更新日:2022年4月12日 (火)
公開日:2020年12月8日 (火)
自己破産と養育費|免除されない理由や手続き中の注意点
サマリー
借金の返済が苦しく自己破産を検討している方の中には、子どもの養育費の支払いをどうすべきか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
自己破産を申し立てて借金の免除(免責)が認められた場合でも、養育費の支払い義務は免責されないルールになっています。
手続き中の支払いや滞納分の扱いには注意点があり、放置すると財産が差し押さえられるリスクもあります。
この記事では、自己破産をしても養育費が免除されない理由や手続き中の注意点、支払いが難しい場合の対処法について分かりやすく解説します。
自己破産しても養育費の支払い義務は免除されない理由

破産法上の「非免責債権」に該当するため
自己破産の手続きを行い、裁判所から免責許可決定が下りると、借入れやクレジットカードの利用代金などの支払い義務は原則として免除されます。
しかし、どのような債務でもすべて免除されるわけではありません。
破産法では、社会的な公益性や公平性の観点から、免責の効力が及ばない「非免責債権」が定められています。子どもの養育費にかかる請求権は、法律上この非免責債権に該当します。
そのため、自己破産の手続きが完了して他の借金が免責された後であっても、養育費の支払い義務はそのまま残ることになります。
子どもの生活保持と福祉を保護する趣旨
養育費が非免責債権とされている背景には、子どもの健全な成長と生活を守るという重要な趣旨があります。
親は未成熟の子どもに対して、自分と同程度の生活を保障する「生活保持義務」を負っています。
もし自己破産によって養育費の支払い義務まで免除されてしまうと、子どもを監護・養育している側の家計が直接的な困窮に陥り、子どもの生活や教育機会が著しく脅かされてしまいます。
破産法は債務者の経済的な再生を支援する制度ですが、子どもの生存や福祉にかかわる権利はそれ以上に保護されるべきものと位置づけられています。
したがって、自己破産を検討する際にも養育費の支払いは免除されない前提で計画を立てることが重要です。
自己破産手続における養育費の取扱いと注意点
自己破産の手続きを進めるにあたっては、養育費に滞納があるかどうかによって、裁判所への申告内容や対応が異なります。
適切な対応を怠ると、破産手続きそのものに支障をきたす可能性があるため注意が必要です。
養育費の滞納の有無による手続きの違い
養育費の滞納がない場合、月々の支払いは継続的な生活費の一部として扱われるのが一般的であり、破産手続きの進行に大きな影響を与えることは原則としてありません。
一方で、すでに養育費の滞納がある場合は、その未払分が法的な債務として扱われます。
破産申立時に裁判所へ提出する「債権者一覧表」に元配偶者を債権者として記載する必要が生じます。
債権者一覧表に記載されると、裁判所から元配偶者へ破産手続きに関する通知が届くため、自己破産を申し立てた事実が元配偶者に伝わる点に留意が必要です。
手続き中の養育費の支払いと偏頗弁済のリスク
自己破産の申立後であっても、手続き期間中に新たに発生する当月分の養育費については、取り決めに基づき家計の中から支払いを継続することが認められます。
しかし、過去の滞納分については手続き中に返済してはならないルールとなっています。
支払不能に陥った後に特定の債権者にだけ優先して返済する行為は「偏頗弁済(へんぱべんさい)」とみなされるおそれがあります。
偏頗弁済に該当すると、裁判所から借金の免除が認められない免責不許可事由に抵触するリスクが生じます。
滞納分の清算は、破産手続きが完了し免責許可が確定した後に進める形となります。
財産の換価基準と振込方法の留意点
自己破産では、一定額を超える財産を保有している場合、破産管財人によって換価処分され債権者への配当に充てられる運用が一般的です。
基準は裁判所により異なりますが、預貯金残高が20万円を超えるかどうかが一つの目安とされています。
養育費の支払いのために口座へ一時的に資金をプールしていると、口座残高が換価対象と判断されてしまうケースも考えられます。
必要に応じて振込のタイミングや管理方法について事前に確認しておくことが望ましいでしょう。
養育費の支払いが困難な場合の対処法
自己破産を検討するほど家計が逼迫している場合、過去に取り決めた養育費の支払いをそのまま維持することが現実的に難しいケースもあります。
支払いが困難になった際に検討できる主な対処法について解説します。
元配偶者との協議・話し合い
まずは元配偶者に対して事情を説明し、養育費の減額や支払い条件の変更について話し合うことが基本的な手順となります。
双方が納得して合意に至れば、毎月の支払額を引き下げることが可能です。
すでに滞納が発生している場合についても、一括での支払いが難しければ、分割払いや支払い期日の延長といった現実的な返済プランを提案して合意を目指す方法が考えられます。
当事者間で条件の変更について合意できた場合は、後日の認識の食い違いやトラブルを防ぐため、変更後の金額や期間などを記載した書面や合意書を作成しておくことが望ましいとされています。
