離婚の多くは、夫婦の話し合いによって進める、協議離婚という方法で成立します。
この話し合いでは、夫婦で築いた財産をどう分けるか、親権はどちらが持つか、慰謝料の有無など、様々な条件を決めていきます。
しかし、離婚前の何気ない行動や言動によって、交渉で不利になったり、離婚そのものが難しくなったりすることもあります。
ここでは、離婚前にやってはいけないことや、口にすべきではない言葉についてわかりやすく解説します。
目次
これから離婚する前に絶対やってはいけないこと5つ
これから離婚したいと考えている人は、下記で紹介することをしないようにしましょう。
冒頭で説明したとおり、離婚で不利になる可能性があるからです。
①証拠を取らずに浮気やDVを主張する
不貞行為やDVを理由に離婚したい場合は、それを裏付ける証拠がなければ認められません。
証拠がないまま主張しても、相手に否定されて水掛け論になる可能性があります。
それだけでなく、相手を警戒させ、証拠隠滅をされてしまうことも考えられます。
どちらにせよ、浮気の証拠がなければ、離婚や慰謝料請求も難しくなってしまうので、感情に任せて問い詰めたりするのはやめましょう。
②相手の同意なしに別居する
正当な理由なく一方的に家を出て別居すると、有責配偶者(離婚原因を作った側)とみなされるおそれもあります。
そうなると、離婚調停や裁判で自分が不利になるうえに、財産分与や慰謝料の交渉でも立場が弱くなってしまいます。
特に子どもを連れて出た場合、無断で連れ去ったと見なされるリスクもあります。
離婚を有利に進めたいのであれば、別居は準備を整えた上で、相手に対する説明や法的助言を受けながら慎重に進めるべきです。
「悪意の遺棄とは|該当する行為や慰謝料の相場」の記事も参考にしてください。
③財産を勝手に移動・処分する
離婚前に、預金をこっそり引き出したり、車や家具などを勝手に売ったりするのはNGです。
こうした行為は財産隠しとみなされ、相手からの信頼を失うだけでなく、調停や裁判で自分が不利になる原因になります。
たとえ夫婦の共有財産であっても、離婚前に勝手に処分するのは避けましょう。
財産は動かすのではなく、リスト化して証拠を残すようにしましょう。
④離婚を焦って不利な条件で合意する
離婚を急ぐあまり、離婚条件をよく考えずに合意してしまうと、後で後悔する可能性があります。
一度合意書や公正証書を作成すると、簡単に内容を変更することはできません。特に養育費や財産分与は、離婚後の生活に大きな影響を及ぼします。
離婚後に「こんなはずじゃなかった」と後悔しないためにも、十分に検討してから合意すべきです。
「協議離婚とは|協議離婚の進め方や流れ・決めること」の記事も参考にしてください。
⑤離婚したい理由をむやみやたらに話す
離婚の話し合いが始まると、つい今までの不満や本音を全て吐き出したくなるものです。
しかし、特に性格の不一致が原因で離婚したい場合は注意しましょう。
感情的になって過去の出来事を一方的に責めたり、「実は他に好きな人がいる」といった発言をしたりすると、相手の怒りを買って協議がこじれる恐れがあります。
さらに、その発言がきっかけで自分が有責配偶者と見なされ、離婚条件で不利になる可能性もあります。
離婚時に言ったら不利になる言葉の具体例
離婚時に言ったら不利になる言葉の例を紹介します。
離婚交渉で不利になるような発言はしないように心がけましょう。
養育費はいらないから離婚したい
養育費をもらわないまま離婚すると、子どもの将来の教育費や生活費を一人で背負うことになります。
生活が厳しくなってから請求しようとしても、支払いを断られることもあります。
養育費は子の権利であり、安易な放棄は大きな負担を招きます。
「法定養育費とは|民法改正で養育費の取り決めが不要に?」の記事も参考にしてください。
財産はすべてあなたにあげる
財産分与を辞退すると、本来受け取れるはずだった預金や不動産、年金などの共有財産を失うことになります。
離婚後の生活資金が不足し、生活保護などに頼らざるを得なくなるリスクもあります。
一度手放した財産は、あとから取り戻すのが難しいです。
「離婚時の家の財産分与で確認すべきことは?手続きの流れを解説」の記事も参考にしてください。
離婚しても子どもには会わせない
面会交流を拒否する発言は、親権争いで不利になるだけでなく、子どもの心にも深い傷を残します。
子どもにとっては、どちらの親とも安定した関係を築くことが心の成長に欠かせません。
「もう会わせない」と感情的に遮断すれば、子どもが孤独や不信感を抱き、将来の親子関係にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
「面会交流の一般的な頻度はどのぐらいか?頻度を減らせるケースについて解説」の記事も参考にしてください。
あなたが浮気してることは知っている
証拠がないまま問い詰めると、相手が「浮気などしていないし、離婚にも応じない」と主張し、話し合いがこじれる原因になります。
加えて、相手に警戒されて証拠を隠されたり、逆に自分の方が不利な立場に追い込まれることも考えられます。
