更新日:2026年10月21日 (水)

公開日:2026年10月21日 (水)

アスベスト解体工事はなぜ「体育館」で問題になるのか――香川県の工事再開から学ぶ法的留意点

アスベスト解体工事はなぜ「体育館」で問題になるのか――香川県の工事再開から学ぶ法的留意点 アスベスト解体工事はなぜ「体育館」で問題になるのか――香川県の工事再開から学ぶ法的留意点

サマリー

香川県「船の体育館」解体工事が耐震調査の鑑定結果を待たず再開。アスベスト解体工事における法規制・行政責任・住民の対応策を弁護士が解説。

老朽化した公共施設の解体工事が進む中、安全性の検証が不十分なまま工事が再開される事例が報じられ、注目を集めています。

香川県が「船の体育館」の解体工事再開 耐震性調査の鑑定結果待たず
出典:dメニューニュース

2026年10月16日に配信された報道によれば、香川県は「船の体育館」の解体工事について、耐震性調査の鑑定結果が出るのを待たずに再開したとされています。老朽化した建築物の解体工事では、構造的な安全性の確認と並び、アスベスト(石綿)の飛散防止対策が極めて重要な法的論点となります。本コラムでは、解体工事の法的手続きと、アスベスト被害が生じた場合の行政・事業者の責任について解説します。

老朽化施設の解体工事における耐震調査とアスベスト調査の位置づけ

老朽化した大型公共施設の解体においては、構造的な安全性(耐震性)の調査と、建材に含まれる有害物質の調査は、本来それぞれ独立した手続きとして行われるべきものです。今回報じられた事案のように、耐震性調査の鑑定結果を待たずに解体工事を再開するという判断は、構造物の崩落リスクだけでなく、工事中に建材が想定外の形で破損し、含有物質が飛散するリスクを高める可能性がある点に注意が必要です。

建築物の解体に際しては、石綿障害予防規則(石綿則)第3条に基づき、事前調査を行うことが事業者に義務付けられています。2006年以前に建てられた建築物には、吹付け材・保温材・成形板等にアスベストが使用されている可能性が高く、特に体育館のような大規模施設では、屋根や天井の耐火被覆材に吹付けアスベストが使用されているケースが少なくありません。老朽化が進んだ建物ほど、調査なしに解体作業へ進むことの危険性は高まります。

石綿障害予防規則・大気汚染防止法に基づく解体工事の義務

アスベストを含む建築物の解体工事には、複数の法令による規制が重畳的に適用されます。まず石綿障害予防規則第3条・第4条により、事業者は解体前に建材ごとの石綿含有の有無を調査し、その結果を記録・保存する義務を負います。また、一定規模以上の工事や石綿含有建材が使用されている場合には、大気汚染防止法第18条の15以下に基づき、都道府県知事等への事前届出が必要となります。

さらに、石綿含有建材の除去作業にあたっては、作業場の隔離、湿潤化、集じん・排気装置の設置など、飛散防止のための具体的な措置が石綿則第6条以下に定められています。これらの手続きを経ずに解体工事を進めた場合、事業者には行政指導や是正命令、悪質な場合は罰則(石綿則違反は労働安全衛生法に基づき罰則の対象となり得ます)が科される可能性があります。公共施設の解体であっても、発注者である自治体がこれらの法令遵守を怠れば、同様の責任を問われ得る点は重要です。

行政の判断に瑕疵があった場合の国家賠償責任

自治体が所有・管理する施設の解体工事において、安全性の検証が不十分なまま工事を強行し、その結果として周辺住民や作業員に健康被害や財産的損害が生じた場合、国家賠償法第1条第1項に基づき、自治体に対して損害賠償を求める余地があります。同条は「公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたとき」に国又は公共団体が賠償責任を負うと定めています。

また、施設の設置又は管理に瑕疵があったことによって損害が生じた場合には、国家賠償法第2条第1項(公の営造物の設置管理の瑕疵)が適用される可能性もあります。耐震性調査の結果を待たずに解体工事を進めたことが、通常有すべき安全性を欠く判断であったと評価されれば、因果関係・損害の立証ができる限りで賠償請求の根拠となり得ます。ただし、国家賠償請求では「過失」や「瑕疵」の立証責任は原則として請求者側にあり、専門的知見に基づく主張立証の準備が不可欠です。

アスベスト被害が生じた場合の時効・救済制度

アスベストによる健康被害(中皮腫、肺がん等)は、曝露から発症まで10年から40年以上の長い潜伏期間を経ることが知られています。この特殊性を踏まえ、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為時から20年)の起算点の判断は、個別事案ごとに慎重な検討が必要です。

また、労働者としてアスベストに曝露した場合は労働者災害補償保険法に基づく労災申請、建設業務従事者については建設アスベスト給付金制度、それ以外の健康被害者については石綿健康被害救済法に基づく救済給付制度など、複数の救済手段が用意されています。解体工事現場の近隣住民であっても、曝露の事実や因果関係を示す資料があれば救済の対象となり得るため、早期に専門家へ相談することが重要です。

まとめ

香川県の「船の体育館」解体工事再開の事例は、構造的な安全性の確認とアスベスト対策という、本来両立させるべき手続きのバランスが問われる事案といえます。解体工事における石綿則・大気汚染防止法に基づく事前調査・届出・飛散防止措置は、公共施設であっても免除されるものではなく、これを欠いた判断が行われた場合には、国家賠償法に基づく責任追及の可能性も生じ得ます。

アスベスト被害は発症までの期間が長く、因果関係の立証や時効の問題など、法的に専門性の高い対応が求められます。解体工事に伴うアスベスト曝露や健康被害、行政の対応に疑問をお持ちの場合など、アスベスト問題でお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。

早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。

公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。

弁護士詳細を見る

関連記事を見る

アスベスト給付金の審査期間は?申請から支給までの流れを解説

2026.10.21

NEW

アスベスト給付金の審査期間は?申請から支給までの流れを解説

アスベストで労災認定されない理由とは?不支給時の対処法を解説

2026.10.21

NEW

アスベストで労災認定されない理由とは?不支給時の対処法を解説

アスベスト対策の基本|レベル分類や除去工法・法規制を解説

2026.10.21

NEW

アスベスト対策の基本|レベル分類や除去工法・法規制を解説

アスベストに関する法律まとめ!規制内容や近年の法改正を解説

2026.10.21

NEW

アスベストに関する法律まとめ!規制内容や近年の法改正を解説

アスベストは何年以降の建物なら安全?規制の歴史と事前調査を解説

2026.10.21

NEW

アスベストは何年以降の建物なら安全?規制の歴史と事前調査を解説

PREV
NEXT