
夫婦が離婚をする際、相手に離婚の原因がある場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。
離婚慰謝料はどれくらいの金額で請求できるのか、どのようなケースで請求できるのか分からない方も多いと思います。本記事では、離婚慰謝料の相場について次のポイントを中心に解説します。
- 離婚慰謝料請求が可能な事例
- 離婚慰謝料請求が認められにくい事例
- 離婚慰謝料の相場
- 離婚慰謝料の請求手順
目次
離婚慰謝料請求が可能な3大原因は?
慰謝料は、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求です。不法行為が存在しない場合、あるいは立証できない場合は、慰謝料請求は認められません。
離婚において、慰謝料請求の対象となる主な不法行為は以下の通りです。
不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外の者と自由な意思に基づいて肉体関係を持つこと、またはそれに準ずる行為を指します。不貞行為は、婚姻生活の平和を侵害する不法行為として、配偶者だけでなく、不倫相手に対しても慰謝料を請求することが認められています。
DV・モラハラ
DV(ドメスティック・バイオレンス)は、身体的な暴力に限定されず、暴言や威圧的な態度による精神的DVも含まれます。精神的DVは一般的にモラハラと呼ばれており、夫婦間の同居・協力・扶助義務に反し、配偶者に精神的苦痛を与える行為です。
モラハラに該当する行為としては、人格を否定するような発言、激しい束縛、長期間の無視、収入の差を盾に優位に立とうとする行為などが挙げられます。これらの行為は、婚姻を継続し難い重大な事由に該当すると考えられ、離婚慰謝料請求の根拠となります。
悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、民法上の義務である夫婦間の同居、協力、扶助の義務を、正当な理由なく放棄する行為です。生活費の不当な不払い、一方的な家出による別居などが該当します。悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求する場合、相手がこれらの義務を放棄したという事実を立証することが求められます。
慰謝料請求が認められにくい3つのケースは?
離婚で慰謝料の請求が認められにくいケースは、主に以下3つです。
性格の不一致
性格の不一致は多くの離婚の引き金となりますが、これ自体は不法行為ではないため、性格の不一致のみでの慰謝料請求は認められにくいです。離婚慰謝料の請求を検討する場合、あくまでも不貞行為やDV・モラハラといった具体的な不法行為の存在が必要です。
婚姻関係破綻後の不貞行為
婚姻関係破綻後の不貞行為は、慰謝料請求が認められにくい典型例です。
裁判所は、すでに夫婦関係が回復不可能な状態(破綻)にあったと認められる後に発生した不貞行為について、慰謝料請求を認めない、もしくは大幅に減額する判断を下す可能性が高いからです。これは、不貞行為が発生した時点ですでに夫婦関係の平穏が侵害されていない、すなわち、不貞行為が夫婦関係の破綻に決定的な影響を与えていないとみなされるためです。
夫婦双方に離婚原因がある場合
夫婦双方に離婚原因となる不法行為(例えばダブル不倫)があり、双方の責任の程度が同等である場合、慰謝料請求は認められないか、責任の程度に応じて大幅に減額される可能性があります。
離婚慰謝料の相場は?|ケース別に解説
離婚で請求できる慰謝料は、明確に規定された金額は存在せず、離婚原因によって相場が異なります。ここでは、ケース別に離婚慰謝料の相場がどれぐらいになるか解説します。
不貞行為の離婚慰謝料相場
不貞行為の場合、離婚に至ったか否かで相場が大きく異なります。
離婚に至った場合、一般的に慰謝料の金額は100万円~300万円程度です。離婚にならなかった場合は、夫婦関係の破綻という損害には至らなかったと判断されるため、50万円から150万円程度になる傾向があります。
DV・モラハラの離婚慰謝料相場
モラハラ(精神的暴力)の場合、一般的に離婚慰謝料は50万円~200万円程度が相場です。慰謝料請求には、継続性や精神的な影響の立証が必須であり、この点の立証が難しい場合が多いといわれています。
身体的DVの場合、骨折や内臓損傷といった重篤な外傷を負わされた、または刃物や鈍器を使用した暴力、生命に関わる窒息行為があった場合、慰謝料額は300万円から500万円以上になるケースがあります。
悪意の遺棄の離婚慰謝料相場
悪意の遺棄の場合、一般的に離婚慰謝料は50万円~200万円程度が相場です。悪意の遺棄に該当する主な行為は以下のとおりです。
- 生活費を渡さない
- 一方的に別居した
- 家から無理やり追い出す
離婚慰謝料の金額が増額する要因は?
