前科と前歴の違い、就職への影響について
前科は刑事裁判で起訴され刑事裁判で有罪となり、刑事裁判が確定するという経過を経てはじめて付くものです。
それ以外の場合は前歴となります。
以下では前科・前歴の詳しい内容と就職に与える影響について解説いたします。
前科とは
前科とは、刑事裁判(正式裁判、略式裁判を問わない)で罪を犯したことが有罪であると認められ、その犯した罪について刑罰(死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料)を科せられ、その刑罰を言い渡した判決(有罪判決)が確定した事実をいいます。
すなわち前科が付くということは
- 検察官に起訴(正式起訴、略式起訴を問わない。また、身柄拘束の有無も問わない。)され刑事裁判にかけられること
- 刑事裁判において裁判官に有罪と認められ、有罪判決を受けること
- 上記の有罪判決が確定すること
という3つの要素が全て必要となります。
したがって、①から③の要素が一つでも欠ける場合、すなわち
- 検察官に起訴されない(=不起訴処分となる)場合
- (起訴されたものの)刑事裁判で無罪となった場合
- 刑事裁判が確定しない場合
のいずれかに該当する場合には前科は付きません。
また、前科が付くには少なくとも刑事事件の捜査の過程を経て①検察官に起訴されなければなりませんので、
- 単に逮捕・勾留された場合(身柄拘束を受けた場合)
- 自宅の捜索を受けた場合
- 取調べや実況見分を受けた場合
だけでは前科は付きません。
前科のデータは検察庁で保管、管理され、検察庁に所属する検察事務官は前科の照会がある場合は自己の名義で「前科調書」という書類を作成できることになっています。
前科調書には、刑事裁判にかけられた人(被告人)の氏名、本籍のほか、
- 刑事裁判の日(有罪判決を言い渡された日)
- 刑事裁判が確定した日(禁固、懲役刑であれば刑の始期)
- 裁判所
- 罪名
- 刑罰の内容(例:懲役1年6月 3年間執行猶予 付保護観察 など)
などが記載されています。
このように前科調書には個人が最も知られたくない個人情報が記録されているわけですから、前科を照会できる人は検察官、検察事務官、警察官などの捜査関係者など一定の人に限られています
(本人であっても照会することはできません。また、民間の会社や調査会社も照会することはできませんから、これらの会社が把握できるとしている前科は「本来の前科」ではありません)。
なお、前科のデータを把握・管理する検察事務官から市区町村役場へ前科の内容を通知することはあります。
これは、一定の刑罰以上の前科を有する方は一定期間選挙権、被選挙権を有しないところ、市区町村がそうした方々を把握することを主な目的として犯罪人名簿を作成するために行われるものです。
犯罪人名簿も厳重に管理されていますから、前科が外部に漏れることはほぼないと考えてよさそうです。
前歴とは
前歴は犯罪を疑われた経歴(犯罪歴)のことです。
つまり、単に犯罪を「疑われた」段階で前歴となりますから、前歴には前科はもちろん前科には当たらない場合でも前歴となります。
(逮捕・勾留された場合、逮捕・勾留されていない場合でも取調べなどの捜査を受けた場合、不起訴処分を受けた場合など)
前歴のデータは警察で保管、管理されています。
前歴のデータを作成するのも警察官です。
警察官は照会があった場合は「犯歴事項照会回答書」という書面で回答します。
回答書には、対象者の氏名、本籍のほか
- 検挙年月日(逮捕日)
- 罪名
- 事件の顛末(終局処分、刑事裁判の結果)
などが記載されています。
照会する人は警察官であることがほとんどで、前科と同様一般人が照会することはできません。
前科・前歴が付いたことによる就職への影響について
前科・前歴が就職に与える影響について資格を必要とする職業の場合と資格を必要としない場合の職業に分けて解説します。
資格を必要とする職業について
資格を必要とする職業については、個別の法律によって欠格事由(資格を有することができない事由)に当たる可能性があります。
欠格事由に当たると資格を有する職業に就くことはできません。
たとえば、弁護士法7条では「次に掲げる者は、(略)、弁護士となる資格を有しない。」とされ、7条1号で「禁錮以上の刑に処せられた者」とされています。
「禁錮以上の刑」とは禁錮のほか、死刑、懲役のことを指し、罰金は含みません。
「処せられた」とは有罪判決が確定したことをいい、執行猶予付き判決を受けた場合も含まれます。
ただし、執行猶予付き判決(一部執行猶予判決を除く)を受けた場合で、執行猶予期間を満了した後は、刑の言い渡しの効力を失うため、欠格事由がなくなります。
資格を必要としない職業について
資格を必要としない職業については前記のような法律上の影響はありません。
また、これまでご説明したとおり、会社が人の前科を調べることはできませんし、会社側から求められなければ敢えて自ら公表する必要はないでしょう。
しかし、最近こそ少なくなったものの、履歴書に賞罰欄が設けられている場合は事実をきちんと記載する必要があります。
また、面接などで問われた場合も事実をきちんと伝える必要があります。
前科・前歴があることを申告せず、嘘を伝えて入社したものの、何らかのルートで会社側が前科・前歴があるらしいことを突き止めた場合(たとえば、インターネットなどに逮捕されたニュースが掲載されたままになっており、会社の採用担当者がそれを発見した場合など)は、経歴を偽ったことを理由に懲戒解雇の対象となる可能性もあります(会社の就業規則により異なります)から注意しましょう。
まとめ
前科・前歴が就職に与える影響については、まずはご自分が資格を有する職業に就こうとしているのか、資格を有する職業に就くとして法律に欠格事由が規定されていないかを確認する必要があります。
就職において、前科・前歴が付いていたとしても必要以上におそれる必要はありませんが、これから目指す職業によって対応が異なってくることはまず抑えておきましょう。