更新日:2026年10月21日 (水)

公開日:2026年10月21日 (水)

アスベスト賠償金・給付金の仕組み|対象疾患や受給額の目安を解説

アスベスト賠償金・給付金の仕組み|対象疾患や受給額の目安を解説 アスベスト賠償金・給付金の仕組み|対象疾患や受給額の目安を解説

サマリー

過去に建設現場や工場などでアスベスト(石綿)を取り扱う業務に従事し、中皮腫や肺がんなどを発症された方やそのご遺族は、国や企業から賠償金や給付金を受け取れる可能性があります。

しかし、建設アスベスト給付金や工場型訴訟、労災保険など複数の制度が存在するため、どの制度の要件に該当するのか判断に迷うことも少なくありません。

この記事では、アスベスト被害に対する主な賠償金・給付金の仕組みをはじめ、対象疾患や支給額の目安、請求手続きの流れについて分かりやすく解説します。

アスベスト被害に対する賠償金・給付金の種類

石綿(アスベスト)による健康被害に対しては、従事していた作業環境や雇用形態、疾患の程度などに応じて、複数の補償・救済制度が設けられています。

それぞれの制度によって、請求先や要件、支給される金銭の性質が大きく異なります。

被害の状況や過去の就業歴に応じて、国に対する金銭請求だけでなく、労災保険や企業に対する賠償請求など適切な制度を組み合わせて検討することが重要です。

公的な補償・救済制度の全体像

代表的な公的制度としては、労働者災害補償保険(労災保険)に基づく給付と、石綿健康被害救済法に基づく救済給付が挙げられます。

労災保険は、業務を通じて石綿粉じんにばく露した労働者やその遺族を対象とし、療養補償給付や遺族補償給付などが支給される仕組みです。

一方、石綿健康被害救済法は、個人事業主(一人親方)やその家族、あるいは石綿工場の周辺住民など、労災保険の対象とならない方々を幅広く救済することを目的としています。

労災認定を受けられない場合でも、所定の指定疾患に罹患していれば医療費等の支給を受けられる場合があります。

さらに、国の責任が司法判断で認められたことを契機に創設された枠組みとして、「工場型アスベスト国家賠償請求」と「建設アスベスト給付金」があります。

工場型は国を被告とする国家賠償請求訴訟を提起して和解を目指す手続きであり、建設型は所定の要件を満たせば訴訟を提起することなく給付金を請求できる制度です。

国に対する補償と企業に対する損害賠償の違い

アスベスト被害に対する金銭的な回復手段は、責任追及の相手方によって「国に対する請求」と「勤務先企業・建材メーカーに対する請求」の2つに大別されます。

国に対する請求は、労働環境を規制する権限を適切に行使しなかったという公的な違法性を根拠としています。

判例や法律によって明確な要件と支給基準が定められているため、基準を満たしていることが確認できれば、一定の基準額が支給される特徴があります。

これに対して、勤務先企業や建材メーカーへの損害賠償請求は、民法上の安全配慮義務違反や不法行為責任を追及するものです。

個別の過失の有無や具体的な損害額(逸失利益や慰謝料など)を個別に立証する必要があり、国からの給付金や労災保険給付では補填しきれなかった損害について上乗せして賠償を求められる可能性があります。

主な制度・請求先 請求の相手方 対象となる主な立場 手続きの概要
労災保険給付 労働基準監督署

(国)

労働者として石綿を取り扱った方 労災認定の手続き
石綿健康被害救済給付 環境再生保全機構 一人親方、周辺住民など労災対象外の方 機構への認定申請・請求
工場型アスベスト賠償金 国 石綿製品製造工場等の元作業員など 国家賠償請求訴訟の提起・和解
建設アスベスト給付金 国

(厚生労働省)

建設現場で石綿を取り扱った元作業員など 認定審査会への直接請求
企業への損害賠償 勤務先企業・建材メーカー 安全対策が不十分な職場で従事した方 示談交渉または民事訴訟

