「モラル・ハラスメント」という言葉が広く使われるようになり、家庭内のモラハラやそれに伴う離婚に対しても関心が高まっています。そのため、夫からひどい暴言を受けたという話を聞くと「それはモラハラでは?」と指摘するのが一般的になりました。
モラハラは加害者も被害者も自覚がないケースがよく見られます。しかし、放っておくと被害者の心身に深刻なダメージを与えるだけでなく、一緒に暮らす子供にも影響を及ぼします。
目次
モラハラとは家庭内暴力の一種
モラル・ハラスメント(以下、「モラハラ」)とは、DVのような身体的暴力はないものの、心無い言葉を投げかけたり、無視したりと、態度や行動で相手を精神的に追い詰める行為です。
DVは体に傷跡が残るのに対し、モラハラは目に見える傷がないために第三者からはわかりにくく、表面化しづらいのが特徴です。また、DVの加害者は外面が良く、周りからは人当たりがいいと思われています。モラハラで悩んでいることを聞いた第三者から「信じられない」「そんな風に見えない」と言われ、妻側は困惑するのです。
そのため、DVの被害者は「本当は良い人なのに」と周囲からのギャップに悩み、「私さえ我慢すればいいのか」と、体調を崩してまで我慢を続けてしまうケースもあります。しかし、モラハラは「精神的DV」「精神的虐待」とも言われる家庭内暴力の一種です。被害者は我慢する必要はなく、物理的な距離を置き、身の安全を守ることが大切です。
夫婦間のモラハラ行為の例
モラハラ行為がどのようなものなのか、具体的な例をご紹介します。
夫からのモラハラ
夫からのモラハラの場合、妻に対して支配的な態度を取り、上から目線で妻を貶し、自分の優位性を誇示しようとします。
そして、いかにも妻のためと見せかけながら満足のいく生活費を渡さなかったり、家事育児に協力的でなかったりするのがモラハラ夫の特徴です。
妻からのモラハラ
モラハラは夫から妻に対して行われるイメージがありますが、妻からのモラハラに悩む男性は少なくありません。
妻からのモラハラは、態度が急変して突然怒り出したり、無視したりするほか、男性を蔑視するような発言も見られます。子育てや家事に非協力的なことで、もともとは優しかった妻が徐々にモラハラ化していくこともあります。
モラハラが子どもに与える悪影響
親のモラハラを見て育った子どもには目に見えない形でさまざまな影響が出てきます。一例として次のようなものがあります。
将来モラハラをする大人に育つ
子どもは自分の親以外の夫婦関係を知りません。モラハラしている親を見ていると、それが当たり前なことだと認識してしまい、自分が将来結婚したときにモラハラの加害者になるおそれがあります。モラハラの連鎖を防ぐためにも、モラハラ加害者からはできるだけ早く離れることが大切です。
人間関係に不安を感じてしまう
モラハラがある家庭にいる子どもは、いつも機嫌悪そうにして暴言を吐くモラハラ加害者と、びくびくしながら機嫌を伺っているモラハラ被害者の親を見て育ちます。
良くも悪くも、子どもは親のことをよく見ているものです。暴言を吐いている親の姿を見て「他人にああいう言葉を投げかけてもいいんだ」と思うかもしれません。反対に、家族以外の友人関係でも常に相手の顔色を伺うようになり、良好な人間関係を築けなくなる可能性もあります。
精神面への影響
モラハラが当たり前な家庭環境は、決していい環境とは言えません。モラハラ加害者の暴言を聞いて不快な気分になったり、被害を受けている親を心配したりして自宅にいても心からくつろげず、精神面で問題を抱える可能性があります。
モラハラで父親ないし母親を傷つけ、傷つけられる姿を見てトラウマとなり、精神的に不安定になるかもしれません。結果的にPTSDにつながったり、非行に走る原因にもなったりします。
虐待される可能性も高い
モラハラの被害が父親から母親、または母親から父親に向かうことがほとんどですが、その矛先が子どもに向かう可能性もあります。モラハラ加害者は自分以外の人を「人」ではなく「所有物」と考える傾向があります。
身体的暴力や性的暴力、物を投げつけられるなどの虐待行為を子ども向かってすることもあり得ます。このように、モラハラがある環境下で育つ子どもには多くの悪影響があります。モラハラの被害を受けていても「子どものために離婚したくない」と思われる方もいますが、離婚しないことが本当に子どものためなのかどうか、よく考えてみてください。
モラハラへの対処法
モラハラを繰り返す加害者とどのように向き合うべきか、そして被害者はこれ以上モラハラの被害を防ぐためにどうすればいいのか、対処法をご紹介します。
まずはモラハラを自覚させる
モラハラをしている加害者は、自分がモラハラをしていると思っていません。第三者から「それはモラハラでは?」と言われても「そんなことはない」「自分は違う」ときっぱり否定します。
そこで、まずはモラハラを専門に扱うカウンセリングや精神科医による診察を受けてみるのもひとつの方法です。カウンセリングによって自分の行為が被害者をどれだけ傷つけてきたのかを自覚する必要があります。
ただし、カウンセリングを受けてもモラハラの加害者に自覚が芽生えなければモラハラが改善される見込みは低いでしょう。加害者のモラハラの程度や度合いをよく見極めたうえで今後の対処法を検討しましょう。
第三者に相談する
モラハラ加害者の支配下に置かれている被害者は、判断能力を奪われ自分自身で物事を決める力が失われていることがあります。そのため、モラハラから逃げ出したくても具体的にどうすればいいのかわからず、身動きが取れない状態です。
そこで、カウンセラーやNPO法人、自治体が設置している相談窓口などを頼りに相談すると良いでしょう。また、離婚問題を取り扱う弁護士も相談に対応しています。今すぐ離婚は考えていなくても、依頼者の希望に応じた対処法を提案できます。
別居などで距離を置く
モラハラの被害を受けているにもかかわらず、「離婚はしたくない」という方が少なくありません。離婚後に生計を維持できるか不安を抱えていたり、子どものためにも父親は必要だと考えたりしていて、離婚に踏み切れないのです。
「今すぐ離婚はしないけど、モラハラの被害から逃れたい」といった場合は別居することをおすすめします。別居なら離婚と違い、婚姻費用を請求できます。また、距離を置いたことで冷静になり、判断能力や自分の意思を取り戻せるようになるはずです。夫婦関係を見直すためにも、別居を選択肢の一つに入れてみてください。
・婚姻費用とは|別居中の生活費を分担する義務や養育費との違い
離婚をする
別居して物理的な距離を置いたら、次は離婚で夫婦関係を解消することです。別居して結婚生活を冷静に振り返ると同時に、別居してからの方が自分らしく過ごすことができていることに気づきます。モラハラの加害者と決別し、自分の人生を取り戻すために離婚することを視野に入れましょう。
まとめ
モラハラの加害者に理屈は通用しません。自分の意見を無理矢理押し通そうとし、こちらの意見に耳を傾けようとしないので、そもそも話し合いが成立しないかもしれません。そのため、モラハラでの離婚の場合、夫婦間での話し合いで決着がつくことは少なく、離婚調停や裁判になることもあります。
また、モラハラの被害者は加害者に対して恐怖心を抱えており、直接顔を合わせるのが怖いということもよくあります。そのような時は離婚問題を取り扱う弁護士にご相談ください。弁護士に依頼すれば加害者と直接顔を合わせる必要はなく、別居や離婚に向けた交渉にも慣れているので安心して任せられます。