故意とは|刑法の故意と過失の違いや故意犯処罰の原則とは

故意とは、一般的にはわざとすることを指します。過失とは、不注意でしてしまった過ちのことです。

しかし、法律上ではまったく異なった意味となるため、注意が必要です。

刑事事件では、未必の故意という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。罪名に過失○○罪とつくものもあります。

この記事では、刑事事件における故意と過失について、次の点をわかりやすく解説します。

  • 刑法における故意・過失とは
  • 犯罪は故意なしなら罪に問われない?
  • 故意の有無によって異なる罪と事例

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故意・過失とは

刑法における故意とは

前述のとおり、故意とは一般的に意図的という意味です。

しかし、刑法における故意とは、犯罪行為の結果発生を認識しながら、それを容認して行為に及ぶことです。

(故意)

第三十八条罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

一部引用:刑法第38条|e-Gov

例えば、包丁で人を刺せば相手が死亡するという結果は認識できます。

その認識があり、相手が死ぬことを容認して刺すと、殺人の故意が認められます。

刑法における過失とは

過失は、一般的にうっかりや不注意という意味を表します。

刑法における過失とは、結果を予見し、その結果が回避可能であったにもかかわらず、回避するための必要な注意を怠ることです。

例えば、歩きスマホをしていれば人にぶつかって、ケガをさせる可能性があることは予想できます。

しかし、歩きスマホで人にケガをさせるわけがないと過信して、注意を怠った結果、人にぶつかりケガをさせれば、過失があったと考えられます。

また、過失の他にも重過失というものがあります。違いは次のとおりです。

過失 結果を予見し、その結果を回避可能であったにもかかわらず、回避するために必要な注意を怠ること
重過失 注意義務違反の程度が著しく、わずかな注意さえ払えば容易に結果が予見できたにもかかわらず、漫然と結果を生じさせた場合のことで、ほとんど故意に近い

交通事故で言えば、わき見など不注意な運転が過失、飲酒運転が重過失だと例えられます。

刑事事件では故意犯処罰が原則

刑事事件では、故意がある場合のみ犯罪として扱い処罰する故意犯処罰が原則です。

そのため、基本的にはうっかり罪を犯しても処罰されません。

例えば、コンビニで自分の傘と間違えて他人の傘を持ち帰ってしまっても、窃盗の故意はないため、窃盗罪は成立しないことになります。

ただし、刑法上で規定された過失による犯罪に該当した場合は、処罰対象となることがあります。

故意の種類

故意には、確定的故意と未必の故意があります。

確定的故意

確定的故意とは、犯罪の実現を確定的なものとして認識し、容認している場合のことです。

例えば、殺してやろうと思って相手を刺せば、確定的故意があると言えます。

未必の故意

未必の故意とは、犯罪の実現が確実的なものとは認識していないものの、結果が発生することを容認している場合を指します。

例えば、刺したことで人が亡くなってしまった場合に、殺意を持って刺せば確定的故意になります。

一方で、刺したら死ぬかもしれないが死んでもかまわないと思って刺せば未必の故意と判断されます。

犯罪は故意なしなら罪に問われない?

例外的に過失として処罰されることがある

前述のとおり、刑法では、故意犯を処罰するのが原則です。

ただし、刑法には過失でも成立する犯罪が規定されています。その規定に該当する行為があれば、過失として処罰されることがあります。

例えば、アクセルとブレーキを間違えて人を轢いてしまったような場合は、過失運転致傷罪などに問われることになります。

過失による犯罪は、故意による犯罪と比較して、処罰が軽い傾向にあります。

民事上の責任を負うこともある

仮に刑法上で問題がないとされたり、刑事裁判で無罪になったりしたとしても、民法では別の問題となります。

民法では、故意または過失によって、他人の権利や保護される利益を侵害した人は、生じた損害を賠償する責任を負います。

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用:民法第709条|e-Gov

そのため、過失で人にケガを負わせたとしても、賠償する責任を負います。

故意かどうかの判断基準

では、実際に殺人事件などが起きた場合、どのように故意(殺意)があったのか判断するのでしょうか。

殺人事件では、殺意の有無は、次のような客観的な証拠に基づき、総合的に判断されます。

  • 凶器の有無、凶器の種類や使い方
  • 被害者の傷の箇所、個数、深さ、傷の程度
  • 犯行前後の加害者の言動、犯行時の加害者と被害者の行動
  • 救護措置の有無
  • 加害者の動機 など

例えば、殺傷能力の低いカッターで手や足を切りつけた場合、殺意がなかったと判断される可能性があります。

一方で、刃渡りの長い刃物で、胸部や頭部など急所を狙い、刃を深く突き立てたり、執拗に何度も刺せば、殺意がないと主張しても認められないと考えられます。

故意の有無によって異なる罪

故意なのか過失なのかによって、問われる罪が異なります。ここでは、故意や過失により成立する可能性のある罪について解説します。

殺人

例えば、人を殺してしまった場合でも、殺意(故意)の有無により成立する犯罪は異なります。

殺意を持って攻撃して相手を殺した場合 殺人罪
殺意を持たずに相手を攻撃して、結果的に相手を死亡させた場合 傷害致死罪
殺意を持って相手を攻撃し、相手が死亡しなかった場合 殺人未遂罪

