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出版社が貸主の申出額の3倍の立退料4026万円を勝ち取った事案

東京都港区虎ノ門、事務所ビルが建ち並ぶ地域にある地上12階建ての事務所ビル。このビルを本拠地に43年間出版業を営んできた借主。しかし、建物には耐震性の問題により建て替えの必要があるとして立退きを求められました。裁判所が4026万円の立退料を認めたポイントとは?
裁判所が考慮した事実(東京地判平成22年7月21日)
① 耐震性の不足は著しいものではなかった!
貸主は、森ビルが所有する本件建物の一部を区分所有していました。本件建物は築44年で、森ビルの調査によると、震度6強以上の地震の際には倒壊の危険があるとのことでした。
しかし、裁判所は、耐震性の不足は著しいものではなく、改修工事で対応が可能であるとの判断をしました。その結果、裁判所は、立退きの目的は、老朽化ではなく、森ビルが近隣一帯で進めている再開発の目的に過ぎないと判断しました。
② とはいえ、貸主はどうしようもない…
しかし、賃貸人は、大部分を森ビルが管理している建物の一部を区分所有しているにすぎないため、貸主が単独で改修工事をすることができない状況にありました。また、他のテナントは、ほぼ立退きを完了しており、貸主としては、再開発を進めたい森ビルと、立退かない借主との間で板挟みの状態にありました。このようなことから、裁判所は、立退きを認める判断をしました。
③ 借主は長年営業の本拠地にし、代替物件確保は困難であった!
借主は、貸主との契約前から、合計43年間にわたって、本件建物を本拠地に出版業を営んできました。借主の出版物には所在地を本件建物とする記載が43年間継続して掲載されてきました。また、賃料は、最終的に当初の賃料の半額程度まで減額されており、同様の条件で代替物件を見つけるのは困難な状況にありました。さらに当時、借主の業績は低迷しており、このことからも代替物件の確保は困難な状況でした。
これらのことから、裁判所は、借主が本件建物を使用し続ける重大な利益があるとの判断をしました。
弁護士が解説する立退料算定のポイント
本件で特徴的なのは、貸主が本件建物の区分所有権しか有していなかったことです。そのため、貸主は、森ビルの方針に従わざるを得なかったことが立退きの可否を決める決定打になっています。
ただ、このように貸主の側で立退きを求める積極的な理由が非常に弱く、他方で借主側の本件建物を利用する利益は非常に大きいため、立退料の算定は、借主側に非常に有利な形で行われました。このことから、借主側の利益と貸主側の利益をよく検討したうえで立退料の主張をすることが重要であることがわかります。