|
| 第1順位 | 配偶者 | 婚姻届を提出していない事実上の婚姻関係(内縁関係)を含みます。 |
| 第2順位 | 子 | 実子のほか、養子縁組を行っている養子も含まれます。 |
| 第3順位 | 父母 | 養父母も含みます。実父母と養父母がいる場合の扱いは制度によります。 |
| 第4順位 | 孫 | 子が既に亡くなっている場合などに該当します。 |
| 第5順位 | 祖父母 | 父母が既に亡くなっている場合などに該当します。 |
| 第6順位 | 兄弟姉妹 | 建設アスベスト給付金等では対象ですが、制度によって対象外となる場合があります。 |
労災保険の遺族(補償)年金のように、生計維持関係や年齢・障害の有無が要件となる制度もあるため、制度ごとの基準を個別に確認することが大切です。
過去に亡くなられた場合でも遡って請求できる可能性
ご家族が亡くなられてから長い年月が経過している場合でも、制度によっては遡って請求できる仕組みが設けられています。
例えば、労災保険の遺族補償年金を受ける権利が時効(5年)により消滅してしまった場合でも、石綿健康被害救済法に基づく「特別遺族給付金」の請求対象となるケースがあります。
死亡から長期間が経過していても請求できる救済措置が用意されている制度があります。
また、建設アスベスト給付金制度においても、法律の施行前に亡くなられた方の遺族に対して一定の請求期間が設定されています。
当時のカルテやレントゲン写真、職歴の記録などが残っていれば認定を受けられる可能性があるため、年数が経っていることのみを理由にあきらめずに確認することが推奨されます。
請求手続きの流れと確認しておきたい注意点・請求期限

アスベスト被害による補償金の請求手続きは、請求する制度や亡くなられた方の従事状況によって手順が異なります。
一般的には、証拠資料の収集から開始し、公的な労災認定などを経て給付金等の請求へ進める流れが基本となります。
- 医療記録や就労履歴に関する客観的証拠の収集
- 労働基準監督署(労災)または環境再生保全機構(救済法)への申請・認定
- 建設アスベスト給付金の請求または国に対する損害賠償請求(和解手続き等)
必要となる医療記録と就労履歴の証明資料
手続きにおいて重要となるのが、指定疾病に罹患していた事実と、アスベストに曝露する環境で働いていた事実を証明する客観的資料です。
病因の特定には、当時の診断書やレントゲン写真、CT画像、病理検査結果などの医療記録が必要となります。
医療機関でのカルテや検査画像の保存期間は原則として5年と定められているため、亡くなられてから年月が経過している場合は、資料の保管状況を早めに確認することが大切です。
また、就労履歴を証明するためには、年金記録(厚生年金被保険者記録照会回答票など)や雇用保険の加入記録のほか、会社発行の在籍証明書や給与明細、職歴を証明できる公的資料を収集していきます。
制度ごとに異なる請求期限(時効)
各種補償制度にはそれぞれ個別の請求期限が設けられており、期限を過ぎると給付を受ける権利が消滅するおそれがあるため注意が必要です。
| 制度の名称 | 主な請求期限(時効)の目安 |
|---|---|
| 労災保険
(遺族補償等給付) |
被災者が死亡した日の翌日から5年以内
(葬祭料は2年以内) |
| 石綿救済法
(特別遺族給付金) |
施行日または死亡日等から一定期間内
(対象区分により異なる) |
| 建設アスベスト給付金 | 死亡した日の翌日から20年以内
(一定の要件下で労災認定等から算出) |
| 工場型アスベスト訴訟
(国家賠償) |
損害および加害者を知った時から5年以内、または不法行為時から20年以内 |
特に労災保険の遺族給付や建設アスベスト給付金は、原則として死亡日の翌日から5年が経過すると時効にかかるため、速やかな確認が求められます。
複数制度の併用と支給調整に関する注意点
労災保険や建設アスベスト給付金、国との和解金などは、同一の損害に対して重ねて満額が支給されるわけではありません。
同一事由に対して複数の補償を請求する場合、すでに受給した金額に応じて支給調整(一部減額や控除)が行われる仕組みとなっています。
例えば、先に労災保険から遺族補償一時金等を受給している場合、建設アスベスト給付金の請求時にその受給額が控除された差額分が支給される取り扱いとなります。
どの制度をどの順序で進めるかによって全体の進行期間や受給できる手続の難易度が変わるケースもあるため、手続きごとの関係性を把握したうえで計画的に進めることが望まれます。
まとめ
アスベスト被害によってご家族が亡くなられた場合の補償制度は、従事していた職種や作業環境などの状況によって利用できる仕組みが異なり、支給される金額も様々です。
各制度には個別の請求期限が定められているほか、当時の就労記録や医療資料などの収集が求められるケースも少なくありません。
ご自身がどの制度の対象になるのか判断がつかない場合や、資料の収集や申請手続きに不安がある場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所への相談も選択肢の一つとしてご検討ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。