サマリー
投資失敗による借金が若者世代に急増する韓国の事例を参考に、日本における個人再生制度の仕組みと活用条件、債務整理の選択肢を弁護士が解説します。
株式や暗号資産などへの投資がうまくいかず、損失を取り返そうとしてさらに借金を重ねてしまう——そうした相談は日本でも年々増えています。お隣の韓国でも同様の傾向が報じられており、投資の失敗をきっかけに個人再生を申し立てる若者が急増していると伝えられています。
「元手だけでも取り戻したい」投資損失で借金重ねる韓国の若者、個人再生が急増
出典:Yahoo!ニュース(KOREA WAVE)
2026年10月3日に配信されたこの報道によれば、投資損失を埋め合わせようとさらに借入れを行い、結果として返済不能に陥る若年層の個人再生申立てが韓国で増加しているとのことです。これは日本においても他人事ではなく、投資目的の借金が重なって自己破産や個人再生を検討するケースは決して珍しくありません。本コラムでは、この報道を切り口に、日本の法制度における個人再生の仕組みと、投資の借金にどう向き合うべきかを解説します。
投資の借金でも個人再生は利用できるのか
まず押さえておきたいのは、借金の原因が投資の失敗であっても、個人再生の利用自体は制限されないという点です。自己破産の場合は、浪費やギャンブル、過度な投機的投資によって借金を作った場合に「免責不許可事由」(破産法第252条第1項第4号)に該当するとして、免責が認められない、あるいは制限される可能性があります。裁判所の裁量により免責が許可される「裁量免責」の制度(同条第2項)はあるものの、投資による借金は審査が厳しくなる傾向があります。
これに対して個人再生は、借金を全額免除してもらう手続きではなく、民事再生法に基づき、借金を大幅に圧縮したうえで原則3年(最長5年)で分割返済する手続きです。免責不許可事由という概念自体が存在しないため、投資の失敗やFX・暗号資産取引による損失が原因の借金であっても、他の要件を満たせば利用できます。この点は、ギャンブルや浪費による借金を抱える方にとって、自己破産よりもハードルが低い選択肢になり得ます。
個人再生の要件と「最低弁済額」の考え方
個人再生には大きく「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があります。いずれも住宅ローンを除く借金総額が5,000万円以下であること、将来継続的に収入を得る見込みがあることが基本的な要件です(民事再生法第221条、第239条)。
減額後に返済すべき金額(最低弁済額)は、借金総額に応じて法定の基準額と、保有資産の清算価値(自己破産した場合に処分されるであろう財産の総額)を比較し、いずれか高い方が採用されます。たとえば借金総額が300万円以下なら最低弁済額は原則100万円、500万円超1,500万円以下なら借金総額の5分の1などと法定されています(民事再生法第231条第2項)。投資資金欲しさにカードローンや消費者金融から多重に借入れをしていても、この基準に沿って圧縮された金額を3年程度で返済できる見通しが立てば、個人再生は十分選択肢になります。
なお、給与所得者等再生を利用する場合は再生計画案に対する債権者の同意が不要な反面、可処分所得の2年分を弁済額とする基準も加わるため、小規模個人再生より返済額が高くなりやすい点に注意が必要です。
投資と借金を繰り返す心理と早期相談の重要性
報道が指摘するように、投資で損失を出した人が「元手だけでも取り戻したい」という心理から、さらに借入れをして取り返そうとする行動は、日本でもよく見られるパターンです。この行動は損失を回避しようとする心理バイアスの一種とされ、結果として借金が雪だるま式に膨らみやすい点が共通しています。
借金が複数の貸金業者にまたがると、利息の支払いだけで元本が減らない状態(いわゆる多重債務)に陥りやすくなります。貸金業法では総量規制により年収の3分の1を超える貸付けが原則禁止されていますが、複数業者からの借入れが積み重なるとこの規制を実質的にすり抜けてしまうケースもあり、気づいたときには返済不能という状況になりがちです。返済のために新たな借入れを重ねる前の段階で弁護士に相談することが、個人再生・任意整理・自己破産のいずれにおいても選択肢を広げる最大のポイントです。
また、個人再生の申立てにあたっては、借入れの経緯や使途について裁判所提出用の報告書(陳述書)で詳細に説明する必要があります。投資による損失であることを隠さず正直に申告し、再発防止の姿勢を示すことが、再生委員の心証や手続きの円滑な進行にもつながります。
まとめ
韓国の報道が示すように、投資の失敗から借金を重ね、返済に行き詰まる若年層の増加は、日本においても十分起こり得る現象です。重要なのは、借金の原因が投資であっても個人再生という法的な救済手段が用意されているということ、そして状況が深刻化する前に専門家に相談することです。個人再生は借金を大幅に圧縮しつつ、自己破産と異なり財産の処分を比較的限定できる手続きであり、安定した収入があれば投資による借金でも十分に活用できます。
投資の失敗による借金の増加や返済方法でお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。