示談したのに起訴される理由と起訴される可能性のある4つのケース
刑事事件の手続きにおいて、被害者との示談は重要な要素です。
しかしところが、残念ながら示談したのに起訴されるケースも存在します。
「示談しても起訴されるなら、示談しても意味がないのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、決してそんなことはありません。
この記事では、主に、示談しても起訴される理由や、起訴される可能性のあるケース、示談後に起訴された場合の対処法を解説します。
ぜひ参考にしてください。
目次
示談したら必ず不起訴になるわけではない
示談が成立しても、必ずしも不起訴処分になるわけではありません。
なぜ示談だけでは不十分なのか、その背景には日本の刑事司法制度の根本的な考え方があります。この章では、その理由を深く掘り下げていきます。
不起訴処分は検察官が決めること
加害者を起訴するかどうかの最終的な判断を下すのは、被害者でも警察でもなく、検察官です。
検察官は、被疑者が罪を犯したことが証拠上明白であり、かつその訴追(起訴)が必要だと判断した場合にのみ、裁判所に起訴状を提出します。
被害者が加害者と示談し、処罰を望まない旨を伝えたとしても、これは検察官が起訴・不起訴を判断する際の重要な要素の一つに過ぎません。
加害者・被害者間の問題解決としての示談は、主に民事上の賠償関係を解決する行為です。しかし、刑事事件は、個人間の紛争解決だけにとどまらず、社会全体の秩序を維持し、罪を犯した者に対する刑事責任を追及する国家の機能でもあります。
したがって、当事者間で賠償問題が解決したとしても、国家が社会的な観点から刑事罰を科す必要があると判断すれば、起訴される可能性は依然として残ります。
形式的な示談ではなく加害者の内面が重要
示談は、加害者が犯罪を反省し、被害者と向き合い、被害を回復しようと努めた犯罪後の状況を示す証拠です。
しかし、検察官が重視するのは、単に金銭が支払われた事実だけではありません。
示談を通じて、加害者の真摯な反省の姿勢や、二度と同じ過ちを繰り返さない強い意志が示されているかどうかが重要です。
つまり、示談は、単なる手続きではなく、加害者自身の内面の変化と、再犯を防止するための具体的な行動を伴う必要があります。
示談したのに起訴される可能性のある4つのケース
示談が成立したのに起訴される可能性のあるケースは、次の4つです。
- 被害者の許し(宥恕)が得られていない
- 犯罪の悪質性・重大性が高い
- 社会的な影響が大きい場合
- 再犯のおそれが高い
以下、詳しく解説します。
被害者の許し(宥恕)が得られていない
被害者の許し(宥恕)が得られていないケースです。
示談が成立し、示談金が支払われたとしても、示談書に【加害者を許し、処罰を望まない。】などの宥恕(ゆうじょ)の意思を示す文言が含まれていない場合、被害者の処罰感情が完全に解消されたとは判断されません。
検察官は、起訴・不起訴の判断に、被害者本人の処罰感情を重視します。
たとえ金銭的な解決がなされても、被害者が加害者を許していない場合、検察官は被害者の意向を尊重し、起訴を選択する可能性があります。
示談の成立後、検察官が被害者に、電話などで示談内容や加害者への処罰感情の有無を確認することもあります。
この確認の段階で、被害者が「金銭は受け取ったが、許す気持ちにはなれない。」などと答えた場合には、示談が成立していても起訴される可能性が高まります。
示談の真価は、単なる金銭の授受ではなく、被害者との間で心の和解に至ったことを示す点にあります。
犯罪の悪質性・重大性が高い
犯罪の悪質性・重大性が高いケースです。
犯罪自体の性質が悪質な場合や重大な場合、起訴される可能性が高まります。
これは、社会に対する影響が大きいと判断されるためです。
- 被害額が多額な財産犯
被害額が多額な財産犯です。
窃盗や詐欺などの財産犯において、被害額が多額に上るケースでは、示談が成立しても起訴される可能性が高い傾向にあります。
計画的な実行や、組織的な犯行である場合も同様です。
- 身体への影響が重篤な傷害事件
身体への影響が重篤な傷害事件です。
傷害罪で、被害者が骨折や長期の治療が必要な重傷を負った場合には、たとえ示談が成立しても、犯行の悪質性から起訴される可能性が高くなります。
