示談したのに起訴される?起訴回避に必要なこと・起訴後の対応を解説
せっかく被害者と示談しても起訴されてしまうなら、示談する意味がないのではないか?あるいは、示談が成立して起訴されないと思っていたのに起訴されてしまった場合には、あきらめるしかないのか?などと悩む方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、示談が成立したにも関わらず起訴される、そんな事態を避けるために何が必要か、あるいは示談が成立したのに起訴された場合、どのようなことをすべきか、等を解説します。
目次
【前提知識】起訴回避に示談が有効な理由
犯罪を行ってしまった場合、起訴されないためには示談の成立が有効です。ここでは、何故示談することが有効なのか、簡単に説明します。
起訴とは?起訴されると99.9%有罪に
起訴とは、被疑者が起こした犯罪について、検察官が裁判所に審理を求めることです。日本の刑事裁判では、起訴されると約99.9%が有罪判決を受けます。
つまり、起訴されてしまうとほとんどの方は有罪判決を受け、前科が付きます。
前科が付かないようにするためには、起訴される前に刑事事件を終了させることがカギとなります。
示談とは?不起訴を得るには被害者の許しが欠かせない
示談とは、被害者に謝罪し、被害弁償をすることによって被害者の許しを得る行為です。
被害者の許しを得れば、起訴されずに手続きが終了する可能性が上がります。
示談したのに起訴されるのはなぜ?
示談を行い、被害者の方が「〇〇さん(加害者名)を許す。」のような加害者を許す意思を記載した示談書の作成に応じることで、被害者の方の許しを得たことになります。ただ、被害者の方から許しを得たにも関わらず起訴されることがあります。どういう場合に起訴されてしまうのか、解説します。
示談成立で不起訴になる確率
示談が成立することで不起訴になる確率がどれくらいあるのかが示された統計資料が無いため、具体的な確率を示すことは困難です。
不起訴になった場合に、示談成立により不起訴になったのか、他の要因があったために不起訴になったのか、それを示す資料もありません。
もっとも、示談の成立が起訴・不起訴の判断に大きな影響を与えることは確かです。
示談が成立しても起訴されるケース
どのような場合に、示談が成立しても起訴されてしまうのでしょうか?
示談が起訴・不起訴・量刑にあまり影響を与えない犯罪
まず、示談が起訴・不起訴・量刑にあまり影響を与えない犯罪として、殺人罪等の生命犯、強制性交等罪等の身体犯が挙げられます。
生命や身体に対する罪は、財産犯と異なり、被害回復が困難です。被害を受ける前の状態に戻すことはほぼ不可能なため、示談の成立は起訴・不起訴・量刑の判断にあまり影響を与えません。
次に、公然わいせつ罪やわいせつ物頒布財などの風俗犯が挙げられます。これは個人的法益を侵害する犯罪ではなく、健全な社会秩序という社会的法益を侵害する犯罪です。
この場合、被害者との示談が成立しても、社会的法益に対する被害の回復はできていないため、示談の影響はそれほどありません。
最後に、児童買春や児童ポルノ防止法違反など未成年者が被害者となる犯罪が挙げられます。未成年者が被害者である場合には、示談の相手方は未成年者の保護者等となります。そのため、被害者本人に対する被害弁償がされていると言えない場合があります。
また、被害者が未成年者である場合には、被害者の将来に悪影響を及ぼす可能性が高く、将来にわたって被害者の心身の発達に対して悪影響を及ぼすことが懸念されます。
示談が成立しても将来の被害の回復がなされているとは言えないため、起訴・不起訴・量刑の判断に影響を及ぼさないと考えられています。
示談書の中に宥恕文言を入れられない場合
被害者が、示談金の受け取りと示談書を交わすことに同意はしてくれたが、宥恕文言を入れることを拒否することもあります。
被害の賠償だけは受け取るが、許しはしないという被害者もいらっしゃいます。その場合、宥恕文言を入れられません。
被害の弁償は済んだとはいえ、被害者からの許しをもらえず、被害者の処罰感情が非常に強い場合には、起訴される可能性があります。
事案の重大性
以下のような事件の場合には、全ての被害の賠償をし、全ての被害者との示談を成立させることが困難です。
- 被害者が多い
- 被害額が大きい
- 世間を騒がすような重大事件 など
この場合、一部の被害者との間だけ示談が成立しても、不起訴になる可能性は低いです。
略式起訴に同意してしまった
担当の検事から、公開の法廷で裁判を受けずに済むと聞かされて、よく理解しないまま略式起訴の同意書に署名押印をしてしまうことがあります。
略式起訴は、通常起訴と違い、公開の法廷が開かれることが無く、簡易な手続きで終わりますが、罰金刑を言い渡されるため前科がつきます。
正式裁判とするには証拠が弱い事件等で、検察官が略式起訴で終わらせようとする可能性もあります。示談が成立すれば不起訴になる可能性があるので、被疑者が安易に略式起訴に同意しないように接見でしっかりと説明しましょう。
重い犯罪なら示談をしても無駄なのか?
