強制わいせつ致傷罪の構成要件、罰則、量刑の傾向について解説

この記事は、2023年7月13日までに発生した性犯罪に適用される強制わいせつ罪について説明した記事です。

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強制わいせつなどの性犯罪を犯し、被害者に怪我を負わせた場合に問われる可能性がある罪が強制わいせつ致傷罪です。

今回は、強制わいせつ致傷罪はいかなる場合に成立するのか(構成要件)罰則はどうなっているのか刑事裁判で有罪と認定された場合の量刑の傾向はどうか(実刑か執行猶予かなど)、について詳しく解説します。

寺垣弁護士
寺垣弁護士
強制わいせつ致傷罪の罰則は無期又は3年以上の有期懲役です。
罪が軽減されなければ執行猶予がつかないので、有罪判決が出ると刑務所に収監されます。
罪を軽減するには例えば…
・被害者と示談交渉をして宥恕を得る
・強制わいせつ罪や傷害罪のような、軽い罪への切り替えを目指す(事案の内容による)
比較的重い犯罪ですので、いい結果を得るには刑事弁護が欠かせません。
初回相談は無料です。お気軽にご相談ください。
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強制わいせつ致傷罪の構成要件

強制わいせつ致傷罪は刑法181条に規定されています。

なお、同条は、致傷、つまり人に傷害を負わせた場合のみならず、致死、つまり人を死亡させた場合についても併せて規定しています。

(強制わいせつ等致死傷)
第百八十一条 第百七十六条、(略)の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。

引用:刑法第181条

以上から、強制わいせつ致傷罪の構成要件は、

  • ①:刑法176条(強制わいせつ罪)の既遂罪又は未遂罪を犯したこと
  • ②:人に傷害を負わせたこと
  • ③:①と②との間に因果関係があること

であることが分かります。以下、詳しく解説します。

①刑法176条(強制わいせつ罪)の既遂罪又は未遂罪を犯したこと

刑法176条は「強制わいせつ罪」に関する規定です。

(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

引用:刑法第176条

つまり、強制わいせつ致傷罪が成立するには、強制わいせつ罪の既遂又は未遂罪が成立していることが前提ということになります。

強制わいせつ罪は、「暴行又は脅迫」を手段として「わいせつな行為」を行った場合に成立する罪です(相手が13歳未満の場合、暴行又は脅迫は不要)。

暴行は、人の身体に対する有形力の行使をいい、殴る、蹴る、押し倒す、羽交い絞めにするなどが典型です。

脅迫は、相手の生命、身体、名誉、自由又は財産に対して害を加える旨を告知することをいい、ナイフなどの凶器を突きつけながら「~させろ!」などと怒号する、「~させないと●●をばらす、ネットに公開する。」などと言うなどが典型です。

わいせつな行為は、徒に性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するような行為と解されており、無理矢理キスをする、胸を揉む、陰部を触る、陰部の中に指を挿入する、腿・臀部を触る、撫でまわすなどが典型です。

また、相手の背後からいきなり抱き付き、胸を鷲掴みにする行為のように、暴行それ自体がわいせつな行為と評価されるケースでも強制わいせつ罪が成立することがあります。

暴行又は脅迫を手段としてわいせつな行為に及んだ場合に既遂罪、強制わいせつ罪を行う意図で暴行又は脅迫を行ったもののわいせつな行為に至らなかった場合に未遂罪が成立します。

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②人に傷害を負わせたこと

傷害とは、人の身体の生理的機能を害することで、健康状態を不良にした場合を含むと解されています。

したがって、多くの方が想像されるであろう「怪我(外傷)」のほかに、意識障害、睡眠障害、心的外傷後ストレス障害なども「傷害」にあたります

また、傷害の程度は問わず、加療約1週間でも約1日でも医師に傷病名を診断されれば「傷害」にあたる可能性があります。

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①と②との間に因果関係があること

強制わいせつ罪の既遂又は未遂の結果、人に傷害を負わせたことが必要ということです。

傷害が、わいせつな行為からはもとより、その手段である暴行、脅迫から生じたといえる場合にも因果関係を認めることができます。また、傷害を負わせることまでの認識は不要です。

つまり、相手にわいせつな行為をしようとして暴行を加えている最中、知らず知らずのうちに相手に怪我を負わせてしまっていた、という場合でも強制わいせつ致傷罪が成立することがあります。

さらに、傷害が、わいせつな行為や暴行又は脅迫から生じていない場合でも、因果関係が認められることがあります。

裁判所(東京高等裁判所:平成12年2月21日判決)は、電車内で強制わいせつ行為を終了した後、被害者に腕をつかまれ、これを振り切って逃走し逮捕を免れる目的で、つかまれた腕を強く振り払う暴行を加えた結果、被害者に傷害を負わせた事案につき、強制わいせつ致傷罪の成立を認めています。

強制わいせつ致傷罪の罰則と量刑傾向

強制わいせつ致傷罪の罰則は「無期又は3年以上の有期懲役」です。

では、強制わいせつ致傷罪の裁判で有罪と認定された場合、実際にどの程度の量刑を科されているのでしょうか?

この点、令和2年版犯罪白書「裁判員裁判対象事件:第一審における判決人員(罪名別、裁判内容別)」によれば、令和元年中に第一審(地方裁判所)で、強制わいせつ致死傷罪に問われた人の人数は70名で、内訳は、

  • 懲役10年以下・・・2名
  • 懲役7年以下・・・・2名
  • 懲役5年以下・・・・18名
  • 懲役3年以下・・・・48名(うち、実刑9名、執行猶予39名)

となっています。

実刑か執行猶予かのボーダーラインは、判決で懲役3年以下の刑の言い渡しを受けるかどうかであるところ、裁判で強制わいせつ致死傷罪に問われ有罪と認定された人の半数以上が執行猶予付き判決を得ていることが分かります。

裁判の量刑は、犯行の計画性の有無、犯行態様、被害の内容など犯罪そのものの情状(犯情)と、犯人の反省の程度、被害弁償・示談の有無、再犯可能性(同種前科・前歴の有無、常習性の有無、異性や性に対する犯人の考え方)、更生可能性(犯人の更生意欲、家族などのサポート体制の有無、就職・進学先の有無)などのその他の情状(一般情状)を総合的に勘案して決められます。

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まとめ

強制わいせつ致傷罪は、強制わいせつ罪の既遂又は未遂にあたる行為をし、それと因果関係のある傷害を相手に負わせることによって成立する犯罪です。

強制わいせつ致傷罪の罰則は、無期又は3年以上の懲役と決して軽くない罪ですが、実際の裁判では強制わいせつ致傷罪に問われ有罪認定を受けた半数以上の方が執行猶予付きの判決を受けています。

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