主張する前に、まずは確かな証拠を集めることが先決です。
子ありの女性が離婚を決めたらする事
基本的な離婚条件を考える
離婚をするにあたって、離婚条件の希望を考えましょう。離婚条件で代表的なものは以下の通りです。
- 親権:どちらが子どもを育てるか
- 財産分与:夫婦で築いた財産をどう分け合うか
- 養育費:子どもを育てない側が定期的に支払うお金の額
- 面会交流:子どもを育てない側が子どもも会う回数や頻度
- 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償金
特に養育費や財産分与は、金額が大きくなりやすいです。離婚後の生活を支えるものになるので、よく検討しましょう。
離婚条件の相場がわからない場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
離婚後の生活の準備
離婚後は、さまざまな手続きや生活の変化が避けられません。スムーズに新生活を始めるためにも、離婚前から準備を進めておくことが大切です。
以下に例を挙げます。
- 保険証や銀行口座、運転免許証などの名義変更
- 引っ越しや、子どもの転園・転校の手続き
- 新しい仕事の確保や就職活動 など
離婚が成立してから慌てないよう、早めに何が必要かを洗い出し、準備できることから始めておくと安心です。
離婚後の家計収支のシミュレーション
離婚後にどれくらいの生活費が必要か、そしてどれくらいの収入が見込めるかを計算しておくことが大切です。
家賃、食費、保育料などを合計し、養育費や自分の収入、公的手当でまかなえるかを確認しましょう。
もし足りない場合は、働き方を見直す、支出を減らす、公的支援を利用するなどの対策を検討する必要があります。
実家を頼って住居費を抑えるといった工夫も、現実的な対策になります。
早めに収支のバランスを把握しておくと、離婚後の生活に不安を残さずに済みます。
公的支援制度を調べる
ひとり親家庭には、児童扶養手当や医療費助成、住居確保給付金、保育料の減免、就業支援など、利用できる公的支援が多数あります。
こうした制度は、各自治体によって条件や申請方法が異なるため、早めに市区町村の窓口で確認し、必要書類の準備を始めましょう。
制度を知らずに離婚すると、本来受け取れるはずの支援を逃してしまうこともあります。
「経済的な理由で離婚に踏み切れない方へ|離婚後の社会保障を紹介」の記事も参考にしてください。
弁護士への相談
離婚は法的な手続きが絡むため、弁護士に相談しておくと安心です。
特に、相手と条件で揉めそうな場合や、親権・養育費の交渉が難航しそうな場合は、専門家のサポートを受けた方が有利に進められます。
経済的に不安がある場合でも、法テラスを利用すれば、収入や資産に応じて弁護士費用の立替制度が使える可能性があります。
離婚は言った方が負けだと言われる理由
離婚は言い出した方が負け、言い出した方が不利になると言われることがあります。
実際には、必ずしもそうではありませんが、そのように言われる理由を説明します。
言った側が離婚原因を証明しなければならないから
相手が離婚に応じない場合、離婚を成立させるには裁判を起こすことになります。
そしてその際、離婚を求める側が、法定離婚事由があることを裁判所に証明しなければなりません。
主な法定離婚事由には、以下のようなものがあります。
- 配偶者の不貞行為(浮気)
- 暴力やモラハラ
- 長期間の別居
- 生活費を渡さない、夫婦の協力関係がない など
これらに該当する事情があっても、それを裏付ける証拠がなければ裁判所は離婚を認めません。
つまり、離婚を言い出した側は、証拠集めや書類の準備などに多くの時間と労力をかける必要があるのです。
「離婚事件で争点になりやすいポイントと弁護士を立てるメリット」の記事も参考にしてください。
言った側が離婚条件で妥協しやすいから
離婚協議においては、夫婦の同意が必要なため、離婚したい側が条件で妥協しやすくなります。
例えば、養育費や財産分与を減らされたり、場合によっては慰謝料を請求されることもあります。
「早く離婚したい」という思いから不利な条件を飲んでしまうと、後から後悔する可能性が高くなります。
言った側が家庭を壊したと見られやすいから
離婚を切り出すと、たとえ正当な理由があっても、周囲からは家庭を壊した人と見られてしまうことがあります。
特に年配の親族や地域の人からは、我慢が足りないと言われるなど、冷たい目で見られるケースもあります。
子どもがまだ小さくて事情を理解できない場合、「ママ(またはパパ)が勝手に家を出て行った」などの誤解を生む可能性もあるでしょう。
親子関係に誤解や距離が生まれることもあるため、周囲への説明や子どもへの接し方には配慮が必要です。
密かに離婚準備するときのリスト
離婚を切り出す前に、冷静に準備を進めておくことが重要です。
トラブルを避けつつ、自分と子どもの生活を守るために、以下の点を水面下で整えておきましょう。
離婚原因の証拠の確保