給付金・賠償金の対象となる主な指定疾患と要件

アスベスト(石綿)の健康被害に対する給付金や国家賠償金を受け取るためには、国が定めた指定疾患に罹患していることや、業務上一定期間アスベストにばく露した事実が求められます。対象となる基準は制度ごとに細かく規定されています。

対象となる主な指定疾患

給付金や賠償金の対象として位置づけられている代表的な疾患には、中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺などがあります。

これらはアスベスト粉じんを吸入してから発症するまでに数十年の潜伏期間がある点が特徴です。

肺がんやびまん性胸膜肥厚については、単に病気を発症しているだけでなく、胸膜プラークの存在や一定以上の呼吸機能障害など、アスベストとの関連性を示す医学的所見が審査で重視される傾向にあります。

対象疾患 主な医学的基準の目安 主な留意点
中皮腫

(胸膜・腹膜など)

病理組織所見や画像所見による確定診断 極めて短いばく露期間でも発症するケースがあり、迅速な認定手続きが図られています。
石綿肺 じん肺法に基づくじん肺管理区分の該当

(管理2〜4など)

合併症の有無や管理区分によって給付内容や損害賠償額の算定基準が変動します。
肺がん 胸膜プラークの確認、または一定以上の石綿小体・繊維の検出 一般的な原発性肺がんと区別するため、ばく露所見の有無が厳格に判定されます。
びまん性胸膜肥厚 著しい呼吸機能障害を伴うもの(特定の障害等級等) 胸膜の肥厚が広範囲に認められ、かつ呼吸機能の低下が証明される必要があります。

受給要件の確認ポイント:ばく露歴と労災認定

疾患の基準を満たすことに加え、従事していた業務において一定期間以上アスベストにさらされていた事実を立証することが求められます。

例えば建設アスベスト給付金では、疾患ごとに必要とされる従事期間(1年〜10年以上など)が個別に設定されています。

すでに労働基準監督署からアスベスト被害に関する労災認定を受けている場合、業務上ばく露と発症の因果関係が公的に証明されているため、給付金請求や和解手続きが円滑に進む傾向にあります。

一方で、労災認定を受けていない場合であっても、過去の雇用保険履歴や給与明細、年金記録、当時の同僚による証言などを積み重ねることで要件を満たせる可能性があります。

ご自身やご家族の状況が各制度の要件に合致するか、客観的な資料をもとに確認することが大切です。

受け取れる賠償金・給付金の金額目安と税金

アスベスト被害による給付金や国家賠償金の金額は、被害に遭われた方の疾患の種類や病状の進行度、じん肺管理区分などに応じて細かく区分されています。

疾患・病状に応じた給付金・賠償金の金額目安

建設アスベスト給付金法に基づく給付金や、工場型アスベスト訴訟における国との和解金は、法令や統一的な和解基準によって明確な金額基準が定められています。

基本的には症状が重い場合や死亡に至った場合に、より高い基準額が設定されています。

疾患・病状の区分 建設アスベスト給付金(上限目安) 工場型アスベスト和解金(基準目安)
中皮腫・肺がん等による死亡 1,300万円 1,300万円
著しい呼吸機能障害を伴う疾患 1,150万円 1,150万円
石綿肺(管理区分4) 1,150万円 1,150万円
石綿肺(管理区分3・合併症なし) 800万円 800万円
石綿肺(管理区分2・合併症なし) 550万円 550万円

なお、肺がんを発症された方で喫煙習慣があった場合などには、アスベストばく露と喫煙双方の影響を考慮し、規定に基づき一定割合(約10%)が減額される取り決めが設けられています。

また、これらの国からの給付金や和解金に加えて、労災保険による各種給付(療養補償給付や遺族補償給付など)や、勤務先企業・建材メーカーに対する民事上の損害賠償が認められる場合には、受給総額がさらに変動することがあります。