示談が成立しても不起訴になる可能性が低い事件を起こしてしまった場合には、示談をすることは無駄なのでしょうか?
そうではありません。示談が成立したということは、以下のことを示します。
- 被疑者が反省をしている
- 被害弁償がなされた
- 被害者が宥恕している など
これらは、執行猶予を付すか付さないかの判断、あるいは量刑判断に影響を及ぼします。起訴されてしまったとしても、示談することをあきらめるべきではありません。
示談したのに起訴されるのを避けるには
示談したのに起訴されるのを防ぐにはどのようにすれば良いのか、以下解説します。
早めに示談交渉をはじめる
逮捕されてしまった場合にはなるべく早く示談交渉を始めるために、弁護士に相談しましょう。
逮捕後早い時点で被害者の情報を教えてもらい、示談交渉を始めれば、勾留前の示談成立も不可能ではありません。逮捕・勾留中から身柄の解放がなされると、不起訴になる可能性が高くなります。
必ず示談書を作成する
被害者の方と示談したのに、何の書面も交わしていなかった場合には、示談したことの証明ができません。
示談する際には、必ずどのような内容で示談したのか、合意内容を書面にしておかなければなりません。
後のトラブルを防止するため法的に万全な示談書を作成するには、弁護士に依頼することをお勧めします。
示談書に宥恕文言を入れる
示談書には、被害者が加害者を許すという宥恕文言を入れることが重要です。これにより被害者の方の処罰感情がなくなったことを捜査機関に示せます。
示談書を作成する際は、「宥恕」というあまり認知されていない言葉よりも、例えば「〇〇さんを許し、処罰を望まない。」のように被害者の方が理解しやすい言葉を使う方が良いです。
示談したのに起訴された場合の対応
被害の弁償や被害者への謝罪をし、示談が成立したとしても、起訴されてしまうことはあります。そのような時に出来ることは何か、解説します。
執行猶予を目指す
起訴されると正式裁判になります。正式裁判になった場合でも、被害者の方と示談が成立したということは、裁判官が量刑を考える上での判断材料となります。
執行猶予が付けば、刑務所に入らずに社会生活を送れます。示談したのに起訴されてしまった場合には、執行猶予の獲得を目指しましょう。
より軽い刑を目指す
執行猶予が付かなかった場合には実刑になりますが、少しでも軽い刑の言渡しをしてもらえるようにします。
示談後の起訴を避けるために、弁護士に相談すべき理由
示談したのに起訴されてしまったということのないように、なるべく早く弁護士に相談することをお勧めする理由を解説します。
スムーズに示談を進められる
刑事事件では示談しようと思っても被害者の連絡先を知らないことが多く、その場合には捜査機関から教えてもらう必要があります。
捜査機関が被疑者本人に被害者の情報を教えることは考え難いです。被疑者から依頼を受けた弁護士が捜査機関を通じて被害者の方の意向を伺うと、弁護士になら連絡先を教えても良いと言ってくれることがあります。
ここでやっと示談交渉をスタートできます。
被害者の許しを得やすい
被害に遭われた方は怒りの感情が強く、許せない気持ちであることが多いです。加害者本人が示談交渉しようとするとうまくいかないことが多々あり、かえって被害者の怒りが大きくなることもあります。
第三者である弁護士が間に入ることにより、比較的冷静に話をすることができ、示談に応じてくれやすくなります。
適切な内容で示談できる
加害者と被害者が直接話をすると、被害感情が先に立ち、多額の示談金を請求されることもあります。この場合、示談の成立は困難になり、示談が成立せずに起訴されてしまうことで、実刑判決を言い渡される可能性が高くなります。
弁護士が間に入って交渉すれば、今までの経験から適正な金額を相手に提示し、納得していただくことで示談成立の可能性が高くなります。
示談したのに起訴されることを回避する
個人間で示談を成立させることができた場合でも、宥恕文言が入っていなかったり、被害届を取り下げてもらえなかったりすると、捜査機関はまだ許してもらっていないと判断する可能性が高くなります。
被害者の処罰感情が収まっていないと判断され、起訴されて実刑判決を受ける可能性もあります。
他方、弁護士が示談書を作成すれば、宥恕文言を入れていただけたり、被害届や告訴を取下げていただけたりする可能性が高くなります。
被害届や告訴を取り下げてもらえれば、不起訴処分で終わる可能性が高くなります。また、親告罪の場合、告訴を取り下げてもらえば、不起訴若しくは公訴棄却となり、有罪判決を言い渡されることはありません。
まとめ
起訴されてしまう前に示談をして欲しい、あるいはせっかく示談したのに起訴されてしまった、実刑判決を受けてしまった、などということにならないため必要なことは何か、解説しました。
逮捕されてしまったらなるべく早い時期に弁護士に相談することをお勧めします。