さまざまな事情により、離婚慰謝料の金額が相場よりも増額するケースがあります。
婚姻期間が長い
婚姻期間が長いほど、離婚慰謝料額は高額になる傾向があります。婚姻期間が長ければ、不法行為によって侵害された共同生活の利益が大きいと評価されるためです。特に20年以上の長期婚姻は高額認定の強力な根拠となります。
婚姻期間が数か月から1年など短い場合は、慰謝料が減額される傾向があります。
不貞行為の悪質性
不貞行為の悪質性によって、離婚慰謝料の金額が増額する傾向があります。例えば不貞行為の期間が長期間(10年など)に及ぶ場合や、不倫相手が出産に至った場合です。特に不倫相手が出産した場合の精神的苦痛は大きく、高額な慰謝料が認められる可能性があります。不貞行為の期間が短かったり、回数が少なかったりする場合は、慰謝料が減額される傾向があります。
不貞行為発覚後の加害者側の反省の有無も、裁判所が判断する悪質性の一つです。謝罪がないなど反省の姿勢が見られない場合には増額される可能性があります。相手が謝罪をするなど反省の態度が見られる場合は、慰謝料が減額される傾向があります。
相手の年収は離婚慰謝料の金額に影響する?
離婚慰謝料の金額は、相手方の年収や経済力によって一義的に決まるものではありません。金額を決定する基準となるのは、相手の不法行為(不貞行為やDVなど)によって、あなたが被った精神的な苦痛の深刻さと婚姻共同生活が受けた損害の程度です。相手がたとえ富裕層であっても、精神的なダメージが通常と変わらなければ、慰謝料相場を大きく超えて増額されることは原則としてありません。
ただし、交渉や裁判の実務においては、相手の支払能力が間接的な要因として影響を及ぼすことがあります。相手の年収に見合わない高額な金額を請求しても、現実的に支払いが不可能であれば、交渉がまとまりません。裁判や交渉の場では、相手の支払い能力を考慮した上で、現実的に回収可能な金額で合意を目指すことが重要です。
離婚慰謝料を請求するにあたり重要なことは?
離婚慰謝料の金額を相場の上限に近づけるために重要なのは、不法行為の悪質性と被害の深刻さを客観的に立証するための証拠です。ケース別に有効な証拠について解説します。
不貞行為の立証のために有効な証拠
不貞行為の証拠は、単なる精神的な親密さではなく、配偶者以外の者との肉体関係があったことを証明できる内容でなければなりません。具体的には、以下の内容です。
- ラブホテルに出入りする際の写真・動画
ラブホテルに出入りする際の写真・動画は、肉体関係があったことを直接的に示す強力な証拠の一つです。 - 肉体関係を匂わせる、または認めるメッセージ
LINEやメールなどで、次回は関係を持とうとか、前回は気持ちよかったなど、性的な関係を示唆する具体的な内容のやり取りです。不貞行為を明確に自白した音声、念書、誓約書も証拠となります。 - ホテルの領収書やクレジットカード明細
不貞行為の相手と宿泊したことが裏付けられる領収書や明細も証拠として利用できる可能性があります。 - 探偵事務所の調査報告書
配偶者の不貞行為の調査を探偵事務所に依頼した場合、調査報告書も証拠として利用できる可能性があります。専門的な調査技術により得られた、ラブホテル等への出入りや長時間の滞在を証明する写真・動画、調査日時・場所の詳細な行動記録は、法的に有効な客観的証拠として高い証明力を持ちます。
一方で、単なるデートや食事をしている写真、性的な内容に触れていない内容(好き・愛しているといった感情的なメッセージ)は、肉体関係の証明にはなりにくく、単独で証拠としては認められにくいといえます。
