更新日:2026年7月27日 (月)

公開日:2026年7月27日 (月)

養育費の強制執行とは?対象となる財産と流れを解説

養育費の強制執行とは?対象となる財産と流れを解説 養育費の強制執行とは?対象となる財産と流れを解説

離婚時に取り決めた養育費の支払いが滞り、相手との話し合いがうまくいかない場合、子の福祉を守るための最終手段として強制執行を考える方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、以下の内容について解説します。
養育費の強制執行とは何か
養育費の強制執行を申立てる前に確認すべきこと
養育費の強制執行の対象となる財産
養育費の強制執行の流れ
養育費の強制執行を申立てるメリットとデメリット
養育費の強制執行に関するQ&A

養育費の強制執行とは?

養育費の強制執行とは、当事者の間で取り決めたとおりに養育費が支払われない場合に、民事執行法に基づき養育費支払い義務者の財産を差し押さえて、強制的に未払い分を回収する法的手続きです。相手に督促をしても支払われない場合や、調停・審判で養育費の取り決めをしたのに家事事件手続法に基づく履行勧告や履行命令に従わない場合、実務上の最終手段として強制執行を検討することが一般的です。

養育費不払いで強制執行を申立てる際に必要なもの

強制執行をするには、原則として、1. 債務名義、2. 執行文、3. 送達証明書の3つが必要です。

債務名義

強制執行は、原則として、執行文の付された債務名義の正本に基づき実施されます。
債務名義とは、強制執行によって実現されるべき給付請求権の存在や内容を公証した文書のことで、主に以下のようなものが該当します。
家事調停調書
家事審判書
和解調書
確定判決
強制執行認諾文言付き公正証書

執行文

債務名義に基づいて強制執行をするには、原則として執行文の付与が必要です。確定判決のように、確定しなければ効力を生じない債務名義については、裁判所で確定証明書を取得する必要があります。
実務上の扱いは、以下の表を参考にしてください。

債務名義の種類 執行文付与の要否 確定証明書の要否
家事調停調書 不要 不要
家事審判書 不要 必要
和解調書 必要 不要
確定判決 必要 必要

強制執行認諾文言付き公正証書以外の債務名義については、事件記録のある裁判所に対して執行文付与の申し立てを行います。手数料は執行文1通につき300円です。
強制執行認諾文言付き公正証書の場合は、原本を保管する公証役場の公証人に対して、執行文付与の申し立てを行います。その際、手数料として1,700円がかかります。

送達証明書

強制執行を開始するには、債務名義の正本が、あらかじめまたは執行着手と同時に、債務者(支払い義務者)に送達されていることが法律上求められます。そのため、強制執行の申し立て前には、裁判所等に送達証明書の申請を行い、送達証明書を取得しておくのが一般的です。強制執行認諾文言付き公正証書の場合は、債務者へ謄本を送達する手続きが必要です。送達手数料として現金1,400円と郵便切手1,080円(証書の重量によっては追加の切手代が必要な場合があります)がかかります。謄本送達申請の際に、送達証明申請も同時に済ませておけば、債務者への送達が完了した後に公証役場から連絡が入る仕組みになっています。送達証明申請の手数料は、1通につき250円です。いずれの債務名義であっても、実務上は執行文付与の申し立てと同時に送達証明申請をしておくと手続きがスムーズに進む傾向にあります。

養育費不払いで強制執行の対象となる財産は?

強制執行の対象となる財産には、主に債権、不動産、動産などが挙げられます。
実務上で対象となる代表的な例は、以下のとおりです。

強制執行の種類 対象財産
債権執行 給与、預貯金、有価証券 など
不動産執行 土地、建物 など
自動車執行 登録済み自動車
動産執行 家財道具、宝石類、現金、軽自動車 など

通常の貸金などを請求債権として差し押さえをする場合、原則として債務者の手取り給与の4分の1までしか差し押さえができませんが、養育費請求権に基づく給与の差し押さえでは、民事執行法の特例により原則として手取り給与の2分の1まで差し押さえが可能です。
なお、税金や社会保険料などを控除した後の手取り額が33万円(標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額)の2倍である66万円を超える場合には、33万円を超える部分について全額差し押さえができます。

養育費不払いを原因とする強制執行の流れは?

養育費の不払いを原因とする強制執行は、一般的に以下の流れで行われます。本記事では、実務で多く用いられる債権執行(給与や口座の差し押さえ)を行う場合の流れを紹介します。

相手の住所を確認する

まずは相手(支払い義務者)の現在の住所を確認しましょう。申立書に記載する債権者と債務者は、執行力ある債務名義の正本に表示されている債権者および債務者の情報と一致している必要があります。そのため、債務名義を取得した後に氏名や住所の変更があったときは、住民票や戸籍謄本等を添付したうえで、当事者目録に変更前と変更後の情報を併記しなければなりません。強制執行の申し立ては、原則として相手の住所地を管轄する地方裁判所に行います。申し立てが受理されると裁判所は相手に書類を送付するため、正確な現住所を把握しておく必要があります。

相手の財産や勤務先を調査する

続いて、相手の財産や勤務先を調査します。
強制執行によって、未払いとなっている養育費の回収が見込める財産(預貯金など)があるかどうかを確認します。給与を差し押さえる場合は、債務者が勤務先に対して有する給与債権を対象とするため、現在の勤務先を特定・把握しておく必要があります。
2020年の民事執行法改正により新たに導入された「第三者からの情報取得手続」によって、債務者の財産や勤務先に関する情報が以前よりも得やすくなりました。第三者からの情報取得手続とは、市町村や年金機構などの公的機関、または金融機関といった債務者の情報を管理する第三者から、裁判所を通じて直接情報を得られる制度です。相手の財産や勤務先が不明な場合は、裁判所に対して第三者からの情報取得手続を申し立てるのも有効な方法の一つです。
参照:第三者からの情報取得手続 | 裁判所