凶器の使用など、犯行態様が悪質な場合も同様です。
- 計画性や常習性が認められる事件
計画性や常習性が認められる事件です。
窃盗を繰り返すケースなど、同種の前科・前歴が多数ある場合には、示談が成立していても起訴される可能性は高いです。
特に、前回の犯罪から期間が短い場合には、反省していないと判断されやすいため、検察官は再犯のリスクを重く見て起訴に踏み切ることが多いです。
社会的な影響が大きい
社会的な影響が大きいケースです。
事件の内容がメディアで報じられたり、社会的な注目を集めたりしている場合には、示談が成立しても厳正な処分が下されることがあります。
これは、個々の事件の情状だけでなく、社会全体の秩序維持や犯罪抑止の観点から、起訴が必要だと判断されるためです。
例えば、公共交通機関での悪質な盗撮・痴漢行為、未成年者を狙ったわいせつ行為や恐喝、SNS上での誹謗中傷・脅迫など、社会的な弱者を狙った犯罪や、社会の安全を脅かす犯罪は、示談の有無にかかわらず起訴される可能性が高まります。
再犯のおそれが高い
再犯のおそれが高いケースです。
示談が成立していても、検察官が、再び犯罪を繰り返す可能性が高いと判断すれば、起訴されます。
再犯防止の観点から刑事罰が必要だと判断されるためです。
例えば、示談以外に再犯防止のための具体的な行動が見られない場合や、犯行の根本原因(依存症、家庭問題など)が解消されていない場合がこれに該当します。
示談は、加害者の反省を示す一つの手段ですが、それだけで十分ではありません。
再犯を防止するために、専門の治療機関に通ったり、自助グループに参加したりするなど、具体的な努力を重ねることで、検察官に対し、「二度と過ちを繰り返さない。」との真摯な姿勢を示すことが不可欠です。
示談したのに起訴されるなら示談の意味なし?
「示談が成立しても起訴される可能性があるなら、示談する意味はないのではないか?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは間違いです。たとえ起訴されたとしても、示談は、刑事処分全体に影響を及ぼす決して無駄にならない重要な行為です。
示談がもたらす不起訴以外のメリットについて解説します。
刑事処分が軽くなる可能性
刑事処分が軽くなる可能性があります。
たとえ起訴されたとしても、示談の事実は、裁判官が量刑を決定する際の重要な情状となります。
裁判官は、示談の成立をもって、加害者が真摯に反省し、被害者への被害回復に努めたと評価します。
これにより、実刑判決を回避し、執行猶予付き判決や、より軽い罰金刑で済む可能性が高まります。
早期釈放・身体拘束の回避につながる可能性
早期釈放・身体拘束の回避につながる可能性があります。
逮捕・勾留されている場合、示談が成立した事実は早期釈放につながる要因となります。
検察官や裁判官は、示談によって事件が解決に向かっていると判断し、証拠隠滅や逃亡のおそれが低いと見なします。
これにより、身柄拘束の必要性が薄れ、勾留を回避したり、早期に釈放されたりする可能性が高まります。
民事訴訟を起こされるリスク軽減
民事訴訟を起こされるリスクが減ります。
示談書に、【今後、お互いに金銭的請求等を行わない。】旨の清算条項を盛り込むことで、刑事事件とは別に被害者から民事上の損害賠償請求訴訟を起こされるリスクを回避できます。
示談は、刑事責任だけでなく、民事責任の面からも加害者を守る役割を果たすのです。
示談交渉中に起訴されることはある?示談のタイミングが重要な理由
示談交渉は、刑事手続きとは別に進められるため、交渉中に起訴される可能性もあります。特に、逮捕・勾留されている事件では、起訴・不起訴の判断は逮捕から最長23日以内に下されるため、示談交渉は時間との勝負になります。
この限られた期間内に被害者との示談を成立させることが、不起訴処分を得るための重要なポイントです。
したがって、早い段階で弁護士に依頼し、迅速に弁護士に被害者との示談交渉に着手してもらうことが大切です。
もし起訴されるまでに示談が間に合わなかったとしても、決して諦める必要はありません。
起訴後も示談交渉を続けることは、裁判において有利な情状として考慮されるため、執行猶予付き判決を得るための重要な要素となります。
示談交渉は、最後まで粘り強く行うことが肝要です。
示談したのに起訴されたらどうすればよい?