浮気や暴力などが離婚の原因になる場合は、できるだけ早い段階で証拠を集めておきましょう。
例えば、LINEのやり取り、レシート、診断書、日記などを、相手に気づかれないように記録しておくことが基本です。証拠がなければ、離婚や慰謝料請求をしても、裁判で認められにくくなります。
家庭にある財産の把握と記録
夫婦で築いた財産は、原則として財産分与の対象となります。
離婚前に勝手に処分されたり、使い込まれたりする前に、財産の情報はしっかり記録しておきましょう。
対象となる財産には、預金、不動産、車両、保険の解約返戻金、株式などがあり、いずれも記録に残しておくことが大切です。
名義に関係なく、婚姻中に得たものであれば、共有財産として扱われます。通帳や証書などは、コピーや写真に残しておくと安心です。
希望する離婚条件の整理
離婚を考えるときは、感情だけでなく条件面の希望も整理しておくことが大切です。
親権を取りたいのか、養育費はいくら必要か、財産分与や慰謝料はどうするかなど、自分の中で優先順位をつけておくと、話し合いがスムーズになります。
離婚条件の相場がわからない人は、弁護士に相談すると安心です。
「離婚の際に決めるべき7つの項目」の記事も参考にしてください。
自分のものは自分名義に変更する
携帯電話、銀行口座、クレジットカードなどが夫名義のままだと、離婚後に使えなくなることがあります。
可能であれば、離婚前の段階で自分名義に切り替えたり、新たに作ったりしておきましょう。
こうした準備をしておけば、別居後の生活もスムーズに始めることができます。
離婚後の生活の準備
離婚後の生活に必要なことは、可能な範囲で事前に準備しておきましょう。例えば次のようなものがあります。
- 新しい住まいの確保
- 仕事探しや就職活動
- 子どもの転校・転園の確認
- 健康保険の加入手続き など
すぐに手続きできないこともありますが、何が必要かをリストアップしておき、今できることから少しずつ進めるのがおすすめです。
離婚前に別居した方がいいケース
場合によっては、離婚成立より別居を急いだり、離婚をせず、別居に踏みとどまったりした方がいいケースもあります。
自分の状況に合わせて、適切な判断をしましょう。
暴力やモラハラなど身の危険がある場合
配偶者からの暴力や精神的な攻撃(モラハラ)がある場合は、何よりも自分と子どもの身の安全を優先してください。
このようなケースでは、配偶者の許可を取る前に、別居して距離を取りましょう。
市役所や配偶者暴力相談支援センターに相談すれば、一時保護や住居支援を受けられることもあります。
離婚後に一人で生活していけるか不安な場合
離婚後の生活費や住まい、仕事などに不安がある場合は、いきなり離婚せず、まずは別居という形で試してみるのも一つの方法です。
別居しながら仕事や保育園の確保を進めることで、経済的・生活的な基盤を整えることができます。
焦って離婚してしまうと、生活が立ち行かなくなるリスクもあるため、段階的に準備するのが安心です。
子どもへの悪影響が大きいと感じる場合
夫婦喧嘩が絶えなかったり、家の中が常に緊張状態だったりすると、子どもがストレスを抱えてしまいます。
子どもが情緒不安定になっている、学校に行きたがらない、体調を崩しやすいなどの様子が見られるなら、一時的にでも別居して環境を変えることを検討してみてください。
離婚協議が長期間に渡りそうな場合
相手が離婚に応じない、条件で折り合わないなど、離婚協議が長引きそうな場合は、先に別居して距離を取り、自分の生活を確保することも選択肢の一つです。
家庭内で争いを続けるよりも、物理的に離れて冷静に話し合う方が、結果的に合意に近づくこともあります。
加えて、長期間の別居があると、婚姻関係が破綻しているとして、裁判で離婚が認められる可能性もあります。
別居は、夫婦の距離を取るだけでなく、離婚に向けた一歩にもなり得ます。
離婚前にやってはいけない事に関するよくある質問
離婚を決めたらやることは?
離婚を決めたら、まずは離婚後の生活を考えましょう。具体的には住まいや収入、支出などです。
そのうえで、財産・親権・養育費なども検討するとよいでしょう。
子供ありの場合の離婚準備リストは?
子どもがいる場合は、離婚後の生活に向けて次のような準備が必要です。
- 離婚条件(親権・養育費・面会交流など)の検討
- 子どもの住まいや学校の検討
- 転校・転園の手続き確認
- 保険証や扶養の名義変更
- ひとり親向けの支援制度の確認
「円満離婚とは?子ありでの切り出し方やよくある理由を解説」の記事も参考にしてください。
まとめ
離婚をしたいからといって、焦るのは禁物です。やってはいけないことや言ってはいけないことを知らずに行うと、結果的に自分に不利な状況を招くおそれがあります。
離婚を本気で考えるなら、配偶者に知られないよう静かに準備を始めるのが賢明です。
証拠の確保や生活設計など、できることから少しずつ進めましょう。わからないことや不安がある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。