必要書類をそろえて養育費の強制執行を申立てる

管轄の裁判所に対し、必要書類をそろえて強制執行を申立てます。
給与や預貯金などを対象とする債権執行の申し立てに必要な主な書類等は、以下のとおりです。
申立書一式
執行力のある債務名義の正本
送達証明書
資格証明書(法人が当事者の場合)
戸籍謄本・住民票・戸籍の附票(債務名義に記載された住所・氏名が現在と異なる場合)
4,000円分の収入印紙
裁判所が指定する郵便切手

裁判所が差押命令を発令する

強制執行の申し立ての内容に問題がなく、裁判所が適法と判断すると、差押命令が発令されます。

相手や第三債務者に債権差押命令が送達される

裁判所が債権差押命令を発令すると、相手(債務者)および第三債務者に対し、債権差押命令の正本が送達されます。第三債務者とは、相手(債務者)に対して支払い義務などの債務を負っている立場にある者のことであり、相手の勤務先や、相手の預貯金を預かっている金融機関などを指します。債権差押命令を受け取った第三債務者は、差し押さえられた範囲内において、給与を相手に支払ったり、預貯金の払い戻しに応じたりすることが法的に禁止されます。その後、申し立てをした債権者宛てに、裁判所から送達通知書と第三債務者からの陳述書(差し押さえの可否等についての回答)が送付されます。

養育費を回収する

債権差押命令が相手(債務者)に送達された日から1週間が経過すると取立権が発生するため、債権者は第三債務者に対して直接取り立てができるようになります。債権者自身から第三債務者(勤務先や金融機関)に連絡をとり、具体的な振り込み方法などについて協議し、回収を行います。

養育費不払いで強制執行を申し立てるメリットは?

養育費不払いで強制執行を申し立てる主なメリットは、以下のとおりです。

財産があれば相手の意思に関係なく養育費を回収できる

差し押さえの対象となる財産が存在すれば、相手の支払い意思に関係なく、法的な手続きを通じて養育費を回収できる可能性があります。十分な収入や財産があり、支払いができるにもかかわらず養育費の支払いを拒んでいる相手に対しては、非常に有効な方法といえます。

給与等の差押えでは将来分まで差し押さえの効力が及ぶ

給与や継続的な家賃収入など、相手(債務者)が定期的かつ継続的に支払いを受ける債権を差し押さえた場合、未払い分だけでなく、将来発生する養育費分についても差し押さえの効力が及ぶ特例があります。これにより、毎月安定して養育費を受け取れるという心理的な安心感が得られる傾向にあります。

養育費不払いで強制執行を申し立てるデメリットは?

一方で、養育費の不払いで強制執行を申し立てる際には、以下のようなデメリットや注意点も存在します。

手続きが複雑で手間がかかる

裁判所を介した申し立ての手続きは専門的であり、個人で行うには複雑で手間がかかります。例えば、転居を繰り返している相手の現住所の調査や、隠し口座などの財産調査に想定以上の時間がかかるケースがあります。
また、裁判所が指定する書式に沿った申立書一式の作成も、法律に慣れていない人にとってはハードルが高く、難しく感じることが一般的です。

養育費が回収できるとはかぎらない

強制執行の申し立てが受理されたとしても、必ず養育費が回収できるとはかぎりません。相手が預貯金を使い果たしていたり、すでに退職して給与債権が存在しなかったりと、差し押さえるべき財産をほとんど持っていない可能性も考えられるからです。

相手との間に感情的な対立が生まれる

勤務先への差し押さえなど、強制執行の申し立てをしたことによって、相手との間に深刻な感情的対立が生まれるリスクがあります。今後も面会交流など、子どもの親として何らかのやり取りを続けていく必要がある場合、強硬手段によって関係が完全に破綻し、かえって子の福祉を害する懸念があるため、慎重な判断が求められます。

養育費不払いを原因とした強制執行に関するQ&A

養育費の不払いを原因とした強制執行に関して、よくある疑問と回答を解説します。

強制執行でお金が取れない場合はどうすればよい?

給与の差し押さえ手続きを行ったにもかかわらず、相手の勤務先(第三債務者)が事実上支払いを拒否するようなケースが稀にあります。そのような場合は、勤務先を被告として取立訴訟(取り立ての訴え)を提起し、裁判を通じて支払いを求める方法が考えられます。

相手の住所がわからない場合はどうすればよい?

相手が離婚後に転居を繰り返すなどして現住所がわからない場合は、本籍地の役所で戸籍の附票を取得することで、住所の履歴をたどり確認できる場合があります。相手が転籍するなどして戸籍の附票による追跡が困難な場合は、法律の専門家である弁護士に強制執行の手続きを含めて相談・依頼することをご検討ください。弁護士であれば、受任した事件の処理に必要な範囲において、職務上請求により住民票などを取得し、相手の現住所を合法的に調査することが可能です。

まとめ

養育費の支払いが滞ることは、ひとり親家庭の生活や子どもの将来に直結する重大な問題です。話し合いがうまく進まない、あるいは相手が連絡を完全に無視するといった場合は、実務上の解決策として養育費の強制執行の申し立てを視野に入れましょう。ネクスパート法律事務所には、離婚問題や養育費トラブルを多数手掛けている経験豊富な弁護士が在籍しています。養育費の未払いに悩み、「給与を差し押さえたいが手続きがわからない」など強制執行をご検討中の方は、状況が悪化する前に、ぜひ一度当事務所の弁護士までご相談ください。個別の状況に応じた最適な解決策をご提案いたします。 [source: 1]

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