受け取った賠償金・給付金に対する税金の取り扱い

アスベスト被害によって国や企業から受け取る損害賠償金、和解金、および建設アスベスト給付金は、心身に加えられた損害に対して支払われる性質を持っています。

そのため、税法上の取り扱いがどのようになるのか関心を持たれる方が多くいらっしゃいます。

心身に加えられた損害への補償として支給される給付金や損害賠償金は、原則として非課税所得として扱われます。

所得税法上、心身の損害に対する慰謝料や補償金、法律に基づいて支給される給付金には所得税や住民税が課税されないため、原則として確定申告の必要もありません。

ただし、被災者本人が生前に給付金を受領し、その金銭を口座等に残したまま亡くなられた場合、残された財産は遺産として相続税の課税対象に含まれることがあります。

一方で、ご遺族が直接請求人となって受給した遺族給付金は遺族固有の財産とみなされるなど、受取の経緯によって取り扱いが整理されます。

アスベスト賠償金・給付金の請求手続きの流れ

アスベスト賠償金・給付金の請求手続きの流れ

アスベストによる健康被害について国や公的制度へ請求を行う場合、まずはご自身の就労歴や病状を証明するための資料収集から着手します。

必要となる医学的証拠と就業記録をそろえた上で、利用する制度に応じた所定の窓口へ申請や提訴を進めることが基本的な流れです。

事前準備と必要書類の収集

手続きにおいて重要となるのが、医師による診断書や検査結果などの医学的資料です。

レントゲンやCT画像、病理組織検査の所見など、指定疾患の診断根拠となる記録を医療機関から取り寄せます。

あわせて、過去に石綿ばく露作業に従事していた事実を裏付ける就業歴の証明書類を集めます。

年金事務所で取得できる年金記録や雇用保険の加入履歴、当時の給与明細などが代表例です。

勤務先の倒産などにより公的な書類が残っていない場合でも、同僚や元事業主による作業従事の証明書(陳述書)などによって就業実態を証明できる場合があります。

制度ごとの申請手順の概要

集めた書類をもとに、該当する制度へ手続きを行います。

労災認定、建設アスベスト給付金、工場型アスベスト訴訟では、提出先や進め方がそれぞれ異なります。

手続きの種類 主な請求・申請先 手続きの概要と流れ
労災保険給付 所轄の労働基準監督署 必要書類を提出して申請を行い、労働基準監督署による調査を経て労災認定の可否が決定されます。
建設アスベスト給付金 厚生労働省

(給付金担当窓口)

認定申請書と証拠資料を提出し、審査会での審査を経て支給決定および給付金の振込が行われます。
工場型アスベスト賠償 管轄の地方裁判所 国を相手方として国家賠償請求訴訟を提起し、要件を満たしていることが確認されれば裁判上の和解が成立します。

手続きを進める際の主な注意点

建設アスベスト給付金の手続きでは、事前に労働基準監督署から労災認定を受けていると、給付金申請時の一部書類の提出を省略できる運用が設けられています。

一方、工場型アスベストの賠償金を受け取るためには、裁判所に訴状を提出して和解を目指す法的手続きが原則として必要になります。

給付金の請求や訴訟提起には法律上の請求期限が定められている場合があるため、期間の経過に注意しながら早めに準備を進めることが望まれます。

まとめ

アスベストによる健康被害に対する救済制度は、従事していた作業内容や就業環境、発症した疾患の重症度などによって、利用すべき制度や請求先が異なります。

数十年前に及ぶ就業記録や医療資料を調査・収集し、ご自身の状況に合った手続きを見極める作業は、当事者やご遺族にとって負担が大きいことも少なくありません。

どの救済制度の要件に該当するかの判断や必要書類の整理など、手続きについて疑問やお困りごとがある場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所へご相談ください。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。

早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。

公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。

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