示談したにもかかわらず、起訴された場合、加害者の方は衝撃と絶望を感じるかもしれません。
しかし、日本の刑事裁判では、起訴された後の手続きにも、示談の事実を最大限に活かせる可能性があります。
執行猶予付き判決・より軽い刑の言い渡しを目指す
執行猶予付き判決・より軽い刑の言い渡しを目指しましょう。
示談が成立している場合、現実的な目標は執行猶予付き判決です。
執行猶予が付くと、直ちに刑務所に入る必要はなく、社会生活を送りながら更生する機会が与えられます。
もし執行猶予が付かなかった場合でも、示談の事実は実刑判決の期間を短縮する際の有力な材料となります。
刑の軽重は、その後の社会復帰に影響を与えるため、示談によって少しでも軽い刑を目指すことは、加害者にとって大切でしょう。
示談成立の事実を証拠として提出し裁判で情状酌量を求める
示談成立の事実を証拠として提出し裁判で情状酌量を求めましょう。
起訴された後の公判手続き(裁判)では、被害者と締結した示談書が重要な証拠資料となります。
示談書と合わせて、実際に示談金を支払ったことを証明する領収書や振込明細書のコピーを裁判所に提出することで、裁判官に対し、加害者がすでに被害回復に努め、被害者との間で解決を図ったことを強く訴えます。
この時、示談書に被害者の宥恕文言が含まれているかどうかが、裁判官の判断に影響を与えます。
被害者の処罰感情が和らいでいることが示されれば、裁判官は「もはや厳罰を科す必要性は低い。」と判断する可能性が高まります。
示談したのに起訴されるのを回避するための4つのポイント
示談は、不起訴処分を得るための効果的な手段ですが、その効果を最大限に引き出すためには、単に示談金を支払うだけでなく、適切な方法で交渉を進める必要があります。
示談したのに起訴されるのを回避するためのポイントは、次の4つです。
- 被害者の処罰感情を和らげる宥恕付き示談をする
- 被害届の取り下げ・刑事告訴の取消しを依頼する
- 反省の態度を示す再犯防止策に取り組む
- 弁護士に依頼する
以下、詳しく解説します。
被害者の処罰感情を和らげる宥恕付きの示談をする
被害者の処罰感情を和らげる宥恕付きの示談をしましょう。
示談交渉において重要なのは、金銭の支払いだけでなく、被害者の心からの許し(宥恕)を得ることです。
示談書には、被害者が加害者を許し、処罰を望まない旨を明確に記載することで、検察官に処罰の必要性が低いと判断させる材料となります。
被害届の取り下げ・刑事告訴の取消しを依頼する
被害届の取り下げ・刑事告訴の取消しを依頼しましょう。
親告罪(告訴がなければ起訴できない犯罪)以外の場合でも、示談の条件として、被害届の取り下げや刑事告訴の取り消しを被害者に依頼することは有効です。
これにより、事件が当事者間で解決したことを示し、不起訴となる可能性が高まります。
反省の態度を示す再犯防止策に取り組む
反省の態度を示す再犯防止策に取り組みましょう。
検察官は、示談と合わせて、加害者が真摯に反省し、再犯を防止するための具体的な行動をとっているかどうかを重視します。
例えば、窃盗症や依存症などの根本的な問題がある場合、示談と並行して専門の治療を受けるなどの対策を講じることで、検察官に更生の可能性をアピールできます。
弁護士に依頼する
弁護士に依頼しましょう。
示談交渉の早期着手や被害者との交渉の進め方、適切な示談書の作成には、弁護士の介入が不可欠です。
刑事事件における示談交渉は、加害者本人だけでは困難です。
示談交渉をするためには、当然、被害者との接触が必要ですが、通常、警察や検察官は、加害者やその家族に対しては、被害者の情報を教えません。
もちろん、被害者本人やそのご家族も、加害者と直接対面することは拒むでしょう。
弁護士であれば、被害者の連絡先を秘匿扱いすることを前提として、被害弁償や示談交渉のために、連絡先を開示してもらえる可能性があります。
弁護士に依頼することで、早い段階から被害者との示談交渉が可能となり、示談が成立する可能性も高いでしょう。
まとめ
示談は、刑事事件の加害者にとって、不起訴処分を目指す際の重要な手段です。
しかし、示談したのに起訴される可能性もあります。
示談したのに起訴されるのを回避するためには、早期に弁護士に依頼し、適切な形で示談してもらうことが重要です。
万が一起訴された場合でも、決して諦める必要はありません。
執行猶予付き判決やより軽い刑の言い渡しを、弁護士と一緒に目指しましょう。
ネクスパート法律事務所では、刑事事件に強い弁護士が多数在籍しています。
特に、被害者との示談においては、経験豊富な弁護士が迅速丁寧に示談成立を目指します。
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