結婚前は優しかったのに、結婚してから人が変わったように夫のモラハラが始まったという事例は少なくありません。モラハラは心に深い傷を負う精神的な暴力であり、証拠があれば慰謝料を請求できます。ただ、目に見えて被害がはっきりしているDVとは異なり立証が難しい側面もあります。そこで今回は、モラハラで離婚する場合の対策と慰謝料相場、モラハラの証拠になるものについてご紹介します。

モラハラの慰謝料相場は50~300万円程度

モラハラで離婚する場合、裁判所が認定する慰謝料の相場は50~300万円程度です。身体的暴力があったときの慰謝料は300万円を超えるケースが多く見られるのに対し、モラハラの場合はDVよりも金額が低い傾向にあります。

身体的な暴力は、負傷した時の傷や医師による診断書が有力な証拠になりえます。しかしモラハラは、暴言や無視といった目に見えない行為を証拠として用意しなければなりません。暴力を受けた時ほどの精神的苦痛は受けていないと判断され、身体的暴力よりも慰謝料相場は低くなっています。

ただ、モラハラの証拠があったとしても婚姻期間の長さや相手の年収、モラハラの悪質性や期間の長さなどによって金額は大きく変わります。より具体的なケースで相場を知りたい方は離婚問題に詳しい弁護士に相談してみましょう。

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モラハラで慰謝料を請求するのが難しい理由

離婚の際に慰謝料を請求する場合、民法709条の「不法行為」にあたる行為によって、損害を受けたことを立証しなければなりません。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

配偶者から受けたモラハラが不法行為にあたること、そして実際にどんな損害が受けたのかを証拠として残す必要があります。証拠がない場合、モラハラで慰謝料を請求しても裁判で証拠不十分とされ、モラハラがあったと認定されず、離婚原因は「性格の不一致」とみなされて請求が棄却されることもあるためです。

また、モラハラの被害者が威嚇され続けたことで加害者に対し恐怖心を抱くことがあります。加害者の説教を録音・録画することまで頭が回らない、精神的な余裕がないといった背景もあります。目に見えないものを証拠として残すことはとても難しいのです。

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モラハラに該当する行為

長期間にわたって悪質なモラハラの被害を受けてきた人の中には、一種のマインドコントロールを受けた状態に陥り、自分で考え判断することを忘れてしまう人が少なくありません。「相手の行為がモラハラにあたるのかどうかわからない」という方に、モラハラに該当する行為の一部をご紹介します。

暴言や馬鹿にした発言

例として「どれだけお前はバカなんだ」「お前は本当にどうしようもない」などと人格を否定するような発言はモラハラにあたります。被害者本人だけでなく、被害者の子どもや父母を馬鹿にした発言も、被害者を傷つけるという意味ではモラハラです。

モラハラの加害者の多くは外面が良く、そんな発言をするようには見えないと思われるかもしれません。加害者に対して慰謝料を請求するときも「相手のことを思っての発言だった」などと釈明することがあります。しかし、たとえ本人に傷つける意図はなくても、被害者は心に深い傷を負っている以上、暴言であることに変わりはありません。

束縛や行動を制限する

夫婦であっても相手の行動や自由を制限することは許せません。「一人で外出するな」「ママ友とランチに行ってはいけない」など、配偶者の行動を制限する行為はモラハラに該当します。

配偶者の行動を制限するために、必要な生活費を渡さないといった事例もあります。配偶者への愛情ゆえに行動が気になるのでは、と思われるかもしれませんが度を越えた束縛は愛情ではなく、モラハラです。

育児や家事を否定する

相手の育児や家事を否定することもモラハラ発言に含まれます。例えば、夜泣きが続いている乳児がいる母親は、それだけでもかなり疲弊してしまいますが「お前の寝かしつけ方が悪いんだ」とか、家事が疎かになっていると「子どもが寝ている時に家事をすればいいじゃないか。昼間は何をやっていたんだ」などと夫から問い詰められる行為は育児や家事の否定にあたります。

こうした育児や家事を否定されたことで被害者は「自分はダメな人間なんだ」「もっと頑張らなくては」と、さらに精神的に追い込まれてしまいます。

その他の行為

暴言や束縛がなくても次のような行為はモラハラに該当する可能性があります。

  • 無視
  • ルールの押し付け
  • 舌打ち
  • ため息
  • 威圧的な態度
  • 突然不機嫌になる

一つひとつはどれも些細なことかもしれません。しかし、こうした行為が積み重なれば精神的なダメージが大きいことは言うまでもなく、深刻なモラハラの被害を受けるのです。

モラハラで慰謝料請求するには証拠を用意する

モラハラで慰謝料を請求するなら、モラハラがあったこと証拠として残さなければなりません。

医師の診断書

モラハラが原因で不眠や過呼吸などの症状が現れた場合、迷わず心療内科や精神科を受診してください。うつ病やPTSDなどの精神疾患の診断を受けた場合は、診断書の作成を依頼しましょう。ほかにもカウンセラーの意見書、自治体の無料相談を利用した場合は相談記録があれば、第三者が用意した証拠として有効になります。

録音した音声や動画

暴言を吐いているところを録音した音声や、録画した動画は有力な証拠になります。相手に気づかれない場所に録音機器を配置し、録音していることが見つからないよう最大限に注意してください。

モラハラ発言の前後の会話があれば削除せずに残しておきましょう。前後の会話がなければ「なぜ加害者はこうした発言にいたったのか」といった背景がわかりにくい上に、「被害者にも何らかの非があったのでは」と疑われてしまう可能性があるためです。

日記やメモ

音声や動画ほど決定的な証拠にはなりませんが、モラハラの被害を受けた記録を日記やメモに残しておきましょう。日付、時間、加害者から言われたことなどを具体的に記録しておきます。録音機器と併せて使えば信ぴょう性が高くなります。録音機器も日記やメモが見つからないように保管には十分注意しましょう。

その他の証拠

メールやLINEで暴言を受けた時、スクリーンショットして画像を保存しておきます。加害者が暴言を書いたメモなどがあれば、読み返すとつらくなるかもしれませんが、慰謝料請求の際には重要な証拠になるので残しておきましょう。

まとめ

モラハラで離婚する場合の慰謝料についてご紹介しました。DVのように目に見える傷ではないだけに、精神的に深い傷を負っていることを立証することも難しいのがモラハラの特徴です。しかし、加害者の暴言や無視などによって精神的にひどく傷ついている方は慰謝料を請求できる可能性があります。

パートナーのモラハラに苦しんでいる方や、モラハラを受け続けていて離婚を考えているという方は、弁護士にご相談ください。立証が難しいモラハラを確実な証拠として残し、慰謝料を請求できるようサポートさせていただきます。モラハラの慰謝料を請求するとき以外にも、離婚関してわからないことがあれば、離婚に詳しい弁護士がお応えできます。お気軽にご相談ください。