家庭裁判所への養育費減額調停の申立て
相手方との直接の話し合いがまとまらない場合や、関係性により協議自体が困難な場合には、家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てる方法があります。
調停手続きでは、調停委員を介して双方の収入状況や生活実態を確認しながら、客観的な基準に基づいて妥当な金額への調整に向けた話し合いが進められます。
調停が不成立となった場合は審判へ移行し、裁判所が判断を下します。
養育費の減額が考慮されるのは、取り決め当時と比べて当事者の収入が大幅に減少した、病気や失業により就労が困難になった、再婚や新たな子どもの誕生により扶養義務が増加したなど、予期せぬ事情変更が生じた場合とされています。
自己破産の事実そのものは減額理由になりにくい点に注意
減額調停や裁判において留意すべき点として、自己破産をしたという事実そのものは、養育費を減額すべき理由として直ちに考慮されるわけではない点が挙げられます。
自己破産によって借金の支払い義務が免除されると、返済負担がなくなり、養育費に充てられる支払い余力が生じると判断される傾向があるためです。
そのため、減額を求める場合は借金や破産の事実を理由とするのではなく、現在の実収入や心身の健康状態、扶養状況などの客観的な事情をもとに主張を組み立てる必要があります。
養育費を滞納し続けた場合の差押えリスク

養育費の支払いが滞った状態を放置していると、元配偶者から強制執行を申し立てられ、財産を差し押さえられるリスクが生じます。
滞納を放置すると、給与や預金口座などの財産が差し押さえられる可能性があります。
債務名義がある場合の強制執行
過去に離婚協議や養育費の取り決めを行った際、一定の公的文書を作成している場合は、裁判手続を経ることなく直ちに強制執行の手続きに進められることがあります。
直ちに差し押さえが行われる可能性がある代表的な文書には、以下のようなものが挙げられます。
- 執行認諾文言付きの公正証書を作成している場合
- 家庭裁判所の調停調書や審判書、判決書などが存在する場合
これらの文書(債務名義)が存在する場合、相手方は裁判所に申立てを行うことで、速やかに財産の差押え手続きに移行することが可能です。
債務名義がない場合の法的手続きの流れ
口頭や私的な合意書のみで養育費を取り決めていた場合、元配偶者はすぐに差押えの手続きをとることはできません。
しかし、相手方が家庭裁判所に調停や審判を申し立てたり、訴訟を提起して判決を得たりした場合には、最終的に強制執行が行われる可能性があります。
差し押さえの対象となる主な財産
強制執行が行われた場合、主に給与や預金口座が差押えの対象となることが一般的です。
預金口座が差し押さえられると、残高から滞納分が回収されます。
また、給与が差し押さえられた場合は勤務先に対して裁判所から通知が届くため、滞納の事実が勤務先に知られる要因にもなります。
養育費の差押えにおいては、将来発生する養育費の分も含めて給与の一部が継続して差し押さえられる法的な仕組みも設けられています。
そのため、支払いが難しい事情がある場合でも、無断で滞納を続けずに適切な法的対応を検討することが重要です。
養育費や債務整理に関する弁護士への相談
借金の返済に追われながら養育費の支払いを継続することは、家計への負担が大きく、精神的な負担も重くなりがちです。
自己破産を検討する段階においては、養育費の滞納の有無や今後の支払い計画など、法的な観点から確認すべき事項が数多く存在します。
手続中に発生する養育費の支払いや滞納分の取り扱い、預金口座の残高管理などを誤ると、破産手続そのものに影響を及ぼすおそれがあります。
適切な対応を進めるためには、早い段階で弁護士に状況を把握してもらうことが重要です。
状況に応じた適切な解決方法の検討
債務整理には自己破産のほかにも任意整理や個人再生などの選択肢があり、個々の借入総額や収入、財産の状況によって適した手続きは異なります。
養育費の支払い負担を含めた家計全体のバランスを見極めながら、無理のない生活再建の方法を検討することが大切です。
弁護士に相談することで、債務の整理方針だけでなく、養育費の支払いが困難な場合の協議や調停手続きへの対応についても総合的な助言を受けることが期待できます。
当事者間の話し合いや調停手続きのサポート
元配偶者との間で直接の減額交渉が難しい場合や、感情的な対立から話し合いが進まない場合でも、弁護士を介することで冷静な協議を進めやすくなります。
また、家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てることになった際にも、収入や事情の変更を客観的に示す資料の準備や主張の組み立てについてサポートを受けられます。
借金問題と養育費の両立に不安がある場合は、放置して滞納や強制執行のリスクを抱え込まず、弁護士への相談を検討してみるとよいでしょう。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。