証拠を得るための注意点として、合法的に確保する必要があります。盗聴や不法侵入など、違法な手段で得た証拠は、裁判で採用されない可能性があります。
DV・モラハラの立証のために有効な証拠
DV・モラハラを立証するには、継続性と被害の深刻性を客観的に示すことが不可欠です。具体的には、以下の内容です。
- 医師の診断書・通院履歴
医師の診断書や通院履歴は、最も重要な客観的証拠です。暴力でケガを負った際の診断書、精神科や心療内科でのうつ病などの診断書、継続的な通院記録は、DV・モラハラによる精神的損害の深刻さを示す証拠となります。 - 録音・録画データ
暴力を振るったり、人格否定や暴言を吐いたりする現場を記録したデータは、行為の悪質性を示す直接的な証拠となります。 - 日記やメモ
DVやモラハラの内容、日時、場所を具体的に記載した詳細な記録は、行為の継続性や悪質性を証明する重要な補強証拠となります。 - 公的機関への相談履歴
警察や女性センター、精神保健福祉センターなどの公的機関への相談記録も、DV・モラハラの事実を客観的に裏付ける証拠となります。 - 第三者の証言
家族や友人など、モラハラやDVを目撃した第三者による陳述書や証言も有効です。
離婚慰謝料の請求手順は?
慰謝料請求は、協議・調停・裁判と段階的に進みます。以下で流れについて解説します。
協議
相手方と直接の話し合いで離婚慰謝料について協議をします。
相手と直接の話し合いができない場合は、弁護士を代理人にして交渉する方法もあります。その際は、内容証明郵便などを利用して慰謝料請求書を送付し、交渉を行います。請求書には、不法行為の具体的事実、被害内容、請求金額、支払い期限(通常2週間から1か月)などを明記します。
調停
相手方との協議が不調に終わった場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停委員を介して第三者の視点を交えながら交渉を進めるため、感情的な対立を避けつつ解決を目指せます。調停委員は中立の立場ではありますが、離婚に至った経緯を伝え証拠を示すことができれば、こちら側の言い分を理解し、相手方への説得をしてくれる可能性があります。
裁判
調停でも合意に至らない場合、最終的に離婚訴訟を提起します。裁判官が証拠に基づいて慰謝料の有無と金額を判断します。裁判費用は弁護士に依頼する場合、着手金、成功報酬、実費などを含めトータルで80万円~100万円程度になるケースもありますが、法的な判断を得るための最終的な手続きです。
離婚訴訟を行った場合、以下の流れで裁判が進んでいきます。
1. 訴状作成
2. 訴状の提出
3. 相手方への訴状の送達
4. 第1回口頭弁論の期日決定
5. 複数回口頭弁論を実施
6. 判決
裁判中でも、場合によっては和解が成立するケースがあります。
まとめ
離婚で請求できる慰謝料の相場は、離婚に至った原因などによって異なります。モラハラやDVのような目に見えない不法行為の場合、証拠収集の難易度が極めて高いため、離婚を決意する前に弁護士に相談し、現在保有している証拠の法的有効性を判断してもらうことが重要です。これが、迅速かつ有利な解決への第一歩となります。
精神的な苦痛を乗り越え、正当な賠償を獲得し、新たな人生を踏み出すために、速やかに弁護士の力を借りることをおすすめします。
ネクスパート法律事務所は、離婚案件に実績のある弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料ですので、離婚慰謝料の請求を考えている方は、一度ご相談ください。