殺人罪の刑罰は、死刑または無期懲役、もしくは5年以上の懲役と重い刑罰が定められています(刑法第199条)。

一方で傷害致死罪の刑罰は、3年以上の有期懲役です(刑法第205条)。

殺人か傷害致死かの分かれ目は、証拠などによって判断されます。警察の取り調べで殺意を認めると、殺人罪に問われる可能性があります。

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傷害

人をケガさせた場合も、故意の有無により問われる罪が異なります。

相手をケガさせるつもりで攻撃した場合 傷害罪
相手をケガさせるつもりはなかったが、結果的に相手にケガをさせた場合 過失傷害罪
暴力をふるい相手がケガしなかった場合 暴行罪

傷害罪は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金と非常に重い刑罰が定められています(刑法第204条)。

一方で、過失傷害罪の刑罰は、30万円以下の罰金または科料(1,000円以上1万円未満の罰金)です(刑法第209条)。

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放火

放火の場合も、故意か過失かによって成立する罪が異なる場合があります。

人の住む建物に放火した場合 現住建造物等放火罪
タバコの火の不始末で家が燃えた場合 失火罪

現住建造物放火罪は、多数の死傷者が出るおそれがある犯罪です。

刑罰も死刑または無期懲役、もしくは5年以上の懲役と非常に重い罪が定められています(刑法第108条)。

一方、失火罪の場合は、50万円以下の罰金です(刑法第116条)。ただし、多数の人が死傷するようなケースでは、過失致死罪や重過失致死罪が成立することも考えられます。

故意があると認定された事例

ここでは、実際に故意があると認定された事例を紹介します。

あおり運転で殺意が認定された事例

2018年に大阪府堺市で起きたあおり運転で、大学生が死亡した事件では、殺意が認定されました。

被告人が被害者のバイクに追い抜かれたことに腹を立て、約1分にわたり追跡し、100キロ近いスピードで追突。

被害者に脳挫傷や頭蓋骨骨折を負わせて死亡させた事件です。

検察は事件の状況や、ドライブレコーダーに記録されたはい終わりという被告人の音声をもとに、殺意があったと判断し、殺人罪で起訴しました。

被告人はこの音声について自分の人生が終わったと思ったと釈明しました。

裁判では、衝突直前や直後に無言のまま、驚きや狼狽を示さず、発した言葉の内容や軽い口調から、被害者との衝突は想定内だと判断できると指摘。

ぶつかれば死亡すると認識しており、未必の殺意を認定し、懲役16年を言い渡しました。

参考:堺あおり運転死、殺人罪適用し懲役16年判決 「死亡すると認識」|産経新聞

特殊詐欺で詐欺の認識があるとして有罪となった事例

受け取った荷物が詐欺に関与するものとは知らなかったとして無罪が言い渡された特殊詐欺の裁判では、2審で逆転有罪となりました。

被告人は、指定されたマンションで荷物を受け取る係でしたが、受け取る荷物の中身を知らなかった、詐欺の認識はなかったと主張して無罪判決が下されていました。

しかし、2審では次の点から、何らかの犯罪に加担している認識はあったとし、詐欺罪で有罪となりました。

  • マンションの一室で、他者を装って荷物を受け取る行為を1か月間に約20回も行っており、常識的に違法であると認識できる
  • 被告人が行った方法は、詐欺の手口として報道されており、知っていた可能性がある

このように、闇バイトなどの高額報酬で仕事を行った場合、詐欺であるという認識がなくても、何らかの犯罪に加担したと認識できる状態であれば、罪が成立するおそれがあります。

参考:特殊詐欺「受け子」に逆転有罪 「中身知らず」認めず|産経新聞

無銭飲食で故意が認められず無罪となった事例

飲食したにも関わらず、料金約5万5,000円を払わなかったとして、詐欺に問われた男性に無罪判決が言い渡されました。

男性は、ガールズバーで飲食をしましたが、請求された金額が高額であったため、支払いができず、交番に連れて行かれ逮捕されました。

裁判では、男性の利用時間と請求金額に対して、店の料金体系、伝票の内容、従業員の証言などから、利用していた時間に対して延長料や指名料が上乗せされており、請求金額に虚偽があると指摘。

その上で、クレジットカードの使用や知人に立て替えを打診したことから、男性には支払う意思があり、支払いを免れようとする故意は認められないとして、無罪となりました。

参考:無銭飲食で逮捕、本当はぼったくり被害者だった? 裁判で無罪判決|朝日新聞デジタル

まとめ

刑法における故意と過失は、それぞれ下記の意味です。

故意 犯罪行為の結果発生を認識しながら、それを容認すること
過失 結果を予見し、回避可能であったにも関わらず回避のための必要な注意を怠ること

刑事事件では、故意か過失かによって、罪に問われるかどうかや、成立する犯罪が異なります。

取り調べで安易に発言したことで、故意があったと判断されるケースもあるため、注意が必要です。

もし犯罪行為に関与してしまった場合は、刑事事件の実績がある弁護士に相談して、適切なサポートを受けましょう。

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